第107話 帝国と船
「姫様。お客様がお見えですが」
今日は客が来る予定なんてなかったはずです。
「誰?名前ぐらい聞いてるでしょ」
「はい。アズラート帝国のドルア様と言っていましたが」
ドルアさんでしたか。私も帝国には突然行きますから、ドルアさんでしたらアポなしでも基本OKでしょう。
「それなら通してくれる。すぐ行くから」
「お久しぶりです、ミルランディア姫」
この世界、交通の便もかなり悪いし、情報の伝達もすごく遅い。情報は人が運ぶしかないから、交通の便が悪けりゃ遅くなるのは必至。
移動の面でいえば私が特別なだけ、ワープもできるし空間転送もある。空も飛べればエルフィだっている。
その点、極普通のドルアさんがこうやって普通に訪ねて来るのはむしろ特別で、久しぶりなんて言う感覚じゃないはずです。まぁ関係ない事ですけど。
「今日はどうしました?」
「いやね、駐屯軍のことで少しお話が……」
「軍の方ですね。時々領軍との演習を行っていますけど、さすがは帝国正規軍って言う所ですね」
「いえ、ウチは数がいますから。実際、小隊や中隊規模で演習を行えばそちらの方に分があると聞いてます」
「なかなか数が揃えられないものですから」
「その駐屯軍なのですが、撤収を考えております」
「予定より早く、と言う事ですか」
「ええ。元々帝国の国民の保護と言うことで派遣していたわけですが、今はこの地に帝国の民は残っていません。そういう意味で駐屯する理由が薄くなっているという事。提供された駐屯地の環境は文句のつけようのないほどいいものでしたが、こちらとしても予算の関係もありまして、今年いっぱいで撤収をするということになりました」
「承知しました。実際、こちらに来てた方はどう言ってました?」
「兵ですか?指揮官に話を聞いたところ、国内の駐屯地より数段いいと言ってました。おかげで国内では施設の改修で大わらわですよ」
「ヘンネルベリとしましても帝国駐屯軍の撤収には異論ありません。駐留費がなくなることはこちらとしても痛いところではありますが」
「アズラートとしてもヘンネルベリと軍事的なつながりは続けたいと思っているところです」
「帝国駐屯軍の件は中央の方へ連絡しておきます」
「お願いします。それから……」
「はい?」
「ミルランディア様が船を造ったと聞きまして、できれば見せていただければと……」
「構いませんよ。でも港に行くのに2~3時間かかりますけど」
「3時間で港?ここから海までだと馬車で3日はかかると思っていたのですが」
「クルマ用の道を作りましたので。今日連絡を入れておきますので、明日朝こちらを出る予定で構いませんか」
「あ、あぁ。(これから連絡を入れて準備が間に合うんだろうか)」
あくる朝、私とドルアさんを乗せた車がポルティアへ向けて出発しました。
「このクルマは」
「そうです。帝国で買い求めたものです。まだわたし、クルマは作れませんから」
「と言うと、開発はされていると」
「一応は。形にもなっていないですけど」
「そうですか。帝国もうかうかしていられませんな」
「帝国のクルマもいろいろと見させてもらいましたけど、今開発しているのとだいぶ違いますね。特に魔導発動機の部分が……」
「魔導発動機?それは一体……」
「クルマを動かしている魔道具です」
「あぁ、エンジンのことね」
「エンジンって言うんですか。そっちの方がいい呼び方ですね。うちでもそれ使わせてもらいますね」
「名前ぐらいならいくらでも」
「しかしこの道は……」
「クルマ専用に作りました。橋にしたのは森の生き物に影響を及ぼさないためです」
「これもミルランディア様が?」
「ええ。魔法でバンバンと」
「クルマ専用にするとスピードが結構出せるもんですね」
「舗装もしてありますし、人や馬車のような遅いのがいないからですね」
「うぅん、これは帝国でも考えるか」
そんな話をしながらおよそ2時間でポルティアに着きました。
「ここが公爵領第2の都市ポルティアです。普通の港町ですけどね」
港に浮かぶ船の中でひときわ目立つのがエヴァです。
「あの船が新しく作った船です。名前はエヴァ号と言います」
「エヴァ号ですか。いやしかし大きな船ですね」
「長さが大体150メートルぐらいありますから。それにご覧のとおり鉄製の船です」
「全部が鉄でできてるんですか?」
「えぇ。主だったところは全て」
「ほぉ……。帆はないのですか?」
「風で動かすわけじゃありません。魔導発動機、エンジンって言うんでしたっけ、それの力で動かします。乗ってみます?」
「是非お願いしたいです」
ドルアさんに船内の案内をします。
「出港の準備をして。魔導発動機は2つでいいわ。外に出たら訓練用の標的を出して、魔導大砲の射撃を見せてあげて」
「そこまで見せて大丈夫なんですか」
「問題ないわ。この船と同じものを造るにしても、帝国でもあと10年ぐらいはかかるわよ。ドルアさんだって自国の技術力は分かっている。そして現状とても追いつけないものであるということも分かるはず。中途半端にやる気を起こさせるぐらいなら、全力でやる気を折った方がいいでしょ」
「承知しました。準備は出来ていますので、いつでも」
私とドルアさんを乗せたエヴァ号は、予定通りの訓練を終え、港へ戻りました。
「いやぁ素晴らしい船です。この船なら海上から都市攻撃もできますね」
「いやぁ、こちらから戦争をするつもりは全くありませんから。あくまで海賊船対策です」
「でもこれなら海賊船もひとたまりもないでしょう」
「そうですね。実際被害も減ってますからね」
「だが、周辺国に脅威として映りませんかな」
「そこは信じてもらうしかないんですけどね。難しいところです」
「でもいいものを見せてもらいました。しかしエンジンで動く船ですか。風を気にしないで船を動かせるというのは、交易の上では大きな利点ですね」
「そうですね。海の向こうの国との交易を本格的に始めるときには、荷が沢山積める船を造るのもいいですね」
「そうなればヘンネルベリの一人勝ちですね。これは参った」
「でもアズラートでも造るんじゃないんですか」
「ま、研究ぐらいは始めますよ」
船についてはここまでです。売ることはしませんし、造船工房を見せることもしません。
戻って皇帝といろいろと協議するんだろうな。抗議してくるかもしれないけど突っぱねるか。元侵略国だからこっちが防衛力あげたところで文句言う筋合いはないんだけど。
軍事同盟?全力でお断りです。
「国王陛下、アズラートの駐屯軍が撤収するそうです」
「そうか。ずいぶんと早いんじゃないか」
「そうですが、あちらさんも名目がなくなりましたからね」
「これで全部終わりだな」
「ただ気を付けないといけないのが、帝国も私たちの力を調べています。周辺国の為にも軍事同盟だけは避けなければ」
「分かっている。ミルランディアの作ったあの船、帝国には渡さんから」
**********(side 帝国)
「そこまでのものなのか」
「はい。攻撃力、防御力、速度、どれをとっても」
「借り受けられそうか」
「難しいですね。性能の一端は見せてもらいましたけど、ほとんどが秘密でしたし。借りることも買うこともできないでしょう」
「奪うことはできるか」
「現状、かなり困難かと」
「帝国で造るとするとどうだ」
「10年、いや15年は欲しいです。動かすための仕組みさえ分かっていないのです」
「ヘンネルベリめ。一気に王都を落として、ヘンネルベリを亡ぼすか」
「ミルランディアが邪魔ですね」
「まず奴を消すところからか。やれるか」
「命があれば」
「計画を立てておいてくれ。まずは奴を徹底的に調べ上げろ」
「はっ!」
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