第132話 ウィン、危機一髪(?)(前編)

ヘンネルベリを出発した私たち3人娘(?)は、特に目的もなく旅を楽しんでいます。

そうそう、エルフィが変化へんげできるようになったの。人の形だけじゃなくって、およそ何でもなれるんだって、イメージできればなんだけど。でもなりたくないものの方が多いらしくって、結局人の姿が多いみたい。

そういえばブラちゃんも変化へんげってできるのかな。でもアイツって、不器用そうだからね。



ジャスティンからは時々連絡がきます。まぁ他愛もない話なんですけどね。一応生存確認なのかな。私からは連絡しないので、ジャスティン達も不安なんだと思います。でもね、『便りの無いのは良い便り』とも言うじゃないですか。

そんな話をしたら、

「何かあってからじゃ遅いんですよ。どこにいるかも分からないんだし、もし分かったとしてもそこへ行くのにどれだけの時間がかかると思ってるんですか。それに連絡が出来なくなったとしてもそれがいい便りなんですか」

メチャメチャ怒られました。

と言うことで、ジャスティンからは月に1~2度の連絡が来るようになったんです。

大概は、

「ミルランディア様、変わりはありませんか」

「全く問題ありません」

「たまには連絡くださいね」

「嫌です。それじゃぁまた」

こんな感じです。



旅を始めて半年ぐらいたった時だったかな、ある町に立ち寄った時の話。

近くに魔物の住む森があるためか、立派な壁で囲われた町でした。着いたのが昼の少し前、町に入る手続きをしていたの。

「この町は初めてか。身分証を」

「ギルド証でいいですか?」

「あぁ、構わない。………2人とも冒険者か」

エルフィもね冒険者のギルド証を作ったの。だってどこに行くにも身分証、身分証ってうるさいんだから。まぁ冒険者のギルド証が一番手っ取り早かったからね。

「よその町の冒険者が2人に馬か。1人銀貨20枚に馬が銀貨10枚だから、併せて銀貨50枚だ」

「ちょっとそれって………」

「決まりだ。さあ」

取りつく島もありません。仕方なく銀貨50枚を払いました。


町並みは綺麗でした。オシャレな商店や小綺麗なカフェ、いい匂いを漂わせている食堂などいい感じの街です。あの入町税さえなければ。

ただこの街並みの中に冒険者ギルドは見つかりませんでした。普通なら結構目立つはずなのに。

「あの、冒険者ギルドはどこでしょうか?」

「冒険者ギルド?あんたら冒険者かい」

「えぇ。旅の途中なんですけど、ギルドに寄ってみようかと思いまして。でも見当たらないようなので」

「ギルドはなぁ、あの通りを奥に入ったところだ」

「ありがとうございます」


言われた通りに入ると町並みは一変しました。ゴミが散らかり、雑々とした感じです。もうすぐスラム化しそうって感じの。

「あのぅ……」

「……冒険者かい。何の用だい」

「魔物の素材の買取とこの辺りについて……」

「素材なら裏の解体所に出してくれ」

「……は、はい」

なんか不愛想ですね。お食事処酒場の方を見てもなんか荒れてますね。

素材は銀貨70枚になりました。町に入るのに50枚も払ったから、差し引き20枚です。結構売った割にはしょぼいですね。


「よぅネエチャン、こっちで一緒に飲もうぜ」

酒場で屯っている曰く付きの不良冒険者達が声をかけてきましたが、もちろんガン無視です。お付き合いの必要なんてありません。どう考えても私たちの方が強いですからね。エルフィなんて人の姿のまんま口からブレスを吐くんだよ。


「あのぅ、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「なに?」

聞いたのはもちろんギルドの職員さんです。真昼間っからお酒飲んでくだ巻いてる連中に聞いても、大した情報なんて貰えそうにないからね。

「この町って冒険者に辛くないんですか」

「そうねぇ、でも領主様がねぇ」

なんかありそうですね。

「領主様が、っていうかあの一族が冒険者嫌いでね。でも近くにいい狩場もあるし、入町税は我慢してるってとこね」

「えっ?この町の冒険者からも入町税を取るんですか?」

「そうよ。まぁ証明書があれば銀貨1枚で済むからね」

「駆け出しの冒険者にはきつそうですね。でもそんなんだったらいざというときに冒険者の協力なんて得られないんじゃ」

「何かあったらすぐに命令が出るわよ。命令違反の罰金も金貨数枚とかだから、協力せざるを得ないのよ」

「文句出ないんですか?このギルドの上から言ってもらえば」

「無駄よ。何度も言ってもらったから」


その後聞いたことは、とにかく早くこの町から出た方がいいって事。領主に目を付けられたら面倒なんだって。いつの間にかいなくなって、男の人は町の外で死んでることが多いんだって。女の人はボロボロになって見つかるらしいの。噂によると領主が絡んでるらしいんだけど、誰も何も言えないし、証拠も無いから大人しくしてるしかないんだって。


エルフィと二人で昼ご飯を食べに行きました。ウィンはギルドの厩舎でお留守番です。たっぷりのご飯と水をあげてきたから大丈夫よね。


「ねぇ、この町の領主ってなんか気にならない?」

「そうねぇ。でもミーア、ここで騒ぎでも起こすつもり?」

「まさか。この町のことはこの町の人に解決してもらうしかないからね」

「よかった。また何か始めるのかと思ったわ」

「でもね、一応調査はしてるのよ。まぁ噂話を聞くぐらいなんだけど」

「へぇ。後で聞かせてね」

「面白い話があったらね」


マルチさんから入ってくる情報は、やれ娘が帰ってこないだの、パン屋の看板娘がいなくなっただの、税金を納めるのが遅れたら妻が連れてかれただの、そんな話ばっかです。ギルドで聞いた話ってホントだったのね。


さてと、昼も食べたことだし、こんな町さっさと出て行きましょうか。


**********


ギルド附属の厩舎に男が立っていた。

「ほほう、これは……」


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