第126話 掃討作戦(後編)

少しずつ住民が戻ってきました。だんだんと元の生活に戻れそうです。

一方森の方はと言いますと、少しずつではありますが確実に間引きは進んでいます。


冒険者に依頼した上位種の発生に関すると思われる場所の調査で進展がありました。異常な濃度の魔素だまりがあったのです。

魔素、私たちの魔力の元となるもので、この世界に広くあります。少しずつ取り込むことで魔力の回復につながるのです。竜種などは魔力に変えないで直接使うこともできるそうです。

そんな魔素がたまっているところ、どうやらそこで何かが起こっているようです。しかしそれ以上の調査はできません。大量の魔素を取り込んだ時にどうなってしまうのかが分からないからです。

『ナビちゃん、魔素っていっぺんに沢山取り込んだらどうなっちゃうの?』

『弱い生き物だと死んじゃうわよ』

『弱いってどれぐらい?』

『ゴブリンもオークもオーガも弱い生き物よ。もちろん人間も。でも稀にそれに耐えられる個体もいるわ』

『それが上位種になるってこと?』

『そうね』

『じゃぁ魔素だまりが上位種を生み出す元って事ね。どうすればその魔素だまりを取り除くことが出来るの?』

『魔素の流れ込みが収まれば自然に解消するものなんだけど』

『じゃぁどこかに魔素を吐き出しているところがあるっていう事ね』

『うん。多分ダンジョンか何かがあるんじゃないかな。そこで魔素が異常に噴き出して森に広がったんじゃないかな』

『ダンジョンか。そんなのがあったんだ、森の中に。でもどうやって止めるの?』

『自然に止まるよ。どれぐらいで収まるかは分かんないけど』

『えっ?じゃぁこの状態が続くって事もあるってこと?』

『まぁそれはしょうがないんじゃない。長くっても100年か200年すれば止まるから』

『そんなに待てないって。出来ればすぐにでも止めたいんだけど』

『竜種なら出来ると思うよ。溜まっている魔素を減らせるし、魔素の流れも変えられると思うの』

『ありがとうね。何とかしてみるよ』



「冒険者の皆さんが見つけた魔素だまりについてですけど、一つ、絶対に近づかないでください。死んでしまうことがあるそうです。冒険者の皆さんを引き上げてください」

「分かりました」

「それからどうやら森の中にダンジョンがあるみたいです。魔素はそこから溢れてると思われます」

「ダンジョンですか。場所は分かっているんですか」

「まだわかりません。ただこの森の異常事態は、魔素が溢れて魔物が活性化し、更に魔素だまりで上位種が生まれて起きているという事です。終わらせるためには魔素の発生源を潰す必要があります」

「魔素だまりでさえ近づけないんじゃないんですか。発生源を潰すなんて出来るんでしょうか」

「ドラゴンならできるかもしれません」

「ド、ドラゴン!」

「エルフィと言うドラゴンの友達がいます。彼女に手伝ってもらいます」

「ドラゴンを使うなんて……」

「大丈夫よ。私はエルフィに助けてもらったこともあるぐらいだから。で今後の方針だけど、私は上位種の間引きを行いながらダンジョンを探すわ。後は今まで通り、監視と警戒をお願い。町の人たちも戻ってきてるから、不安にさせないことも忘れないでね」



それから1週間、まだダンジョンは見つかっていませんが、森の半分ぐらいは探索が済みました。

間引きをしていて気づいたことがあります。魔物の種類が入り口付近も奥に入ってもあまり変わらないという事です。ゴブリン、ホブゴブリン、オーク、オーガや虫、獣などで、ドラゴンやキメラやケルベロスなどと言った単体でも脅威となるような魔物がいないのです。ダンジョンの中に入るかも知れませんけど。


「姫様、ダンジョンはまだ……」

「まだね。もう一月もあれば大体間引きは終わりそうなんだけどね」

「姫様の使う『探索』というので魔素の濃いところを探せないのでしょうか」

「やってみたことはあるのよ。今でもそうなんだけど、北の森全体が魔素の濃いところっていう風になっちゃって、その中でどこがさらに濃いのかはわからないのよ。だから虱潰しにしていくしかないのよ」

「ですが、姫様のお身体を考えると、あと一月続けられるのは如何かと」

「でもこれが領主としての仕事だから。民が安心して住めるところにするのが領主の仕事じゃなくって」

「確かにそうではありますが……」

「ところで街の中の様子はどう?」

「平常に戻ってきています。ただ冒険者の一部に北の森に行けない不満があるようです」

「入らせろって事?南の森は開放しているんでしょ」

「そうなのですが、上位種を狩りたいみたいなのです」

「フィル、ちょっとギルドマスターたちを呼んできて」


「マスター、冒険者の方はどうなっているの」

「一応落ち着かせてはいますが、完全にという訳にはいきませんもので……」

「マスターは今の森をどう見てるの」

「Aランクのパーティーで無理さえしなければ、日帰りなら何とか」

「でもAランクパーティーは全部強制指名中よね」

「そうです。不満を持っているのはBCランクです。Aランクだけいい依頼が受けられて、自分たちは狩りに行くことも禁止されていると言って」

「彼らが森に入ったらどうなりますか」

「全滅のパーティーも出るでしょうね。森の入り口付近にもまだ上位種がいますから」

「それでも入りたいの?」

「上位種の素材が欲しいのでしょう。手に入れられればかなりの儲けになりますから」

「でも命の値段よりは安いでしょうに」

「それでも行くのが冒険者ですよ。ミルランディア様も冒険者ですからわかるんじゃありません」

「私がいたパーティーは慎重だったからね。冒険の掛け金に命はなかったわ」

「リーダーが良かったのですね。それはそうと、冒険者の立ち入りの件、如何いたしましょうか」

「領主として危険のある領内の地に立ち入ることはやはり認められないというのが考えです。その上でギルドで判断してください。ただし補償は一切しません。怪我をしようが死のうが一切ミルランディア領としては関知しません。それからギルドには北の森に関する依頼を受けないでください」

「その上で入る者については」

「止められないのでしょう。ただし、北の森の立ち入り禁止措置は解除しません。その上で対処してください」

「お手数をお掛けします」


数日後、いくつかのパーティーが北の森に入って行ったそうです。戻ってきたものもあったそうですが、いずれもかなりの被害を負っていたそうです。それでも持ち帰った素材は価値があるらしく、それに惹かれて入って行くパーティーが後を絶たなくなったとのことです。半分以上は戻ってこられないにもかかわらず……


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