第122話 通信魔道具

アズラート戦から5年、平和な日々を送っています。

フロンティーネのクルマ工房では順調に生産を続けています。大型の荷物の運搬車、乗合用のクルマ、小型だけど見た目のいいクルマ。最近では多少の悪路であっても走れるものも開発したみたいです。ウチの開発陣ってば凄すぎです。

ポルティアの造船工房では交易用の船と漁船を主に作って言います。漁船って言っても近くで獲るやつじゃなくって、一月ぐらい帰ってこない大型のやつね。小さな漁船はニールとかでも作っているから、そっちの工房のを使っているみたい。


アズラートの新しい国造りも進んでいるみたいよ。この間議会の代表を選ぶ選挙を行ったみたい。ウチの騎士団が監視に行っていたみたいだから。

国防についてはヘンネルベリがやってるわけだし、統治もしてるんだけどね。もう暫くしたら国の舵取りは任せられる様になるのかな。


**********


時間は少し戻ります。3年ぐらいかな。


「ミーア、お前の『ワープ』の魔法の転送門は、常設できないのか」

「多分できると思いますけど……」

「なら作ってはもらえんか」

「あまり勧めませんけど」

「なぜだ」

「先ず一つは私しか作れないという事。作れないということは直すこともできないって事です、私以外には。私に何かあった後だと使えなくなってしまうという事ですね。私もそれに縛られるのは嫌ですし。まぁこれは小さい問題で、大きな問題があります。ルイス伯父さんはどうやって使うことを考えているんですか?」

「まぁそれは人やモノの移動だな」

「そこなんですよ。遠くにすぐに行けるのはとても便利です」

「そうだろう」

「でも、悪いことに使うにも便利なんですよ。例えば人攫いが攫った人を連れて行くのに転移門を使われたら、国のどこに行ったのかわからなくなる。転移門を使って一気に攻められたら対処のしようがなくなります。いい人が使えば便利ですけど、悪い人が使っても便利なんですよ」

「言われてみればそうだな」

「国中の道がきれいに舗装されてきて、クルマの生産も始まっています。以前は1週間もかかったニールへ、今ではその日のうちに着けるんですよ。クルマを上手く使えば大部分は解決するんじゃないですか」

「クルマかぁ。あれの生産は他ではできないのか」

「出来ると思いますよ。ただ全部を教えることはできませんけど。仕組みを自分で研究するぐらいの気持ちがあればいいんじゃないですか」

「だがなぁ、もう少し融通を……」

「私の所でもクルマを作るのに、多くの時間と人とお金をかけてきましたからね。何でも教えますって訳にはいきませんよ」

「そうだよな」

「高い給金で引き抜くって言うのもありかも知れませんけど、うち、結構いい給金払ってますよ。それに外から来た人がポンッと偉い席に座ったら、前からいた人はどう思いますかねぇ」

「自分で研究するなら作ってもいいんだな」

「それは構いません。私たちも競争する相手がいた方がいいですから」


まさか転移門を作ってくれって言われるなんて思ってもいませんでした。出来るっていうか、出来てるんです。王都の家とフロンティーネの家、ポルティアの家、ニールの家を繋いでありますから。『隣の部屋はリゾート別荘』計画(第46話 一夜明けて)は実現済みでした。


ウチだからいいけど、国レベルでやるのはやっぱり危険よね。移動はクルマが出来ればだいぶ良くなるから、あとは情報の伝達か。私は魔道具でできるからいいけど、やっぱりみんなで使えるやつが欲しいよね。


『交信装置か。ナビちゃんに聞いてみようかしら』

そうと決まればやるだけです。

『ねぇナビちゃん』

『……………』

『ナビちゃーん』

『……………』

『いないの?』

『……ゴメン、ゴメン。ちょっと手が離せなかったから』

『大丈夫なの?急ぎじゃないから、後でも構わないんだけど』

『大丈夫よ。それより何?何かまた面白いことやろうとしてるの?』

『面白いっていうか、交信装置みたいのが作れないかなって』

『交信装置?それってどういうの?』

『たとえば、こことウチの領地の私の家で話ができるような機械』

『それなら風魔法に『遠隔通信』って言う魔法があるから、それを魔石に刻めば……』

『えっ?風魔法にそんなのがあるの?』

『ミーア、スペルマスターだよね。使ってないの?』

『そんなのあるって知らなかったし。それってどういう魔法?』

『話をしたい人を思って魔法を発動させると、話ができるようになるの。切ったらお終いよ』

『相手は誰でもいいの?』

『誰でもいいわ。『遠隔通信』が使えない人でもOKよ』

『使えない人からは話しかけられないのか』

『それは仕方ないわよね』

『そういえば私の傍にもう一人スペルマスターがいたんだ、4属性の』

『その人なら使ってたんじゃないの』

『多分使ってない。っていうか、魔法ってかなりたくさんの種類があるわよね。ファイヤーボールが使えますって言えばわかるんだけど、何でも使えますって言われると何があるか分からないのよ。スペルマスターって何でも使えるけど、知らない魔法もいっぱいあるのよ』

『そうなのね。で、その『遠隔通信』の魔法を魔石に組み込めば……』

『ちょっと待って、魔石に魔法陣を組み込むのは無しにしたいの』

『何で?』

『それってできる人が少ないよね』

『でもミーアはできるじゃん』

『私はできるけど、私しかできないじゃん。もしね、1カ月で100台作ってくれって言われたら、私はずーっと作ってなきゃならなくなるわ。それは困るから魔石に組み込むのはやりたくないのよ』

『効率は悪くなるけど、魔法陣を使えばできないことはないよ。魔法陣を魔石で発動させるのはあまりお勧めしないけどね』

『でもそれならだれでも作れるわよね』

『まぁね。魔法陣さえちゃんと描ければいいからね』

『じゃぁそれで作ってみるわ』

『相手を決めるやり方は分かる?』

『相手を決める?』

『だからその交信装置を呼び出すかって事』

『そっか。同じじゃ分かんないもんね』

『魔石に錬金術で番号を刻むことが出来るの』

『それって魔法陣と一緒?』

『同じと言えば同じね。ただ魔法陣は正確に書かなくちゃいけないし、難しいのよ。でも番号だけならそんなに難しくないんで、錬金術が使えればできるわ』

『そうなんだね』

『で、その魔石を魔法陣に組み入れれば装置の番号は決まるわよね。繋ぐときは風魔法で相手を探すから。後は繋ぐ番号を術式に入れれば完成ね』

『ありがとう。なんかできそうな感じがしてきた』

『ここまでヒントをあげたんだからもう出来たも同じよね』

『それは買いかぶり過ぎってもんですよ、ナビさん』

『まぁいいわ。それだけ?』

『うん、今のところは。そうだ、さっきの話じゃないけど、魔法の一覧ってないのかな』

『それって紙に書いてあるやつ?』

『出来ればそういうのがいいわ』

『ないことはないけど、今はちょっと無理ね』

『どういうこと?』

『古代文明の時代にはあったのよ。今は残されていなくて、遺跡から出てくればラッキーかなって感じ』

『でもそれって古代語で書かれてるんじゃないの』

『そうよ。でもないよりいいでしょ』

『そうだけど……。まぁ諦めることも必要ね』

『ミーアがやりたいって事を聞いてくれればすぐに教えてあげるわよ』

『そうね。またそのときわ頼むわね』

『うん。じゃぁね』


よっしゃぁ!遠距離交信装置が出来そうです。早速始めますか。

でもその前に……


「サフィア、ちょっといいかな」

「何でしょう、ミーア様」

「サフィアってさ、風属性もスペルマスターだよね」

「そうですよ」

「じゃぁさ、『遠隔通信』って魔法知ってる?」

「何です?それ」

「離れた人と通信ができるんだって」

「ミーア様が前にくれた指輪みたいなやつですか」

「あれは私としか繋げないけど、魔法の方は誰とでも繋げるらしいよ」

「どうやるんですか?」

「話をしたい人を思い浮かべて魔法を発動させると、話ができるようになるらしいの。切ったらお終いよ」

「えっと、じゃぁ試しに……うーん……『遠隔通信』!」

「……」

「あっ、エレン姉様。サフィアです。……何してるかって?なんか面白い魔法を教えてもらったんで試してるんです。……そうです。ミーア様です。……わかりました。じゃぁまた後で」

「出来たみたいね」

「はい。エレンさんで試したらうまくいきました」

「使える人からの一方通行なんだけどね」

「でも便利ですよね。これって離れてても使えるんでしょ」

「多分大丈夫だと思うわ。この国の中だったらどこでも繋がるんじゃないかな」

「って事は私はミーア様を呼べるし、ミーア様も私を呼べるんですよね」

「そういう事になるわね」

「でも何で知られなかったんだろう」

「風属性の中でもかなりレアなんじゃない。使える人もいないし使い方も分からなければ廃れちゃっても仕方ないよ」

「でもとても便利と言うことは分かりました。使える人が今のところ私たち2人だけですけど」

「まぁ上手く使えば言面白いって事ね」

「新しい玩具みたいで嬉しいです」

「でね、この魔法を応用して通信の魔道具を作ろうと思うの」

「魔道具ですか」

「そう。例えば冒険者ギルドに置いといて、何かあったらすぐに連絡するとか」

「なるほどね。と言うことはミーア様、また儲かるんじゃないですか」

「これはね、作り方を教えてどこでも作っていいようにしようと思ってるの。だってこれって絶対に広がるわよ。そんなのフロンティーネの工房じゃ作り切れないから」

「えー、ただなんですか」

「ううん、番号の登録は国で管理するから、番号1つについていくらか集めることはできるわよ」

「なるほど。仕組みを作っておいて首根っこは押さえちゃうわけですか」

「そういう訳じゃないけど、管理は必要よね。それよりサフィア、アンタ性格変わった?」

「そんなことないですよ。でも最近ミーア様の傍にいられないんで少し寂しいかな。その分エレン姉様に慰めてもらってますけど」

「危ない事しちゃダメよ」


そんなこんなで通信装置を作りました。いくつか作って有効性を見てもらった後、作り方を公開したら、それはそれはすごいことになりました。

私の実入りですか?1台当たり銀貨50枚ってところです。少ないじゃないかって?1年で1000台も売れるんですよ。バカにならない金額ですって。何もしないで入ってくるのですから。


まぁそんな感じでした。平和な日々ってこんなにも素晴らしいのですね。

えっ?それがフラグだって………


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