第109話 聖馬

ナビちゃんといろいろ遊んだ後も、私は森の中にいます。ジャスティンにもアルトーンにも暫く空けるって言ってあるから大丈夫。急ぎの用があれば連絡が来るからね。

昼間は森の中を探索して、夜はディメンジョンホームで休む。ディメンジョンホームはそんなに広くは作らなかった。基本使うのは私だけだからね。

もう一つ分かったこと。ディメンジョンホームにいると遠隔交信装置を使った連絡が出来ないっていう事。早い話、亜空間の魔力は探せませんって事らしい。あと、ここからジャンプやワープは出来なかった。


という訳で森の中を探索中です。誰も踏み入ったことのない森。歩きにくいですよ、とにかく。なので周辺の警戒は厳重です。

ボアぐらいならいいんだけど、さっきはベアが出てきたからね。しかもアイツ絶対に魔物だよ。身長は2メートルぐらいだったからおおきなクマと変わらなかったんだけど、腕が4本もあったしね。4本腕の赤い熊の魔物、村ぐらいなら1匹で壊滅するほどの力、出てきてほしくないやつですね。でもそんなヤバいのがこの森にいるなんて。一応ギルドに報告出しておきますか。

サンプルとして狩らせていただきました、2匹とも。そう、あのあともう1匹出てきたんですよ。それも3メートル越えのでっかい奴が。向こうが襲ってこなかったらスルーするつもりだったんだけど、案の定襲って来たからねぇ。仕方なく狩りました。ホントだよ。仕方なく狩ったんだから。



それから数日、森の探索を続けました。感想ですか?率直に言って、『ヤバ森マジでヤバい森』です。流石に竜は居ませんでしたが、キメラにケルベロス、コカトリス。Aランクのパーティーでもヤバいやつらです。亜竜種のレッサーランドドラゴンもいたね。まぁ、超でっかいトカゲなんだけど。

そういう超危険な魔物もいる一方で、Bランクぐらいでも狩れるのが結構いるから美味しい狩場でもあるんだけど。冒険者の自己責任かな。領主としてそれでいいかは置いといて。

でもね、レッサーランドドラゴンがいるって事は、山の方に行くとレッサーワイバーンや更にワイバーンなんかもいるかも。ミーア領は魔物の楽園なのかもね。今調査しているのがフロンティーネの南側だから、北側もやらないと。あっちにもヤバいのがいるんだろうな。


森の調査を続けていたら、何やら探索に引っかかるものがあります。魔物?獣?どちらでもない感じです。

『調べないとね』

ゆっくりと近づきます。どうやら向こうも私のこと気づいているようです。お互い警戒してますから。

このまま近づくのも何かまずそうな気がするので、マルチさん、出動ですよ。

ソレがいたのは、森の木々がわずかに開けたところ。そこだけ陽の光が差し込んで、キラキラしています。

それは1頭の馬、真っ白な馬、白馬でした。

『ニンゲンよ。隠れていないで出て来るがよい。覗いているのは分かっている』

突然のプレッシャー。驚きを隠せませんでした。

『(まぁ向こうから呼んだんだから、行ってもいいよね)』

マルチさんを片付けて、白馬のほうに歩いていきました。


とても立派な白馬です。でも何か違う?角がある。ユニコーン?でも翼もある。ペガサス?

『ニンゲン。この森に何の用だ』

「調査ですけど……」

『ニンゲン。お前は何者だ』

「私はミーア。人間の国の王女よ。この辺りを治めてる国のね。そして私はこの地の領主でもあるわ」

『そうではない。お前から感じる聖竜様の感じは何なのかと聞いているのだ』

「聖竜?よくわかんないんだけど」

『お前は竜族とのかかわりがあるであろう。その中に聖なる竜がいるのではないか』

古龍エンシェントドラゴン様のことかなぁ」

『龍神様をご存じなのか』

「うん。会ってお話したこともある。私を世界樹の記憶に触れさせてくれたのも古龍様だよ。流石に呼び出すことはできないけど、会いに行くことだったらできるけど」

『龍神様に会うことが出来る……。ニンゲン、ミーアと言ったか、其方は一体……。ますます興味を持ったぞ』

「はぁ。それであなたは?」

『我のことはいい。それより其方は聖竜様の何なのだ』

「古龍様のことじゃないのか。だとするとエルフィのことかな」

『エルフィ?それは』

「私の友達の聖銀竜ミスリル・ドラゴンだよ。エルフィなら呼べるけど、呼ぼうか?」

『竜と友達?不思議な娘だ』

「そうか。この間エルフィに助けてもらったから、それで竜の感じがするのかもね」

『竜がニンゲンを助けた?一体なぜ』


火事の経緯を掻い摘んで話しました。

『……そうであるか。であれば、そのエルフィとやらが聖竜様なのであろうか』

「なら呼んでみるから、実際に見てみればいいじゃん。……エルフィ、来てくれる?」

何もない空間に現れたゲートから、白い竜が出てきます。

「ごめんね、エルフィ。急に呼び出しちゃって」

「大丈夫よ。遊んでただけだから」

「この子がエルフィだけど」

『せ、聖竜様……』

白馬は頭を垂れています。

「ねぇミーア、このお馬さんは?」

「よくわかんないんだけど。でもね、角もあるし翼もあるから、ただの馬じゃないんだよ」

『聖竜様。お目に掛かれて光栄です。私はユニコーンであり、ペガサスでもある獣。アリコーンと呼ばれてる』

「ユニコーンとかペガサスって聖獣だよね。その力を併せ持つって神獣?」

『そう呼ばれている。だが完全ではない』

「っていう事は、あなた半分は神様なんだよね。神様がエルフィに頭を下げるって……。えっ!エルフィって何?」

「私はただの竜よ」

『エルフィ様は確かに聖竜様です』

「聖竜って、神格はないのよね」

「私は龍神じゃないわよ。古龍様は龍神様だけど」

『私の神格は獣の中でのこと。聖竜様とは元の格が違います。それに聖竜様は近いうちに龍神へとなられます』

「獣の神よりもエルフィの方がすごいんだ」

『アリの女王がニンゲンにとって気にもならない存在と言う事と同じことだ』

「ところであなたはここで何をしてたの?」

『この場所は我ら聖馬獣にとっての聖地なのだ。森と大地と陽の力を授かるな』

「ところであなたお名前は?」

『我の名前?そのようなものはないし、あったにしても聖竜様の前で名乗れるはずがないわ』

「でも、お話しするのに不便じゃない?」

『なら好きにすれば良い』

「ねぇエルフィ、この子なんて呼べばいいと思う」

「ミーアの好きでいいと思うけど」

「でもエルフィが名前を付けたら、きっと喜ぶと思うよ」

「そっか。じゃぁ……、アインって言うのはどう?」

「ねぇ、エルフィがあなたの事『アイン』っていう名前にしたいって言うけど、それでいい?」

『恐れ多い事です。聖竜様に名前を頂けるなんて。喜んでその名前を頂きます』

「じゃぁ貴方は『アイン』ね」

『アイン。私の名前……。うゎっ!』

突然、アインの身体が輝きだしました。

『力が、力が漲ってくる』

「一体どうしたの?」

「名前を貰ったことで、格が上がったんだと思うよ」

「じゃぁ神獣になったっていう事なんだ」

アインは一回り大きくなって、神の一柱となりました。


『聖竜様、ありがとうございます。そしてミーアよ、其方にも感謝するぞ』

扱いにだいぶ差があるけど、まいっか。

「ねぇアイン、また会えるかなぁ」

『ミーアがこの地に来るのであれば』

「そっか。じゃぁまた来るから」

『ちょっとお待ちください。聖竜様と一緒に我の里に招待したいのだが』

「いいの?」

『お二方は私の大事なお客様ですから』


聖馬の里。幻想的なところです。ユニコーン、バイコーン、ペガサスなどがのんびりと暮らしています。

「お帰りなさいませ。ん?何かお変わりでも」

「こちらは聖竜様とニンゲンのミーアだ。ミーアが聖竜様を紹介してくれたのだ。聖竜様に名前を頂いた。『アイン』と言う名だ。そして私は神獣として覚醒した」

「そうでしたか。聖竜様、ミーア様、さぁこちらへどうぞ」

珍しい客なのでしょう。みんなが集まってきます。

「こちらは聖竜様です。聖竜様は我らの里長に『アイン』と言う名前を下さり、里長様は真なる神獣として覚醒された」

「「「里長様」」」

「「「アイン様」」」

「このニンゲンはミーアと言い、聖竜様と里長様を引き合わせたそうだ」

「「「おぉ」」」

「里長様、アイン様の大事なお客様である」


あっと言う間に私たちは聖馬に囲まれました。その中に一頭、私に懐いてくる仔がいます。

「あなたは?」

「名前?ないよ。不思議な感じのするミーアに惹かれてるの」

ペガサスの仔でした。仔といっても立派な馬ですよ。

「ねぇミーア、私ミーアについていくわ」

「えっ?そんな急に」

「ダメなの?」

「ダメじゃないけどさぁ。ちゃんとお話しして、いいって言われたらね」

「わかった。チョッと待っててね」

ペガサスの仔はすぐに駆けて行きました。お父さんやお母さんの所に行ったのかな。

暫くして戻ってきました、3頭を連れて。アインも一緒です。

「ミーアよ、この仔から話は聞いた。お前の迷惑にはならないのか」

「問題ないですよ。この仔もエルフィと同じく私のお友達だから」

「お前もいいんだな」

「うん」

「ならミーア、よろしく頼む」

「わかったわ。こちらこそよろしくね」

ペガサスの仔と友達です。

「名前付けてあげるね。『ウィン』っていうのはどう?」

「『ウィン』っていうのが私の名前?うん、気に入ったよ」

あれっ、ウィンからも力を感じます。

「おぉ、お前も名前を貰って格が上がったのか。しかしミーア、つくづくお前は不思議な奴だなぁ」

「何が?」

「名前を貰って格が上がるのは、名付け親の格が勝る場合だ。普通のニンゲンは我ら聖獣よりも格は劣る。だがウィンの格が上がったということは、ミーアの格は我らより勝っているということになる。これも聖竜様のお力なのか」

ウィンの額には小さな角が生えていました。

「アイン様、私アリコーンになったよ」

「ウィンよ。達者でな。いつでも帰ってきていいからな」

「はい。アイン様、お父様、お母様、行ってきます」

「「気を付けるんだよ」」


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