第117話 開戦(パート2)(side ヘンネルベリ)

本日2回目の投稿です。

前回をお読みになっていない方は、お読みになってからの方が楽しめるかと・・・


―――――――――――――――


反撃の時間です。2つの塔に置かれた2門の魔導大砲は、親衛隊とフェアリー隊が既に準備を整えています。

彼らが切り札をいつ出してくるのか、出してこないのか。こちらが押し始めれば切らざるを得ないでしょう。

「撃ち方始め!」

『どっごーん!』

『どっごーん!』


アズラートとヘンネルベリの間には天然の堀、メラル川があります。アズラート軍がフロンティーネを攻めるには、メラル川を越え、壁を越えなければなりません。魔導大砲はメラル川を越えてくる兵士を攻撃することなど容易いことで、それ故にバリスタ群は魔導大砲を狙っています。

こちらの狙いもバリスタ群です。あれを潰せば、後方からの援護を受けられなくなる前線の騎兵たちは崩れるに違いありません。

『どっごーん!』

『どっごーん!』


軍の司令官が出てきました。なんて言ったっけ。ザグウェルとか言ってたな。

「ヘンネルベリ兵よ、これを見ろ!」

ここで切り札の登場ですか。思ったより早いですねぇ。

「ルイスおじさん、ショーの始まりです」

「うむ、ゆっくり見させてもらうぞ」


さて、残骸の回収をはじめますか。まぁ見せ場ですから、少し派手な演出といきましょうか。

さすがにこの状況では兵士の動揺が見られます。そうですよねぇ、一向に姿を見せない私が、串刺しになって出てくれば。

「お前たちはこれが誰だかわかるな。ミルランディアだ。お前たちの支えであるミルランディアは、こうして我が帝国により討ち取られているのだ。そうと分かれば……、ん?」

光の魔法で残骸の周りをキラキラとさせます。両軍の注目を集めてますね。光りを強くしたところで残骸を消し去ります。光りも消しました。

「伯父様、ちょっと行ってきます」

私は城壁のはるか上空に空間移動ジャンプして、亜空間シールドを展開します。飛行の魔法でゆっくりと降りてきます。


「ザ、ザグウェル大将、あれはっ!」

驚いていますね。それはそうでしょう。殺したはずの私の遺体が消え去り、戦場に空中から人が下りてくる。こんなのお伽噺の世界です。

「女神さまか?!いや、そんなものは……」

私が女神?それはちょっと言い過ぎですね。

「ザグウェル大将、ミルランディアです」

「ミルランディアだと?」

「あ奴を撃ち落とせ!」

無数の矢が飛んできましたが、私の亜空間シールドはそんなものでは打ち破れませんよ。


「私はミルランディア。王国の民よ、そして勇敢なる兵士たちよ。心配をかけた。だが私は殺されてなどいないし、ましてや死んでなどいない。今こそ我らヘンネルベリの力を集め、侵略者たるアズラートを討つ時だ。一歩たりともメラル川を越えさせるな」

「「「「「おおおぉぉぉぉぉーーーーー!!」」」」」

沈みきった兵士たちの士気が一気に上がります。一方アズラート軍は動揺が治まりません。

騎兵の突撃が始まりました。向こうとしても引くに引けなくなったのでしょうね。


さて、この機に乗じてあちらで揃えた兵站を頂くとしましょうか。マップとマルチさん経由で亜空間収納にポイポイなんだけど、その前に兵站部隊に脅しをかけます。

4機作った空飛ぶ乗り物、【飛翔具】とでも呼びましょうか、それで攻撃を仕掛けます。食糧や武器のつまった天幕に当てずに、その周辺に魔法を放ちます。

『ダーーーンッ!!』

兵站部隊や護衛部隊が慌てて出てきます。必死で弓で応戦していますが、いかんせん射程外ですからねぇ。当たるはずがありません。

その隙に、食料と水瓶、武器を全部頂きます。ごちそうさまです。代わりによく燃えるごみの入った袋を置いてきました。

『ダーーーンッ!!』

『ダーーーンッ!!』

もう貰うものがないので、天幕ごと燃やしちゃいます。

流石に動揺が隠せないようです。5万人分の食糧が失われたのですから、軍の司令官としては次の決断をしなければならないですからね。


動きがありました。兵が引き始めました。ここで撤退ですか。今回は逃がしませんけど。

上空から飛翔具で撤退する兵の行く手を阻みます。逃げ場を失った兵隊たちは少しずつ集められていきます。

そろそろ最終段階ですね。


「伯父様、今回の戦い、あそこにいるアズラート軍を全滅させます」

「そこまでする必要があるのか?」

「一般兵を戻せば、また同じことを繰り返します。完全に負けを認めさせて、帝国自体を解体します。そのための犠牲と割り切りました」

「あとは俺たちの仕事という訳か」

「この戦いを終わらせるために、私はこれから敵陣に乗り込みます。さっきの結界を張りますから大丈夫です」

「何をするのか?」

「さっきの司令官や将校が集まる天幕は分かっていますので、彼らは捕虜にします。残りの兵は魔法で一気に決着を付けます」

「お前はそれでいいのか」

「いい訳はありませんが……。ヘンネルベリが侵略をするのなら手は貸しませんが、これは違います。終わりにするためにも仕方ない事と。味方に損害を出さないためには、私がやるしかありません」

「わかった」


アズラート軍の司令部の天幕に空間転送で移動します。

「ミ、ミルランディア」

「ずいぶんなことをしてくれましたね。私を殺そうとした上に、一方的な侵略行為。戦争なんて好きじゃないけど、お隣同士、少しはいい関係になれるのかなって思ってたところへのこの裏切り。あなた達や兵隊さんたちには恨みも何もありませんが、私としてもやられるだけという訳にはいきません。この争いを一刻も早く終わらせるためにも、ここにいる帝国軍を全滅させていただきます」

社交辞令的な挨拶などありません。いきなり本題に突入です。即効性の弛緩毒と魔力と反応して魔法が使えなくなる魔力毒を撒きます。

私?毒使いの私が作った毒ですよ。毒を完全に無効化できる私に、私の作った毒が効くとでもお思い?

「何をふざけたことを言っている。小娘が単身で乗り込んできたことは誉めてやろう。だがな、貴様は敵陣の真っただ中にいるのだ。貴様の命などこの手に……」

「まさかと思いますが、私が何の対策もしないでここに来たとでも思ってるの?私の周りには強固な結界亜空間シールドが張られているし、それにあなたたちは気づいていないのかしら。意識はあるし会話もできるけど、もう体はほとんど動かせないはずよ」

「……ん?……うぐっ!」

「おわかりかしら。あなたたちは捕虜になっていただきます。これから起こるアズラート軍全滅の目撃者となって、帝都で報告する役目を持った」

そう、この人たちを残すのは温情でもなんでもありません。この後皇帝陛下に無条件降伏を突き付ける際の証言者になってもらうためです。


「そろそろ参りましょうか。歴史に残るアズラート軍全滅の舞台を見る特等席へ」

亜空間を使った浮遊の魔法をかけます。天幕は邪魔だったから風魔法で吹き飛ばしました。

「俺たちに何をした!」

「安心してください。あなたたちを危険の及ばないところへご案内するだけですから。よく見えるでしょう、アズラート軍の全容が」

かなり高いところまで上がったのかな。混乱するアズラート兵がよく見えます。私たちがいる少し下を飛翔具が飛び回り、兵の行く手を阻んでいます。

「せめてもの情けです。苦しまずに一発で終わりにしましょう」

なぶり殺しにするのは好きじゃありません。盗賊は別よ。あいつら人じゃないから。人に危害を加えるけだものは、殲滅させる必要があります。そのための情報を得るためには少しぐらい手荒な真似も必要なんですよ。人にはできないけど、けだものならOK。

「ちょっと待ってくれ。この軍の責任者は俺だ。俺が責任を取るから兵たちの命を奪うのは……」

立派な言い草ですけど、あなたの命を助けるなんてことありませんから。戦争を引き起こした現場の責任者として死罪は決まっているようなもんです。兵隊は戦争に出た時点で死んだも同然です。生きて帰れればラッキーなのですから。

「あなた方は私を殺してヘンネルベリを蹂躙するつもりだったのでしょう。戦争に関係のない多くの民の命を奪いながら。それに戦争を仕掛けた時点でこうなることを想像できなかったのですか。私は以前、帝国特務隊と争ったことがあります。全部隊400名とです。その時は全て捕虜にしました。幹部や隊長はその後処分されましたが、大部分の兵隊は返還されました。でもね、返された捕虜の中に、今回私を襲った人がいたのですよ。あそこにいる兵たちは二度とこのようなことを起こさないためにあなたたちが払うコストなのです。それに、あなた達は私たちが許しを乞うた時に、何もしませんか?」

「……………」

こいつらも盗賊もみんな同じよね。作戦が成功することしか考えていない。それについては私も同じなんだけど。失敗した時にどうなるかなんて、全然考えないのよね。更に自分がやろうとしていたことを逆にやられそうになると、決まって命乞いをする。自分がかわいいだけなのでしょうけど。命乞いをするぐらいなら素直に散れっていうんだ。


選んだ魔法は【メテオ・フォール】。流星を落とす魔法です。遥か上空から落とされた流星が衝突するとすごく大きな衝撃が起き、周辺が破壊されます。これで敵兵を殲滅します。でも衝撃が大きすぎて、今アズラート兵が集まっているところに落とすと、フロンティーネにも影響が出ちゃうのよね。なのでやることは一つ、亜空間シールドで囲います。

「【亜空間シールド】展開!」

シールドを展開します。見えないようにすることもできるのですが、壁を見せるためにあえて発光させました。

「終わりにします。【メテオ・フォール】!」

上空に流星を配置します。全部で20個。ザグウェル大将たちは青くなっています。

私はサッと腕を振り下ろしました。それに合わせるかのように流星が真っ赤に燃えながら、アズラート兵たちに向かって落ちて行きます。

『どっぐぅわぁぁぁぁぁんんんんんーーーーー!!!!!』

この戦いの終焉です。


「悪魔か……」

「善良かどうかは分かりませんが、私はいたって普通の人間です。そもそも戦争を仕掛けた人が、仕掛けられた人を悪魔だなんて、おかしいとは思わないのですか」

全く失礼しちゃいます。こんなこと好きでやる訳ないじゃないですか。ただ、戦場は地獄と化しましたけど。


誓って言います。私は悪魔でもなければ、地獄の使者でもありません。まして魔王などでも。


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