第100話 潜入捜査(パート3)
それにしてもあの領主は一向に外出する気配がありません。それどころか朝食を食べてすぐだっていうのに、女の子3人を連れて寝室に向かうではありませんか。まったくけしからん野郎です。でももうチョットだけ覗いてみよかな。
やっぱりやめました。だって肌色の塊が縺れ合っているんですよ、日の光の中で。サウムハルト事件の時にもたくさん見てますから別にどうってことはないんですけど、これはちょっと違うんですよ。前の時はやらされてた感が強かったんだけど、こっちは何かみんな楽しんじゃってて。あー、ヤメヤメ!
こんなことしてる隙に勤労刑受刑者の書類を複写しちゃいましょう。
『複写っ♪複写っ♪♪』
ってなんでこんなにあるのよ。まったくえらい量の資料です。まぁそれだけ受け入れたって事なんでしょうけどね。受刑者の更生の為でなく魔薬を作らせるためにって言うのは許されないけど。
全部の資料を写し終えてもう一度あの部屋を覗いてみたんです。アンタも好きだねって?そりゃぁね、興味はありますよ。相手は選びますけど。
驚いたのはまだやってたって事。凄い体力ですね。でもこれもしかして、薬使ってる?
そんなことより魔薬に関する書類です。無いはずはありません。必ずどこかに……
でも決定的に足りないのは時間です。予定では明日朝にはここを発ちます。変に長居して疑われても困るんで。だからチャッチャと見つけなきゃいけないんです。最悪複写は夜中になってもいいから。
『そっか、こんな時に頼ればいいんだよね。【世界樹の記憶】に』
私は
『…………って、どこにあるのよっ!』
いやね、あると思ったんですけどね、分かんないんですよ。と言うより探せないんです。とにかく膨大な知識の中から1つの項目を探し当てるなんて、砂漠の中から砂粒1つを見つけるようなものです。時間があれば見つかるんでしょうけど、今は時間がないって言ったよね。
『もしもし……』
『………』
何か頭の中で声が聞こえた様でした。誰かが私のことを呼んでる?
『もしもし、何か探しものですか?』
『えっ!私に話しかけてるの?」
『もしもーし、聞こえてますかー。聞こえてたら返事してくださーい』
『あ、あなた、誰?何?どこにいるの?』
『はーい、聞きたいことは一つづつでお願いしまーす。私は世界樹の記憶のサポート妖精でーす』
『サポート妖精?って何してくれるんです?』
『世界樹の記憶からの探し物のお手伝いでーす』
『こんなの初めてなんですけど……』
『ごめんねぇ。最近こっちのお仕事がなくって、別なことしてたのよ。世界樹の記憶に触れることが出来るモノなんてほとんどいないし、探し物も最近は殆どないからねぇ。ところであなた誰?初めてよね』
『私はミーア。世界樹の記憶に触れられるようになったのは古龍様のおかげよ』
『龍かぁ。あれは長生きだからなぁ。でも何考えてんだろ、人間なんて寿命のやたら短いのに与えるなんて』
『他にどんな人たちが世界樹の記憶に触れられるんですか?』
『ハイエルフとか精霊とか、あとは魔族か。みんな寿命は結構長いよ。龍は長いのだと50000年ぐらいだし、ハイエルフも10000年ぐらいかな。魔族だって1000年ぐらいは生きるからねぇ。でも人間は長くったって100年でしょ。そんな短命な人間に世界樹の記憶を使えるのかなって』
『ははは、皆さん長生きなんですね。そうじゃないや。えぇと、お願いしてもいいでしょうか。私、探し物をしたいんです。生き物じゃないし魔力を持ってるものでもないんですけど。まぁぶっちゃけ書類とか薬とかなんですけど。なんかいい方法がないかなって』
『なるほどねぇ。ちょっと待っててね。それからあなたのことも見せてもらうわね』
どうやら探したいことをお願いすると見つけてきてくれるみたいです。大分曖昧なものでもやってくれそうなんで助かります。
『えぇと、あなた面白い
あのね、ミーアが言ってたのって【探し物】ってスキルなの。それをあなたが使えるようにすればいいわよね。ついでに【マルチマップ】と結び付けとくね』
『あのぉ、新しいスキルが増えるんですか?そんなこと出来るの?』
『そう、新しいスキルよ。それにアナタ世界樹の記憶に触れているのよ。必要であればスキルだってなんだって使えるんだから』
『そ、そうなんですね。あ、ありがとう』
『どういたしまして。じゃぁまたなんかあったら呼んでね』
『あっ!ちょっと待って。アナタ名前は?』
『私?私はナルシャンファルビよ。長いからみんなナビちゃんって呼んでるわ』
『じゃぁナビちゃん、これからもよろしくね』
『短い間だと思うけどヨロシク。遠慮しないで呼んでね』
ははは、なんか凄い娘が出てきました。多分女性だと思うんだけど。そもそも妖精って性別ってあるのかな。私が女だから女性なのかな。
で、また探し物系のスキルが増えました。もう探すことに関しては怖いものなしですね。いいんだか悪いんだか……
さっそく使ってみました。まずは魔薬に関する書類です。
スキルを使って探してみると、………ありました。やっぱり領主邸じゃなかったです。どこかのお店なんでしょうね。
よしっ!マルチさん、出動です。
マップの示した先にあったのは、商店ではなく一軒の家。貴族の邸宅には見えないね。いいとこ『チョッといい感じにお金持った平民』って感じの家。でも私にはわかっちゃうんです、この家が普通じゃないことが。一見普通の家に見えるんですけど、地下室があったり抜け道があったりしています。よからぬ事を企てるにはよさそうな場所です。
書類があったのは地下室の壁に架けられた額縁の裏に隠された棚の中です。ヤバいものだからそこいら変に放置ってことはないよね。
幸いなことにこの家には誰もいません。ここぞとばかりに複写に励みます。大事な証拠です。
あと魔薬の隠し場所もちゃんとチェックしてありますよ。この部屋の床下にたんまりと蓄えられていました。ワルですねぇ。
それはそうと、この家と領主の関係を明らかにしないといけません。まだ直接的なつながりは掴んでいないのよね。
スキル【探し物】の範囲をこの家と敷地に絞って領主に関するものを探します。
おっ、何だあるじゃないですか。ムルジット家の紋章の付いたものがあっちこっちに。ティーセットやらお皿やら、そんなのが多かったですけど、応接室っぽい部屋の机の引き出しの奥に、紋章の付いた指輪が見つかりました。
「魔薬の調査と証拠集めは終わったわ。あとは洞窟にいた魔薬を作っていた人たちの住まいが分かればお終いね。予定通り明日の朝帰るわよ」
一通りの捜査を終えた私たちは、翌朝何もなかったかのようにカルシュクを出ました。来た時と同じように馬車でね。
町中ですれ違う人は、やっぱりなんかみんな怪しそうですね。やたら目つきの怪しい人、剣を抜き身で持ち歩いてる人、一目を避けるように歩く人、などなど。
前からフードを目深にかぶった男が歩いてきます。まぁこの町じゃこんな人は吐いて捨てるほどいますから、別にどうってことはないんですけど……
『あれっ?あの人……どこかで会ったことあったっけ』
なんとなく知った感じの人でした。誰だか思い出せませんでしたけど。
「よぅ、もう帰るのか」
「そうね。ダンジョンも入れないし、あなたが言うようにこの町は余り観光向きじゃなかったしね」
「わかりゃいいんだよ。この町に興味を持つ奴らに言っといてくれよ、つまんねぇ町だって。お前らもせいぜい気を付けて帰るんだな」
「そうするよ。だからこんな朝早く帰るんだよ。暗くなってからあの路を通るのは嫌だからね」
「違いねぇ。じゃぁな」
**********(side ???)
『あれはミルランディアじゃないのか……でも一体なぜ……』
フードを目深にかぶった男は、ミーアの一行を見かけると不自然に目を逸らした。
『気のせいならいいんだが……』
「おいっ、最近不審なものがこの町に入ったって話、聞いていないか」
「いえ、特には。不審と言われればこの町自体がこんなんですから。まぁ一応こんなんでも町ですからねぇ、商人や冒険者の往来ぐらいはありますよ。どっかの役人が来たんなら着く前に知らせが入ることになってますから、何もないって事はそういうことじゃないっすか」
「そうか(やはり気のせいだったか)」
「何か気になる事でも」
「いや、なんでもない。あと、世話になったな」
「いえ、こんなのお世話したうちに入りませんって。不自由ばかりお掛けして申し訳ありませんでした」
「また俺の力になってくれるか」
「もちろんです」
「俺は今日にでもここを出ようと思っている。まぁまた来るがな」
「今度はどちらへ」
「お前が知る必要はねぇよ。まぁ俺のシンパの所だ」
「お気をつけて」
「あぁ。じゃぁな」
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