第119話 終戦処理@アズラート

「では行きましょうか」

アズラート帝国の宮殿に向かうメンバー、ルーファイス王太子、ヴォラント宰相、ナジャフ軍務卿、そして私。警護に就く近衛兵の5名と我精鋭、親衛隊も準備は整っています。


「国王様、アズラートの出方次第では力をもって屈服させることもあるやもしれません。出来るだけこれ以上の犠牲を出さないようにしますが……」

「十分に気を付けて行ってこい」

「はいっ!」


えぇと、皇帝陛下は執務室にいますね。都合のいいことにドルアさんも一緒のようです。

まだ余裕のようです。それはそうでしょう、3日前に始めた戦争です。周到に時間をかけ準備をした。まさか1日で負けたなんて知るはずもありません。前線からこちらへ状況の伝達が難しいということもありますから。


私たち14人は、空間転送で執務室に乗り込みます。

「デュアルフ・アズウェル皇帝陛下、ミルランディア・ヘンネルベリです」

「ミ、ミルランディアか。何故ここに」

「わざわざ出向いて着て差し上げたのですよ。席の用意もできないほど慌ててるのですか」

「これは失礼した。こちらへどうぞ。いま、茶を持ってきますので」

「毒など入れても無駄ですよ。私にはわかりますから」

「ミルランディア姫には以前そのお力で助けてもらった恩があるかすから。そのようなことはしませんよ。で、何の御用でしょうか」

「あなた方が仕出かしたことに対して、責任を取ってもらうためです」

「さ、さぁ。何のことだか……」

「とぼけても分かってます。私が当事者なのですから。アズラート帝国は私たちヘンネルベリ王国に対して戦争を仕掛けましたね」

「国境のいざこざまで関知はしていない」

とぼけきれないと思ったのか、今度は開き直りですか。

「ドルアさんはお分かりですよね。まさか軍が動いたのに軍務卿が知らないなんてことないでしょうから」

「………」


「まぁいいでしょう。一つ忠告をしておきます。あまり私を怒らせたり、心象を汚さない方がいいですよ。アズラートの民の為にも。この人はご存知ですね」

亜空間プリズンからザグウェル大将を呼び出しました。

「ザグウェル大将。貴様どうして」

「皇帝陛下、ドルア閣下。申し訳ございません」

「アズラート軍はこのザグウェル大将を中心に、5万もの兵を以ってヘンネルベリに宣戦を布告した。陛下、間違いないですね」

「……わ、私は、……知らぬ」

「保身のために嘘をつきたくなるのは分かりますが、心象が悪くなりますよ。ドルアさんがご存知ですよね」

「あぁ。軍の動きだからな」


「皇帝陛下が知らないと言ってるようですから、実際に見てもらいましょうか」

見たままの様子と音を記録することのできる魔道具を取り出しました。

「これからお見せするのはザグウェル大将が宣戦を布告した時の様子です。この魔道具によって記録されています」

映像が再生されます。たくさんの兵の中からザグウェル大将が前に出てきます。

『ヘンネルベリ王国に告ぐ。我々アズラート帝国は、デュアルフ・アズウェル皇帝陛下の名において、貴国に対し、宣戦を布告する』

「これは昨日のことです。軍の前線の最高責任者が、勝手に皇帝陛下の名前で宣戦を布告して、軍を動かすなんてことあり得ませんよね」

「………」

「私は、命令に従って……」

「もういい。確かに私が命令を下した。ミルランディアを害し、ヘンネルベリを征するようにとな」

「そうですね。私は昨日の朝、軍の特殊部隊と言いますか、暗殺部隊に殺害されかけました。先ほどの映像は昼の少し前ですね」

「殺害されかけた?殺害してから軍による大規模な戦闘と言う作戦ではなかったのか」

「確かに殺害しました。遺体も確認しましたので。ですから作戦通りに戦闘を始めたのです」

「そっちの話はどうでもいいの。結果として私は生きているし、アズラートの兵は……」

「そうだ。兵はどうなっているのだ。ミルランディアがここにいるということは戦場は手薄になっているのではないのか」

「陛下、アズラートの5万の兵は、……全滅しました」

「……全滅、……だと。わずか半日でか」

「はい。5万の兵と軍馬、全ての兵站は、一瞬にして消し飛びました。私はその一部始終を見せられています。悪魔が地獄を作り出した、そのような出来事でした」

「……信じられん」


「私たちが今日ここへ来たのは、アズラート帝国に無条件降伏の受け入れを勧告するためです」

「ふざけるなっ!無条件降伏だと。受け入れられるはずがない」

「降伏を受け入れるのであれば、アズラートの民が犠牲になることはないのですよ。陛下が間違った選択をするなら、この世界から民共々この帝都が消え去るだけです。これは決して脅しなんかではありませんよ」

「陛下、お願いです。この国を、アズラートをお守りください」

「……だが、我々としては……」

「少しは冷静になれましたか」

「我々としても譲れぬところもある」

「まだお分かりではないようですね。この席は交渉ではありません。我々の勧告を受け入れるのか否かです。そちら側に条件などはないのですよ、降伏なのですから。戦いには敗れたが民を守った皇帝として名を残すか、戦いに目がくれ全ての民の命と国を失った愚かな皇帝として歴史に名を残すか。どうしますか」

「1週間、いや3日でいい。考える時間をくれないか」

「いいでしょう。3日後、また来ます。陛下の賢明なご判断を、期待していますよ」


**********(side アズラート)


「ドルア、ミルランディアの話、どう思う」

「ザグウェルのあの態度を見ても間違いないかと」

「俺はどうしたらいい」

「………」

「分かった。一人にしてくれ」

「陛下……」


**********


3日後、私たちは再びアズラート帝国の宮殿を訪れています。アズラート側は主だった閣僚がすべてそろっています。

「ミルランディア、いくつか聞きたいのだが」

「構いませんよ」

「民は、アズラートの民は守られるのか」

「そのつもりです。奴隷にしたり殺したりと言うことはしません」

「この国を、アズラートをなくすのか」

「正しいとも言えますし、正しくないとも言えますね」

「分かった。ヘンネルベリの勧告を受け入れる」

「陛下……」

「では、これからについてお話ししましょうか。ヘンネルベリはこの地に新たな国を作ります」

「国をなくすことは正しくはないと言ったではないか」

「最後まで聞いて下さい。国を作るには民と土地が必要です。今アズラートにいるすべての民は新たな国の民となります。土地ですが、国境の画定を行います」

「ヘンネルベリは領土の割譲を求めるのか」

「ヘンネルベリとの国境ではありません。アズラートは東部と北部で今もなお争いを続けていますね。サウ・スファルとドルーチェ。こことの間の国境です。ただ新しい国、仮に新生アズラート国と言いましょうか、この国には政府がありません。従って早急に暫定政府を立ち上げ、代表代行にヘンネルベリが当たります。国防もヘンネルベリが当たります」

「軍も政府のない国と言う事か。それではヘンネルベリの一部と同じではないか」

「いいえ、あくまで暫定政府です。段階を追って新生アズラートによる政府を作っていきます。でもその前にやらなければならないことがあります。今回の戦争の責任です」

「そうだな」

「まず、アズラート帝国軍の廃止です。アズラートは新しい国になったとしても軍隊を持つことを許しません。しかし国防は必要なので、ヘンネルベリがその分を負担します」

「ヘンネルベリは信用できるのか」

「アズラートが裏切らなければ」

「わかった」

「ヘンネルベリ戦に積極的に協力した貴族については粛清します。当主だけでなく一族全てです。遺恨を絶つためです」

「一族全て……。女子供は関係ないではないか」

「前回、特務隊400人のうち、300人を帝国に戻しました。今回私を暗殺しようとした部隊はその時の人たちです。恩を仇で返されるのであれば、情をかけるべきではない。恨が生まれる土壌があるのであれば、最初から潰しておくべきだと。今回の戦いで私が感じた一番のことです」

「せめて小さな子供だけは……」

「考えておきましょう。それから今の政府の閣僚については、一旦職務を停止し身柄を拘束させていただきます。と言っても別に牢に入れる訳ではありません。どこかの宿にでもいてもらいます。暫定政府を立ち上げる際に必要な時に呼びますので。あとは貴族制度を廃止します」

「貴族制度の廃止。我々に平民になれと言うのか」

「そうです。貴族が立場を笠に着て余計な力を持ち欲を出す。欲を満たすために争いを起こす。それが今回の戦争ではないのですか」

「ヘンネルベリはどうなのだ」

「他人のことは関係ありませんよ。人には欲がありますから、それを満たそうとするのは自然なことです。ただそれを自制できるかできないかの話です。出来ているのがヘンネルベリで、出来ずに欲望をむき出しにしたのがアズラート帝国だったのです。なのでそのような貴族には退場していただきます。新生アズラートは平民がみんなで治める国になるのです」

「領地はどうなるのだ」

「平民ですからねぇ。立場的には畑仕事をしている人と変わらないのですから。領地は国のものですし、領民もいませんよ。財産も一定以上は国が没収します」

「そんなことが認められるかっ!」

「認めるとか認めないとかじゃないんですよ。そもそもあなたたちが意見することなどないのですから。私はこれから行うことを言っているだけです」

「うぬぬ………」

「新生アズラートは民の手によって政治を行う国にします。5年を目途に民の中から代表者を選びます」

「私たちがその代表になることは」

「構いませんよ。民の1人であることに変わりませんから。ただし、不正については厳しく取り締まります。特に脅迫、買収などはね。それから3年で選びなおしも行います。長い事権力の座に居続けると、よからぬことをしかねませんからね」

「……………」

「陛下、よろしいですね」

「承知した」

「ルーファイス王太子様、よろしいですか」

「うむ」

「なら決まりですね。陛下、軍の解体の命令書と、貴族の廃止の命令書を作ってください」

「分かった。ところで私の身柄はどうなる。まぁ死罪なのだろうが」

「あなたは皇帝ではなくなりますが、この国が無事に独り立ちできるのを見届けていただきます。粛清の対象はあくまで戦争に加担した貴族です。陛下が最終決定者で、最高責任者であることは承知していますが、陛下をおいてこの国を纏められる人がいますか。他の閣僚の方もそうですよ。この国のことを知っているのはあなた達です。あなたたちが協力しないということは、新しいこの国に仇をなす逆賊とのそしりを受けますよ」

「済まぬ。そこまでとは思っていなかったもので」

「書類が出来次第サウ・スファルとドルーチェへ向かいます。陛下は宮殿で、他の方はホテルで待機をお願いします。窮屈でしょうが監視は付けさせていただきます」



よしっ、第一段階終了。

これは、後世の歴史に『アズラート帝国崩壊の3日間戦争』と呼ばれることになった。

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