第97話 カルシュク潜入
フロンティーネを出立した私たち一行は、一路カルシュクへと向かっています。今回はあくまで情報収集。従って王族の使節団として乗り込むわけにはいきません。あくまで冒険者
何も起きません。ホントに何も起きないんだって。盗賊も出てこないし、馬車が壊れて立ち往生してるっていうのにも遭遇しません。遠くにゴブリンがうろついていたことはあったけど、こっちには来ませんでした。
今回は目的地で少し重たいイベントが待っているので、気を遣わない道中は幸いでした。
しかしそれも旅の初めだけ。旅も終盤、カルシュクが近づくにつれて雰囲気も悪くなってきます。最後の分かれ道を入った先は、盗賊、盗賊、盗賊、そして盗賊でした。
「これって、カルシュクの領主は何もやっていないですよねぇ」
「そうだな。これだけの盗賊を野放しにしているとなると、外からの商人も来ないだろう。町がどうなっているのか気にはなるな」
まぁ実際の所、敵じゃないから問題はないんですけど。慰謝料の請求に行けないのが残念ですけど、近衛が一緒だからしょうがないかな。今度フェアリー隊を連れて来てみようかな。
襲ってきた盗賊はどうしたかって?そんなの決まっているじゃないですか。問答無用の皆殺しです。近衛にも手を出させません。デスミストでさようならです。命乞いさえさせませんよ。盗賊に人権はありませんから。だって奴らは問答無用で殺しに来るんですよ。私とシャルルは捕らえようとしますけど。まぁ、自業自得ですね。
そんな盗賊街道を何事もなかったかのように抜けて、カルシュクの町に入りました。
「お前たち、ここに何の用だ」
「この街にはダンジョンがあったって聞いたんで、ちょっと興味があったんで見に来たんですけど」
「あぁダンジョンね。でもあそこは今立ち入り禁止だぞ」
「なんかあったんですか?」
「あんなとこほっといたら魔物が住み着くだろ。だから今は厳重に閉じられてるのさ。無駄足だったな」
「そうなんですか。残念です。でもせっかくここまで来たんで、町を少し見たり狩りをしたりしてみますよ」
「悪いことは言わねえから、早いとこ帰った方がいいぞ。そんな可愛い嬢ちゃんの来る町じゃねぇからよ」
「アドバイスありがと。で、入っていいんでしょ」
「7人だろ、銀貨7枚だ」
「私冒険者なんだけど。ギルドカードも、ほら」
「決まりなんだよ。領主のムルジット様がそう決めたんだ。領主さまが認めた者には、この町の通行許可証が発行される。それを持っていないやつはたとえSランクの冒険者だろうが騎士団だろうが関係なく金をとる。それがこの町のルールなんだ」
銀貨7枚を払って町に入ります。ごねて目を付けられたらたまったもんじゃないですからね。ここでの仕事に支障が出ては困りますから。
「ギルドはあるの?」
「冒険者ギルドか?前はあったが、今はもうねぇよ。何年か前に引き払っちまったよ」
「どうして?」
「ダンジョンが潰れたからさ。ダンジョン目当ての冒険者がいなくなればギルドがある意味なんかねぇよ」
「宿屋はあるの?」
「何軒かあるぞ。この道をまっすぐ行って右側にある大きな建物がこの町で一番の宿屋だ。女がいるんならそこにしな。悪いこと言わねぇ、他んとこじゃ何があって知らんからな」
「分かった。情報提供感謝する。少ないが取っておいてくれ」
ガランさんが門番の男に銀貨5枚を握らせます。
「貰っとくぜ」
町に入った私たちは人目のつかないところで馬車と馬を片付けます。宿の部屋はホントなら私は1人部屋なんだけど、この町で私が1人になるのはよくないとガランさんの一言で、2人部屋を4人部屋と言うことになりました。近衛に人が私に手を出すわけがないのは分かっているので構わないですけど、寝姿をみられるのはちっと恥ずかしいかも。でも夜営の時は雑魚寝の時もあるからね。今回は冒険者モードだから気にしないで行きましょ。
「2人部屋と4人部屋?あぁ開いてるよ。2人部屋は1泊銀貨20枚、4人部屋は40枚だ。飯はついてないよ、何泊するのかい?」
「とりあえず3泊でお願い」
「なら銀貨180枚だ」
私は金貨2枚を出しました。
「おつりは要らないから」
「まいど。これがカギね。部屋は3階だから」
部屋の様子を見に行きます。悪くはないですけど、決して良くはありません。風呂もないですし、ベッドも言うほどきれいじゃありません。この部屋で一人銀貨10枚はボリ過ぎです。
「荷物を部屋に置いておいたらダメよ。この町は外から来たお客さんを大事にするような街じゃなさそうだから。外出している間に誰かが入ると思ってた方がいいわね。荷物があるなら私が持つから」
「姫様に持たせるわけには」
「特別な収納があるの。馬車や馬を入れたやつね。そこに入れるだけだから問題ないわ」
「分かりました」
「それから夜は交代で見張りをするように。私のほうは魔法で防御壁を作れるけど、そっちの部屋はできないから」
「そこまでする必要があるのでしょうか」
「念には念を入れてって事。何もなければOK。何かあってからじゃ遅いからね。ここは私たちの知っている王国じゃないと思った方がいいわ」
「「「「了解です」」」」
「私も見張りをした方がいいのでしょうか」
「ガランはいいわ。夜寝ないで昼間ボーっとされても困るし。防御壁で守るから大丈夫よ」
「ありがとうございます」
「でこれからの予定なんだけど、少し早いけど町の様子を見つつ夕食にしましょう。そのあと酒場に行ってみましょう」
「姫様はお酒は大丈夫なのですか」
「多分、って言うか平気。私酔わないから。ガランは私と一緒に来てもらうけど、少しは飲んでね。まったく飲まないとかえって怪しまれるから。2人は店の中、少し離れたところにいて。あとの2人は大変だけど店の外でお願い」
「分かりました」
「それじゃぁ行きましょうか」
食事も終えいい時間になってきたので、いよいよお仕事の開始です。町を見て回ってた時に店は見つけてあります。
「2人なんだがいいか」
「金さえ払ってくれれば構わねぇよ。空いてるとこに座んな」
話を聞く
カウンターの端で一人で飲んでる男の隣に座りました。
「なんだよ、こんなに空いてるんだから他行けよ」
「この町に来たばかりだから、少し教えて欲しいかなって。聞かせてくれたらご馳走しますよ」
「本当か。まぁ分かる範囲で教えてやるよ」
「ここじゃ狭いから向こうのテーブルに行きません。マスター、エール3つお願い」
店の奥のテーブルに移動です。持ってきたエールは生ぬるいものでした。チョイチョイと魔法を使って冷やします。絶対こっちのほうが美味しいからって。
「とりあえず飲んで。冷やしといたから美味しいわよ」
男は一口飲むと、驚きの表情緒に変わります。
「エールはね、冷やすと美味しいのよ。で、話聞かせてくれるのよね」
「あぁ。話だけじゃなくその後の面倒も見てやってもいいぜ」
「それは要らないわ。それと私に手を出そうとするとこうなるから」
ドールマスターの力を使って、男の手で男の首を絞めます。
「わ、分かった。余計なことはしねぇ。酒は飲ませてくれるんだろ」
「話してくれればね」
「ならいい。で、何が聞きたいんだ」
「この町の事。どんな町なのかなって。門番には早く帰れって言われるし」
「この町、カルシュクって言うのは知ってるな。この町は近くにダンジョンがあったんだ。ダンジョンに集まる冒険者の街だったんだよ。そのダンジョンが潰れてな、残ったのは一癖も二癖もある奴ばかりさ。領主のムルジット様はそんな奴らを使って何とか町を続けてるって訳さ」
「後ろめたい人もいるの?」
「大きい声じゃいえねぇがよ、この町じゃぁまともな人間を探す方が大変だぜ」
「アンタも?」
「俺か?まぁそりゃぁな。ま、聞かないでくれや」
「別に興味ないからいいけど。でもさ、ここに来る途中の道でね、結構な数の盗賊がいたんだけど、これじゃ商人来れないよね」
「商人なら普通に来るぜ。領主さまに特別な印を貰えれば安全だからな」
「そうだったんだ。私たち大変だったんだから」
「そう言われてみると、よくここまでたどり着いたよな」
「ま、何とかね。ところでこの町で売れるものってあるの?」
「魔物関連が多いんじゃないか。魔石とか毛皮とか肉とか」
「でも冒険者はいないんでしょ。ギルドもないって言ってたし」
「俺たちみたいなやつがゴロゴロしてるからな。問題ないさ」
男からは町の様子を聞くことが出来ました。ディートのこと?それはまだです。明日にでも聞き込みをしてみましょうか。
宿に戻ると、予想通り侵入した形跡がありました。何も置いてないので、盗られるものはありませんけど。ただ、罠を仕掛けられた可能性もあったので、両方の部屋をくまなくチェックしましたが、幸いなことに仕掛けられてはいませんでした。
十分に注意するように言って、今日は休みます。亜空間シールドは忘れていませんよ。
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