第123話 スタンピード(前編)

「ギルドマスター、少しお話が」

「どうした」


ここはフロンティーネの冒険者ギルド。


「冒険者たちの話を纏めると、少しばかり拙い事態が起きているようなのですが……」

「なんだ」

「北の森なんですが、魔物の生息域に変化がみられるようなのです」

「具体的には」

「今までですと森に入った辺りにはゴブリンやフォレストウルフと言った魔物がいたのですが、さいきんではオークもよくみられるとのことです。ゴブリンもいるにはいるのですが、以前に比べて集団が大きくなっています。さらに奥に進むとオーガやキラーベアなども」

「キラーベアって……かなり危険な魔物じゃないか」

「前からいたようですが、もっとずっと奥での目撃例でした。そう考えれば北の森で何かが起きているのは明らかかと」

「注意勧告だけは出しておこう」

「その方がいいかと。最近は冒険者の数も増えて、駆け出しに毛の生えたような連中も森に入ります。そんな連中がオークの集団に出会ったら……」

「ちょっと待て。オークがいるとは聞いたが、集団なのか」

「5~7匹ぐらいだそうです」

「まずいな。普段2~3匹で行動しているオークは5匹以上の集団は作らないはずだ。それがいるということは……」

「上位種ですか」

「可能性は否定できんな。ジェネラルかロードかはわからんが」

「討伐隊を集めましょうか」

「先ずは調査からだ。ゴブリンも集団化しているというのだろう。きっとあっちにも上位種がいる。まずは情報だ」


領政府に情報が入ったのはすぐでした。

『北の森の魔物に異変!上位種発生の恐れあり。Cランク以下の冒険者は立ち入らないことを推奨』


「アルトーン、ギルドの発表見た?」

「はい。北の森のことですよね」

「ちょっと見に行った方がいいかなぁ」

「ミルランディア様、それはお止めください。ギルドの発表にもあったじゃないですか。『以下は立ち入らないように』って」

「でもほら、私の実力はAランクって言われてるし、大丈夫だよ」

「でもランクですよね」

「それは指名依頼を受けないためで……」

「でもダメです。それより領軍に調査をさせた方がいいのではないでしょうか」

「領軍には演習場の周りを調査させるわ。あとギルドにも調査依頼を出した方がいいわね」

「処理の方をしておきます」


ミルランディア領の北の森は、フロンティーネの北側に広がる大森林で、広さはフロンティーネの70倍とも100倍ともいわれている。手付かずの自然が残っていて動物や魔物が沢山生息している。奥の方に入った冒険者もいるが、全貌が明らかになっているわけではない。希少な薬草が生えているという噂もあるが、同時に凶悪な魔物が済んでいるという噂もある。

フロンティーネの南側にも大森林が広がっているが、広さ的には北の森よりは小さい。


『仕方ない。マルチさん経由で見に行くとしますか』

マルチマップを探索モードにして潜入開始です。


『これは危険どころの騒ぎじゃないわね』

森の入り内から30分ぐらい入った辺りでさえ、魔物の集団がかなりいます。50匹程度のゴブリンの群れが幾つか、10~20匹のオークの群れ。20匹程度のウルフの群れも幾つかうろついています。駐屯地の方を見てみると、そっちにもオークの群れがいました。

マルチマップをできるだけ広げて探索をしたところ、森ほぼ全てで魔物の反応がありました。

『……スタンピード』

頭を過ったのは、魔物による集団暴走。もしそうだとすると、魔物が沸いているところを調べないといけない。まだ湧き続けているのか、もう終わっているのか。

魔物の数と種類。北の森にどれだけの魔物がいるのか、どんな魔物がいるのかによっても討伐隊の編成が変わる。恐ろしいのはあの密度で森全体に広がっていた時です。とてもじゃないけど冒険者や領軍では対処できません。亜空間を広げて時間を止めれば殺すことはできますが、死体の処理が出来ません。あれだけの数の魔物の死体を放置したとすると、どうなるかが予測できません。


私はマルチさんで確認ができますが、知らせることが出来ません。私が口で説明するしかないからね。何とかみんなに見せる方法を考えないと。

なら魔道具ですね。だってスキルで得た情報は私の頭の中にしか展開できませんから。魔道具を送り込んでその様子を見る。更に見たものをこちらに送ればいいのです。うん、これなら何とかなりそう。

送り込むための魔道具はすぐに出来ました。何と言っても私はドールマスターです。飛翔具で使った浮遊魔法と風魔法を組み込んだ魔石を人形として動かすだけです。出来るだけ小さなものにしないといけませんから工夫はしましたけど。

目と耳の部分は記録の魔道具を応用しました。目や耳の代わりの魔石に入ってきた情報を遠隔通信の魔法に乗せて、こっちではその情報を受け取って元に戻して映し出す。よしっ、これなら何とかなりそうです。


頑張って小さくして、出来たのは手のひらに乗るぐらいのまん丸い人形です。一応10個ほど作ってみました。映し出すの方は、人形からくる信号を切り替えて使うようにしました。だって対にすると10台も作らなきゃならないでしょ。まぁ同じものを3つ作ったんですけど。


試験の結果は上々です。ボール型のドールには隠蔽の魔法も組み込んであるので、森の中を飛ばしても多分見つからないと思います。

さてと、ギルドマスターとアルトーンとフィルスラードを呼んで、この先のことを決めますかね。


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