第114話 開戦(パート1)(side アズラート)

本日1回目の投稿です。

本日は2話投稿します。次話は3時ごろの予定です。


――――――――――――――――


「ミルランディアはこちらの動きに気づいているのか」

「気づいているでしょう。しかし動きがない所を見ると、深刻さについての理解はまだかと」

「こちらの準備は」

「後方の兵站部隊がまだですが、数日で。暗殺部隊が動いているうちには揃うかと」

「そうか。なら気取られる前に作戦を開始するとしよう。暗殺の部隊はどうなっている」

「すでに商人に扮して街に入っています」

「伝令を出せ。明後日の夜明けを持って作戦を開始する」

「承知しました」


国境の街、フロンティーネと呼んでいたか、高い壁に囲まれた辺境の街ではあるが、その実恐ろしく近代化された街である。

『出来れば無傷で頂きたいものだが……』

伝令は飛ばした。この作戦の成否はタイミングだけだ。奴が、ミルランディアが一人になったその時……



街の様子は普段と変わっていないようだ。我々の軍が、少し離れたところではあるものの大部隊を展開しているというのに、兵が増える兆候もない。もうすぐ俺たちの部隊で、やつを潰す。訓練も重ねた。いくら妙な魔法を使うと言っても、心臓を一突きしてしまえば終わる。

「準備はいいな」

「はい。問題ありません」

「奴はどこにいるか分かってるか」

「領主邸にいるようです」

「いよいよ明日だ。気負うなよ」


長い夜だった。緊張で眠れてはいないが、眠気はない。

奴が出てきた。だがダメだ。親衛隊と呼ばれている護衛が付いている。あいつらは化けもんだからな。何年か前、初めてアズラートへ来た奴が連れていたのが、あの親衛隊と、女だけの部隊、フェアリー隊だけだった。わずか10名の護衛だけで盗賊をはじめ、私兵や軍の特殊部隊を相手に無傷で来たのだ。奴らが護衛についている今襲撃に出るのは得策ではない。

昼過ぎ、早い時間ではあったが、やつは領主邸に戻ってしまった。今日の決行はない。


あくる日、人々が動き始めたころ、やつが動いた。どうやら森の調査に行くようだ。流石は元冒険者。多少腕に自信があるのだろうか、森の中に入るのに護衛は連れていない。こっちとしては願ったりだ。

奴の馬が街中を抜けていく。ここで騒ぎを起こすわけにはいかない。警戒されてしまっては手が出せなくなる。失敗は許されないのだ。

チャンスをうかがう。奴が森の中に入って、人目がなくなった時だ。

門から外に出ると、すぐに森だ。魔物の住む森だけあって、人の気配はない。

「やるぞ」

一斉に散開した。誰でもいい、やつの心臓を一突きすればいいだけだ。

奴は俺の方にやって来た。槍を持つ手が汗ばむ。一発で仕留めるなら、剣より槍の方が向いている。

もう少しで俺の射程だ。入ってさえくれば一気に方を付けてやる。

しかし呑気なもんだぜ。殺されるとも知らずに、一人で森の中に来るなんて。

奴が俺の射程に入った。失敗は許されない。タイミングを計って、俺は飛び出した。

「どぅりゃぁ」

俺の槍が奴の胸を貫いた。

「に、逃げて……」

奴は最後に馬を開放して、動かなくなった。成功だ。あの白馬は惜しいことをしたが、今回の目的はこいつを潰す事。俺たちの任務は完了した。後はこれを持ち帰れば俺たちの作戦は終了だ。仲間と合流して引き上げだ。



「申し上げます。暗殺部隊より知らせです。成功とのことです」

「そうか。奴らが戻るのを待って、全軍進撃だ」

「準備にかかります」


暗殺部隊はミルランディアの遺体を持って司令部に戻った。

「作戦は成功しました。ご確認ください。これがミルランディアの遺体です」

「よくやった。お前たちは休んでいろ。皆の者、ヘンネルベリを攻め落とすぞ」

「「「「「おぉ!!」」」」」

あの街にいる人たちはミルランディアが死んだことなど知らないのだろう。すぐに分かることだ、俺たちが教えてやるからな。

5万の部隊が進軍を開始した。


宣戦の布告もなしに攻め入ったら、勝っても何言われるか分からないからな。これは、俺たちのための保険だ。

「ヘンネルベリ王国に告ぐ。我々アズラート帝国は、デュアルフ・アズウェル皇帝陛下の名において、貴国に対し、宣戦を布告する。

バリスタ部隊、城壁を狙え。撃てぃ!!」

放たれた矢が見えない壁に阻まれた。

「結界か。構わん、撃ち続けろ」

バリスタから放たれた大きな矢が雨のように城壁に降り注いだ。

「撃ち方止め!」

それでは降伏勧告でもしましょうか。

「ヘンネルベリ軍および民に告ぐ。我はアズラート帝国軍大将、ザグウェルである。門を開け降伏せよ。抵抗しなければ命だけは助ける。だが、抵抗するものに容赦はない。今すぐに門を開けよ」

「断る!アズラートの行為は侵略であり、それを認める訳にはいかない」

「お前たちの領主、ミルランディア・ヘンネルベリ公爵王女は既にこの世にはいない。我らの手によって討ち取られている。其方らには勝ち目などない。素直に降伏をして、門を開けろ」

街中の動揺が手に取るようにわかる。ミルランディアの死、やつらにとって大きな支えを失ったのだ。当然と言えば当然である。

「嘘だろ。ミルランディア様が死んだなんて。どうせ帝国のでっち上げだ。帝国に対して反撃を始めるぞ」

「「「「「おぉ!!」」」」」

バカな奴らだ。まぁいい、相手ぐらいしてやるか。


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