第121話 ジャルフィーの最期

**********(side ジャルフィー)


「おいっ!起きろっ!いつまで寝てるんだっ!」

「ん……う~ん。あぁ、おはようございます、殿下」

「おはようじゃねぇ。周りを見てみろ」

「ここは……?っていうか、何で牢に入っているんです?」

「こっちが聞きてぇんだよ」

「おいっ!大変なことになってるぞ!お前も早く起きろっ!」


「なんだ、煩い奴等だなぁ」

「おいっ!早く俺をここから出すんだ!」

「何で罪人をわざわざ牢から出す必要があるんだよ」

「罪人だと?貴様、俺が誰だかわからないみたいだな」

「元殿下の犯罪者、ジャルフィーだろ」

「貴様、俺が王族だと分かっていてその態度か。不敬罪で裁いてやるからな。覚えておけ」

「いやいやジャルフィーさんよ、あんたもう王族でもないし、ただの犯罪者だから」

「俺が王族ではない?ふんっ、戯言を。誰か話の分かるやつを呼んで来い」

「4~5日はこのまんまって言われてますからねぇ。無駄ですよ」

「煩いっ!黙って俺の指示に従うんだ!」

「喧しいですね。少し静かにしてられないんですか。あぁこれ、朝飯ね。夕飯も持ってきてやっから。あと、便所はそこの壺だから」


置いて行ったのは固い黒パンと水だけだった。


「畜生ーーーーーっ!今に見て入ろ!」


**********


「陛下、あれでよかったんですか?」

「仕方あるまい。帝国と内通して、戦乱の騒ぎに乗じてクーデターを画策していたのだからな」

「彼はどうなるのですか?」

「死罪は免れないだろうな」

「彼の話を聞く機会は?」

「もういらんだろう」

「それは国王陛下としてですか?それともジャルフィー殿下の父親としてですか?」

「……私は国王だ」

「……そうですか。伯父様、あとでお時間を作っていただけませんか」

「長くなければかまわんぞ」

「それでは後ほど」


リオ伯父さん、苦しそうだったな。殿下があれじゃぁ廃嫡しかないもんなぁ。その上死罪か。まぁ謹慎中に脱走して、クーデターの画策だもんな。自業自得と言えばそれまでなんだけど。

もう一度だけ話す機会を作ろう。このまんまじゃ伯父さんが可哀想すぎる。



「伯父様」

「ミーアか。昼間は済まなかったな」

「あれは陛下としてのお仕事でしょ。仕方ないですよ」

「ジャルと話をさせてくれるのか」

「そのつもりです。王妃様はどうします」

「一緒にお願いしたい。どこへ行くのか」

「王都の私の屋敷です。食事も用意してあります」

「何から何まで、悪いな」

「王妃様を呼んでおいて下さい。私は殿下の着替えを取りに行ってきますので」


陛下と王妃様を屋敷に送った後、私は殿下を迎えに牢屋に向かいました。

「ジャルフィー、久しぶりね」

「へんっ!ミーアか。まぁいいや。とっととこっから出せよ」

「いいわ。自由にする訳じゃないけど、少しだけそこから出してあげる」

「どこかへ連れて行くのか」

「まぁそんなとこね。行くわよ」

屋敷に連れて行ったあと、ジャルフィーは即行で風呂です。あんな汚いまんま合わせる訳にはいきませんからね。もちろん監視付きで。


食卓は重苦しい雰囲気です。沈痛な面持ちの両陛下の所にジャルフィーが入って行きます。

「親父……、母さん……」


食事をしながら昔の話をしています。ジャルフィーにとっては最後の食事なんだろうな。

「ジャルフィー、お前が何をしたのか、わかっているな」

「俺はこのヘンネルベリを強く大きな国にする。そのために動いただけだ」

「この国の為だと」

「そうさ。国の評価は国土の広さと力、軍事力だ。今の親父のやり方では温過ぎるんだよ」

「ならお前はどうするつもりだったんだ」

「まずは力だ。まずは船だ。あれで海上交易を押さえる。それからクルマだ。あれがあれば前線に兵や物資を送るのが早くなる。だがミーアはそれを拒んだ」

「だから帝国と手を組んだのか」

「いいや、帝国は元からミーアを潰すつもりだったらしい。帝国の狙いはあの船なんだからな。あとミルランディア領な。あそこは港があって、クルマや船の工房があって、食料があって。魅力的なんだと。まぁ俺はあそこを帝国にくれてやるつもりはなかったけどな」

「じゃぁなぜ帝国と」

「帝国はミーアを潰した後、ガタガタになった領軍を蹴散らして王都を落とすつもりだったんだ。ただこの国には帝国に対していい感情を持っているものは少ない。だから俺が仲介に入ってやるって持ち掛けたのさ」

「仲介だと」

「そうさ。俺はヘンネルベリ王国の王族の血を継いでいる。ガタガタになった王国を俺が帝国と話を付けることで落ち着かせる。ここの貴族だって帝国が直接支配するよりは俺が国王になった方がいい。帝国は見返りを得たうえで俺を認める。そして力を付けた後、帝国を攻め落とすつもりだったんだ」

「愚かだな」

「何だと」

「そんなことをして誰が喜ぶと思っているのだ」

「領土が増えればその恩恵にあずかれる貴族がいるじゃねぇか。現にミーアだって帝国から奪ったところを公爵領にしたじゃねぇか」

「ミーアの所は元からヘンネルベリの領土だったところだよ。そこを帝国が占領、入植していたんだ。それを国境を決めて、新たに開発したのがミーアだ。王国領ではあったがあそこを管理するものはいなかったからな」

「でも領地の欲しい貴族だっているじゃないか」

「功績をあげれば領地も与えるぞ」

「戦争もないのにどうやって功績をあげるんだよ」

「何も戦争だけが功績をあげる機会じゃない。国の事業をするもよし、開発を行うもよし。ただ開発するにしても莫大な金がかかるぞ」

「そんなの国が融通してやればいいじゃないか」

「えっ?私は全部持ち出しでやったんだけど」

「ならその程度でできるって事じゃないのか」

「フロンティーネの開発だけで国の予算の半分ぐらいはかかったんですけど」

「それを全部持ち出しで」

「普通に計算すればって事ね。私は魔法で何とかなるから実際にはそんなにかかってはいないけど」

「貴族は今まで通りの暮らしをしながら開発し、そこのかかる費用は税をあげて賄う」

「そうさ、貴族は選ばれた民なのだからな。平民は使われるために生まれてくるんだ、俺たちにな」

「そのようなところで民は幸せになれるのか」

「民の幸せなんて、仕事があって食っていければいいんだよ」

「お前は本当にそう思っているのか」

「当たり前じゃないか。親父は違うのか」

「民の幸せとは笑顔で暮らせることだ。この国では一部の者がその他大勢の者から富を奪い、多くの民の幸せが奪われている。ところがフロンティーネはどうだ。みんなイキイキとしているではないか。だがな、この国を今すぐフロンティーネのようにすることはできない」

「幸せに出来ないやつがその方法を語るんじゃねぇよ。親父だって所詮はできないんじゃねぇか」

「だから足掻くのだよ。国王たるもの民の幸せのために汗をかく。領民を虐げる領主には罰を与える。餓えることのない、争い傷つけあう事のない国、それが目指すべき姿だ」

「民が幸せになって力を持ったら碌なことにならない。平民など抑圧して黙らせておかなければダメなんだ」

「ジャルフィー、それは違うぞ。私たちを始め貴族というものは皆、領民、平民たちによって支えられているのだよ。この食事にしてもそうだ。畑を耕し狩りをするものは皆平民たちだ。彼らなしでは私たちは食べることも満足に出来なくなるのだよ。それに城で働く者、兵士の多くは平民だ。それを理解しているのか」

「解っているさ。だから俺は絶対的な力をもって奴らを従えるのさ」

「なにも解ってはいないではないか。貴族ばかりで何ができるというのだ」

「貴族だけじゃないさ。優れた貴族と奴隷のような平民。俺たちのいう事を只管聞き続ける平民共がいるじゃないか」

「その中から優れた者が生まれるとは考えないのか」

「そんな奴が出てきたら、なんかしらの理由でもつけてしょっ引いて処分しちまえば問題ない。平民など全て愚民でいいんだ」

「愚かだな。そのようなことでは民の心は離れ、国は廃れていく。お前が蔑んでいる平民たちに足元を掬われるか、周りの国々に食い物にされるのがおちだ」

「そうなる前に俺は絶対王として君臨するさ。この国だけじゃない、周りの国も従えてな」

「周りの国の人々は悪意と敵意しか持たぬぞ。力による支配とはそういうものだ。歴史的にも力で押さえ付けた国が長続きしないことは明らかだ」

「なら俺がその歴史の教訓とやらに終止符を打ってやるさ」

「この先、国が亡ぶような戦争は起きなくなるだろう。ミルランディアが造った船とクルマは大きな力だ。この国を繁栄に導くにしても滅亡に導くにしてもな。私は、いやヘンネルベリはこの力を平和のために使うことにしたのだ。ヘンネルベリは他国に侵攻はしない。だが侵攻してきた国に対しては容赦はしない。じきにヘンネルベリに手出しをする国はなくなるだろう。その間にヘンネルベリでは船とクルマで国を豊かにする。経済的に豊かな国にするのだ」

「そんなことしたらそれこそ周りの国からしたらいい的じゃないか」

「力を持てばいいだけじゃないか、強大な。侵略の為ではなくこの国を護る事に使うことは反対はしていないしな」

「……………」

「この先、国家間で領土をめぐる紛争は殆ど起きなくなる。ヘンネルベリもアズラートもドレンシアもサウ・スファルもドルーチェも。国境を画定し、盗賊や不法組織、魔物に共同して対応していく。国同士では交易を進めていく。これがこれからの世の中だ。この先戦争が起こるとすればそれは経済戦争だ」

「そんな甘っちょろいことで、国が亡ぶぞ」

「古き考えに取りつかれたのだな。ジャル、これまでだ」

「親父……。せいぜい国を滅ぼさないようにやるんだな」

「ジャルフィー……」

「母さん……」

「優しかったジャルフィーには……」

「優しさだけじゃ生きてけないんだよ」



ジャルフィーはその晩、ひっそりと処刑された。


国民に対してなされた発表では国家反逆罪で処罰されたとのこと。仕掛けたのは別にいて、祀り上げられたということになったようだ。最終的には王族籍のまま処分と言う事らしい。両陛下の苦労の後が見られます。


ただこれについてはジャルフィーとその側近の処分だけでは済みませんでした。逃亡を手伝ったり匿ったりした貴族や商人が芋蔓式に浮かび上がって、大騒ぎになったことは言うまでもありません。でも今回は普通に暮らしている民に被害が出なかったのが救いかな。


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