第110話 ウィンと空飛ぶ馬車

ウィンと一緒にフロンティーネに戻っています。ウィンは終始ご機嫌です。ちなみにエルフィはもう少しアインと一緒にいるそうです。勝手に戻るって。


「ねぇミーア、私に乗っていいよ」

「そう、ありがとう。でもちょっと待ってね」

ウィン用の鞍を作ります。たっぱり騎乗するんなら鞍は必要だもんね。エルフィの時と同じくミスリル製にしました。

「これ付けてもいい?」

「これは?」

「乗るときに使うモノ。直接より安定するのよ。それに振り落とされないようにするためにもね」

「そんなことしないけど」

「でも急にしがみついたりしたらびっくりするじゃない」

「それはそうだけど」

「空で驚いて、堕ちたら大変なことになるから」

「それもそうね。じゃぁ付けていいわよ」


馬具一式を取り付けて騎乗しました。ウィンも最初変な感じだったみたいだけど、少しの間ですっかり慣れてくれたようです。

「ミーア、どう?」

「気持ちいいよ」

「空駆けてもいいかな」


白い翼を2度、3度とはばたかせると、ウインは大空へ駆け上がりました。

「私の力も強くなってるみたい」

「それはアリコーンに進化したから?」

「それもあるかも知れないけど、私自身の力も大きくなってるわ」

「速く走れる?」

「いいの?振り落とされないようにね」

慌てて風の流れを操ります。これやっとかないと吹き飛ばされちゃうからね。

ウィンのスピードはどんどん上がります。ブラちゃんの全力より早いかな。

「ウィン、速すぎだよ」

「凄いミーア、ちゃんと乗ってられるんだ」

これ振り落とされたら死んじゃうから。

「ちょっと怖かったけど、気持ちよかったよ」

「旅に連れてってよ」

「いいよ。私とウィンと、エルフィで行こうね」


「ところでさ、ウィンは翼と角を隠すことはできるの?」

「出来るけどなんで?」

「人間って欲が深いんだよ。アリコーンってわかると襲われちゃうかもしれないのよ。角に不思議な力があるって信じてる人がいるから」

「そうなの?私たちのこの角は折れちゃってもすぐに元に戻るんだけど」

「へぇー、そうなんだ」

「でもミーアが心配してくれるんなら、人の町では翼も角もも隠すね」

「そうしてくれると助かるわ。他の人には立派な白馬にしか見えなければ心配事も減るからね」


ウィンっていうか聖馬たちって凄いのね。角や翼を隠すなんて言うのは当たり前。小さくもなれるし、体の色も変えられるみたい。大きくはなれないみたいだけど。ホント見た目普通の馬よ。

それだけじゃなくって、ウィンは魔法も使うのよ。風の魔法と雷の魔法、あとは聖魔法ね。聖魔法は角に浄化の作用があるから使えるみたい。


「ねぇウィン、馬車引いてってお願いしたら引いてくれる?」

「あんまり重いのはやだよ」

「普通のじゃなくって、空を飛ぶ馬車ってどうかなって思って」

「何それ。面白そうじゃん。出来るかどうかは分かんないけど、やってみてもいいよ」

「だったらさっそく馬車を作らないと」


そうと決まれば早速作り始めます。スラ研に小さな魔石が山ほどあったと思うから、それを頂きます。

「こんにちわ」

「あっ、ミルランディア様。今日は」

「所長居る?」

「はい。応接室でお待ちください」

慌てて所長が入ってきました。そんなに慌てなくっていいのに。

「ミルランディア様、お久しぶりです」

「こっちはどう?」

「いろいろ進んでいますよ。ゴム化だけじゃなくって、舗装用のも改良が加えられています。メタル系とオイル系は面白いですね。他にもいろいろやってます」

「あのね、スライムの魔石ってあるかな。あったら少し都合付けてほしいんだけど」

「山ほどありますよ。ほとんど使わないんで、持ってっていただいてけっこうです」

「じゃぁ少し貰っていくね」


スライムの魔石はかなり小さいので、ほとんど役に立ちません。せめてゴブリンぐらいあれば魔道具に使えるんだけど。

でも私の錬金術にかかれば、スライムの小さな魔石も大きな魔石に変えることが出来るのです。

大きな魔石に作り直して、風属性や天地属性の属性魔石にします。属性魔石にした方が組み込んだ魔法の効率がいいんです。

風の魔法、浮遊の魔法の陣を組み込めば、魔石の準備は完了です。

馬車の方は新しく作ります。私の持ってる馬車って大きめなのばかりなんです。箱の中に9人、御者席に2人とかのね。基本2頭引きとか4頭引きなんで、大きくなっちゃうのは仕方ありません。親衛隊やフェアリー隊のは小さいけど、あれはあれだし。

と言うことで、1頭引きで箱の中4人、御者席1人の馬車を作ります。最先端の技術をふんだんに使って。

そうしてできた最新鋭の馬車に魔石を組み込めば完成です。


「ウィン、馬車が出来たわ。試しに引いてみてもらえる?」


「ねぇミーア、凄いよこの馬車。引いてる感じが全然しないの」

「そりゃぁ私の特製だからねぇ」

「ねぇこれって飛ばせるの」

「できるはずよ。やってみようか」

ウィンが大空に駆け上がるのに合わせて、浮遊の魔法石を起動させます。馬車の姿勢は風魔法で補います。

「カッコいいね。天翔る白馬と馬車なんて。お伽噺みたい」

「ねぇこのまんま行ってもいいよね」

「いいけど、スピードを出しちゃダメよ。それじゃぁ王都に向けてしゅっぱーつ」



この世界、空をぼけっと見揚げる人はあんまりいません。特に移動中はね。魔物が出てきたリ、盗賊もいるからね。それでも私たちは目立ったみたいです。

王都の手前で下りました。このまま王都には言ったらそれこそ大騒ぎですから。

「楽しかったね」

「この後どうするの?」

「このまま中に入るよ。ここにも私の家があるから。ウィンのこと紹介しないといけないし」


久しぶり(?)の王都の家です。

「ジャスティン、戻ったけど」

「ミーア様、お帰りなさいませ」

「何かあった?」

「特には。パーティーのお誘いはありますが」

「ノルマの消化は必要かしら」

「出来れば」

「そしたら、2つ見繕っといて」

「はい。早速」

「あと、この仔なんだけど」

「新しい馬ですか」

「ええ。ウィンって言うの」

「ウィンよ。ヨロシクね」

「う、馬が喋った」

「この仔、ただの馬じゃないから。アリコーンってわかる?」

「アリコーンですか?」

「うん。翼のあるユニコーンって言うか、角のあるペガサスって言うか。この仔の場合角のあるペガサスね。ウィン、元の姿に戻ってくれる」


ジャスティンも慣れたもんだね。これぐらいじゃ驚かなくなってるし。

「とても立派ですね」

「聖獣だしね。空飛べるんだよ。この馬車はウィン専用だし」

「じゃぁ、まさか」

「そのまさかよ。フロンティーネから飛んできたんだから」

「ミーア様。あまり目立つことはしない方がいいかと。またルイス様に言われますよ」

「だから中まで入ってこなかったのよ。少しぐらい噂になったってかまわないから」

「ルイス様にもお話しておいて下さいね」

「分かってるわ。ちょっと行ってくるから」


ウィンの馬車で王宮に向かいます。

『ウィン、ここがこの国の王様がいるところなの』

『王様って?アイン様みたいの?』

『まぁそんな感じかな。一番偉い人よ。それから、喋らないでほしいんだ。ジャスティンは慣れてたからよかったけど、他の人はダメだから』

『そうなんだ』

『よろしくね』


ルイスおじさんにウィンのことちゃんと話しましたよ。案の定呆れてましたけど。人払いしてアリコーンの姿も。

「で、ミーア、どうするんだ」

「どうって?」

「ウィンのことだよ」

「エルフィと同じよ。でも基本私と一緒かな。私の騎乗馬って事にしておけば問題ないでしょ」

「分かった。あまり問題を起こさんでくれよ」

「おじいさまたちをサミリアに連れて行ってもいい?」

「ダメと言っても行くんだろ。気を付けるんだぞ。あと、騒ぎを起こさんでくれよ」


その後、おじいさまとおばあさまたちと一緒にサミリアまで空の散歩を楽しみました。とっても喜んでくれてたから、やっぱこういうのって大事だよね。



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