第102話 港町ポルティア

久しぶりにフロンティーネに帰ってきました。思ったよりカルシュクが長かったのもで……


「何か変わったことはなかった?」

「えぇ、特には。最近は畑の収穫の順調です。おかげで町中に出回る野菜の種類もだいぶ増えて来てます」

「それはいい傾向ね。ところで麦は?」

「麦も在庫が増えてきています。希望があれば他の町に売っても大丈夫です」


街の様子は至って順調なようです。もう私がいなくても平気なのね。

とは言えまだクルマの工房は立ち上げの目途もたたず、ひたすら研究の日々です。魔導発動機の独自開発までもう少しと言うのは朗報でした。何と言ってもこの技術は応用がききまくりますからね。クルマだけじゃなくって魔道具にも船にも。


そう船なんです。私がこの地を公爵領にしたもう一つの目的、南の森を抜けた先にある海。海沿いに町が出来れば漁ができ、魚が食べられます。

港町とここをクルマ用の道で結べば、獲れたての魚がやってくる。そうなれば魚料理目当ての旅人もここを訪れるはずです。



「アルトーン、海の方の開発をしてきたいんで、また少しいなくなるけど大丈夫よね」

「今度は海ですか?」

「そうよ。港町を作って、漁が始まれば魚も獲れるし、荷物を運ぶ大きな船が泊まれるような港を作れば、ニールや外国とも商売ができるわ。クルマ工房で研究している魔導発動機は船にも応用できるから、船の工房を作ってもいいし。フロンティーネは農作物とクルマとバイク、あと冒険者ね。港町では漁と交易、造船は出来ればいいかな。あとどこかに鉱山でも見つかればいいなって思ってるんだけど、それは先の話ね。広い森の中に冒険者のために安全地帯を作った方がいいし、せめて馬車が通れるぐらいの道は欲しいからね」

「領主様はここをどうしたいのです?」

「領民には安定した仕事を与えてあげたいの。冒険者には夢よね。幸いここには魔物の住む森が、南と北に広がってるでしょ。しかもほとんど手つかずで。元々辺境で人もあまり入らなかったし、帝国の時も開発はしてなかったみたいだから。それに山を越えた先だから、そこにいる魔物も王国のものとは少し違うみたいなのよ」

「ここは領主様のものですから、開発を自由にやっていただいてけっこうですけど、気を付けて下さいね」

「分かってるわよ。とりあえず港町から手を付けるから」



開発を手掛け始めておよそ半年、ようやく港町が出来ました。なんでそんなにかかったかって?普通にやらなきゃいけないお仕事もいっぱいあるんです。会議、書類、陳情、視察、パーティー、……。


ここ最近はパーティーの招待が多くて。面倒なんであんまり出たくはないんですけど、おじいさまに『それも王族の仕事だ』なんて言われたら仕方ありませんよね。私が行くとどうしても目立っちゃってね。

パーティーに参加する女性って、みんな優雅なんですよ。オーラが違うっていうか。一方私はって言うと、(元)冒険者で、盗賊団退治やサウムハルト事件や魔薬事件みたいな荒事に関わって、アズラート帝国と交渉して、ファシールやフロンティーネの開発をやって、……。

優雅って何ですかって感じですね。全くそういう気配がありません。やってることが男の人と同じなもんで、お屋敷でのほほんとしているお嬢様方のようには振る舞える訳がありません。

お話だってそうです。王族公爵ですから機嫌を損ねちゃいけないって感じで来るのは分かりますけど、まぁ話が合わない。よっぽど当主と領地経営の話をしていた方が落ち着くぐらいですから。

とは言え、こちらは妙齢の独身女性です。そろそろ何とかしないとと言う気持ちはあります。目に叶う相手がいないだけで。


新しくできた港町は『ポルティア』と名付けました。いい名前でしょ。

ポルティアに作ったのはまずは港ね。漁船用の港と荷物用の大きな船が泊まれる港の2つです。漁船用の港の傍には水揚げされた魚の市場、大型船の港の傍には検査場も作りました。

あとは海水から塩を作る施設です。塩はとても大事なものなのですが、王国では多くの塩を岩から作っています。ニールなんかでは海水から作っていますが、あまり他には出回っていません。領内で消費する分は問題ないけど、一応国の専売だからね。私は立場が立場なんで、専売に一枚噛もうって事。

あと造船の工房ね。でもこれはいつ立ち上げるかわかんないから、町はずれに広い土地を用意しただけ。造船工房より先にクルマ工房だもんね。

あとはいたって普通。役所、領主邸、役人用の住宅、一般向け集合住宅、マーケット、宿屋、などなどなど。住宅街の整備も抜かりはありません。道もスライム舗装してあります。車は走らないかもしれないけど、バイクは走りますからね。

畑のことはあまり考えてなかったんですが、ニールに行ったときに嬉しいものを見つけちゃったんで、ここで作ることにしました。いろいろなハーブと香辛料、それから目玉はサトウキビです。麦や芋を作ることは考えていません。何と言ってもフロンティーネに行けば売るほどあるのですから、わざわざここで作る必要はありません。だからポルティアでは砂糖やコショウやトウガラシと言った高級品を重点的に作るのです。


で、何で半年もかかったかと言うと、フロンティーネとポルティアを繋ぐ道、この町の生命線である道を作るのに時間がかかったんです。馬車で三日ぐらい、大体200~250キロぐらいかな、このあいだをクルマだけが走る道を作ったんです。しかも途中は全て魔物の住んでる森でしたから、魔物に壊されないような道で、それでいて魔物が困らないようにしなければならなかったのです。

そこで考えたのが、全部橋の道。丈夫な橋桁を作って、その上に道を作ったのです。これなら魔物が入ってくることもないですし、魔物の生活もさほど変わりません。

この道を走るのはクルマだけ。クルマなら片道3時間もあれば着きますが、馬車だと途中で休まないといけません。それにあまりにスピードが違い過ぎるとかえって危ないからね。

この道を人を運ぶために1日3往復、荷物を運ぶために1日5往復の定期便を運航します。

また帝国に行って大きな人用のクルマと荷物用のクルマを買ってこないとな。



**********



「ルイスおじさん」

「おぅ、ミーアか。丁度いいところに来た。チョッといいかな」

「何ですか?」

「うちの息子たちのことなんだが」

「フィルスラード殿下とキルシュレイク殿下のことですか?」

「あぁ。あの二人、先日爵位を取ったぞ。ちゃんと自分の力でな。両方とも男爵位だが」

「それはおめでとうございます」

「お膳立てをしたのはミーアだけどな」

「私ですか?何もしてないような……」

「カルシュクだよ。あの事件の対応で第一騎士団が出ただろ。その中で特にいい働きをしたそうだ」

「あぁ、あの事件の解決に関わったんですね」

「それでな、前に『爵位を取ったら領政官に』と言う話があったろ。そこでお願いしたいんだ」

「いいですよ。やって欲しいことはたくさんありますから」


頑張ったんだね。でも領地経営は別の意味で大変だからね。期待してるよ。


フィルスラード殿下にはアルトーンの下で全般を見てもらうことにします。ゆくゆくは国王候補なのですから、宰相補佐の職もあるかも知れません。そのための準備として、全体の把握が出来るようになってもらいます。

キルシュレイク殿下にはポルティアを任せようと思っています。1つの町とはいえ領主です。しっかりと経営をして公爵領全体を潤してください。


「フィルスラード殿下には領政全般について携わってもらおうと思っています。伯父さんもゆくゆくは国政に携わらせたいと考えているんじゃありませんか?」

「そうだな。グランも継承権は持ってはいるが、やりたくなさそうだしな」

「私もですよ。国王は勘弁してください」

「ミーアは俺の次をやるんじゃないのか。領地経営はそのための準備かと……」

「公爵領はいろいろ試してみたいことがあったからです。一応順調にはきてますし、工房が立ち上がれば次の段階に進めそうです。

それと国のトップに立つのは別です。それにこの国で女性が国王になったことってあるんですか」

「女王はいないな。でもミーアがやることに問題はないんだぞ。今では国民の人気もうなぎ上りなのだから」

「その話は一旦置いときます。キルシュレイク殿下ですが、公爵領の2つ目の町、ポルティアを任せようと思います」

「ポルティア?聞いたことないが……。ミーアが言ってた海の所に作るって言ってた町か」

「そうです。この間、一応開発が終わったので、本格的に始動させようと思ってたところに伯父さんの話があったので、お願いしようと」

「うちので用が足りるのか」

「分かりませんけど、いい経験になるんじゃないですか。少し特殊な町ですが」


この後、ポルティアのことをいろいろと話したら、是非見たいということで招待することにしました。いろいろと興味を持ってくれたようです。



「ところでミーア。お前はあそこで何がしたいんだ」



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