第112話 動き出した歯車
**********(side ジャルフィー)
「アズラートとの話はどうなっている」
「まだ何も」
「あれから1年以上たっているのだぞ。アズラートがミーアを調べてるというのは何だったのだ」
「ミルランディア姫を調べているのは間違いありません。今もまだ調べは続けているようなので」
「ならなぜ私との接触を拒む」
「まだ話が上がってないのかも。いずれにしてももう暫く様子を見るほかありません」
「……じれったいな」
**********(side ミーア)
アルトーンの言ってたことは、本当のようです。索敵を張りながら仕事をしていると、悪意、と言うより敵意を持った人が何人かいるようです。仕方ありません、マルチさんで身辺調査を行うとしましょうか。
『何なのでしょうかね。ここんとこ特に恨まれるようなことはしていないはずなんですが……』
しかもこの連中、何人もの人が入れ代わり立ち代わりいるじゃありませんか。かなり組織立ってる。まぁどのグループかはもう少しすればわかると思いますけど。
暫く追跡して分かったことは、彼らは共通して1つの店を利用しているという事。小さな雑貨屋です。この店も要チェックだね。
私のスキルや行動について調べている事。そう言えば最近はスキルってあんまり使っていないな、目立つ奴は。まぁマルチさんやマルチマップみたいに、気づかれないスキルは使っているけど。行動って一人だったとか、誰彼と一緒だったとか、そんなことまで調べているみたいです。うーむ、まじストーカー。怖いわ。
あと、街中で私の評判なんかも調べてるみたい。
一体こいつら何なのかな。組織も、目的も。
なんとなく組織の方が見えてきました。
でも、何故?ホントに?
疑念が晴れません。
でも彼らの話に出てくるいくつかの言葉、『奪われた地』、『取り戻す』、そして『皇帝』。それらが示す先にあるのは『アズラート帝国』。
1年と少し前にドルアさんが来た時にはそんな感じじゃなかった。その後帝国軍も撤収したし。
でもなぜ帝国が私のことを調べる必要があるの?
考えていても埒があきません。こうなったら私の方も徹底調査です。マルチさんの大量出張が決まりました。
**********(side 帝国)
「その後はどうだ」
「はい。ミルランディアの方は特に動きはありませんね。相変わらずです。少し屋敷の中にいることが多くなったような気もしますが」
「奴は屋敷の中にいるように見せかけて、魔法でどこかへ行くことがあるからな。まぁ特に気に掛けることもないだろう。あの王子とやらは」
「身辺調査をしていました。どうやら現在の国王の一人息子だとか。ただ……」
「国王の一人息子だと。王位の継承権があるやつではないか」
「いや、継承権はないようです。生まれは間違いないのですが、幾分性格に難が……」
「こちらの手駒にしやすいと言うんだな」
「使い潰すにはいいのかと」
「わかった。話ぐらい聞いてやれ。その上で使えるようなら使い潰す。ダメなら今度の作戦で潰す」
「承知しました」
**********(side ミーア@王宮)
「国王陛下、宰相様。お話が……」
「どうした、ミルランディア」
「帝国に怪しい動きが見られます」
「アズラートか」
「はい。私の身辺調査をしているのです。それもかなり長期にわたってです」
「もちろんミルランディアも調べてはいるのだろう」
「はい。分かったことがあったのでお話に来ました。帝国は我が国を攻めるつもりです」
「何だってっ!!」
「間違いはないのか」
「ほぼ間違いはないかと。かなり周到に準備を進めています。あの国も多方面と諍いがありますから、それを放り出すわけにもいかないのでしょう。2年近くかけての準備のようです」
「そんなに前からなのか」
「ただ、まだ揃ってはいないようです。公爵領へ向けて軍が移動している様子はまだありませんから」
「ヴォラント、どう思う」
「今の話からすると、開戦はありうるかと。ただアズラートが我が国を攻めるには、まずフロンティーネを落とさなくてはなりません。ただあの町は、開けているところほぼ全てを城壁で囲んでいます。そう簡単に落とすのは困難かと」
「それでも開戦はあるというのか」
「はい。そのための前段としてミルランディア様の調査かと」
「それがどう繋がる」
「帝国はまずミルランディア様を襲うのでしょう。捕まえたところで逃げられることは分かっていると思いますから、確実に殺しに来ると思います」
「私が狙われるの?」
「ええ。フロンティーネ、公爵領、王国にとって、ミルランディア様はとても影響力のあるお方となっています。戦力としても、象徴としても。そのミルランディア様がいなくなったとなれば、どうなると思います?」
「普通にやることはやるでしょ」
「出来ませんね。貴女がいなくなれば士気は下がり、勢いづいた敵に敗する可能性もあります。恐らく一気呵成に王都を攻めるための準備をしているのでしょう。貴女がいなくなってから時間が立てば、こちらの準備も整いますから。整わないうちに攻め落とす算段なのでしょう」
「悪くはない筋書きだな」
「でも私もやらなきゃいけないことが沢山ありますよ。王都にずっとなんていられませんし」
「むしろミルランディア様が王都に居続ける方が具合が悪いでしょう。いない隙に責められるかもしれないです」
「分かりました。私は向こうで準備をはじめます。東部方面軍と王都守備隊、グラハム辺境伯軍についてはよろしくお願いしますね」
「それとなく動かすことにする」
「あと、食料の方は気にしないでいいです。ウチの所にだいぶありますから」
「それは助かる。どれぐらい余裕があるのか」
「半年分ぐらいはあるんじゃないですか。麦、芋、トウモロコシ、塩ですけど」
「それだけあれば問題ない。肉は森で獲れるからな」
「兵員と物資の移送はお手伝いします」
「いいのか、戦争だぞ」
「仕方ないですよ。私、狙われているんでしょ。確かに戦争は嫌ですけど、『死んでください』、『ハイ』って訳にはいきませんって。私とこの国を護るためなら容赦はしませんって。あと、本当に襲ってきたらば、帝国にも代償は払ってもらうつもりです」
「攻めずに守るのも大変だがな。ミルランディアの働きに掛かってると言ってもいい。ミルランディアが全てのカギを握っていると言っても過言ではない。今から警戒を始めるように」
「承知しました」
「また連絡する」
**********(side ジャルフィー&帝国)
「殿下、帝国側から反応がありました」
「やっとか」
「クロラントで会うそうです」
「クロラント?またなぜあんな賑やかなところで」
「にぎやかだからでしょう。人の目は多ければ多いほど気に掛けなくなるものです」
「ならクロラントへ行こうか」
「あなたが、て「しっ!」」
「私はリックです。あなたは、……そうですね、……ランスですね」
「……リック、……ランス。わかった」
「ランス様のお父上様がここのこれでよろしいのですね」
「あぁ、これを見てくれ」
「なるほど。でどんなお話で」
「リックの所はうちが欲しいんだろ。だがな、ウチの偉い連中の中にはアンタらの所を嫌ってるのが多い。そこでだ、アンタらがいろいろやった後に、俺をここの上にしろ。そうすれば俺がアンタたちと上手くやるし、ウチの偉い連中も抑えることが出来る。悪い話じゃないだろ」
「なるほどね。いろいろと噂は聞いていましたが、切れるとことは切れるようですね」
「どうだ、乗るのか」
「なぜそのようなことを持ち掛けるのです?」
「バカ親父とクソ女にむかっ腹立ててるからな。あいつらを潰すためなら何でもするさ」
「ほほぅ。まぁウチとも利害関係が合うようですので協力していきましょうか」
「話の分かるやつで助かるよ。えっと……リックさん」
「ランスさん、私もいい話が出来ましたよ。連絡はここで取りあいましょう」
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