第120話 戦後処理@ヘンネルベリ

戦後処理は順調に進んでいるようです。最大の懸案だったサウ・スファルとドルーチェは、不満タラタラ、文句タラタラではあったけど、一応引いてもらえました。『これからの相手はヘンネルベリだ』との脅しに屈したのでしょうか。


私ですか?サウ・スファルとドルーチェの国境画定の時はお手伝いしましたけど、暫定政府を含めてその後はノータッチです。何でもかんでも私のところに持ってこないでくださいって感じ。

その代わり飛翔具を貸し出しました。そりゃね、ヘンネルベリとアズラート、更にはアズラート国内のいろんなところに行かなきゃいけないのですから、それぐらいは仕方ないよね。2人乗りのを2機と、5人乗りのを1機、15人乗りのを1機です。あくまで貸し出しです。渡したわけじゃありませんから。

「ミーアよ、あの飛翔具とやらは譲ってはもらえんのか」

「あれは私用に作ったやつですから」

「なら少しぐらいいいではないか」

「あれ、私しか作れないんです。私の技能スキルをフルに使って作った物ですから、他の人では多分作れないし、直すこともできないと思うんです。少し種明かしをすると、あの飛翔具って魔石で飛ばしているんですよ。ただ、飛ばすために魔石に魔法陣を組み込んでいるんですけど、今の魔法では魔法陣をほとんど使いませんし、あれに使っている魔法陣は天地魔法のものなので、天地魔法が使えないと作ることもできないんです。さらに魔石に魔法陣を組み込むのはエルフの技術だとも言われています」

「ならなぜミーアはそのような技術を持っているんだ」

「あれですね。火事の時ドラゴンに助けられたじゃないですか。その時にいろいろと出来るようになったのかと」

実際にはそうではないのですが、まぁこう説明しておけば大体のことがOKになるんで。

「そうか。なら他の者では無理だな」

「船やクルマみたいにみんなが作れるものは出していくんですけど、私しか作れないものは出したくないんです。私がそれに縛られるのは嫌なので」

「それは分かる。なら飛翔具の話はもう終わりだ」

「船の方は出来たらお渡しします」

「いつぐらいになりそうだ」

「もうじきじゃないかな。殆どできてたみたいだから。ニールの船乗りさんたちを呼んできて、試験が終われば渡せると思うんだけど」

「その時に私も行こう」

「日にちが決まったら教えますね」



「国王様、ちょっとお話が」

ヴォラント宰相が入ってきました。

「私は失礼しますね」

「お待ちください。ミルランディア様にも関係のあるお話ですから」


宰相の話はこんな感じだった。

アズラート軍の取り調べを行っていた際に聞いた話だそうだ。

アズラートが私の周りを嗅ぎまわってた時、ヘンネルベリから接触してきた男がいたとのこと。

その男は王族を名乗っていたとのこと。

アズラートのヘンネルベリ侵攻を支持し、現国王を退けた後にはアズラートに便宜を図る見返りに国王にする約束がされていたこと。

ランスと名乗り、クロラントにいるとのこと。


「ジャルフィー殿下では」

「そうであってほしくはないが」

「調べてみますか」

「他の者には頼めないからな」


私はジャルフィー殿下の魔力パターンは知っています。クロラントにいるのであれば捜すことは簡単でしょう。

問題は見つけた後です。正直、話はしたくありません。でも連れて帰らなければなりませんよね。

眠らせて連れて帰ることにしましょうか。


**********(side ジャルフィー)


「何だって?アズラートの連中、しくじったのか。使えない奴等め」

「どうやらそのようです。先ほどフロンティーネから戻ってきたものが言っておりました」

「どうだったんだ。少しぐらいは損害を与えられたのか」

「いえ、フロンティーネは無傷なようです。アズラート軍はメラル川を越えられなかったようです」

「馬鹿な!アズラートは5万出すって言ってたんだぞ」

「フロンティーネ、いえ王国もそれなりに出していたようです。南部と西部が東部に合流したようですし、北部も王都入りしていました。他にも諸侯軍などが動いたようですが……」

「だがフロンティーネには入っていないのだろう」

「はい」

「まぁいい。奴らが使えなかったことだけは分かった」

「殿下、これからどうしますか」

「もうしばらくここにいても問題なかろう」

「万が一、奴等から殿下のことが知れたら……」

「うむ……可能性はあるか」

「早いうちにここを離れた方が良いかと」

「そうだな。離れる準備をしよう」


『俺の計画が台無しになってしまったではないか、無能な奴らめ。奴らと組む必要はなかったのか?いや、俺には今後ろ盾が少ないからな。まぁいい、過ぎたことだ。次の計画を練らないとな』


**********


『見つけたっ!』

クロラントに入った私はジャルフィー殿下の探索を行いました。クロラントも広いので、いろいろなところで探しました。反応があったのは街の西側、高級住宅街でした。


気付かれないように近づいて……じゃなかった、マルチさんを送り込んで現状の把握です。

家の中には殿下の他に男の人が2人いるようです。??生活はどうしているんだろう?


殿下がいた家は、中堅商家の主が妾を住まわす家の一つでした。その商家は王都に店を持ち、特にジャルフィー殿下が懇意にしていたところです。その商家のクロラントでの拠点の一つと言う事みたいです。当然生活はそこにいる商家の主のお妾さんが見ているようです。たまたま出かけてたみたいです。


『……クロラントを離れる準備をしているのか?』

彼らの様子をうかがっていると、どうやらそのようです。しかし、今すぐという訳でもなさそうですね。さて、どうしますかね。


その晩、寝静まった頃、ジャルフィー殿下と一緒にいた男2人を強力な睡眠毒で深~く眠らせた後、王宮の地下牢にそっと送り届けました。目が覚めたらビックリするんだろうな。でもクロラントから離れるのを手伝ったんだから、感謝されるかも。



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