第115話 開戦(パート1)(side ヘンネルベリ)

本日2回目の投稿です。

前回をお読みになっていない方は、お読みになってからの方が楽しめるかと・・・


―――――――――――――――


『やはり、避けられないのね』


私の情報収集力は他の人とは違う。どんなに離れたところ、危険なところでも見聞きできる。たとえそれが敵軍の真っただ中、本陣であろうとも。


「ミルランディアはこちらの動きに気づいているのか」

「気づいているでしょう。しかし動きがない所を見ると、深刻さについての理解はまだかと」

「こちらの準備は」

「後方の兵站部隊がまだですが、数日で。暗殺部隊が動いているうちには揃うかと」

「そうか。なら気取られる前に作戦を開始するとしよう。暗殺の部隊はどうなっている」

「すでに商人に扮して街に入っています」

「伝令を出せ。明後日の夜明けを持って作戦を開始する」

「承知しました」


『明後日かぁ』

向こうが私の暗殺作戦なら、こっちは影武者作戦です。不意を突かれて殺されたふりをする、人形でやると分かってはいてもいやな作戦だな。


「ルイスおじさん、帝国は明後日作戦を開始するようです」

『そうか。で、どうするのだ』

「明後日は親衛隊と共に行動します。向こうの作戦に掛かったふりをするのは翌日にしようと思います」

『少し焦らすのだな』

「そうですね。そうした方がいい気がしますので。ところで伯父様はこっちに来ますか?」

『危険でないのなら見ておきたいところではあるが』

「なら明後日の午後、迎えに行きますよ」


魔導大砲の準備は整っている。亜空間シールドはフロンティーネを囲っている。

「ウィン、チョット手伝ってね。これから一芝居打つんだけど、ウィンには少し危険な役回りをお願いしたいの。これから私の影武者、と言っても人形なんだけど、それを乗せて森に向かって欲しいの。森に行くと間違いなく帝国の兵隊に襲われるから、最期の力を振り絞ってウィンを放つから、逃げてほしいの。アナタならきっとできると思うから」

「ミーアは死なない?」

「私は大丈夫よ。ずっとここにいるから。あくまで人形を使ってやられたふりをするだけ。でも最近外に行くときはいつも貴女と一緒でしょ。急に馬を変えて、変に思われると困るの。ホントは馬も人形にしたいんだけど」

「分かったわ。またここに戻ってくればいいのね」

「うん。ヨロシクね」


さて、作戦の開始です。

「森の様子を見て来るから」

「気を付けて行ってらっしゃい」

ウィンは大通りを抜けて森へ続く門へ向かいます。

『付いてきてるね。6人かぁ』

「ご苦労さま」

「ミルランディア様、今日も森の調査ですか」

「えぇそうよ」

「気を付けて下さいね。魔物がいますから」

「ありがとう。気を付けるわ」

ウィンを森の中に進めます。襲撃者が動き始めました。森の中で見えなくなったところを狙うんでしょう。

では、そろそろ始めましょうか。この中のリーダーっぽい人の方へ向かいます。


『ガサガサ』

「どぅりゃぁ」

男が飛び出してきます。槍の穂先の狙いは私の胸です。一突きで私の胸を貫きました。

「に、逃げて……」

ウィンを放します。約束通りに森の中へ消えていきました。血を流して倒れるように人形を動かします。


襲撃者は森の中へ消えて行ったウィンを目で追いかけていました。真っ白で綺麗な馬ですから、捕まえられたら捕まえたかったのでしょう。惜しいことをしたという表情ではありましたが、その辺りはさすがに訓練された特殊部隊の兵隊です。人形遺体残骸を手早く回収します。


暫くは待ちですね。すぐに私を殺したなどと言いふらすとは思えないし。森を抜けて残骸を持ち帰るのに2時間ぐらいかな。まぁその前に何らかの手段で伝えるんだろうけど。


いよいよ本隊のお出ましです。さすがに5万の兵は圧巻ですね。前に出てきたあの人は、今回の作戦の最高責任者ですね。

「ヘンネルベリ王国に告ぐ。我々アズラート帝国は、デュアルフ・アズウェル皇帝陛下の名において、貴国に対し、宣戦を布告する。

バリスタ部隊、城壁を狙え。撃てぃ!!」

宣戦布告と共に攻撃命令ですか。少し慌て過ぎと違いますか。


バリスタでの攻撃ですか。普通の城なら効果的なのでしょうけど、ここでは分が悪いですよ。見えないように亜空間シールドを展開していますからねぇ。あんなものに抜かれるとは思いませんけど。


バリスタの攻撃が止みました。再び彼の登場です。

「ヘンネルベリ軍および民に告ぐ。我はアズラート帝国軍大将、ザグウェルである。門を開け降伏せよ。抵抗しなければ命だけは助ける。だが、抵抗するものに容赦はない。今すぐに門を開けよ」

「断る!アズラートの行為は侵略であり、それを認める訳にはいかない」

突然の宣戦布告からの先制攻撃。本気だというところを見せてからの降伏勧告ですか。悪くはないのですけど、こちらは何も損害が出ていませんよ。


「お前たちの領主、ミルランディア・ヘンネルベリ公爵王女は既にこの世にはいない。我らの手によって討ち取られている。其方らには勝ち目などない。素直に降伏をして、門を開けろ」

ここでカードを切ってきましたか。まだ切り札人形の残骸ではないようですけど。でも、心理戦には有効ですね。

「嘘だろ。ミルランディア様が死んだなんて。どうせ帝国のでっち上げだ。帝国に対して反撃を始めるぞ」

「「「「「おぉ!!」」」」」

うちの兵士たちはこれぐらいではへこたれませんね、さすがです。でもね、この戦いであんな連中を殺すなどと言う無駄なことはしてほしくはありません。万が一ヘンネルベリに侵入する兵がいたならその時はお願いしますけど、今はまだ待っててくださいね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る