第90話 領政官採用説明会

「ここにお集まりの皆さんは、公爵領で領政に就くことを希望される方々でよろしいですね」

本格的に領地経営を始めるにあたって文官の選抜をはじめます。結構集まったね。内務局とナジャフさんに声をかけてもらったはずなんだけど、50人ぐらい来てるよ。

「では皆さんにお聞きします。公爵領がどこにあるか知っている方、手を挙げてください」

30人ぐらいかな、サッと手を挙げた人は。マズいと思って下を向いちゃった人も10人ぐらいいる。ん?周りをキョロキョロと見渡してからそーっと手を挙げた人がいるよ。

「そこの貴方、名前を行ってからお答えください」

指したのはもちろんさっきの人です。まさか指されるとは思ってなかったのでしょうね。ちょっとあたふたした感があります。

「あなたですよ。どうぞ」

「は、はい。マルベルト伯爵です。えぇと……公爵領は……たしか……南の方……じゃなかったかな」

「いいですか。みなさんは正直にお答えくださいね。分からなかったら分からないでいいんです。つまらない見栄など張る必要はありません。知らないことは後で知る努力をすればいい事ですから」

「す、すみませんでした」

掴みはOKかな。これで見栄を張り続けるようならよっぽどの大物か、話を聞かないバカのどちらかだもんね。

「公爵領は王国の東部、グラハム辺境伯領の更に先のアズラート帝国との国境沿いになります。つまりグラハム辺境伯領よりさらに辺境という訳です。その地はかつてアズラート帝国によって侵攻された土地で、和平協定を結んだ際に王国に返還されたところです。南北に長く、東西は1日もあれば十分に行き来できるほどの広さです。ただ領のほとんどが魔獣の住む森で、わずかに開かれたところに領都フロンティーネを作りました。皆さんはその地で領政に就くわけですが、今の話で無理だと思った方はお帰りになっていただいても構いません」

ざわつきます。そりゃそうよね。いくら公爵領と言っても辺境の片田舎で魔獣の住む森に囲まれた小さく開けたところが領都だなんて言われたら、どんな生活ができるのか不安になるもんね。

「あの、すみません。領民はどれぐらいいるのでしょうか」

「そうですね、帝国が支配していた時は、そこには4~500人が住んでいました。4つの集落に分かれていました。その人たちは恐らく領民として残るでしょう。あとは今、移住を希望する人を集めてるところです。私の見通しでは3年ぐらいで5000人以上になると考えています」

「公爵様は普段は領都におられるのでしょうか」

「私は普段はここですね。国政の仕事もありますし。でも何かあればすぐに領都には向かいますので問題ないと考えていただいてけっこうです」

またざわつきます。そっか、普通にしたら王都からフロンティーネって7~8日かかるんだよね。往復で半月か。それじゃ間に合わないと思われてもしょうがないのかな。

「えぇと、私は魔法を使って移動しますので、ここからフロンティーネまでは2~3時間で着きます。なので皆さんが思っているほど私の移動に関して時間はかからないと考えていただいてけっこうです」

魔法で移動って言ったらまたざわついちゃいました。

結局3~4人かな、帰った人は。正直便のいいところじゃないからね。トンネルが出来れば少しは変わるのかな。

「それでは公爵領の領政の方針についてお話します。

領はこの国の他の領と大きく異なります。領都については既に多くの施設が出来上がっています。住宅や店舗はそれぞれで思うところもあるでしょうから建ててはいません。領政庁舎、高級宿、簡易宿泊施設、市場、大型店舗、一般向け集合住宅などは出来ています。冒険者ギルド、商業ギルドも支部を作ることになっています。教会についても建てることは決まっています。あと道、下水についても整備が終わっています。ですから、住むところを建てれば仕事はできるという状態になっています。

限られた敷地での領政となりますので、農地についても開発が済んでいます。あとは工房区についてもそうですね。大きな工房を2つ作ろうと思っています。詳しくは担当になった人に説明します。

魔獣などの襲撃に備えて、領都と工房区、農業区については壁で守られています。従って領都の中は比較的安全と考えてもらって結構です。

ここまでで何か質問のある人」

「すみません。農地の開発が終わっていると言われましたが、どうやって使うのでしょうか。この国の農民は自分で開墾した畑で農業をすると考えている人が殆どだと思いますが」

「農業については農政課に登録してもらって、登録した人すべてで農作業にあたってもらう予定です。1人が小さな畑を耕すのではなく、1000人とか2000人とかで大きな畑を耕すのです。収穫した作物は原則として領に全て集めます。農業に携わる人はその働きに応じて給金を支払います。領は集めた作物を領内や他の領に売ることでお金にします。なので農政部は農民の管理、作付の管理、給金の支払い、作物の卸・販売などを行うことになります。この点が他領と大きく異なる点です」

「そんなこと出来るのでしょうか」

「出来るかできないかじゃないんです。やるんですよ。そして必ず成功させるんです。計画では麦、豆、芋、トウモロコシ、雑穀などを中心に、他の野菜を含めて作付を行う予定です。麦については領産でこの国で必要な分の7~8割の生産を目指します。他に何かありますか」

「大きな工房を作ると言ってましたが、何を作る工房なのでしょうか。武器とかですか」

「工房はバイクとクルマです。バイクは外に置いてある乗り物です。これを作って領内をはじめ国中で販売します。クルマは一言でいうと馬のいらない馬車の様なものです。両方ともアズラート帝国ではすでに利用されているものです。クルマに関しては関連する技術が数多くあるので、そういった工房もできることになります。鍛冶屋などは領都内の居住区と言うか商業区に作っても構いませんよ。ただ領の産業の柱としてバイクとクルマがあると思ってください。他は」

「「「……………」」」

「無いようなので次に進みます。領内の開発計画についてです。先ほども言った通り領内で使える土地は限られています。そのほとんどを領都として開発してあります。従って残された土地は殆どありません。領内の街については今のところ1つ計画をしています。領都が落ち着いたらの話ですが、領の南側の森を越えたずっと先に海に面したところがあります。そこに港町を作る予定です。ただ、フロンティーネから海まで3日程度かかるので、街道の整備と途中に何か所か宿場町を作る予定です。

あと領に西側、グラハム辺境伯領との境ですが、山になっていて峠には砦が建てられています。山越えになると時間もかかりますし苦労も多いと思います。魔物も出没しますので、護衛なども必要になります。私はグラハム辺境伯と話をして、トンネルを掘ることにしました。そしてトンネルの入り口付近にも宿場町を作る予定です。何かありますか」

「「「……………」」」

「それでは方針についてです。出来たばかりの領の為、やらなければならないことが山積みです。公爵領と言う名前に惹かれてだと恐らく潰れると思います。決して楽な仕事ではありませんから。はっきり言ってきつい仕事だと思います。そして儲かる仕事じゃありません。でもやりがいのある仕事であることは確かだと思います。

貴族は領民より偉いんだと思っている人は今すぐお帰り下さい。領地経営は領民の税金と領民が作った品で行うものです。つまり領政官の給金は領民の税金で賄われるという事です。いいですか、大事なことなのでもう一度言います。私の領では貴族が領民より偉いということは決してありません。もし偉ぶりたいのであれば他の領でお願いします。雇ってもらえるかどうかは分かりませんが。そして貴族が領政について犯した罪は一般のそれより重いものになります。癒着や着服などのことです。それを踏まえて自分には合わないと思われた方はお帰りになっていただいてけっこうです」

10人ぐらい帰ったかなぁ。公爵領の領政官である程度の地位になれば箔もつくしある程度の自由が利くと思ったんだろうね。まぁそんな人材は頭っから要らないんだけど。

「ではこれから個別に面談を行います。面談が終了したら帰っていただいてけっこうです。採用については後日連絡いたします」


残った40人弱の個別の面談を全て行いました。ダメなのも結構いましたね。10人チョイぐらいはダメでした。まぁそんなもんなのかな。公爵なんて言っても向こうから見りゃ小娘ですからね。いいように手玉にとれると思ったんでしょうね。ま、残念でしたって感じです。30人チョットについては採用することにしました。部局が全部で10数個になりそうなんで、部長と副部長って感じですかねぇ。


幹部は決まったのであとは一般職ですね。全部で50人ぐらいかなぁ。商業ギルドで募集をかけることにしますか。



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