第88話 フロンティーネ

グラハム辺境伯とトンネルの話をしました。何故だか初めはとても渋っていました。後でわかったのですが、どうやらお金がないとのことです。今まで帝国との間での小競り合いで、だいぶ財政的に疲弊していたようです。

「山越えだけでもかなり時間がかかったと思います。それに魔物の脅威も拭えませんから、護衛も必要です。物の流れとしてネックなんです。公爵領はあの砦の峠を越えないと向こう側に行けませんからね。それをスムースにするためにもトンネルは必要なのです。辺境伯様、分かってくださいよ」

「ミルランディア様、お話は分かるのですが何せそれだけの工事をするための元手が……」

「トンネルを掘るのは先の話ですし、お許しさえいただければ掘るのは私の方でやりますから。お願いしますよ。公爵領の命運がかかってるんです」

「ミルランディア様がするのであれば反対はしないが…」

「それにグラハム卿の領地は辺境じゃなくなっちゃいましたよね。むしろ公爵領の方が辺境のような…」

「そうなんだよな」

「お返しましょうか?」

「いや、それはいい。国軍の東部方面軍と私の所の私兵だけでは帝国は抑えきれない。悔しいがあそこはミルランディア様にお任せするしかないんだ」

「なら決まりですね。私の方で工事を進めることにします。グラハム卿には悪いようにはしませんから」


王宮でヴォラント宰相とルイスおじさんにトンネルのことを話しました。グラハム卿とは調整してあったからね、すぐに終わりましたよ。工事はGOです。


ぼちぼち本格的に領都建設に入るとしましょうか。


**********


半年後


領都はなんとなく形になってきました。ルイスおじさんと話を重ねた結果、宮殿も完成しました。いやぁホント大変だったって。何がってさぁ、ほらあれよ、隠し通路って言うの。やれあの部屋からどこどこへだの、隠し通路の出口はどこそこだのって。王都の王宮も中は迷路だったしね。

領主邸は王都の私の屋敷をほぼまねたものになりました。考えるのも大変だったしね。ただパーティーホールは無しね。ホールを使うときはここの宮殿のホールを使うから。その代わり宮殿のパーティーホールはうちのホールよりかなり大きいです。倍以上あるね。これならおばあさまたちや伯母様たちも満足すると思うわ。辺境にあるのが玉に瑕だけど。

領都は東西の大通りがあります。東門は帝国との国境、西門は工業区、農業区を抜けて砦の麓へと続きます。

通りの南側に宮殿や領主邸、貴族街やかなり裕福な人が住む居住区が広がります。まだ建物なんてなんも建ってないけど。他にギルドや大型の店、高級な宿や領政のための役場などが建ってます。こっちは既に建設済みです。宿屋は大変でした。なんせほら、帝都のホテルを知っちゃったじゃない。少なくともあのレベルじゃないと見下されちゃうからねぇ。帝都のホテル程ではありませんが10階建てにしました。帝都のホテルにあった自動昇降機も取り入れました。あれドルアさんに頼み込んでお願いしたんです。で、何とか教えてもらって付けることが出来たんです。ドルアさん、アリガト。

住宅は建ってませんが下水は全ての区画に設置済みです。あとからこの工事をすると、掘り返したりするのが大変ですからね。あと道路は整備しました。野っぱらにしておいて勝手に立てられたら町並みが乱れるからね。貴族街は1区画50メートル四方にしました。これだけあれば十分でしょう、王都じゃないんですから。ここは辺境の町です。リゾート地でもありません。わざわざここに別荘を建てるような奇特な人などいないと思います。

大通りの北側、一般区にもいくつかの建物を建設しました。まず一つは簡易宿屋です。台所にトイレ、寝室と言ったシンプルな部屋がたくさん集まった宿です。部屋はベッドが1つのと2つのの2種類です。南の高級ホテルが一人1泊金貨1枚~とかなりお高いのですが、こちらはベッド1つの部屋が銀貨3枚、2つの部屋が5枚とかなりリーズナブルな価格設定にしようと思っています。後作ったのは大きなマーケット区画。屋台や露店が集まる市場です。南の大型店は高級品、北のマーケットは日用品や食料品といった感じかな。あとけっこう大変だったのが川沿いに建てた大型の集合住宅。あのファシールで建てた長屋を5階建てにしたものを10棟も建てたんですよ。偉いでしょ。そのうちの1つは女性専用にしようかなって思っています。ファシールから移ってきてもいいようにね。

北側も下水と道路は整備済みです。一般区の1区画は10メートル四方にしました。他にも公園なんかも作ったから、結構住みやすくなるんじゃないかな。

ここにきれいな街並みが完成すれば、王都より大きな街になるかも。全部で10000人ぐらいは住めそうだからね。今の王都が7000人ぐらいって言ってたから、かなり大きいよね。でも公爵領の街って、ここしかないから。予定では砦の麓に宿場町を作る予定。あと海沿いに港町かな。


整備したのは街だけではありません。文字通り領内を飛び回って、工業区と農業区を作りました。大通りの南側に工業区、北側に農業区です。

農業区の30%は麦を植える予定です。ここだけで王国で使われる麦の大部分を賄えるようになるはずです。王国は麦が主食ですからね。残りは豆や芋、コメなどの雑穀、トウモロコシ、野菜などです。

私が注目しているのはトウモロコシ。今は主に家畜の餌に使われているんだけど、これ私達が食べても美味しいのよね。それだけじゃなくって絞ると油が取れるの。私はこの油に注目しています。豆からも採れるから油は注目だね。料理に使う油って言うとオークやボアの油なんだけど、それとはかなり違うからきっといい産業になると思うの。

あとコメね。麦とは収穫の時期が違うし、今は雑穀の括りだけどこれもきっと私たちの食生活を変えるものになるわ。多分。

畑はそれぞれで作付をしてもらおうとは考えていません。農政課に登録した人みんなで全部の農業区で作業をしてもらうつもり。機械もいっぱい使ってね。そうすれば仕事にあぶれる人もいなくなるんじゃないかな。毎月給金も払うし、収穫の後には麦なんかも支給するようにしてさ。基本的には領で全て買い上げって方針。


工業区の目玉はバイク工房とクルマ工房。まだクルマ工房は全然目途が立ってないけど、ウチの領の目玉になることに間違いはないです。っていうか、これに賭けてるとこもあります。バイク工房はすぐにでも立ち上げられそうです。




「ルイスおじさん、領都の開発に目途が立ったんですけど、見に行かれます?」

「おおそうか、行くぞ。是非とも見せてくれ」

「他に誰か一緒に行った方がいい人っていますか?おじいさまには見せたいと思っているのですけど」

「そうだな、リオとグランにも見せておいた方がいいだろう。あと宰相も連れて行くか」

「そうだ、冒険者ギルドと商業ギルドのギルド長にもお願いしたいです。領都に支部を作ってもらいたいですから」

「ミーア、お前の所から行くのは何人だ」

「私の他は、ジャスティンとマリアンナとサフィアとエレンの4人ですかね」

「護衛はどうする」

「いらないでしょう。王宮から直接行きますし、向こうにはまだ誰もいませんから。門も閉じてるので誰も入れません」

「分かった。では他に行きたい人も募って、……そうだな、明後日の昼に行くことにしよう」

「それじゃぁ準備しておきますね」



「ジャスティン、ちょっといいかな」

「ミーア様、何でしょうか」

「えぇとね、領都が大体できたのよ。そうすると私の生活が2重、……3重生活になるでしょ」

「3重ですか?」

「うん。ここと王宮、そして領都のね。ここと王宮の時はジャスティン一人で廻せたけど、領都が入るとそういう訳にはいかないじゃない。距離的な問題もあるし」

「そうですね」

「そこでジャスティンには総執事長になってもらいたいのよ。少なくとも領都にも執事長を置かないといけないから、ジャスティンに纏めてほしいの。こっちは今まで通りジャスティンが見てくれてもいいけど、替わりがいれば替わってもらってもいいわよ。とにかくジャスティンには纏め役になって欲しいって事」

「承知いたしました」

「あとマリアンナもそんな感じにしてほしいな。総メイド長って言うのは変かも知れないけど、メイドの取り纏め役ね。向こうでもメイドを雇わなきゃいけないだろうから。あとエレンとサフィアは同じでいいわよ。私付きだから替える必要はないからね」

「マリアンナには言っておきます」

「ありがとう。明後日王様たちと領都のお披露目に行くから、4人も準備しておいてね」


**********


領都見学は大好評のうちに終わりました。冒険者ギルドも商業ギルドも支部を開くことに同意してくれました。いくつかのリクエスト(解体場をもう少し広げてほしいとか)はありましたけど。でもやっぱり注目の的は宮殿と超高級宿屋ホテルですね。宮殿は王都のものより一回り小さいですけど、水をたたえた堀に真っ白な城壁、機能性と美しさを兼ね備えたものに一同感動しきってました。

「ミーアよ、儂がここに住んでもいいかの」

「構いませんけど国王様が何とおっしゃられるか。それに広すぎて不便じゃありません」

「そうかも知れぬが、一応考えておいてくれ」

そんなやり取りもありました。おじいさまはもう一線から退いてますからねぇ。おじいさまがここに住むって言ったら、アルベルト前国王まで来たりして。うーん、それは勘弁してほしいです。

ホテルですか?それこそ贅の極みの塊ですからねぇ。いつ使われるかわからない最上階の部屋なんか、帝都のものと比べても見劣りしないぐらいに仕上げましたから。ここの従業員と料理人については商業ギルドに任せることにしました。経営自体は私ですけどね。


「ところでミルランディアよ、この領都の名前はどうするのだ」

「私が決めていいんですか?」

「そりゃミルランディアが作った新しい街だからな」

「………フ、フロンティーネ」

「いいんじゃないか、それで。今よりこの街はミルランディア・ヘンネルベリ公爵領、領都フロンティーネである」

「「「「「(パチパチパチパチパチ………)」」」」」

名前が決まりました。人集めしないとね。まずは領政をやってくれるひとたちかな。国王様には領軍として少し分けてもらおうと思います。和平協定を結んだとはいえ、辺境の国境の街ですからね。辺境伯様程の私兵を持つつもりはありませんが、ある程度は必要でしょう。衛兵は冒険者ギルドで募集をかけるとします。

「ルーファイス伯父様、領政を任せられる人材を紹介してほしいのですが」

「わかった。内務局にあたってみよう。それからナジャフ卿、あなたの所にいい人材はいないか」

「何名かいます。話をしておきますよ」

「あのぅ推薦していただいた方を全て受け入れるという訳にはいかないかもしれません。一度お話してその上で決めたいと思いますので、その旨も併せてお伝えください」

「わかった」

「10日後に王都の私の家で説明会を開きますので、よろしくお願いします」

「誰が行っても構わないのか」

「希望する方であればだれでも構いません。ただ、採用については私が決めます。あと、領民についても募集したいんですけど、それは誰に相談したらいいのでしょうか」

「領主に断りを入れて募ればよい。ダメと言う領主もいるからな。だがミルランディアであればそうそうダメとは言わんだろう」

「分かりました。そしたらしばらくは領主にあいさつ回りだね」

「条件はキッチリとしておくんだぞ」



10日後の面接と領民集め、まだまだ忙しそうだな。

フロンティーネか、いい街にしないとね。



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