第111話 平穏な日々(それはフラグの前兆)
ウィンと出会ってから半年、穏やかな刻が流れていきました。いいねぇ、穏やかな時って。
何か起きた方が面白いじゃないかって?冗談じゃありません。平和、穏和が一番です。
船はなかなか難しそうなので、小さめのものから始めることにしたようです。小さめと言っても、この世界では大きいんですけどね。
船で苦労している一方、クルマの方、特に
一方農業の方はと言うと、それなりに備蓄はされてきていて、商人の買い付けも増えてきています。財政的には一息かな。
という訳で、ミーア領はいたって平穏です。
私はと言うとゆっくりと領地探索を続けています。と言うのも今のウチに決定的に足りないのが鉄なんですよ。バイクもクルマも船もみんな鉄が必要なんです。しかも大量に。
今はまだ私が集めてるんだけど、それじゃぁねぇ。私がいないとできないって言うのは避けたいんですよ。だってみんなの街だから。
私は自分の為には自重しなくっていいことにしたんです。だって、まだかなり長生きする訳じゃないですか。窮屈な生き方はしないって。
でもミーア領やこの国のことは、みんなでやった方がいいって。サウムハルト事件や魔薬事件の時の反省です。先走って一人でいろいろやっちゃったからね。
と言うことでうちの領でも鉄が採れないかなって。鉱山が見つかれば安定するじゃない。工房も、そこで働く人も。
鉱脈は見つかるんだよ。だって私は探し物マスターだからね。ただどうやって伝えるか、ちょっと考えないとね。
でもとりあえず必要な鉄は集めときます。地面の中のずーっと深いところから。人の手じゃ掘れないところから集めて来るから、いいよね。
「ルイス伯父さん、船のことでちょっと相談が」
「何だ?」
「えぇと、二つ程ありまして……。一つは材料の鉄が足りないという事です。うちの所って鉱山がないから、鉄の安定供給が難しいんです。特にあの船は鉄を大量に使いますから。なので、鉄については国の方で調達ができないでしょうか」
「鉄かぁ。確かにあの船は鉄の塊だが、実際あそこまで鉄で作る必要はあるのか?」
「エンジンと魔導大砲、艦橋はかなりの重さがありますから、持たないんじゃないかと。陸地と違って海で放り出されたら生きて戻るのは難しいので、やはり安全重視と言う事では」
「そうか。なら2隻ではなく1隻にしよう。必要な時はミーアのを借りる約束で」
「クロード号なら。エヴァ号の点検の時はクロード号を使いますけど、まぁそうしょっちゅう点検がある訳ではないから大丈夫だと思います」
「で、鉄の方だが、必要な分を言ってくれ。こちらで調達する。ところであの2隻の鉄はどうしたんだ」
「あれは私が集めた分です。地面深くを探索して錬金術で集めるんですけど、それをできる人が殆どいないんですよ。錬金術も魔力を使いますから、地下深くから集めるとなるとかなりの魔力になるんです」
「それだけの魔力を持つ者がいないと」
「そうですね。少量であれば便利な採取方法なのですが、大量にとなると向かないです。それに地面の中の探索もしなくちゃいけませんし」
「ミーアには頼めないか」
「私にしかできないことを頼むのはよくないんじゃないかなぁ。一人の力に頼っちゃうと、その人が居なくなったら何もできなくなっちゃいますよ」
「それが俺らの仕事と言う事か。わかった」
「で、もう一つが渡す時期のことです。鉄が足りない影響で作るのに時間がかかっています。再来年には渡せると思ったんですが、ちょっと遅れそうです」
「今のところクロード号を借りているので特に問題はない。もう暫く貸してもらえるのだろう」
「そういう事になりますね」
「出来るだけ早くお願いしたいが、材料がないのなら仕方あるまい」
「じゃぁ伯父様、お願いしますね」
「そうそう、別の話だが、道を綺麗にする仕事を始めることにした。来年ぐらいからになると思うが」
「あれは時間がかかりますから、順番に進めるしかないですね」
「まずは王都からクロラントまでをやる予定だ」
クロラント。サウムハルト元侯爵の起こした奴隷売買事件の舞台。この国の街ではかなり大きく、5本の指に入るほどで、商業の街としては王都に次いで2番目か3番目に栄えている。
もう1つの商業都市は西のバオアク。こっちはドレンシアとの交易が盛んな街。王都からは少し離れている。
クロラントからは少し足を延ばせばニールもある。ニールまで舗装が済めば、クルマが出来れば1日で王都とニールがつながる。クロラントまで来ればフロンティーネも近くだしね。バオアクよりはメリットがあるのかな。
「そこでだ、クロラントからフロンティーネをミーアの方でやってはくれないか」
「えーっ、うちもあんまりお金ないんですけど」
「国で半分、残りをクロラントとフロンティーネで折半ではどうだ」
「クロラントがいいと言えばやりますけど……」
その後、結局工事をやることになりました。これで馬車での移動も大分早くなるから、悪い事ではないんだけどね。
それからおよそ1年、王都からクロラントまでと、クロラントからフロンティーネまでの舗装が完了しました。他も次々と進められてるそうです。
この1年でミーア領も大分落ち着てきました。畑の収穫量も増えて来てるし、バイク工房も順調です。クルマの技術を生かした変速機付きと言う高級なものも生産しているようです。
ポルティアの方も香辛料の生産は予想より多いぐらいです。砂糖の精製も始まってきて、塩と共に領内の流通量が増えています。これらのおかげで食べ物がおいしくなったね。食べることは大事だからね。美味しいものを食べるというのは心が豊かになるもんね。
一方、魚の水揚げは思うように増えていません。海に出ようって人が多くないんです。漁船も足りないし。漁船については今建造中の大型船が一段落したら造ってもらうとしますか。でも漁船に大型船ドックは要らないか。小型船用の工房でも作ればいいのかな。
交易についてはまだまだこれからです。なんせ交易船が来ない。こっちから行くのは相談してからだね。
で、一番のニュースはクルマの第1号車が出来たって事。予想より少し早かったかな。デザインの面は置いといて、性能の面ではアズラート製を完全に凌駕するものになりました。パチパチパチ………
やはり新型のエンジンの性能のよさですね。うちの研究者たちハンパないです。船用で仕組みを見せただけなのに、あっと言う間に実用化させちゃうし。量産化計画を立てるのと合わせて、種類も増やしていかないと。クルマが走れる道が国中に広がれば、モノの流れや人の流れが大きく変わるから、大きな貨物用と乗合用のを作れるようになっとかないと。
まぁそんなこんなで領政も大分安定してきたし、平和な日々が続いています。
不穏な動きがあるとも知らないで………
**********(side アズラート)
遡る事半年前………
「調べはどうなっている」
「はい。呆れるほど気楽にやってますね。それに出かけるにも護衛の1人も付けないこともよくあるようです」
「スキルは、やはり空間魔法と毒耐性ぐらいか」
「あと土魔法も使えるようですが。多少勘がいいところがあるようですが、元々冒険者であったということもありますから。あと、最近馬を飼い始めたみたいです。かなり気に入っているみたいです」
「殺れるか?」
「恐らくは。ただジルフの時のように大人数では難しいかと。精鋭を集めた1個小隊で、護衛のいない時を狙えば」
「引き続き訓練はさせておけ。本隊の準備にまだ時間がかかる。なんせあの娘、魔法ですぐにこっちに来るからな。表だって軍を動かしてるところは知られたくない。それから奴の評判はどうだ」
「悪い話はほとんど聞きません。悪く言ってるのも盗賊ぐらいなもんですから。町での評判、特にフロンティーネではほとんどの人が支持しています。人柄だけでなく、領政の手腕においてでもです。王都をはじめ他の街でも人気は高いですね」
「と言うことはミルランディアを潰せばヘンネルベリの士気は下がるということだな」
「いかにも」
「それならミルランディアを潰してそのまま王都を攻め落とす。奴らを立ち直らせる前に叩くぞ」
「準備の方、進めてまいります」
「くれぐれも慎重にな」
「あと、ヘンネルベリの王子を名乗る男が接触を求めてるとのことですが」
「……ん?」
「間諜に接触があったそうです」
「和平か?」
「違うと思います。和平や通商であれば正式に使節が来ることでしょう。秘密裏に接触を求めていますので……」
「こちら側を知って、こちら側に与するということか」
「恐らくは」
「その件についてはお前に任せた」
「はっ!」
**********
「ミーア様、ちょっとお耳に入れておきたいことが……」
「なぁに?アルトーン」
「このところ、ミーア様の周辺を探ったり、領内で探りを入れてる輩がいるとの報告があります。十分にお気を付けください」
「分かったわ。どうもありがとう」
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