第125話 掃討作戦(前編)

「姫様、どのようにするのですか?」

「私が森の魔物を間引きます。大体7割ぐらいですね」

「スキルでやるのですね」

「そうです。間引いている様子はここでも見られるようにします。冒険者と兵士の皆さんは森から溢れるかもしれない魔物の対応をお願いします。森の魔物のバランスが崩れるので、どうなるか分かりません。作戦が始まれば昼夜を問わず対応をしなければならないので、休憩は適宜お願いします。特に魔物は夜になると活動が盛んになるので、夜間の監視は特に厳重にしてください」

「間引くとおっしゃいましたが、魔物を残すのですか?」

「魔物を全部狩ってしまうと森の生態系が変わってしまいますから。魔物がいなくなったところに別な何かが入ってきても困るので、数だけ減らします。それに北の森はフロンティーネを拠点にしている冒険者にとってもいい狩場なんですよ。そこを潰してしまうのはもったいないですから」

「そうですか」

「まぁ、全滅させる方が簡単なんですけどね」

「あの帝国との戦いで使った魔法ですか」

「あれはダメよ。あんなの使ったら森がなくなっちゃうから。それにあれはもう使いたくないしね」


守備隊(冒険者と兵隊によるフロンティーネの防衛隊)の準備が出来たのを確認して、作戦をはじめます。


1週間前と比べて森の中はより一層混沌としています。ゴブリンジェネラル率いるゴブリン軍に蹂躙されるオーク軍。虫系の魔物も増えています。キーラービーにジャイアントアント、ポイズンモスなど、1匹1匹はそんなに強くはないんだけど集団になると厄介なものが結構います。

「上位種がいる群れを中心に間引きます。行きましょう」

森の比較的いところにいるのはネズミにウサギ、ウルフ、ゴブリン、オーク、オーガ、蜂などです。

探索で上位種を探すと……、結構な数です。森に入って200メートルあたりで探しただけでも、ゴブリンなどは殆どの群れにメイジやアーチャー、ライダーなどがいますし、ジェネラルなんかもいます。

上位種のいる集団の周りに亜空間を展開して、時間を止めます。そのまま亜空間収納に送ります。とにかくこれを繰り返すのですが、数の多さに圧倒されてなかなか進みません。


結局初日は森の入り口から500メートルほどしか進みませんでした。

「姫様、今日の所はこれぐらいにしてまた明日でよろしいのではないでしょうか」

「えぇそうね。流石に少し疲れたわ。今日の所は休ませてもらうわね。見張りは厳重にお願いします。もし魔物が溢れてきたら、私への報告はいいから、与えられた仕事を遂行してください」


幸いなことに夜の間に溢れてくることはありませんでした。あの森にはきっと何かあるのでしょうね、魔物が出てこられないような結界のような何かが。

一方で前の日に500メートル押し込んだ分のうち、200メートルは押し返されていました。それだけじゃなくって、数は少ないのですが上位種の新たな発生も認められたのです。

「昨日間引いたゴブリンの中から、新たに上位種が生まれているのが確認されたんだけど、何か知ってることない?」

「分かりませんね。なんせ上位種自体珍しいものですから。でも昨日はいなかったところに今日はいるということは、発生源があるという事ですよね」

「そうなるわね。新たに生まれたのか、既存の個体が変わったのかは分かんないけど」

「そっちの解明が先ですか?」

「先に押し込んじゃいましょう。あっ、でも間引きだけはしちゃいますから。そうだ、今日間引いた奴は記録しておいて。何かわかるかも知れないから」



間引きを初めて1週間、入口から2キロのあたりまで間引きは進んでいます。この辺りになると猪型や鹿型の魔物や熊型の魔物、ホブゴブリンなんかもいます。2キロぐらいと言えば初心者を脱した当たりの冒険者の狩場ですが、そんな人達がここに来たら間違いなく瞬殺ですね。

「姫様、一度お休みになられた方がよろしいのではありませんか」

「そんな訳いかないわ。ここに戻ってくるのを待ってる人がいるんですから、一刻も早く終わらせないと」

「でもここで姫様が倒れてしまったら、元も子もありません。姫様だけが頼りなのです」

「ありがとう。でもね、1日休んだら前の日に押し込んだ分は完全に戻されるわ。心配してくれるのはうれしいけど、今は平気だから」


と言ってはみても、疲れているのは確かです。すでに1000匹以上の魔物を倒しているのに、状況の変化があまりに乏しいのですから。

「フィルスラード、街の人たちを戻そうと思うけど、どう思う?」

「どうしたのですか?」

「いやね、長いこと空けるのも不安だろうし。農地の作業もしないといけないし。魔物も森から出てこないようなので外に出なければ大丈夫かなって」

「そうですね。希望者から戻すようにします」

「よろしくね。後アルトーン、飛翔具の操縦を教えるから、領兵の中から何人か選んでおいて」

「難しいのでしょうか」

「そんなに難しくはないわよ。簡単ってことはないから、ある程度理解の早い人がいいわ」

「承知しました」

「ギルドの方は何かある?」

「冒険者の方に間引きを手伝わせましょうか」

「上位種の発生の仕組みが分からない以上、時期尚早かと思うけど」

「それなんですけど、上位種が発生するポイントらしいものがあるようなのです」

「それは?」

「間引きした後に発生した上位種を調べたところ、いくつかのポイントを中心に固まっていることが分かったのです。なので、冒険者にそのポイントの調査を依頼すれば、何かわかるのではないかと」

「そういう事ならお願いします。報酬はアルトーンと調整して」


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