第116話 開戦(パート2)(side アズラート)
本日1回目の投稿です。
本日も2話投稿します。次話は3時ごろの予定です。
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『どっごーん!』
『どっごーん!』
奴ら、ずいぶんとやってくれるじゃねぇか。まさか俺たちに損害が出るとはな。だがあの兵器もじきに俺達のものだ。
『どっごーん!』
『どっごーん!』
煩い奴らめ。仕方ない、あれを出して大人しくさせるか。
「ヘンネルベリ兵よ、これを見ろ!」
無残に胸を突かれたミルランディアの遺体を掲げた。
「お前たちはこれが誰だかわかるな。ミルランディアだ。お前たちの支えであるミルランディアは、こうして我が帝国により討ち取られているのだ。そうと分かれば……、ん?」
ミルランディアの遺体がキラキラと光り出した。何が起きている。こんなことがあり得るのか。
光の収まった槍の後に、ミルランディアの遺体はなかった。
「ザ、ザグウェル大将、あれはっ!」
上空から女性がゆっくりと降りてくる。
「女神さまか?!いや、そんなものは……」
「ザグウェル大将、ミルランディアです」
「ミルランディアだと?」
よく見ると空から降りてきた女性はミルランディア・ヘンネルベリだった。
「あ奴を撃ち落とせ!」
無数の矢が放たれたが、
「私はミルランディア。王国の民よ、そして勇敢なる兵士たちよ。心配をかけた。だが私は殺されてなどいないし、ましてや死んでなどいない。今こそ我らヘンネルベリの力を集め、侵略者たるアズラートを討つ時だ。一歩たりともメラル川を越えさせるな」
「「「「「おおおぉぉぉぉぉーーーーー!!」」」」」
何が起きたんだ。確かにミルランディアは死んでいた。が、何故だ。生き返っただと。回復の魔法はあっても、死者を生き返らせる魔法など聞いたことがないぞ。
不味いぞ。ヘンネルベリ軍に勢いが出てきてしまった。士気に差が出てきている。撤退するか?いやダメだ。今は退けない。少しでも向こうの戦力を削がなければ。
『ダーーーンッ!!』
「なんだ、どうした」
「分かりません。後方で爆発音が」
「後方?兵站部隊か。確認しろ」
何が起きてるのだ。あの砲でそこまで撃ったのか。そんなことはない。塔についてるあの2つはバリスタ部隊とやり合ってる真っ最中だからな。
「報告します。兵站部隊に空からの攻撃があったようです」
「空から?ワイバーンでも使ったのか」
「分かりませんが、いきなりの空からの攻撃で、混乱しています」
『ダーーーンッ!!』
「またか。食糧と武器を守るのだ」
「天幕の周りの攻撃が激しく、近づくことが出来ません。いつ天幕にあたるか分かりません」
「兵站の護衛部隊は何をしているのだ。空からの攻撃なら、さっさと撃ち落とせっ」
「恐れ入りますが、兵站の護衛部隊に魔法師はいません。弓兵で応戦していますが、元々数が少なく……」
『ダーーーンッ!!』
『ダーーーンッ!!』
「申し上げます。補給部隊の天幕に火が……」
「すぐに消火しろ。食糧を失う訳にはいかぬのだ。急げっ!」
「か、壊滅だと……」
兵士5万人分を支える兵站が失われた。
「都に補給の依頼を大至急出せ」
持つのか。5万人分の食糧と水、そして武器。早馬で飛ばしても都までは2日、食料を集めるのにも数日はかかるだろう。更にここまで運ぶのに4日。10日か、厳しいな。やむを得ない。作戦は失敗だ。
「全軍に告ぐ。本作戦は現時点を以って失敗となった。これより撤退戦に入る。全軍、速やかに撤退せよ」
兵に動揺が起こるが、致し方ない。無益な損害を出すわけにはいかない。
「うわぁぁぁぁぁーーーーー!!」
「どうした!」
「ダメです。空からの攻撃で、撤退できません」
「空から?後方の部隊を襲った奴か。あ、あれが……」
上空を4つの何かが飛んでいた。時折魔法を放ちながら……
「あれがヘンネルベリの秘密兵器なのか」
司令部の天幕に一人の女性が現れた。
「ミ、ミルランディア」
「ずいぶんなことをしてくれましたね。私を殺そうとした上に、一方的な侵略行為。戦争なんて好きじゃないけど、お隣同士、少しはいい関係になれるのかなって思ってたところへのこの裏切り。あなた達や兵隊さんたちには恨みも何もありませんが、私としてもやられるだけという訳にはいきません。この争いを一刻も早く終わらせるためにも、ここにいる帝国軍を全滅させていただきます」
「何をふざけたことを言っている。小娘が単身で乗り込んできたことは誉めてやろう。だがな、貴様は敵陣の真っただ中にいるのだ。貴様の命などこの手に……」
「まさかと思いますが、私が何の対策もしないでここに来たとでも思ってるの?私の周りには
「……ん?……うぐっ!」
「おわかりかしら。あなたたちは捕虜になっていただきます。これから起こるアズラート軍全滅の目撃者となって、帝都で報告する役目を持った」
ここにいるのは部隊を率いる将校たちだけだ。外の見張りはどうした?いや、今更だな。この状況で数名の兵が入ってきたところで、何の役にも立ちまい。
相変わらず外はうるさい。時折起こる爆発音と、兵士たちの悲鳴や叫び声。戦場は地獄だとよく言ったが、それを体現するとはな。
「そろそろ参りましょうか。歴史に残るアズラート軍全滅の舞台を見る特等席へ」
天幕が吹き飛び、俺たちの体が宙に浮いているではないか。
「俺たちに何をした!」
「安心してください。あなたたちを危険の及ばないところへご案内するだけですから。よく見えるでしょう、アズラート軍の全容が」
だいぶ高くに上がったのだろうか、眼下には混乱に陥った軍が見える。空を飛んでいるものが逃げ出そうとする兵の行く手を阻むように魔法を放っている。後方、兵站の部隊の天幕の火は消えてはいたが、既にそこには何も残ってはいなかった。
「せめてもの情けです。苦しまずに一発で終わりにしましょう」
「ちょっと待ってくれ。この軍の責任者は俺だ。俺が責任を取るから兵たちの命を奪うのは……」
「あなた方は私を殺してヘンネルベリを蹂躙するつもりだったのでしょう。戦争に関係のない多くの民の命を奪いながら。それに戦争を仕掛けた時点でこうなることを想像できなかったのですか。私は以前、帝国特務隊と争ったことがあります。全部隊400名とです。その時は全て捕虜にしました。幹部や隊長はその後処分されましたが、大部分の兵隊は返還されました。でもね、返された捕虜の中に、今回私を襲った人がいたのですよ。あそこにいる兵たちは二度とこのようなことを起こさないためにあなたたちが払うコストなのです。それに、あなた達は私たちが許しを乞うた時に、何もしませんか?」
「……………」
「【亜空間シールド】展開!」
何だ。兵たちの周りに光る壁が出来たぞ。
「終わりにします。【メテオ・フォール】!」
はるか上空に大きな石、いや大きな岩の塊が出現した。1つではない。10個ぐらいはあるのか。
ミルランディアがサッと腕を振り下ろした。合わせるように上空の岩が兵たちに向かって落ちて行った。真っ赤に燃えながら。
『どっぐぅわぁぁぁぁぁんんんんんーーーーー!!!!!』
大爆発が起きた。あれでは中の者は……
「悪魔か……」
「善良かどうかは分かりませんが、私はいたって普通の人間です。そもそも戦争を仕掛けた人が、仕掛けられた人を悪魔だなんて、おかしいとは思わないのですか」
開戦のその日、5万の兵で攻め込んだアズラート軍は全滅した。数名の将校を残して。
「俺はまだ生き恥を晒さねばならんのか……」
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