第128話 ダンジョン(後編)

「おう、ミーアよ。待っておったぞ」

「へっ?何のことですか?」

「魔素の氾濫のことで来たのだろう」

「魔素の氾濫?私は森の中にあったダンジョンから溢れた魔素を治めるのに力を貸して欲しくて来たんですけど」

「それが魔素の氾濫じゃ」

「そうなんですか。エルフィ、何か話したの?」

「ううん、何も話なんてしてないよ」

「魔素は大地の下深くを流れている。ところが最近その流れに異常が起きたのだ。魔素の流れが滞り、地上に溢れたのだ。それがミーアの傍だったということだ」

「知ってたのですね。それでは単刀直入にお願いします。魔素の流出を鎮静化するために竜の里の人たちに手伝って欲しいのです」

「分かっておる。既に選んでおるから、すぐにでも連れて行くがよい」

20体のドラゴンが集まっています。その中にはもちろんブラちゃんも。

「ブラちゃん、久しぶり。元気にしてた?手伝ってくれるんだ。ありがとね」

「ブラちゃんって言うな。俺にはファルゴって名前があるって言ってるだろ」

「いやぁ、でもブラちゃんだし。ま、ヨロシクね」

「ふんっ。まぁいい、友達だからな」

「里長様、私よくわかってないんですけど、あのダンジョンを鎮静化するのにこれだけのドラゴンが必要なのでしょうか」

「恐らくはな。まぁこれだけいれば大丈夫だと思うが」

「それじゃぁお借りします。でもちょっと待っててください。これだけの数のドラゴンがいきなり向こうに行ったら大騒ぎになっちゃうんで、調整してきます」

「分かった」



「……と言うことで、ドラゴンに応援を頼みます。エルフィ以外に20体のドラゴンの応援を取り付けました。直接ダンジョンの方に呼び出しますけど、驚かないでくださいね。それからドラゴンを呼び出すので森の魔物が外に飛び出す可能性もあります。監視と防護をしっかりとお願いします」

「いつもいつも姫様には驚かされますが、どれぐらいかかりますか」

「詳しくは分かりませんけど、終わり次第戻りますから」

「姫様も行くのですか」

「今回ばかりは私が現場で陣頭指揮をとらなければなりません。結界のようなもので守るので大丈夫ですよ」

「誰か付き添わせましょうか」

「かえって危険なので結構です。いざとなれば親衛隊もいますから」

「分かりました。ご武運を」



ドラゴンによるダンジョン沈静化作戦の始まりです。20体のドラゴンが次々とダンジョンの中に入って行きました。もちろん小さくなってですけど。

魔素の吹き出し口がダンジョンの中に何か所かあるそうです。最大の吹き出し口は最下層にあって他の階にも点在しているんだそうです。エルフィを含めた21体のドラゴンを3つに分けました。一つのグループは上層(1~12層)を、もう一つは下層(13~17層)を、そして最下層を担当します。

『ドラゴンのパーティーか。壮観だね』

邪魔をする魔物たちを蹴散らしながら魔素の流れを正常化していきます。

『さすがにこれは人間じゃできないわね』


「ミーア、ちょっと来てくれるかな」

「どうしたの」

「魔素の吹き出し口が見つかったのよ。でもね……」

「一度そっちに行くね」

エルフィのいる最下層へ移動です。

ここなんだけど、これだけじゃ直せそうになくって。他の層にいる人たちも呼んできてほしいんだけど」

エルフィたちの目の前に大地の裂け目があって、そこから何かが噴き出しているのが分かります。普段は目に見えない魔素なのですが、なぜかそこだけユラユラと揺れています。



全ての吹き出し口を封じるのに3日かかりました。さらに3日、ダンジョンの中にたまっている魔素を減らし続けて、ようやく人が入っても大丈夫なレベルになりました。

更に5日、森の中をドラゴンたちが飛び回ります。ようやく森が静かになってきました。


「みんなありがとう。助かったわ。何かお礼がしたいんだけど」

「私たちは里長の命で来たに過ぎない。礼など不要だ」

「そういう訳にはいかないって」

「なら里長に聞けばよい」

「それじゃぁ里に戻りましょうか」


里長の話では魔素の流れの乱れは時々起こるそうで、それを直すのは竜の使命なのだそうだ。これだけ大掛かりな乱れはめったに起きないので、ほとんどの場合は放っておくそうだが……

今回の乱れはこの世界にとっても天災級のもので、放っておくことはできなかった案件だったそうなのだ。そこで修復のチームを作っていたところ、近くにエルフィがいることが分かり、少し様子を見ていたそうだ。もう少し動きがなければエルフィを呼び出すところだったと。

たまたま私がエルフィと一緒に訪れたので、とんとん拍子に話が進んだんだって。

元々竜の使命だったから私からのお礼なんていらないって言い張ってたけど、それはそれ、何かしないとこっちが気持ち悪いからね。なんとか酒100樽で手を打ちました。


「里長様、この度は本当にありがとうございました。あの地を治める領主として重ねて御礼申し上げます」

「もうそれはよいと言っているだろう。時にエルフィ、向こうはどうだ」

「とっても楽しいですよ。最近ではウィンって言うアリコーンの友達もできたし」

「アリコーンもいるのか。それは大したものだな」

「ところでミーアよ、たまにでいいのだがミーアの国に行っても構わないかの」

「いいですよ。あっ、でもその姿のままじゃちょっと……」

「問題ない。成竜になれば姿を変えることなど容易いものだ」

「成竜って?」

「大人の竜のことじゃ。大体500歳ぐらいになれば立派な成竜じゃな」

「じゃぁブラちゃんも成竜なんですね」

「一応はな」

「準備が出来たらエルフィに言って下さい。迎えに来ますから」

「よろしく頼んだぞ」




「みんなご苦労様。北の森の問題は大体片付いたわ」

「もう問題はないと」

「魔物はまだ多いからまだ危ない事には変わりないけど、魔素だまりは殆どなくなったと思うけどまだ注意は必要ね」

「ダンジョンも問題ないのですか」

「問題のないレベルにはなったと思うけど、冒険者以外はきついとこね」

「それでは北の森の立ち入り禁止は解除と言うことで」

「それでいいと思うわ。注意だけは促しておいて」


その後王都での報告やら、疎開に協力してくれたところへのお礼やらでさらに一月近く飛び回ったおかげで、もうクタクタです。



そうだ、収納に入っている上位種を含んだ10000近くの魔物、どうしましょうか。



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