第106話 海軍創設
『船かぁ。造ろうとは考えていたけど、実際どうすればいのかなぁ』
とりあえず造船チームの立ち上げです。と言ってもそんなに潤沢に人材はいませんので、クルマ工房の研究グループから選びました。
船用の魔導発動機の開発、船体の開発、推進系の開発、艤装の開発などなどなど、やることだらけです。
「国から船を作って欲しいとの依頼がありました。そこで、今開発を続けているクルマの技術を生かした、新しい船を作ろうと思います。
この国で船と言えば、風の力で進む木造の船です。新しい船は鉄製にします」
「姫様、木は浮くからいいですけど、鉄は沈みますよね。そんな鉄で船を作って浮くんですか?」
「鉄の塊じゃないですからね。ちゃんと船の形にすれば浮きますよ。後で模型を作ってみればわかります。それから魔導発動機で動かします」
「発動機で風を起こすのですか?」
「風の力は使いません。発動機の力をそのまま使って動く船を造ってください。そのためには今の発動機では力が足りません。大きくなってもいいですから、今の何倍もの力が出る発動機をお願いします」
「分かりました」
「それからクルマの方で力を伝える仕組みを開発していたわよね。あれはどう?」
「使えると思いますが、船用となると……」
「そっちはそっちで進めておいてね。他に何かある」
「あのぅ、すみませんが、1隻造ってはいただけないでしょうか。あまりに大きな課題で、イメージが出来ないんですよ」
「そうね、わかったわ。1週間後に造ってみる。工房の準備もしないといけないからね。造るとこ見る?」
「是非ともお願いいたします」
ポルティアの
「これが造船工房ですか」
「そうよ。ここで船を組み立てるの。基本的なところまでね。それが出来たらここに水を入れて船を向こうの桟橋に移動させて、そこで仕上げを行います。ここはもう一度封をして水を抜いて、次の船を造ります」
「どこまで造っていただけるんですか?」
「一応全部作る予定だけど。1週間ぐらいかかるかなぁ」
私が作ろうとしているのは長さ100メートル以上、150メートルぐらいかな、幅も15メートルぐらいの鉄の船です。
この世界の大きな船と言っても長さ50メートルぐらいの木造の帆船ですから、私が作ろうとしているのがいかに規格外かは分かると思います。
私に造船の知識?そんなのある訳ないじゃないですか。でも私にはアレがありますから。【世界樹の記憶】が。
ぶっちゃけナビちゃんに教えてもらったんだけど、世界樹の記憶ってこの世界のものだけじゃないいろんな知識があるのね。
ただ知識だけあってもここで再現できないこともいっぱいあって、まぁそこは何とかしないといけないんですけど。
で、その知識とうちの
「姫様、それは何ですか?」
「えぇと、ミーア製って言うか私が作った魔導発動機だよ」
「魔導発動機って回転の魔道具を使うんじゃないんですか」
魔道具って言うのは魔力を使って動かす道具の事です。前に作った遠隔交信の指輪みたいのね。あれは自分の魔力を使って動かすやつ。ただ魔力の供給って言うのは魔石からも供給が出来ます。魔導発動機は魔石を使った魔道具って事ね。
「最終的には回す力が欲しいんだけど、回転の魔道具だと大きな力にならないのよ。強い力が出てそれでいて早く回るのが理想だから。それを回転の魔道具でやろうとするとすごく大きくなって魔力の効率も悪いから、違う形の発動機にしてみたの」
「どういう仕組み何ですか?」
「ええとね、カギとなるモノはこの魔道具」
「これは?」
「スラ研の成果よ。メタル系のスライムに魔石を溶かしたものを固めたの。これの特徴は押されると小さくなること。それに魔力を加えると元に戻ること。固さの調節が自在にできること。でそれを
「おぉー!」
「この時の魔力はほとんどかからないから魔石でも十分に賄えるわ。これを48個つなげたのがこの魔導発動機って訳」
「48個もですか」
「それぐらいあれば力も十分だからね。魔力を加えるタイミングを調節すれば回転も速くなるよ」
「姫様、私たちもこの型の魔導発動機で研究してもよろしいでしょうか」
「もちろんよ。クルマ用だったら4つぐらいでも十分よ」
「向こうにも伝えておきます」
「それで船にはこれを4つ積みます」
「この大型の魔導発動機を4つも積むんですか」
「船自体が大きいからね。それぐらい積んどいた方が安心なのよ。余裕があった方が、いざって言うときに力が出せるから」
続いて船体です。これも呆れられました。この世界の大型船の3倍近い大きさです。しかも鉄。軽くするために薄くするなんてことはできません。波を受けて壊れちゃったらしょうがないからね。厚さは4センチぐらい。更にいくつかのブロックに分けて2重構造にしてあります。これだけ頑丈にしてあるから海賊船の攻撃ぐらいじゃびくともしないだろうけど、クラーケンや海竜って言う化け物がいるからね。
船の真ん中辺に発動機を取り付けて、変速機を繋いで船の外側に軸を通します。
「姫様、これは?」
「この
「でも、船に穴が開いてるんですよね。そこから水が入ってこないんでしょうか」
「少しは入ってくるかもしれないけど、入ってきた分は捨てればいいから。それにほとんど入ってこないと思うわよ。穴をあけたところの隙間は殆どないし、そこにはオイルスライム系の防水材で塞いでいるから」
舵を取り付けて、とりあえずは動かせる状態になりました。
「舵も問題ないし、魔導発動機も大丈夫ね。それじゃぁ浮かべてみますか」
「もう浮かべるんですか?」
「これだけできていれば大丈夫じゃない。あとはほら、向こうの桟橋の所でも作業はできるから」
「じゃぁもう動くんですね」
「動くわよ。それじゃぁここに水を入れるから、みんな退いてね」
ドックに水が入ります。こんな重そうな鉄の船がホントに浮かぶのか、心配そうに見ています。
「おぉ、ホントに浮いてる」
「ねっ、言ったでしょ。それでは桟橋に移動させまーす」
発動機を動かします。羽が回り始めるとゆっくりと動き始めました。そのままゆっくり桟橋まで移動です。よしっ、どれも問題ないね。漏水も、………ありません。
もうこの先の艤装はとんとん拍子でした。動力用の魔石の倉庫、船員用の部屋、食料や水、生活に必要な物資の倉庫を船体の中に作ります。甲板を整えて、操船のための艦橋を造れば船の完成です。
「姫様、この船って何人ぐらいが乗るんですか?」
「動かすだけなら50人もいれば大丈夫じゃないかな。でも一応300人ぐらい乗れるようにはなってるよ」
「この船ならバリスタとか積めませんか」
「30基ぐらいいけるんじゃないかな」
「これは世界が変わりますね」
「そうかもね」
完成した後は試験航海です。どれぐらいスピードが出るのか、旋回性能はどうか、船の強度は問題ないかなどいろいろと試しました。結果はおおむね良好ですね。
スピードは予想以上でした。4つの発動機を全力で動かしたとき、およそ今の船では考えられないスピードが出ました。向かい風でも問題ありませんでした。
操船についてはこの船で訓練すれば大丈夫でしょう。
私はこの船に『エヴァ』と名付けました。もちろんお母さんの名前からね。公爵領軍の海上警備警備隊に配備しました。
「どう?みんな出来そう?」
「そうですね。いろいろと見せてもらいましたから研究を進めます。いいものを造りますよ、姫様」
「期待してるわよ。国王様からもお願いされてるから、とりあえず1隻を来年出来ればいいわ。2隻目は再来年でいいから」
「そんな予定でいいのですか」
「私は手伝わないからね。みんなあなたたちでやるんだから、それぐらいはかかるんじゃない。研究するところも多いだろうから。その間に私がもう1隻ぐらい造っとこうかな」
「我々は我々で頑張ります」
「よろしく頼んだわよ」
その後、新たに開発された魔導大砲を積んだ1番艦エヴァと2番艦クロードによって、ヘンネルベリ王国の海洋進出が大きく変わったのです。他の国からはだいぶ警戒されたみたいですけど。
「ミーア、そこまでのものを期待した訳じゃないんだがな」
「でも、リオおじさんもルイスおじさんもグランおじさんも満足なんでしょ」
「まぁな。あれだけのものを見せられればな」
「あの2隻はうちのだから。王国に納める船は今建造中です。再来年とその次の年に1隻ずつ渡せると思うわ」
「あれじゃないのか」
「あれは一応うちの領軍に配備したものだから。研究材料として造ったからそんなに性能がいい訳じゃないの。今造ってるのはあれより性能のいいものだから。操船を覚えるための訓練だったら使ってもいいけど」
「是非ともお願いしたい」
「エヴァはポルティアに置いておくけど、クロードはニールに置いておく?」
「そうしてくれると助かる。訓練でも使えるし、いざとなれば出撃もできるからな」
「まぁそうなるわね。あと、2隻分の港も用意しておいてくださいね」
海賊の被害ですか?ほぼなくなりましたね。離れたところから魔導大砲でズドンですからね。逃げようにもスピードが違いすぎますから。海賊は捕まえて、積み荷を回収した後、海賊船は沈めちゃうんで、ヘンネルベリ周辺で活動する海賊はみんな逃げだしちゃいました。
1つ平和になりました。あー、よかったよかった。
やり過ぎ感があるって?そんなこと気にしちゃいられませんって。
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