第96話 ディートヘルムの死
「ミルランディア様、お知らせしておきたいことがあるのですが」
「何?」
「ディートヘルムという冒険者、今は勤労刑に就いていましたが…」
「いましたが?」
「あっ、そのディートヘルムが死亡しました」
「ディートが死んだって。それホントなの?」
「はい。カルシュクから報告書が来ていますので。それに教会の証明書もついていましたから…」
「何で死んだの?病気?事故?」
「ちょっと落ち着いて下さい」
「あぁ、ごめんなさい」
「どうして死んだのかはわかりません。報告書にはただ死んだとしか書かれていませんでしたから」
「でもなんで冒険者の死亡の報告書なんて来るのよ」
「勤労刑の刑期の途中でしたから。刑期中に死亡した場合や、重大な怪我、病気、刑期の満了については報告がありますから」
「ディートってまだ刑期中だったっけ」
「もう少しで終わるところでした。もし今生きていたら終わっていたかもしれません」
「もう少しで終わるというときに死んだ、っていう事ね。でもなぜそれを私に」
「ディートヘルムが姫の知り合いだと知っていたからです」
「そうね。いろいろあったけど、昔の冒険者仲間だからね。それだけ?」
「……申し上げにくいのですが、カルシュクは治安も悪く、あまりよくない噂のある町なのです。お恥ずかしい話ですが、私たち役人が視察に行こうとしても断られる始末ですし…」
「私に見てきてほしいって事?」
「いえ、決してそのようなことは…ただディートヘルムの死亡の原因が分からないというのはちょっと気になるところでして…」
「それについては私の気になってるところよね」
「それだけではないんです。カルシュクの町で勤労刑に就いたものは、3人に2人は死んでいるのです。しかもほとんどは刑期満了の少し前にです。刑期が満了した者もほとんどがカルシュクに留まっています。これは他の街で勤労刑に就いた者と大きく異なります」
「と言うことは、カルシュクには何かがあるって思ってるって事?」
「証拠も確信もありませんが、もしかしたら…」
「行くかどうかは分からないけど、とりあえず相談してみるわね。それからディートの件、ありがと」
「………と言う事なんですけど、ちょっと行ってみてもいいですか?」
「あまり勧めないけどな。行くなら私兵ではなく近衛兵を連れていけ」
「伯父様、ありがとう。あとで行ってみることにします」
「気を付けるんだぞ」
「その前にちょっとファシールに行ってきますんで」
お城にある私の部屋からファシールに行きました。ディートのことをカッチェに知らせておこうと思って。
「あっ、カッチェ。ちょっといいかなぁ」
「ミーアじゃない、どうしたの?」
「チョットね。できれば今日の仕事は終わりにした方がいいな」
「えっ?何?仕事を終わりにするの?」
「うん。私が話してもいいよ」
「大丈夫。ちょっと待っててくれる」
カッチェは警護のリーダーの所へ走っていきました。
「仕事終わりにしてきたよ。で話って何?」
「とりあえずここじゃなんだから、カッチェの部屋に行かない」
「いいけど、散らかってるよ」
「カッチェの暮らしぶりも見たいからね」
カッチェはここでの仕事のことやセリーヌのことを話してくれます。でも今の私には全く残りません。この後のカッチェの悲しみをどうしようかと思うと…
「散らかってるけど入って。今、お茶淹れるから」
「構わないでいいよ」
「この国の王族の姫様が来てるのにお茶も出さないなんて、そんなこと出来ませんって。あまりいいお茶じゃないけど」
「昔のまんまでいいよ。ミーアで」
「不敬罪で捕まるのはやだからね」
「そんなことしないって」
「で、そろそろ話してよ」
「……うん。…カッチェ、落ち着いて聞いてくれる」
「ん?」
「……えぇとね、……ディートが死んだの」
「……えっ!…今なんて……ディートが……どうして」
「詳しいことは分からないわ。ただそういう報告が来たって事。私もついこの間知ったんだ」
「だってディートももう刑期終わってるじゃない」
「終わる少し前だったらしいの」
「………ディート…」
「カッチェには知らせておいた方がいいと思ったから……」
「………ミーア……ねぇどうしてなの。どうしてディートがっ!」
「……………」
「……うゎーーーーーーん!」
「カッチェ……」
「ディーーーーートーーーーっ!」
私にはカッチェを抱きしめてあげることしかできません。半時ほど泣いていたでしょうか。ほんの少しだけ落ち着きが戻ってきたようです。
「ミーア、…知らせてくれて…ありがとう」
「カッチェのディートへの想いは知ってたから……」
「ホントに死んじゃったの?」
「教会の証明書があったっていうから、間違いないと思う」
「……そう。待ってるって言ったのに……」
「…カッチェ」
カッチェはディートの思い出話を沢山してくれました。パーティーでは2人で前衛をやってたからね。もちろん夜の話はなかったけど。
「ラファーネさんには私から話しておくから、少し休んだ方がいいよ」
「大丈夫。明日からもちゃんと仕事するよ。一人でいると思いだしちゃうから」
「ちゃんと思い出してあげないと。ディートの事を思い出してあげられるのはカッチェしかいないんだから」
「……うん。分かった」
「ディートの事追いかけたらダメだからね」
「分かってるわよ」
「一度私の所へ来る?」
「そこまでしてもらわなくても大丈夫」
「私はこの件について調べてくる。話せないことが多いかもしれないけど」
「ミーアも無理しないでね」
その後ラファーネさんの所へ行って、カッチェがしばらく休むことを伝えました。ラファーネさんの方でもカッチェの様子を見てくれるって言ってくれたので、とりあえずここでやることはお終いかな。
「ミーア、行くのか」
「はい。フロンティーネにいる近衛の小隊の一つと行くことにします。もっとも情報収集は始めてますけど」
「道中は問題ないと思うが、とにかくあの町は危険だ。気を抜くんじゃないぞ」
「大丈夫ですって。別に騒ぎを起こすわけじゃないですから。何が起きたのか、起きているのかを調べるだけですって」
「とにかく気を付けるのだぞ。お前も王族の一員なのだからな」
フロンティーネに戻って準備をします。近衛が警護をしてくれるから、今回は親衛隊もフェアリー隊もなしかな。いざとなれば登場させるけどね。でも今回は馬車移動か。エレンは……いいか。久しぶりにシャルルの登場だね。
近衛の隊長はガランさんと言います。同行するのは隊長をはじめ5人。3頭の馬と1台の馬車に分乗していきます。ガランさんって言うのは今フロンティーネにいる近衛の分隊、確か第五分隊って言ってたかな、その分隊の分隊長です。
「カルシュクまではおよそ15日掛かると思います」
「そんなに遠いの?」
「ここが外れと言うこともありますが、カルシュクは道が不便なんです。大きな街道からも外れていますし、近くに大きな街もありません」
「なんでそんなところに町が出来たの?鉱山でもあるの?」
「
「
「冒険者は増えますね。冒険者が増えることが必ずしもいい事とは限りませんが」
「それで今は止まってるってどういうこと?」
「ダンジョンはフロアごとに出てくる魔物の種類や数が大体決まっているようなのです。それにダンジョン内で死んだものはダンジョンに吸収されるようになっています。罠も自動的に設置されるようです。それから宝箱も。これはダンジョンの中だけで起こることで、ただの洞穴で起こることはありません。カルシュクのダンジョンは以前はその機能が働いていたのですが今は止まっているという事です」
「じゃぁ町としては目玉がなくなったって事ね」
「そうですね。元々ダンジョンのために作られた町ですから」
「だから不便なところにあるのか」
「それ故に冒険者崩れのごろつきや犯罪者上がり、犯罪者や盗賊なんかもいるっていう噂です」
「目が付けられない絶好の場所って事ね」
「そういう者どもにとってはですが」
「今回はそういうのを潰しに行くわけじゃないから。酒場での情報収集が主かな。町に入ったらガランは私と同行して。2人は近くで私の警護。残りの2人は離れたところでお願い」
「シャルル殿は」
「彼女はいいわ。町に着いたらしまっちゃうから」
シャルルは町での宿が決まったらしまう予定です。警護の対象は少ない方がいいからね。
「それに冒険者の恰好で動きます。王族だの近衛だのと知れると、情報が集めにくくなりますからね」
「私たちもでしょうか」
「そうよ。だからみんなそのつもりの準備をしておいてね」
「承知しました。出立はいつに」
「明日で間に合うかしら」
「問題ありません」
「じゃぁ明日の朝出立するから」
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