第103話 ミーア死す!?

公爵領では領民も順調に増えてきています。集合住宅も大分建てました。分譲タイプのものと賃貸のもの。賃貸の物件は冒険者に人気です。家族向けで作っているものが多いので、4~5人のパーティーだと宿屋より安く借りられるみたいなので。


私がポルティアにかまっている間、魔導発動機が開発できたとの報告がありました。


「魔導発動機が出来たって聞いたけど、どんな感じ?」

「はい。こちらが開発した魔導発動機になります」


帝国製のものと比べて大分コンパクトなようです。


「性能はどうなの?」

「帝国製のものより力も回転数も出ています。耐久性については現在試験中ではありますが、既に目標値は越えています」

「量産の目途は?」

「今のところ月に4~6台と言ったところですが、本格的な量産となれば現在の設備でも月に10台は問題ないです。魔導発動機用の専門の製造工房であれば、工房の大きさにもよりますがそれなりにはできるのではないでしょうか。特にレアなスキルは使っていませんので」

「そうしたら、このタイプのものを月2台のペースでいいですから作り続けてください。それから違うタイプの開発をお願いします。1つは軽くて小さいもの。力も回転数もここまではいいわ。主に農機具に使うものとして考えて。それからもう一つは大きさはこれの5倍ぐらいあってもいいから、とにかく力が欲しいわ。使うのは船ね」

「船ですか?」

「ええ。今の船の動力は主に風だけど、それだと天気に影響されるでしょ。向かい風だと進みにくいし。まぁ風の魔法使いを使えばある程度自由は効くけど。それに帆を張ると船って不安定になるのよね。だから私はこの魔導発動機を船の動力に使いたいのよ。これなら天気の影響も少なくなるし、船の速さもかなり出ると思うの」

「それはいいですね。是非やりましょう」

「あとこの魔導発動機、デザインの所や力を伝える研究をしているところにも渡しておいてね」


クルマの開発は順調なようです。車輪もできてるし、魔導発動機もできた。車輪の軸受けもできていて、馬車や荷車に応用させています。

領内の舗装された道を走る分には大丈夫そうですから、多少荒れた道でも走れるような車も開発した方がいいですね。特に領外に出るためには。車輪と軸受け、発動機も大きくした方がいいし、多少のことでは壊れない耐久性も必要だから、今開発してるのとは別物になりますけど。



**********



「ミルランディア殿、少しよろしいかな」

「何でしょうか宰相殿」


王宮での会議の後、国王、王太子そして宰相(いつものメンバー)に呼び止められました。


「王国西部のドリウス侯爵領の領都ガドルの開都100周年の記念式典に出席してきてほしいのだ」

「構いませんけど。それは公爵として……、じゃなくって国王代理としてですよね」

「そうだ。代理としての仕事だ」

「飛行やワープでパパッと行くのは」

「ダメだ。ちゃんと近衛兵の警護の下ガドルへ向かうのだ」


一番苦手な旅です。イベントは起きない、話し相手もいない、ひたすら馬車の中、などなどなど………。

飽きるんですよ。しかも今回の旅にはサフィアもエレンもいません。夜、違う意味で襲われる心配はないのですが、いかんせん話もろくにしたことない人たちばかりですから。


王都からガドルまでは馬車でおよそ10日。宿や即時の心配はありません。夜営などと言うこともありません。私は平気ですけど、侍女の方辺りはダメでしょうからね。


ドリウス侯爵領には鉱山が幾つかあり、良質な鉱石を採掘しています。私の所にはまだ鉱山が見つかっていないので、こういったところとのお付き合い大切です。バイクもクルマも船もたくさんの鉄を使いますから。

その分農業の方は今一つと言ったところです。鉱山による収入が多いので食料は外から狩っているみたいです。うちもそこに1枚噛めればいいのですが。


当面の仕事は記念式典への出席です。国王代理ですからお客様扱いで、きっと挨拶もあるんでしょうね。そこら辺はもう慣れましたけど。


10日の予定ですから、余裕を見て2週間前に出発です。魔法で移動できるんだったら3日前ぐらいで十分なのにです。でも前にルイスおじさんやおじいさまが言っていた、途中で使うお金もこの国では大事なのです。だからしょうがないよね、今回は冒険者じゃないんだから。


退屈な馬車です。でも前に使ってた馬車と違って、乗り心地は改善されています。前はホント揺れて、おしり痛かったから。

そこへ行くと今乗っている馬車は、クルマ工房で開発した軸受けを採用しています。今は4つの車輪が別々に取り付けられたものなので、だいぶいい感じです。さらに鉄輪ではなくスライム車輪を使っています。これで乗り心地が悪い訳ありません。


この新式の馬車はまだ私のしかありませんけど、もう暫くしたら広く出回るんでしょうね。今のところこの改造ができるのは、ウチのクルマ工房しかありませんから、本格的にクルマの生産が始まるまでの繋ぎとしてはいいのかもしれません。



ただただ座っているだけの時間が過ぎていきます。今回の旅では索敵もしていません。だって私一人に侍従、侍女合わせて10人、警護の騎士団50人ですよ。特殊部隊もいるそうです。盗賊団はないにしても、魔物はいますから。


旅も半ばを過ぎ、小さな町に着きました。今日はこの町に泊まるそうです。

私が泊まるのは、町で一番の宿です。町長のお誘いもあったのですが、宿の方が私も気を遣わないで済みますから、無理を言ってそうさせてもらいました。明日の朝も早いですからねぇ。


まさかあんなことが起こるとは思っていませんでしたけど。




私は確かに気を抜いてしまっていたのかもしれません。でもこの1週間、冒険者ではなく王族として、護衛する側ではなくされる側として久しぶりにリラックスして過ごしていました。


そして今。町一番の宿の最上階、4階の一室で休んでいます。

日付が変わるころ、眠っていた私の周りに白い煙が立ち込んできました。


「げほっ!」


煙にむせた私の目は覚めてきたのですが、体が動きません。


『襲撃?罠?麻痺?』


宿に入った時に罠の探索は行いましたが、何も見つかりませんでした。

怪しい人もいませんでしたし、建物の周りは近衛騎士団が見張っていますので、人の出入りはないはずです。

だんだんと熱くなってきました。


『これは……、火事!!』


この時すでに宿は炎に包まれていました。外で人が騒いでいるのが聞こえます。


『逃げなきゃ。でも……』


身体が動きません。頭はパニックです。


『私……まだ……死にたく……ない……』






『……た……す……け………て………』





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