第118話 戦後計画
捕虜にしたザグウェル大将達は亜空間プリズンに入っています。もちろん解毒薬は渡しましたよ、弛緩剤のほうのはね。魔法は使われると厄介だからそのままですけど。厄介って言うのは逃げられるとかそういうのではなくって、自害されたら困るなって事。
食事もきちんと与えています。豪華ではないし量も多くはありませんけど。捕虜としての待遇です。
次に私がやったのは、フロンティーネの街中に残っているアズラートの残党の捕縛です。さんざんっぱらここで諜報活動をしてましたからね。判っている分の一覧を警備隊に渡しましたので、じきに捕まるでしょう。
「伯父様、一度王宮に戻りましょう」
「ここはいいのか」
「問題ないと思います。アズラート軍はもういませんし、街中にいる間諜たちは捕まえるように指示を出してあります。それにここは、私の指示がなければ動けない、そんなところじゃありませんよ」
「なら戻ろう。グランはどうする」
「グランおじさんはもう少し詰めていてもらいたいです。何かあった時の要ですから」
「グランだけはあの魔道具を使ってと言うことだな」
王宮に戻ってきた私たちは、早速国王をはじめ大臣達との会議に臨みます。
「つい先ほど、アズラート帝国が我が国に対して宣戦を布告してきた。アズラート軍はおよそ5万。目標はフロンティーネであった」
「5万の兵が攻めてきただと」
「フロンティーネは大丈夫だったのか」
「ミルランディア様がここにいられるということは大丈夫だったのだろう」
「アズラートの5万の兵は宣戦の布告と同時に戦闘を開始してきた。だが皆の者、安心してほしい。ミルランディア姫の強力な魔法によってフロンティーネは守られ、5万のアズラート軍は既に全滅している」
「なんと!」
「もうすでに戦闘は終わっている。調べたところ、アズラートはこの度の戦争のための準備に1年以上をかけたそうだ。この数日で更なる戦闘にはならないと思われる」
「それは一安心ですな」
「そこでだ。この後我々はアズラート帝国に対して無条件降伏を勧告しに行く。行くのは私とミルランディア。ヴォラント宰相も来てくれるか」
「承知しました」
「それとナジャフ軍務卿。お願いする」
「承知しました」
「護衛はミルランディアがいるのだからいなくても問題ないのだが、そういう訳にもいかないので、近衛より5名選抜しておいてくれ。ミルランディアの所の親衛隊とフェアリー隊を出す」
「私たちが4人で護衛が15人だと多過ぎませんか。近衛の5名と親衛隊だけで十分だと思います」
「ならそうしよう。今回は協議などではない。勧告だ。無条件降伏を受け入れるか、帝都が塵と化すかの2択だ。アズラートの言い分を聞くつもりはない。こちらの要求事項として何かあるか、ミルランディア」
「そうですね、まずは軍の解体ですね。アズラートの全軍を解体します。再軍備についても厳しく取り締まります。二度と戦争を起こさせないためです。それから今回の戦争に派兵などで協力した貴族の粛清です。当主だけでなく一族全てを対象にします。あと貴族制度の廃止を求めます。そしてアズラートをヘンネルベリが統治をするという事。これを要求します」
「アズラートを我が国が統治するのか。他の国から横槍が入らぬか」
「このまま放置すればアズラートは他に争いを抱えている周りの国に食い荒らされます。そうなれば混乱が収まることなどなく、この先も戦乱が続くでしょう。アズラートを食いつぶし、力を持った国、例えばサウ・スファルあたりが、ヘンネルベリに牙を剥くことはないと言い切れますか」
「「「……………」」」
「なのでまずアズラートの帝政を終わらせます。皇帝を廃し貴族も廃します。国政を民に委ねるのです。民の中から代表を選び、その人たちで政を行います。ただそうなると周辺国からの攻撃には耐えられません。そこで私たちが新生アズラートを保護する名目で進駐します」
「それを他の国は認めるのか」
「他の国が認めるかどうかは関係ありません。アズラートはヘンネルベリに負けたのです。他の国の言い分については、元の国境線までは戻します。それ以上は新生アズラートに対して、すなわちアズラートを守るべく進駐している私たちに対しての攻撃とみなすと言います。それでも突っかかっては来るでしょう。それらについては追い返す程度の反撃を行います。ただし深追いもしませんし、侵攻もしません」
「統治と言うが、ミルランディアはアズラートを属国にするのか」
「属国とは違いますね。一応一つの国になってもらいます。そういう意味では私たちヘンネルベリに都合のいい友好国ですね。ただ、国としての体をなすのにある程度の時間はかかるでしょうから、その間は私たちが助けてあげるという訳です」
「皇帝陛下はどうするつもりだ」
「ここが悩ましいんです。皇帝と言う地位は廃します。だからと言って粛清をしてしまうと新生アズラートをまとめ上げられる人がいなくなるんですよ。なので私たちが統治をしやすくするためにも、使えるコマはとっておこうかと」
「1つお聞きして構いませんか、ミルランディア姫。今回はなぜそこまで強硬なのでしょうか」
「今回のアズラートとの戦いで、向こうは宣戦を布告する前に私を暗殺しようとしました。事前にその情報を掴んでいましたから、囮を使うことで事なきを得ましたが、現在のアズラートと言う国はそういう国だと言わざるを得ないのです。数年前に両国間の争いを終わりにして、交流を活発にしようとした矢先にです。アズラートと国境を構える領主としても現在のアズラートは看過できません。宣戦布告を受け、私たちは勝ちました。戦勝国としてアズラートを変え、この地域に平和をもたらしたい。そういう思いがあるからです」
「だがそれではヘンネルベリに利がない」
「そうだ。我々は戦勝国なのだ。領土の割譲を求めるべきだ。この戦いの恩賞はどうするのだ」
「恩賞と言いましてもね。まず実際に戦ったのは私の所、えーと、ミルランディア領軍と言っておきましょうか、そこの領兵だけです。確かに北部方面軍は王都の警備に、南部と西部方面軍は東部方面軍に合流はしましたが、未だ待機状態ですし、軍としては仕事の一環ですよね。特に優れた戦果がない以上、恩賞の対象にはならないんじゃないですか。特に領地を貰えるようなことには。そういう意味ではグラハム辺境伯の所にはミルランディア領第2の町のポルティアの警備にあたってもらいましたけど、戦闘は起きませんでした。なのでこちらも特にはないですね。私は辞退しますから。で、どなたに恩賞を与えるのですか?」
「……そ、それは……」
「アズラート軍を打ち破って王国に被害を出さずに済んだのは、ミルランディア領の領兵です。私は彼らに特別の手当を出しますが、彼らにとってはそれが仕事なのですよ。それにどこを貰うのかは知りませんが、開拓には莫大なお金と長い時間がかかります。誰がそんなところを治めるのですか?」
「そこはミルランディア様が……「嫌です!」」
「私は手伝いもしませんよ。どうしてもやりたいというのなら止めませんが、自分の足元を見てからにしませんと」
「………」
「アズラートがサウ・スファルなどに侵攻して奪った土地は返しますが、本来の国境は維持します。そこに新しいアズラートを作ります。作らせます。私たちの力で」
「それでヘンネルベリにはどんな利があるのだ」
「軍を持たず、国の警備をヘンネルベリが行うのですから、私たちとしては対アズラートに気をもむことはなくなります。防衛に対して見合った額は支払ってもらいますけどね。さらに交易についてですが、アズラートへの関税は安く、アズラートからの関税は高くします。つまりアズラートをヘンネルベリに依存させるようにするのです。食糧にしても工芸品にしてもです。アズラートにヘンネルベリの物が安く大量に出回り、民がそれを求めるようになればますますヘンネルベリの物が売れます。私たちの国が儲かるのですよ。王国は儲かっている領主から税金を集めればいいのですから、お金は自然と集まります。それでいて負担となる領地経営はしないで済むのです。何か問題でも?」
「………」
「財務卿、それでも割譲を求めますか」
「……いや、構わん」
「内務卿、他にいい案があれば教えて下さい」
「……特には」
「いいだろう。ミルランディアの案で行くことにする。皆の者、よいな」
「「「「「はっ!」」」」」
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