第104話 生還
『……た……す……け………て………』
私はそのまま気を失ってしまいました。
**********(side エルフィ)
『っん?!ミーア!どうしたの?!』
突然頭の中に響いてきた言葉。
『……た……す……け………て………』
確かにミーアの声だった。でも姿が見えない。
『ミーアっ!どこっ?どこにいるの!』
気配を探っても分からない。でも確実にミーアに危機が迫っていることだけは間違いない。
『あっ!ワープ』
ワープの魔法が場所だけじゃなく人を目的地にして使えることは知っているし、実際にミーアを追いかけてワープしたこともある。
『これなら……』
ミーアを強く思ってワープした。
目の前には炎に包まれた建物があった。ミーアの気配は確かにこの中にある。
「グゥギャアアアアアァァァァァ―――――ッ!!!!!」
咆哮と魔力の放出で、建物を覆っていた炎を吹き飛ばした。
「ミーアっ!!」
迷わず飛び込んだ、ミーアの気配がした4階の部屋に。
1人の女性が倒れていた。ミーアだ。
酷いやけどはしていないみたいだが、今にも死にそうだ。心臓の動きが止まろうとしていた。
「ミーアっ!今助けるから!」
私が使える回復の手段はただ一つ、【血】しかありません。
「ミーア、あとでどんなに怒っても嫌ってもいいから、今だけは許して」
私はミーアの口に血を1滴、2滴、垂らしました。
ミーアの身体を光りが包み込んで、心臓の動きも安定してきました。
私はミーアを抱えて飛び立ちます。
「ミーアは大丈夫です。心配はありません。しかし今は静養が必要です。私が王都の屋敷へ届けます。こちらのことはよろしく頼みましたよ」
外で心配そうに見守っていた近衛騎士団の一行にそう告げると、王都に戻りました。
「ジャスティン、いますか」
まだ夜中です。寝静まっているはずの屋敷が慌ただしく動き始めました。
「どうしました?」
「ミーアが炎に巻かれました。命の方は心配ありません。私の方で治してあります。今は休ませてあげてください」
「ミルランディア様がっ!わ、わかりました。直ちに」
「お願いしますね」
「有難うございます。エルフィ様」
**********(side 近衛騎士団)
『……?』
なにかが焦げたようなにおいがした気がする。ただそのような臭いは日常のどこにでもあるものなので、特に気にはしていなかった。
『パリンッ!』
なにかが割れる音がした。窓ガラスだ。俺は音のした方を探した。
そこで俺が目にしたのは真っ赤な炎だった。
『火?ちょっと待て、あそこにはミルランディア様がいるんだぞ』
辺りが慌ただしくなってきた。騎士団の仲間も集まってきている。
「これはどういう事だ」
「分かりません。火事が起きたとしか」
「分からないじゃないだろう。火を点けられたのか」
「人の出入りはありませんでした。魔法が打たれたということもないと思います。ただ……」
「ただ?どうしたんだ」
「ミルランディア様が。……ミルランディア様がまだ中に」
「何だと!」
「隊長、私が行きます」
「ダメだ、許可できん」
「でも」
「ダメなものはダメだ。今お前が中に入っても、姫様を助けられるどころか、お前まで危ない」
「でも姫様が」
「あの方ならきっと大丈夫だ。なんせ伝説のような人だからな。絶対、生きて戻ってらっしゃる。その時に我々が欠けてたらどうなると思う」
「………」
「今は奇跡を願おう」
炎はあっという間に建物を飲み込んだ。水の魔法が使える魔法使いが水をかけているが、一向に勢いが収まる気配がない。
「姫様……」
その時、突然白い竜、いや白銀の竜が現れた。
「グゥギャアアアアアァァァァァ―――――ッ!!!!!」
竜の咆哮は凄まじいものだった。あれだけの勢いの炎が一瞬で吹き飛んだ。
白銀の竜は焼けた建物に飛び込んでいった。
「今のは……」
「ミルランディア様の竜ではないか」
「どこから来たんだ」
「分からん。気付いたらそこにいた」
「姫様を助けに……」
騎士団は竜が飛び込んだ部屋を見上げていた。ただ黙って見揚げる他なかった、祈りながら。
白銀の竜が現れ、腕にはミルランディア姫が抱きかかえられている。
「ミーアは大丈夫です。心配はありません。しかし今は静養が必要です。私が王都の屋敷へ届けます。こちらのことはよろしく頼みましたよ」
どうやら姫様は無事なようだ。
「分かりました、白銀竜様。ミルランディア姫のこと、よろしくお願いいたします」
騎士団がやらなければならないことは山積みだ。国王への説明、ドリウス侯爵への説明、火災の原因究明、侍従・侍女達の帰還などである。
団長は素早く手配を行い、そして自ら原因究明にあたった。
この火災で亡くなったのは2名。宿屋の主人と奥さんだった。彼らは2階の寝室で亡くなっていた。騎士団が見つけた時、区別が出来なかったそうだ。
火元と見られたのは厨房だった。調べた結果、罠や魔道具の形跡は一切なかった。そして外部からの侵入、放火の線もないことが分かった。
『厨房の火の不始末による失火』
これが今回の火災の原因であった。
騎士団は王都への帰還の途に就いた。しかし一様に皆沈痛な表情であった。
「報告いたします」
王都に戻った騎士団は、その足で宰相に今回の事故について報告した。
「……以上になります」
「ご苦労。其方達も疲れておるだろう。少し休むがよい」
「あの、姫様のご容体は」
「怪我もなく、既に回復なされておる。あれだけのことがあったので、王都のお屋敷で静養なさっておる」
「分かりました。ありがとうございます」
姫様は無事のようだ。流石伝説に名を連ねるお方だけある。
**********
『……あれっ、ここは……』
目が覚めると慣れ親しんだ天井が目に入った。
『ここって王都の家よね。でも私は、確か……』
「あっ!ミーアが目を覚ました」
声の主はエルフィだった。
「私、どうしたんだっけ」
「ミーアね、泊まってた宿が火事になったの。そしてミーア、死にそうだった」
「エルフィが助けてくれたの?」
「ミーアが呼んだから。『助けて』って。だから私、ミーアの所に急いで行って、助けた。でも、ごめんなさい」
「えっ?なんでエルフィが謝るの?私は助けてもらったんだから、私がエルフィに感謝するのは分かるけど」
「あの時ミーアは死ぬ少し前だったの。息も弱かったし心臓ももう少しで止まりそうだった。あそこでミーアを動かしたら、ミーアは死んじゃってたと思うの。だからあそこで治すしかなかったの。でも私には回復の魔法はないの。私がミーアを助けるためには血をあげるしかなかったの。でも、私の血は………」
「……そういう事だったのね」
「ミーアにちゃんと聞かなきゃいけないってわかってた。でもミーアは答えられないし、私もミーアを死なせたくはなかった。だからどんなに怒られてもいい、嫌われてもいいからミーアのことを………」
「ありがと、エルフィ。私のことをそこまで思ってくれて。私は怒ってもいないし嫌いにもならないよ。エルフィはずっと大切な友達だもん」
「ミーア………」
「あの時私は死にたくないって思ったし、助けてほしいって願った。自分じゃ何もできなかったからね。そこへエルフィが駆けつけてくれたんでしょ。でもどうやって来たの?」
「ワープで行ったの。前に竜の里に行ったときに、ワープの目的地が場所だけじゃなくって人でもいいってわかったでしょ。だから目的地をミーアにしてワープしたの」
「流石エルフィね」
「いつもミーアが遊んでくれるから。でもミーア、分かってる?私の血の事」
「エルフィの血?竜の血ってけがや病気を治す力があるって事でしょ」
「そうなんだけど、
「ふぇっ?もしかして、私、歳取らなくなったってこと?」
「歳は取るよ、1年に1つづつ。それに不老って訳じゃないから老もする。不死じゃないから突然死ぬことだってあるわ。ただ、寿命が延びたの」
「どれぐらい?100歳ぐらいまで生きられるようになったの?」
この世界の人間の寿命は60~70歳です。尤も多くの人は、怪我や病気、魔物や盗賊に襲われるなどの事故で早くに亡くなります。
「うんと、多分、2000歳ぐらい」
「2000!?それもう、人じゃないね。ハハハ……」
「だから、ごめんなさい!」
「でもさ、おばあちゃんになってから2000年も生きるって事?」
「多分違うと思う。老いてくるのは多分1900年を過ぎたころからだと思う」
「じゃぁずーっと若いまんまいられるんだ。それはそれでありかも知れないわね」
「ミーア………」
「嘘よ。2000年ってとっても長いわよ。この国だってまだできてから数百年しかたってない。2000年前のこの世界がどうだったかなんて、それこそ古龍様じゃないと分からないわ。2000年先がどんなになってるかなんて想像もできない。もしかしたらヘンネルベリ王国が亡くなっちゃうかもしれないんでしょ。そんなの私が見てられると思う?」
「………ごめんなさい………」
「でもなってしまったものは仕方ないわ。この身体でできることを探すしかないわね。でも2000年かぁ。お伽噺のエルフみたいよね」
「?エルフってお伽噺じゃないよ。この世界にホントに住んでるよ」
「何っ?エルフってホントにいるの?どこに?」
「落ち着いてよ。エルフって、ミーアのいるこの大陸じゃない、別の大陸で暮らしてるの。森の中に強力な結界を張ってね」
「へぇ、初めて知ったわ。会ってみたいなぁ、エルフに」
「ミーアなら会えるんじゃないかな。時間はあるんだし」
「そうね。領地経営に目途が立ったら自由にこの世界を旅するのも悪くないわね」
「ドワーフやハーフリングなんかも住んでるわよ。もちろん獣人や魔人、妖精もね」
「エルフィ、一緒に旅しようよ」
「ミーアが連れてってくれるんだったら、私はどこへでも行くわよ」
「じゃぁ決まりね」
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