第87話 エルフィのアシスト

あの後集落の人たちの引っ越しは、全員すぐに終わりました。今までの暮らしとは別世界ですからねぇ。いくら自分たちで開拓した土地と言っても、ワンランク上の生活には敵わなかったみたいです。これで心置きなく開発が進められます。

砦の兵士の移動も進んでいるようです。でも高々50人ぐらいの移動にどれだけ時間をかけているのでしょうか。一度文句でも言いに行った方がいいのかな。

空になった砦は領兵が常駐することになります。すぐに人は集まらないから、当面はお人形さん部隊だね。

しかし山を越えないと王都に行けないって不便よねぇ。グラハム辺境伯に相談して、あの山にトンネルでも掘ろうかしら。


**********


「ねぇミーア。チョッとお願いしてもいいかなぁ」

珍しくエルフィが私におねだりしてきます。

「何?出来ることならいいけど」

「ミーアなら絶対できることだから。えぇとね、転移の魔法を使って欲しいの」

「転移?ワープのこと?」

「そう。あのゲートが開くやつ」

「いいけど、どこに行きたいの?」

「どこでもいいんだけど………。出来るだけ遠くがいいかな」

「じゃぁ、エルフィたちの竜の里でいい?」

「うん。お願い」

なんだかよく分かんないんですけど、エルフィと一緒に竜の里に行くことになりました。うーん、ホントになんなんだろう。

「ちょっと待って。私のこと抱いてもらえるかなぁ」

エルフィを抱きかかえてゲートを開きます。

「じゃぁ行くよ」



「長老様、ただいま!」

「おぅエルフィか。元気だったか」

「うん、ミーアがとっても優しくしてくれるから。それにミーアのお屋敷の人たちもみんな親切だしね」

「そうかそうか。それはよかったな。ところでミーア殿、エルフィに何か変わったことはありませんでしたか」

「うーん、特にないですねぇ。自由に楽しんでるみたいですから。大きくなれないのは可哀想なんですけど」

「それはまぁ、仕方ないな。でエルフィよ、何かあったのか」

「ううん、ちょっと試したいことがあったから」

「何をだ」

「えぇとね、ミーアはワープとか空間魔法を使うでしょ、そんなミーアと一緒にいたら私も使えるような気がしてきたの。だからミーアがどうやって空間魔法を使うのか見せてもらってたところなの」

「なにエルフィ、エルフィもワープが使えるの?」

「今はまだ使えないわよ。なんか使えそうな感じがするってだけ」

「竜族って空間魔法は使えないんだ」

「うむ、竜族が使える魔法は竜魔法だけだが。ただブレスに炎を付与することなどはできる。水、氷、雷などもな」

「あのね、竜の魔法ってミーア達の言う魔法適正って言うのはないの。長老はブレスに付与するって言ってたけど、私だってファイヤーボールやアクアミストだって使えるよ。ミーアがいっぱい使ってたからね。使おうと思えば何でも使えるんだけど、教えてもらわないと使えないんだ。自然に覚えるってことはないから」

「それで私が使ってるワープを覚えられると思ったんだ」

「うん。でも結構難しくってね、だからミーアに抱いてもらって使い方を見てたんだ」

「それで分かりそうなの?」

「うん。多分できるような気がする。やってみるからちょっと見てて」

エルフィはゲートを開こうと何度も挑戦しました。でも思うように開くことが出来ません。

「ねぇ、行きたいところをしっかりと意識しないとダメだよ。行ったところじゃないとダメだからね」

「分かったわ。もう一度やってみる」

繰り返しゲートを開こうと挑戦を続けますが、やっぱりできません。

「ところでさぁ、行きたいところってマークしてないよね。ワープの魔法ってマークしてないと使えないよ」

「そうなの?マークしてるとこなんてないから使えないじゃん」

「一度行ってマークすればいいだけだから。ちょっと待ってて。まずここをマークして」

「マークってどうやるの?」

「今いるところを強く意識すればできるよ」

エルフィはここ(竜の里の広場)をマークできたようです。

「じゃぁ私がゲートを開くからそこに行って、そこからエルフィのワープで戻ってこようよ」

「うん。お願い」

私がワープした先は一番最初にエルフィと出会った場所、山の向こうのお花畑です。

「ここは?」

「私とエルフィが最初に出会った場所」

「そうだね。あっ!お姉様たちだわ」

エルフィは一目散にお姉さんたちの所へ飛んでいきます。私も後からついていきましたよ。

「あら、エルフィじゃない。まだ白いのね」

「そうなんですよ。お姉様はいつぐらいから赤くなったんですか」

「私はねぇ、……50過ぎぐらいだったかなぁ」

「そうかぁ、私なんてもう80過ぎてるのに……」

「何?何の話してるの?」

「いやね、エルフィはいつまでたっても白竜のままだねって事」

「えっ?エルフィって白竜じゃないんですか?」

「竜はね、生まれた時はみんな白竜なの。大体40~50年ぐらいで分かれていくんだよ。だから里にはエルフィの他には白い竜なんていないだろ。だから里ではエルフィが何になるかが話題なんだよ」

「でもこのままずっと白竜のままだったらどうしよう」

「もしかしたらエルフィは本物の白い竜なのかもしれないよ」

「本物の白い竜?」

「言い伝えでは白い成竜と言うのもいたみたいよ。白金龍プラチナ・ドラゴン聖銀竜ミスリル・ドラゴンと言うのがそれらしいんだけど」

「そうか。なんか『白く輝くドラゴン』って感じだね」

「白金龍は黄金龍ゴールド・ドラゴンと並んで竜族の象徴みたいなドラゴンよ。聖銀竜は伝説のドラゴンね」

「エルフィはどっちになりたいの?」

「そ、そんなのにはなれませんって。多分普通に緑竜グリーン・ドラゴンじゃないかと思いますけど」

「エルフィは白金龍か聖銀竜のどちらかよ。だってほら、逆鱗げきりんが白くキラキラ光ってるでしょ。最初にあそこ逆鱗が変わって、それから全身が変わるから、エルフィはそうなるのよ」

「えっ?……わっ!……ふにゃぁ」

「里長に聞いてみればわかるかなぁ」

「来年には変わっていると思うからそれまでほっといてもいいけど、長老に聞けばすぐに分かると思うわよ」

「じゃぁエルフィ、里長の所に戻りましょうか」

「ふぁ、ふぁい。わ、わ、わ、……ワープ!」

「エルフィ、何やってるの?」

「今彼女は、ワープって言う空間魔法の練習をしているんです。行ったことのある所にパッと行ける魔法をね」

「それ便利そうねぇ。ねぇ私たちも使えるの?」

「分かんないけど、エルフィは私の傍にずっといたから使えるかもしれないって思ったみたいですよ」

「そうなんだ。それはチョッと残念ね」

何度目かの挑戦でゲートが開きました。

「ミーア、できたよ!」

「ホントだね。里の広場だよね、皆さんも行ってみますか」


エルフィを先頭にお花畑で遊んでいた女の子の竜がぞろぞろとゲートから出てきました。私は一番最後ね。

「エルフィ、ゲートはちゃんと閉じなきゃだめだよ」

「はーい」

「ほんとだ。里に帰ってきた」

「不思議ねぇ。これエルフィがやったのよねぇ」

「そうです。私がやりました」

「ちゃんとできたみたいだから、あとは練習してすぐに繋げられるようになれば完璧ね」

「はい。頑張ります」

「ところで里長様、エルフィのことなんですけど…」

「どうした」

「さっき彼女たちと話してた時に、エルフィは白金竜か聖銀竜じゃないかって話になったんです。里長様ならわかるんじゃないかなって」

「んん?それは誠か。エルフィよ、ちょっと見せてみなさい」

「はい、長老様」

「………んー。何とも言えんな」

「ねぇ長老様、古龍エンシェントドラゴン様に聞いてみればいいじゃない。これって私たち竜族にとってもすごい事なんでしょ」

「そうだな、聞いてみるとするか。……古龍様、我々の里のエルフィのことを見てほしいのですが」

「……どうした?」

「古龍様、ご無沙汰しており…」

「そんな挨拶などよい。どうしたのかと聞いておるのじゃ」

「は、はい。実は里のエルフィと言う女竜の逆鱗に変化が現れたのです。エルフィは生まれてから80年を過ぎていたというのにずっと白竜のままでした。今もまだ白竜なのですが、逆鱗だけ白くキラキラと輝いているのです。私も見たことがないので、古龍様に見ていただきたいと思いまして…」

「そうか。でエルフィとやらはそこにいるのか」

「はい、私の前に」

「それなら長よ、転移の陣を描くとよい。私が行って見るとしよう」

里長様は広場に転移の陣を描きました。陣が光ったと思うとそこに見たこともない大きな竜が現れたのです。

「これはこれは古龍様。ようこそおいでいただきました。こちらがエルフィになります。エルフィ、古龍様だ」

「古龍様、初めまして、エルフィと言います」

「おお、其方がエルフィか。こちらに来て見せてはもらえぬか」

「はい」

古龍様はエルフィの逆鱗の様子を見たり、頭に手を置いたりしながらいろいろと見ているようでした。

「長よ、この娘、聖銀竜ミスリル・ドラゴンになるぞ。そしていずれは竜族の新たな神になる器じゃ」

「古龍様、それは誠ですか。エルフィよかったな。そなたは聖銀竜で龍神の一柱になるのだ」

「それってミーアと離ればなれになるの?」

「しょうがないだろう。龍神が人の子と一緒にはいられまい」

「いやです。私はミーアと一緒がいい」

「この娘が龍神となるのはもっとずっと先の話だ。それこそ少なくとも5000年ぐらい先のな。今少し人間の娘と一緒にいても問題はなかろう」

「古龍様、ありがとう。ミーア、一緒にいられるって」

「人の娘よ、エルフィの事頼んだぞ」

「分かりました。でもエルフィって凄かったんだね」

「私は私のままですから、ミーアも変わらないでいてね」

「うん、友達だもんね。ところで古龍様、聖銀竜ってどういうんです?」

「うむ、言い伝えによると、古の魔法を使い安らぎと安寧をもたらすと言われている。知と智だけでなく、武と徳も備えてると言われている。正に神になりたる竜なのだ」

「伝説や言い伝えばっかりね。エルフィはエルフィのままでいいみたいよ。誰も聖銀竜なんて知らないみたいだから。そうでしょ、古龍様」

「まぁそうだな。誰も知らぬ。だが次第にそなたの存在は大きくなる。それまでにいろいろな経験を積むことだ」

「はい、古龍様。私頑張ります」

「ところで古龍様、さっきの陣って何ですか?」

「転移の陣のことか。あれは召喚魔法の一つでな、描いた陣の中にあるものを呼び出したり、その陣の所へ行くこともできるとても便利な魔法だ」

「それは面白そうですね。召喚魔法かぁ、ちょっと気になりますね」

「人が使える魔法ではないぞ。人の小さな魔力では使うことなどできぬものだ」

「それなら大丈夫ですよ。私魔力だけはあるみたいですから」

「うーむ、この娘ならそうかも知れぬな。娘よ、古よりの理に触れるのであれば正しくしなければならぬ。其方には世界樹の記憶に触れることを許そう。世界樹の記憶は古から今までのこの世界の全ての記憶だ。正しい知識こそ正しい理への導きだ。心して使うといい」

古龍様の手が私の頭にチョンと触れた。

「うっ………、ぐわっ!」

その瞬間、私の頭の中に何かがドッと入ってくるような感じがした。

「それが知識の糸口だ。其方はそこから世界樹の記憶、全ての知識を紐解くことが出来る。エルフィの事、よろしく頼んだぞ」

「古龍様、ありがとうございました。里長様のありがとう。エルフィの事、今までよりもっと大切にするから」

「それではまたいずれ会うこともあろう。達者でな」

「あっ、古龍様、ちょっといいですか」

私は古龍様にマーキングをしました。実はワープゲートのマーキングって、場所だけじゃなくってものにもできるらしいんです。あっ!これって世界樹の記憶からね。だから古龍様にマーキングしておけば、いつでも会いに行けるって事ね。

「どうしたのだ」

「いえ、古龍様にワープゲートのマーキングをしてみたんです。これでいつでも会いに行けるかなって」

「そうか。面白い奴だな」

「それではまた」



エルフィがワープを覚えるはずだったのに、なぜか私に世界樹の記憶なんて言うとんでもないものが与えられてしまいました。ヤバいです、マジで化け物になりそうです。でも姿かたちが変わる訳じゃないですから能力的に化け物になってもばれませんよね。黙っていれば分かりません。


世界樹の記憶に触れたことで私のスキルに変化が起こりました。【水魔法】と【時空魔法】がなくなったかわりに、あの【スペルマスター】が発現しました。私、魔法使いじゃないのに…。そして魔法適正に【召喚魔法】が増えたみたいです。

他には【万物の知識】と言うスキルが出来ました。これは触れたものの情報が分かるものみたいです。試しに自分の情報を見てみたら、……眩暈がしました。私ってば自覚していたつもりだったけど、あらためて見るとホントに変ですね。

ん?ちょっと待って。これってマルチセンスの触覚を使えば離れていても情報が分かるって事?

そのようです。触れて情報を見ようと思えばマルチセンスであっても見ることが出来ました。【エージェントミーア】の誕生ですね。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る