第91話  フロンティーネ始動

領都フロンティーネの開発開始から1年、第1回の領政官採用試験から半年が過ぎました。領政官も決まり、フロンティーネに移住する人も増えてきました。来週辺りから本格的に引っ越しをはじめます。

でも家ってすぐには建たないんだよねぇ。これがネックなんです。私がやったらあっという間に立つんだけどね。だったら私がチャッチャとやっちゃえばいいのか。最初の住民たちには少しぐらいサービスしてもいいよね。

と言うことでモデルハウスを作ることにしました。細かい注文を聞いてたら終わらないんで、モデルハウスで選んでそれを建てることにします。細かいところは後でやってねって感じです。もちろんタダじゃないです。

一般向け住宅は金貨10枚から50枚ぐらい。店舗や工房は40枚から70枚ぐらい。貴族向けの住宅は100枚から300枚ぐらいです。全部で15棟ぐらい作ったかな。まぁこれも領民の為だし。


引っ越しの前に私がやったのは、食料の備蓄です。ここに来たって食べ物もないからね。それじゃ困るからある程度の量を買い付けました。いやぁ領都開発って初期投資が目茶目茶かかるわ。持ち出しが大変。あとでちゃんと返してもらわないと割に合わないや。薔薇の宝石売らないとダメかもね。

あとは帝都で買い出しです。乗合用のクルマを15台に荷物用のクルマを10台、農作業用の機械も結構な数を買いました。これらはフロンティーネを支える大事なものですから。大規模な農地作業を今まで通り手作業でやっていてはやり切れません。機械を使ってガンガンやっていかないと。そこで採れた収穫物も人の手や馬車で運んでたら埒があきませんので、荷物用のクルマは大事です。フロンティーネは居住区と農業区、工房区の間が離れています。毎日そこまで歩いていくのでは時間の無駄です。そこで乗合のクルマを走らせることにしたのです。このクルマ、馬車なんかよりずっと速くて、馬車の6~8倍のスピードが出てるんじゃないかな。だから居住区から離れた農業区までもそんなに時間をかけずに行くことが出来るようになるんです。あと、居住区の一般区にも乗合を走らせることにしました。馬車も考えたんだけど、糞がねぇ。その点クルマは綺麗ですから。クルマの運転は王都の郊外で訓練しました。早速ほしいなんて言う人が出てくるぐらい好評です。でもクルマは高いからね。


一番最初に引っ越したのは領政府の住民関係の部局。次にギルド。あとは部局ごとに引っ越しをしていきました。荷物は私の空間を広げるタイプの魔法袋で預かって移動はワープゲートを使ってですからアッと言う間です。商店もいくつか開店し始めたので、いよいよ始動ですね。


領政官の引っ越しは終わりました。続いて領民の引っ越しの手伝いです。第1次の領民募集に応じてくれたのはおよそ3000人でした。これからも追加で募集していきますから、また増えていくことでしょうでも家を建てるサービスは第1次で応じてくれた人たちだけだからね。初回特典ってやつさ。

町や村を廻って移住希望者をまとめて送ります。一時的に簡易宿泊施設に入ってもらっています。作っといてよかったです。

農民や普通の商人に金貨数十枚をポンと払えなんて言うのは土台無理なことです。だから10年ぐらいで返せるような契約で建てることにしました。生活の基本は住むところですからね。ここでまじめに仕事してれば10年あれば返せるはずだよ。基本的には儲かる仕組みだから。


全部の村を廻って最後の移住者の引っ越しが終わったのは引っ越しが始まってから1カ月ぐらいかかりました。3000人からの街は少しずつ活気が出てきました。その分食料の供給が大変なんだけど。冒険者ギルドにも緊急依頼を出して、肉や果物などを集めてもらってます。ほらここってさあ、魔物の住む森が近いじゃない、だから結構集まるのよね。冒険者の中にはフロンティーネをベースにする人たちも出始めてるぐらいだからね。


領政府は大騒ぎです。まず指示したのは住民を管理すること。どこに誰が住んでいるのか。そんなことを管理している領なんてありませんから、みんな初めての仕事です。そう言えばファシールではやってたね。あと、領都の詳しい地図も作らせました。私が全部用意してもしょうがないから、こういう事はみんなにやってもらいます。

農政部も大わらわです。農民登録をしながら作付計画を立ててます。もう作付も始まってます。かなり広い畑なので、帝国製の農機具が活躍しています。使い方のレクチャーも農政部のお仕事です。もう2~3カ月もすれば早いものは収穫が始まりますから、そうなれば食糧供給も一段落です。

工房区はまだ閑散としています。クルマ工房は立ち上がりの目途さえ立ってませんし、バイク工房もこのドタバタが一段落してからになりそうです。現在動いているのが、工房区に建てた『スライム研究所』だけなのがちょっと寂しいです。基礎研究は大事ですから細かなデータは取ってもらってます。




「ねぇジャスティン、3日、いや2日でいいから休みくれない。もうへとへとだよ」

「そうですねぇ、明後日からだったら3日の休みは大丈夫そうです。休みを予定しておきますね」

「ありがとう。明後日ね。ニールでゆっくりしてきますよ。エレンとサフィアは連れて行くけど、マリアンナとジャスティンはどうする?」

「マリアンナは連れて行っても大丈夫でしょう。むしろ連れて行ってあげてください。彼女もかなり疲れていますから。私はチョッと今回は無理です。向こうを任せる人の教育をしなければならないものですから」

「じゃぁジャスティンには悪いけど4人で行くわ。あなたも無理しないでね」

久しぶりにまとまったお休みです。この1年、土木工事やら建設工事やら人集めやらとパンクしそうでした。でもおかげで綺麗な街ができたからね。その点は満足しています。税金猶予の3年間で供出した個人資産盗賊から巻き上げた金品を回収しないと。かなりの額を使ったからなぁ。



楽しいお休みはあっという間に過ぎて行くもので、私はもう王都にいます。でも新鮮なお魚もいっぱい食べられたし、のんびりできたからよかったです。


「ルイスおじさん、公爵領がやっと動き出しました」

「そうか、おめでとう。思ったより早かったな」

「そうですね、陛下から所領を貰って1年半ぐらいですから。でも持ち出しもすごく多かったですよ」

「どれぐらいかかった?」

「詳しくは調べてみないと分からないですけど、恐らく白金貨にして1000枚ぐらいじゃないかな」

「そんなにかかったか。回収の見込みはあるのか?」

「多分3年ぐらいで回収できるんじゃないかなぁ。もう少ししたらバイク工房も動き出せそうだし」

「どの貴族もお前の領地経営をみんな注目してるからな。ちゃんとやって見せるんだぞ」

「それはもう必死ですよ。でも他の領で真似しようとしても無理だね。特に農業は」

「そうか、難しいか」

「あれって多分最初から、街づくりの段階からやらないと。途中からだと効率がね。今年は自分のとこでいっぱいだけど、来年ぐらいからは作物の備蓄もできるんじゃないかな。そうすれば足りない所への供給もできると思うよ」

「この後はどうするんだ」

「うーん、とりあえずトンネルかな。うちは物流がネックだからね」

「そうだな。だがこういうことにはミーアは魔法を使わないんだな」

「うん、だってここで私の魔法を使うと、ずっとやり続けなきゃいけないじゃない。空間魔法なんて使える人っていないから。だから私がいなくてもできる仕組みにしようと思ってるんだ。それはそうと、今度視察に来ます?」

「視察と言うよりは領都フロンティーネの開都祝いのパーティーは開かないのか」

「そっか。そんなことすっかり忘れてたわよ。これはやらないとダメなんでしょうね」

「そうだな。領民の移住に協力してくれた貴族も多いから、お披露目は必要だな」

「じゃぁさっさとトンネルを掘って、来月ぐらいに開くとしましょうか。帝国の皇帝陛下も招待しないとね」

「帝国の皇帝が来るのならうちの国王も行かないとまずいな。ミーア、頼んだぞ」


パーティーを開くなんて言う宿題を貰っちゃいましたよ。しょうがないよね、貴族の義務みたいなものだから。

そういえばあの3人、どうなったんだろうね。



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