第113話 開戦前

『本当に来るのか。でも確かに怪しい人が増えたのは間違いない。例の雑貨屋も怪しいと思えばいくらでも思える。覚悟しないといけないのだろうか』


王宮で話をした後、私はできるだけ平静を装っています。『気づいてないよ~』感を出すためにも。少しだけ変えたのは帝国と出入りする人のチェックを厳しくしたこと。厳しくしたというよりは、『ちゃんとやってね』ってだけなんだけど。


私的に今主にやっているのは素材集め。その中でも特に鉱物ね。鉄とか銅とか。ミスリルやオリハルコン、金や銀も結構集まっている。その中で最近、鉄よりも軽いけど丈夫で、ミスリルやオリハルコンよりたくさん採れる金属が見つかったの。加工がちょっと大変なんだけど、私の魔力なら全然問題なし。


そんなのを集めて何をしてるかって?狙われてるかもしれないって思うとあまりフラフラもできないしね。工房に入り浸って変に勘繰られても困るから、ディメンジョンホームの中で工作中です。

イメージはウィン用に作った馬車。実はあの馬車、ウィンがいなくても飛べるのよ。ただ馬の付いていない馬車が飛んでたらカッコ悪いじゃない。だからウィンに手伝ってもらってるだけなの。だからウィンにはほとんど負担掛かってないのよ。

そう、つまり空飛ぶ乗り物を造ろうって訳。基本的には馬車と一緒。浮遊の魔法陣を組み込んだ魔石と風の魔法陣を組み込んだ魔石を使うの。でも今度のはある程度速さも出すから、馬車の時みたいに箱型にはしないの。鳥やワイバーンをイメージした感じかな。翼を付けて、スタイリッシュに。4人ぐらい乗れればいいかなって。実際問題私一人用でもいいんだけど、話し相手もいないのは寂しいからね。それに人が乗れるスペースを作っておくっていう事は、少しぐらいなら荷物も運べるって事でしょ。


実際に作り始めて分かったこと。ワイバーンをイメージしたんだけど、あの長い首としっぽは邪魔だって事。でも尻尾はバランスを取ってるみたいだから、しっぽに変わる仕組みは考えないと。それから首、あんなに長いと強度の面で心配。だから思い切って短くしちゃいました。とすると、翼がやたらと大きいのよ。魔石が埋め込めて、飛ぶときにバランスが取れればいいんだから、何回か作り変えてるうちに、かなり小さく、でもそれなりに強く、扱いやすそうなものになりました。

クルマで培った技術をふんだんに使い、出来上がったものはまるで鷹のようでした。

試験飛行?そりゃいっぱいやりましたよ、竜の里でね。だってヘンネルベリじゃできないでしょ、どこで誰が見てるかわかんないんだから。その点竜の里は知られてないからね。




帝国軍がついに動き始めました。3万?もっといますね。5万人規模の大部隊です。


「陛下、帝国軍が動き始めました。5万人からの大部隊です」

「そうか、ついに来たか。しかし5万とは多いな」

「こちらの軍の移動はどうしますか」

「東部方面軍には南部と西部から増援を行う。王都の防衛は北部を充てる。辺境軍についてはグラハム辺境伯の領兵が支援にあたることになっている。3日後に一斉に移動を行いたい。頼めるか」

「分かりました。書類だけお願いします」

「いよいよだな。ミーア、絶対に死ぬんじゃないぞ」

「そのつもりです」


急ぎフロンティーネに戻って、あの空飛ぶ乗り物を造りました。2人乗りのを4機です。2人乗りと言うのは操縦する人ともう1人。ここには魔法使いを乗せる予定です。そんな人いないじゃないかって?いやですねぇ。私はドールマスターですよ。操縦者も魔法使いもみんな私が操るんだから、飛行訓練もいらないし、魔法も撃ち放題です。攻めてきたらなんだけど。


あれから1週間、帝国軍の配備が終わったようです。ウチはもうとっくのとうに終わってますけど。

あちらさん、5万の兵の他に攻城兵器も備えています。そりゃそうだよね、フロンティーネは城壁に守られてるから。

ウチだってそれぐらいは掴んでますから、見張りの塔に新しい武器を付けました。例の船に乗せた魔導大砲を小さくしたやつです。小さくしたと言ってもそれなりに威力はありますし、帝国の兵器よりは射程もあります。使いたくはないんですけど、使うことになるんでしょうね。


あちらの計画によると、私が護衛を連れずに出ているところを襲うらしいです。誘いに乗るべきか……。

伯父様方3人と相談です。移動するのも何なんで、通信の魔道具を使って。


「帝国の準備ができたみたいなんです。見張りの塔から見えるところまできて、今は止まってますから」

『どうする』

『こちらから仕掛けるのはダメだな。帝国に口実を与えることになる』

「戦端は帝国に切らせると」

『そうだ』

「でも、帝国はまず私を暗殺して、それから攻め込むですよね。向こうの作戦では私の襲撃は1個小隊なんだそうです。しかも、護衛がいない時を狙うそうで……。誘いに乗った方がいいんでしょうか」

『危険すぎるな。いくら鉄壁な防御があっても、許可する訳にはいかない』

『『「……うーん」』』

『ミーアの代わりを襲わせて、暗殺が成功したように見せかけるのは』

『ミーア、適任者はいるのか』

「人はダメですよ。だって襲われたら確実に死んじゃいますから。でも私そっくりなドールだったら……」

『人形か。それなら騙せるかもしれないな』

『しかし人形で人っぽくできるのか?死んだように見せかけて、敵を騙すんだぞ。血とか』

『それはそれっぽいものを仕込んでおけばいいだろ』

「私はドールマスターですよ。人間そっくりの人形を作るなんて雑作もない事です」

『なら人目につくようにしながら街を抜け、森に行けるか』

「馬を使ってもいい?」

『構わないが、馬はどうする』

「ウィンだったら大丈夫。襲われたときに逃がすから」

『ならこうだな。まずミーアは白馬にそのことを伝えるんだ。彼女には一役買ってもらわないといけないからな。そしてミーアそっくりの人形を囮にする。襲撃に成功したと思わせれば向こうの攻撃は始まるだろう。バリスタでも撃ってくるだろうから、それは防げるか?』

「大丈夫。亜空間の壁を張るから」

『1発でも先に撃たせたらば、反撃して構わない。ただしミーア、お前はまだ出るなよ』

「何で?」

『向こうはお前が死んだと思ってるんだ。すぐに出て行ったら引き付けられなくなる』

「なら、人形の残骸を向こうに持ち帰らせます。こちらの抵抗が強ければ、私が死んだということを広めて戦意を削ごうとするでしょう。それで尚抵抗を続ければ、証拠、つまり私そっくりな人形の残骸を持ち出すことと思います。そうなったときに残骸を消して私が登場する。こんなのはどうでしょうか」

『上手くいくかどうかは分からんが、被害を出さなければ好きにやって構わん』

『ミーアはメラル川を越えさせるつもりはないのだろ』

「当然です。王都の守りを強くしてもらったのは、この機に乗じて何かを企てる奴が出かねないからで、王都決戦など微塵も考えていません」

『上等だ。ところでミーア、敵軍の動きは監視しているな』

「ええ。空の上からバッチリと」

『フロンティーネ以外からの侵攻も考えられる。監視は怠るな』

「はい。そうだ、グラン伯父様を東部方面軍の所で指揮してもらうようにできないかなぁ」

『何故だ』

「森を抜ける部隊が出てきたときに、ウチの領兵は動かせないのよ。本隊の相手をしないといけないから。規模を教えて部隊を編成してくれたら私がゲートで送る。そのためには東部方面軍に話ができる人が必要なの」

『それにグランが最適だと』

「グラン伯父様は東部方面軍の軍司令をやってたでしょ。それに軍に関しては3人の伯父様の中でも一番だから」

『グラン、いいな』

『おうよ、任せとけ』

「じゃぁグラン伯父様の所と軍の所をゲートでつなぐから、行ってくれる」

『今すぐにか。っていうかそんなことが出来るのか?』

「チョットね。私の魔法が便利になったから、多分できると思う」

マルチマップの改良があったからね。あの時ナビちゃんがマップと空間魔法をかなり融合してくれたから。

試しにやったら、そうよね、できないはずがないわよね。

「あと、グラハム辺境伯の所に集めた部隊でポルティアを守ってほしいんだけど。あそこは港もあるし造船工房もあるから」

『わかった。命令書は用意するから、準備に取り掛かってくれ』

「はい。それじゃ通信はこのままでいいわよね」

『ミーアは逐次戦況を知らせるんだぞ』

「うん」

『それじゃぁ、13時に作戦を開始する。気を引き締めて、帝国を打ち破るぞ』

『『「おぅ!!」』』



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