第105話 王族会議(?)

ここは宮殿。と言っても、王都ではなくフロンティーネの城の中。

そして、私の前にいるのは、クリストフ大公、アルベルト前国王、リオンハイム国王、ルーファイス王太子、グランフェイム公爵。つまりは国王経験者と継承権のある王族です。

私が折り入って話があると呼んだんです。他に聞かれたくない話だったので、王都の宮殿ではなくフロンティーネにしました。


「おじいさま、伯父様。この間はご心配をおかけしました」

「もう大丈夫なのか」

「えぇ、すっかり。それで、そのことについてお話が……」

「そうであろう。この顔ぶれを見ればなんとなくわかるぞ」

「はい。その前に1つお約束をしてほしいことがあります」

「なんだ、言ってみなさい」

「ここでお話しすることを絶対に公言しないでほしいのです。たとえ近しい人であっても」

「妻や子供にもか」

「出来れば」

「わかった。約束しよう。皆もそれでいいな」

「「「「うむ」」」」


「この間の火事のことですが、どのように聞いていますか」

「そうだなぁ、火は日付が変わるころに出たらしい。火元は厨房で、原因は火の不始末と言うことだ。あと、宿屋の夫婦が亡くなっている」

「それは騎士団が調べたことだな。次に騎士団の証言だ。ガラスが割れる音を聞いてその方を見ると、炎が噴き出していた。火の勢いが強くて中に入ることが出来なかった。水魔法の使える魔術師が消火にあたったが、ほとんど役に立たなかった。最上階に、ミーアの部屋のあるところだが、そこに火が回り始めたころ、突然白銀の竜が現れて火を消し飛ばした。そしてミーアの部屋に行き、ミーアを救い出して王都へ行った。その時『ミーアは無事だ』と告げたそうだ」

「俺もそのように聞いてるぞ」

「そうじゃな」

「えぇと、概ね間違いじゃありません。私が入った時に罠はなかったですし、騎士団の方が巡回していましたので侵入者もなかったと思います。調査で厨房の火の不始末による失火と言う事ですから、間違いはないかと。私を助けた竜ですけど、ご存知ですよね。エルフィです」

「アズラート帝国からの帰りに連れてきた白竜のことだろ」

「そうです。尤もエルフィは白竜ではなく聖銀竜なんですけど。竜の血はどんな病や怪我も治す万能の薬と言う噂があるのは」

「噂は知っている。竜種の中でも下等と言われているワイバーンや地竜の血でさえも、上級回復薬となるからな」

「私はエルフィの血で助けられたのです」

「そうだったのか」

「エルフィの血で助けられたのですが、エルフィの血が強すぎたのです」

「血が強いとは?」

「先ほどもお話ししましたが、竜の血は万能薬です。そしてその竜の中でもまだ若い白竜や、希少種と言われる虹竜、聖銀竜の血には、人間の老化を遅くする効果があるのです」

「老化を遅らせる?」

「はい。遅くなるだけなので、不老不死と言う訳ではありません。歳も取るそうですし、事故や病気で死ぬこともあります。ただ寿命が延びたという事です」

「ミーアは竜の血をどれぐらい飲んだんだ」

「記憶にはありませんが、エルフィの話では数滴。恐らく1~2滴と思われます」

「で、寿命はどれくらい伸びたんだ。数滴だと、100年、いや200年ぐらいか」

「いいえ。エルフィの話だと大体2000年ぐらいだそうです」

「2000年!」

「それならミーアが王位に就けばこの国は安泰じゃないか」

「そうではありません。2000年ですよ。人間の寿命は60~70年。もし私に子供が出来たとしても、確実に私より先に死にます。孫も。そしてそのまた子供も。私には耐えられないと思います」

「そうか。長く生きるということは、そういう事もあるという事なのか」

「まだしばらくは問題ないと思います。老い始めるのは最後の100年ぐらいだそうですから。それまでは20~30代ぐらいで続くそうですから」

「で、ミーアはこの後どうするつもりなのだ」

「暫くは領地経営を続けます。まだまだ全然できてないですから。ある程度軌道に乗ったら、旅に出ようと思ってます」

「旅か。いいかもしれぬな」

「エルフィと行こうと思っています。エルフィは竜ですから、それこそ寿命も5000年とか10000年とかあります。そしてこの国だけじゃなく、この世界をみんな回りたいと思っています」

「領地はどうするのだ」

「養子を貰おうと思っています。結婚しても私は変わらないのに向こうは年寄りになって、先に死んじゃうんですよ。子供だっていつまでも年を取らない母親なんて変に思うでしょ。でも然るべき時に然るべき人を養子にすれば、その心配も減るんじゃないかと」

「悪くない考えだ」

「なので、養子の候補者を。あっ、でも急がないですよ。20年とか30年とかそれぐらい先の話だから」

「儂とアルには無縁の話だな」

「そして、王位のことですが」

「なくしてほしいんだな」

「そうなるのが理想ですけど、急になくなるのも変な噂を呼びかねませんので、常に最下位で、時期を見計らってなくすという方向でお願いしたいのです」

「わかった。それについてはリオ、ルイス、グランに任せる」

「「「承知しました」」」

「ただ人前に出るときはどうするんだ」

「そのままじゃ出られませんので、人形ドールにするつもりです。適度に年を取った感じでやります」

「仕方ないか。それが一番だな」

「でもこの先20年、いや30年ぐらいかな、それぐらいは今まで通りやりますから、心配しないで大丈夫です」

「ミーア、陰からでいい。この国を支えてほしい」

「大丈夫ですよ。ヘンネルベリは私の故郷ですから」


「くれぐれもこの話は……」

「解っておる。しかし王都の宮殿ではなくフロンティーネの宮殿で話と言われたときには何かと思ったが、想像以上のものじゃったな」

「絶対に漏れてはいけない話だったので、向こうの城でこれだけの人が集まれば何事かと思われるでしょう。不審に思って聞き耳を立てるものもいるやもしれません。そういう意味でこちらの方が都合がよかったのです」

「こちらにも城を建てておいてよかっただろ」

「そうですね」


「これでミーアの話は終わりか?」

「そうですが……。そういえばドリウス侯爵には挨拶に行った方がいいですかね」

「ドリウスには遣いを出したので問題はない。話が終わったというのであれば、ポルティアとやらを見てみたいのだが」

「ポルティアですか?まだほとんど動いてないですよ」

「だがキッシュが就いてるんだろ」

「ええ」

「なら顔を見るついでに町も見てみたいんだ」

「わかりました。皆さん行きます、……ね。魔法で行きます?クルマで行きます?」

「魔法だとすぐだけどな。いや、今回はクルマで行こう。行きがてらポルティアの話も聞きたいしな」

「それでは準備します」



急きょポルティア行きが決まりました。乗合じゃなくって、私が持ってるちょっと大きめな視察用のクルマです。


「おぉ。これは一体どうなっているんだ」

フロンティーネからポルティアまでは全部橋の道です。しかも全部スライム舗装された。

「この下は森なんです。魔物もいます。そこに普通に道を作ると魔物が入ってきたりして危ないじゃないですか。かと言って壁で守ると道で森が分断されちゃいます。そうすると森に棲んでる獣や魔物は困りますよね。だからこうして橋にしたんです。この橋はクルマしか走らせていません。クルマ専用です。馬車も走らせません。クルマと馬車の速さはすごく違います。馬車で1日かかるところをクルマなら1時間ぐらいで行っちゃうんですから。だからのんびり馬車に走られるとかえって危ないんで」

「それなら往来はどうしているんだ」

「人用の乗合を日に3往復、荷物の運搬を日に5往復させています」

「なるほどな。しかし速さでこの快適さ。これに乗り慣れると馬車は辛いな」

「ルイスおじさんとリオおじさんに相談なんですけど、国の大きな街を結ぶ道を、このスライム舗装の道にしませんか。クルマも馬車も走れるぐらいの広い道を。うちとグラハム辺境伯の所を繋ぐトンネルみたいな」

「そうするとどうなる」

「まず、馬車の速さが上がります。より早く着くようになるでしょう。さらにこの道が国中に広がれば、例えばニールで採れた魚が次の日には王都に届きます。早ければその日のうちに。王都からニールまで馬車で6~7日でしょ。スライム舗装された道をクルマで走れば6~7時間です。朝とれた魚が……」

「夕方には王都に届くか」

「便りなんかもそうです。王都からクロラントまで、早馬でも2日ぐらいかかりますよね。でもクルマなら4時間ぐらいです」

「そうなるとこの世界の常識が変わるな」

「しかしそうなると商人の仕事を奪うことにはならないか」

「それは大丈夫だと思いますよ。1つはまだクルマも道もないですから。クルマも作れるようになるまでまだ1年ぐらいはかかりそうですし、道もすぐにはできないでしょ。それに繋ぐのは大きな街だけです。小さな町や村は今まで通りです。それに車を使った運搬は特別なものですから、それなりにお金を取ればいいんです」

「検討してもいいが、ただそんなに魔法使いがな。土魔法の使い手をそれだけの人数雇うのは」

「これ魔法要らないですよ。スライム舗装は研究が進んでますからいつでも使えます。道の作り方もきちんと指導してあげれば誰でもできます。それこそスラムの人たちでも」

「スラムの人が使えるのか!」

「えぇ。スラムの人の中でやる気のある人たちを、それなりの条件で雇えば十分です。いくらで雇うかは知りませんが、奴隷みたいな扱いをしなければ大丈夫だと思いますよ。あと、勤労刑の人なんかもいいと思いますね」

「ミーアの所もそうやって作ったのか」

「そうですよ。ま、さすがにこの橋は私が作りましたけど。あとこの道は、作ったら終わりじゃないんです。次第に舗装も荒れてくるんで、補修も必要になります。そういう仕事もスラムの人に与えられるんじゃないかと」

「仕事がなくてスラムにいる者もいるからな。そういう者たちに仕事を与えればスラムも減るのか」

「貧しい村から出て来てのスラム暮らしも多いしな。仕事を与えるのも俺たちの仕事って事か。検討してみよう」

「荷物の運搬をするようになれば……」

「次は人か」

「そうです。乗合を走らせます。ただし、大きな街の間だけ」

「今の乗合馬車の仕事を取らないためか」

「ええ。ですから料金は高めにします。今の乗合馬車の10倍でもいいんじゃないですか。それだけ払っても早く着きたい人は乗ればいいんだし、今まで通りでよければ馬車で」

「貴族や金持ちは利用するか」

「恐らく利用するでしょうね。暫くの間はクルマを売りに出す予定はありませんから」

「俺らの所にもか?」

「王宮には何台か届けますよ。急ぎの連絡手段として必要でしょうから。ただ乗合とか運搬とかはうちの専売でお願いしたいなと」

「ミーアも商売上手になったな」

「いえいえ、クルマの開発費の回収ですよ。結構かかってますからね。それにまだ工房も出来上がっていないのでこれからもかかりますから」


そんな話をしながら、ポルティアに着きました。


「ここがポルティアです」

「おぉ、さすが綺麗な街だな」

「この町はどんなところなのだ」

「ごらんのとおり海に面してますから、漁業ですね。魚を獲ったらすぐに領都へ運びます」

「だから荷物の運搬が5往復なのか」

「他には交易もできるようになっています。まだ始まってはいませんが。ニールもあるのでそんなには大きくなるとは思ってませんが」

「いや、ここは王族公爵の直轄地。となればヘンネルベリ王国の海の表門になる港だ。ニールにはない重要な役目がここにはあるぞ」

「よくわかりませんが……」

「それについては後で説明する。国としての重要事項だ」

「はい。交易が始まれば商人たちでにぎわうかなって思ってます。他には砂糖や胡椒などの香辛料の栽培製造ですね。塩もできます」

「塩に砂糖、胡椒までもか」

「ええ。塩は海があるのでいくらでもできます。砂糖は栽培を始めました。胡椒などの香辛料もです。向こうの農地です」

「野菜や麦は作っていないようだが」

「それはフロンティーネで沢山作ってますから、こちらへ運べばいいだけの話です。何も全部の町で麦を作る必要はないじゃないですか。領として必要な量を作れば問題ありません。実際ここでは昨年王国で収穫された麦の量の3割ぐらいの収穫が出来ています。2~3年で王国の麦の6~7割はうちの所で採れたものになるでしょう。フロンティーネはまだ手付かずの農地がありますからね」

「それだけの麦をどうするつもりだ」

「国内で足りていないところに分けることもできますし、外国に売ることもできます。国内で回せば貧困が減り、国が安定しますし、外国に売ればもうかります」

「それだけのものを保管できるのか」

「もうできてますよ。フロンティーネに大型の魔導冷温倉庫が。クルマの道が出来ればすぐにでも届けられます」

「軍の兵站にも使えるな」

「そうですね。戦争は嫌ですけど、ただ黙って嬲られるのはもっと嫌ですからね」

「あと、向こう側に広がっている何もない所は何だ」

「あぁ、あそこで船を作ろうと思ってます。クルマ用に開発した魔導発動機を改良したもので動く船です」

「風ではなく魔導発動機で動かすのか」

「はい。そうすれば天候の影響も受けにくくなります。船に攻城兵器を積めば海からの脅威に対抗する力にもなります」

「ミーアっ!それ急げないか」

「急ぐも何も、まだ研究も始めてないんですけど」

「人はこちらでも集める。ミーアの協力をお願いしたい」

「構いませんけど。でもどうして急に」

「ニールの近くで海賊による被害が起きている。まだごく少数なのだが、対応が出来ずに長引けば外国との交易に支障が出る。そのためにも必要なのだ。だが私たちはそれを持つ力がなかった。それをミーアが開いてくれたんだ」

「分かりました。出来るだけ早く始めますが、まだ魔導発動機の研究も途中ですから少し時間がかかるかと思います」

「よろしく頼んだ」


なんかとんでもない宿題を貰ってしまいました。まぁ技術と金が落ちそうですからやりますけど。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る