第124話 スタンピード(後編)

みんな集まりました。冒険者ギルドからはギルドマスターの他にサブギルドマスターも来ました。


「えぇと、ギルドマスター、北の森のことでギルドの持っている情報を説明してください」

「はい。北の森の魔物の生息域に変化がみられるという事です。具体的には比較的近いところにもオークのような魔物が見られるという事。あと少し奥に入るとキラーベアのような凶悪な魔物がいるという事です。本来キラーベアがいるところはもっと奥ですから。あと、オークやゴブリンは集団を作っているようです。ギルドで把握しているのはこれぐらいでしょうか」

「ありがとう。それで注意勧告を出したって事ね」

「はい。オーククラスがかなり浅いところにいるので、Cランク程度の冒険者だと危険ですから」

「で、調査隊や討伐隊の編成は?」

「一応調査隊の方は領主さまの依頼がありますので準備はしていますが、まだ募集は始まっていません。討伐隊はまだです」

「分かりました。それでは森の様子を見てみたいと思います。私が少し調べてみたところ、かなり危なそうでした。そこで調査用の魔道具を作りましたので、それで見てみましょう」

「調査用の魔道具?」

「(ボール型ドールを見せながら)これを使います。これってこうやって飛ばすことが出来るんです。ここに映った物をこっちで見ることが出来るという仕掛けです」

「「「「おぉ」」」」

「既に森の中にいくつか送ってありますので、見てみましょう」



5人とも絶句です。とんでもない数でした。弱いものから強いものまで、さらに上位種も。

「……どうしますか」

「どうもこうも、手の打ちようがないな」

「冒険者の立ち入りは禁止しなければなりませんね」

「でも放っといて収まるんでしょうか」

「収まるかどうかは分からない。ただ、今は時期が悪い」

「ところでギルドマスター、この状況をどう見る」

「スタンピードとみて間違いないでしょう。魔物が森から出ないので被害は出ていませんが、もし溢れたらこちらに来るのは必至かと」

「やはりそう見ますか。アルトーンは監視の強化を指示して。フィルスラードは街の中が混乱しないようにすること。ギルドは高ランクの冒険者を集めて。私は壁の補強をする。それから明日から毎日10時にここで会議を開きます。みんな集まるように」

「「「「はいっ!」」」」


それからは大忙しです。フロンティーネの壁の補修に加えて、駐屯地の壁の補修と演習場と北の森の間に新たに壁を作ることもしなければなりません。演習場がめちゃくちゃになっても困りますから。今は軍用の畑となっている旧仮設地も補強の対象です。


後は王宮への報告ね。今は手が離せないって伝えとかないと、ブッキングすると大変なことになるから。

王宮で説明したら、グラン伯父さんと何人かの文官の方を派遣してくれることになりました。



「では、定例の会議をはじめます」

領政府の会議室、入口に『北の森スタンピード対策本部』と書かれた部屋に関係者が集います。当初5人で始まった会議も今では20人程になっています。

「では、今の状況から。私の方は壁の補強は全て終わったわ。駐屯地の方もね」

「街の方は普段と変わっていません。少し食料品の値段が上がり始めたようですが」

「備蓄分を出して。壁の補修が終わってることも言って、とにかく安心させること」

「分かりました」

「北の森の様子は変わったところはありません。見える範囲ですが、ゴブリンやウルフが1~2匹といった感じで、スタンピード前と変わったところはありません」

「冒険者の方も少しずつ集まり始めたな。まぁBランクが多いんだが」

「それでは引き続きお願いしますね。では、森の中を見てみましょうか」


森の中は一変していました。比較的浅いところにいたゴブリンやウルフ、オークなどが明らかに減っているのです。しかしそれは決して良い事ではありませんでした。

「……こ、これは……」

映し出されたものは、オークの群れを喰い散らかしているオーガ達でした。

「ミルランディア、これはどのあたりで起きてるっ!」

「えぇと……、入口から30分、……いえ20分ぐらいの所ですね」

「オーガクラスがすぐそこまで迫ってきているという事か。一体奥はどうなっているんだ……」


知らない方が幸せ、そんな世界が広がっていました。魔物同士で殺し合いをしています。いたる所で。


「……魔の森だな」

正にその通りです。私たちのような力のない人間などは近づくことさえできない地と化していました。

だけど、何もしないでただ見ているわけにはいきません。だってそれは現在森の中で起きている惨劇がこの街で起こることを容認するようなものですから。


「動きましょう」

「ミルランディア様、どうするのです。領兵やここに集まっている冒険者じゃ、奥になんてとてもじゃないけど入れませんよ」

「まず、街の人たちを疎開させます。クロラントとキラフ(グラハム辺境伯の所の領都ね)、後ファシールにお願いして、受入の体制を作ってもらいます。食糧については迷惑をかけないようにこちらから持っていきましょう。幸いクロラントとキラフまでは舗装が済んでいるのでクルマが使えます。Bランクの冒険者は疎開する人たちの護衛をお願いします」

「フロンティーネを放棄するのですか?」

「放棄なんてしませんよ。ただ万が一に備えて避難してもらうだけです。

衛兵は街の見回りを強化するように。火事場泥棒なんて起こさせないようにね。領兵とAランクの冒険者は森から溢れてきた魔物の退治。監視は今まで以上に強化してください」

「「はいっ!」」

「でもそれではどうやってあの森を鎮めるのですか」

「私が行きます」

「危険すぎます。今ミルランディア様を失ったらここがどうなるか分からないのですか」

「なにも私が森に入って倒してくるわけじゃありません。私の直接戦闘能力がたかが知れているのは分かっていますから。ただ私には強力なスキルと魔法があります。今見ている映像も私のスキルと魔法でできてるんですよ」

「分かりました。それで私たちは」

「何人かは残ってもらいますが、基本的には街の人と一緒に避難してもらいます。残るのはアルトーンとフィルスラード。二人は協力して避難の誘導と治安の維持にあたって。ギルドマスターは他のギルドとの調整に残ってください。サブギルドマスターは冒険者の統率をお願いします。グランフェイム騎士団長には領兵をお預けします。あと、東部方面軍に応援を頼みますので併せてお願いします。あとは何人かの文官の方を連絡のために残ってもらいます」

「分かりました。で、いつから始めますか」

「疎開は3日後から1週間以内でお願いします。調整は私の方で行います。厳しい戦いになりますけど、皆さんの力が頼りです。お願いします」

「姫様、頭を上げてください」

「私たちは姫様についていきますから」

「ありがとう」



1週間後、人のいなくなったフロンティーネで、掃討作戦が始まりました。


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