第133話 ウィン、危機一髪(?)(後編)

「領主さま、こちらを」

「ほほう。どうした」

「はい。ギルドの厩舎に居ました。このような立派な馬を領主さま以外の人、特に冒険者クズ共が持つということは許されないので、引き取ってまいりました」

「よくわかってるではないか。それにしても綺麗な白馬だ。これなら国王に献上してもいいな」


**********


『……あれっ?』

厩舎にウィンを連れに戻ると、いません。

「あのぅすみません。ここに繋いでいた白い馬知りませんか?」

「あの馬、キミたちのかい?領主の家臣が引っ張っていったけど」

「あなた、領主の馬じゃないって分かってて、黙って見てたってこと?」

「仕方ねぇだろ。領主様に目を付けられたら、この街で生きてくことなんて出来ねぇんだからよ」

「それにしてもですねぇ………。まぁ……。領主の家臣ですかぁ。仕方ないですねぇ。情報はありがとう」

どうやらウィンは連れ去られたようです。よりによってここの領主ですか。ちょっと痛い目にあってもらわないといけないですかねぇ。ちょっとじゃないかもしれませんけど。肉体的?精神的?経済的?トリプルコンボかな。


『ウィン、聞こえる?私がちょっと目を離してる間に、ゴメンね』

『あっ、ミーアだ。私は平気よ。なんか連れてこられたけど、今のところは何もされてないから』

『餌も水もダメだからね』

『分かってるよ。食べなくても大丈夫だから』

『すぐに迎えに行くね』

『そうしてほしいけど、なんかここ訳ありみたいよ』

『ヘーキだから。すぐ行くね』

場所はマップでわかっています。貴族街の中でも一際大きなお屋敷ですね。ここからだと少し距離があるようです。人目につかないところからジャンプで移動しましょうか。



貴族街の小路です。貴族街って言うぐらいですから、人がウジャウジャいる訳じゃありません。特にこんな狭い路地になんか人っ子一人いませんって。

「何の用だ!許可を得たものしか通すわけにはいかない。さぁ戻れ!」

「煩いわね、アンタたちが勝手に持ってったものを返してもらいに来たのよ。邪魔だから退いて」

「通さないと言ってるだろ!。入るんじゃない!!」

門番?護衛?まぁどちらでもいいんですけど、私を追い返そうと必死です。そりゃそうですよね、見ず知らずの女の子(?)が領主の屋敷にずかずかと入り込もうとしてるのですから。でも私だって退くわけにはいきません。大事なウィンが待ってるのですから。

「騒々しいな。何事だ」

「この女どもが屋敷に入ろうとするのを止めてるんですが、どうにもいう事を聞かなくて」

「ほほぅ」

「ちょっと、アンタだれよ」

「この街で儂を知らんのか。そうか、外の奴か」

「だから誰なのよ」

「無礼だぞ。こちらの方はこの街の領主様であるぞ」

「アンタがそうなんだ。丁度良かったわ。アンタが勝手に持ってった私の大事な白馬、返してもらうわよ」

「ほほう、あの馬の飼い主なのか。お前ら、冒険者か」

「そうよ。じゃぁ、返してもらうから」

「そうはいかないんだな。あの馬はお前らのようなクズが持ってはいけないんだ。儂のような品格が伴ったものが持たねばならんのだよ」

「品格だって?笑わせんじゃないわよ。品も格もないくせに」

「口の利き方も知らんクズだな。冒険者など卑しい者の寄せ集めなのだから仕方ないがな。まぁいい。今日はこいつらで楽しむとするか」

「何言ってるかわかんないけど、私に喧嘩売ると痛い目に合うわよ」

「それなりに腕っぷしに自信があるのか。だがな、小娘2人ごときで勝つつもりなのかい。お前ら、この嬢ちゃんたちに現実の厳しさってのを教えてやれ!」

わらわらと出てきましたよ。みんな素手なんですね。あそっか、傷つける訳に行かないですもんね。感心感心。

『ミーア、余裕見せてないでさっさとやっちゃいましょうよ』

エルフィに注意されちゃいました。いつもの毒攻撃じゃなくって、今日は魔法です。

「ウィンドプレス!」

風の力で吹き飛ばして、更に押さえつけます。

「こいつ、魔法使いか」

「早く返しなさいよ」

「お前たち、いつまで寝てるんだ!早く捕らえろっ!」

「はっ!」

懲りずに向かってきます。寝てればいいのに。

「ウィンド・カッター!」

前にアズラートのギルドで絡まれたときに使った奴です。武装解除の奴ね。

「お、お前たち……」

無様な姿になった部下を見て、絶句しています。私だって見たいわけじゃないですからね。

「さてと、これでゆっくりお話が出来そうですね、悪者さん」

「クズと話すことなどないわ!今なら目を瞑ってやるから、とっとと失せろっ!」

「あら、ずいぶんと強気ですのね。でもいいのかしら、そんな余裕はないんじゃなくって」

「う、うるさいっ」

「それにあなた、ずいぶんと我が儘をしてるみたいね」

「平民など儂の贅沢の糧になればいいんだ。奴らがどうなろうと構わん。ここでは儂が絶対なのだ。そう、お前たちもな」

「いつまでそんなこと言ってられるのかしら。それはそうと、屋敷の中に随分と人がいるようね、女の人がかなり。どういう事なのかしら」

「すべて儂の使用人だ」

「あなたが楽しむための?」

「知るかっ!あいつらが勝手に寄ってくるだけだ」

「街で聞いたわよ。最近女性の行方不明者が増えてるって。領主として何かしてるのかしら」

「知らんな。儂の耳には入ってない。それに貴様ら、こんなことをして許されると思ってるのか」

「何が許されないのですか?私はあなたが連れ去った馬を返してもらいに来ただけですよ。それじゃぁ御免あそばせ。あっ、もしかしたら自然に壁が壊れちゃうかもしれないですけど、私じゃないですからネ」

突然、屋敷の壁が爆発しました、中から外に向けて。それも1箇所じゃなく何か所も。


「ウィン、お待たせ」

「ミーア大丈夫だった?」

「平気よ。あれなら盗賊の方が歯ごたえがありそうね」


屋敷の庭は壁の穴から出てきた人たちで溢れかえっています。

えぇと、領主はっと……、いたいた。挨拶ぐらいしていかないとね。

「馬は返してもらいますから。あっそうだ、ウィンを攫ったことの慰謝料、頂きますね」

屋敷の中にあった金貨100枚と銀貨100枚を領主の目の前に積み上げます。

「今回はこれで許すから。悪いことはしないことね」

「止めろっ、それは儂の……」

「私に手を出した報いです。あなたもあそこで蹲ってる男たちのようになりたいのですか」

「………」

「これは頂いていきます。いいですね」

「………」

「(ジッ)」

「わ、わかった。儂が悪かった」

「では遠慮なく。さようなら」



その後あの街がどうなったかなんて知りません。興味ないし。ウチの国じゃないからね。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る