第86話 公爵領の帝国(後編)
「し、しまった!」
土木技師の協力を得て、駐屯地と仮設住宅の水道と下水処理の施設はできました。我ながら完璧です。いろいろと教えてもらったので、領都の開発の時にも生かせそうです。
で、何が『しまった』なのかと言うと、資材不足です。準備として何回か部屋を作りはしました。その時は建設資材が足りないなんてことはありませんでした。それじゃぁと思って作ろうとしたらできないのです。初めは『???』でしたよ。何が起きたかわかんないんですから。何度やってもダメ。別に魔力が足りない訳ではありません。何と言ったって私の魔力は底なしなのですから。いろいろ考えた挙句に出た結論が資材不足という訳だったんです。
必要なものって何だろう。まず石よね。それにガラス。扉や床に使う木もいるわね。とりあえず砂漠に行きましょうか。あそこなら砂が沢山あるからガラスも作り放題だし、砂に熱を加えてギューッと固めれば石になるわよね。
砂漠の砂は使い放題でした。いくら使っても減りません。そりゃもう大量のガラスに大量の岩のブロックが出来ましたよ。これだけあれば建つかな。
本格的に建設をはじめます。私がどこかで遊び呆けてると思われたら嫌ですから、エレンとサフィアにちゃんとお仕事しているところを見てもらいます。
「材料OK、設計図面OK。よしっ!これで大丈夫だね。それじゃぁ行くよっ!それっ!!」
用意した材料が形を変えて建物に変わっていきます。これ変形の魔法だけだと岩しか変えられないんだよね。私はマルチさんを使って並行していろいろできるからこんなこともできるけど、他では無理っぽいね。
流石に100室もある大きな建物です、ポンッとはできません。それに水の細かい管や壁や床、ガラスをはめたり風呂やトイレを作りながらなの作業なので、マルチさんをかなりの数動員してもなかなか出来上がりません。私の集中力もかなりヤバくなってきました。もう少しだから頑張って、集中力さん。
「ふーっ、何とかできたわ」
エレンとサフィアはポカーンです。あなたたちが作ったんじゃないのよ、見ていただけなんだからね。
「「非常識すぎます!!」」
非常識って言ったって、こうでもしないと間に合わないじゃん。それにほら、こうしてちゃんとできたんだからいいの。
「疲れたぁ。お水頂戴」
「これ魔法で建てたんですよねぇ」
「そうね。魔法が半分、錬金術と創造術が残りの半分ってとこかな」
「どれぐらいの魔力を使ったんですか」
「魔力ねぇ、分かんないのよ。なんか私の魔力って数値じゃ表せないほどあるらしくって。魔力的には残りの9棟も建てられるんだけど、私の集中力が持たなくってねぇ。細かい変形が多いから大変なのよ」
「これ絶対大変ってレベルじゃないですよ。ファシールの時は扉を付けるとか床を張るとか、そういうところは全部大工さんに任せたんですよね。今回はいっぺんに全部魔法で仕上げてますよね。こんなことがまかり通るんなら、大工さんの仕事がなくなっちゃいますよ」
「ちょっと待って、この建て方ができるのは恐らく私だけよ。それに王国でこういう建物は見たことがない。帝国にはあったけどね。王国の大工さんはこういう建物の研究から始めないといけないの。建てられるようになるのは早くても数年後よ。それも数カ月かけてやっと建てられるって感じ。私だって自分の領内ではやるかも知れないけど、わざわざほかの所に行ってまでこの建て方はしないわよ。だから大工の仕事は永遠になくなることはありません」
「そうね、この非常識物件はミーア様だからできるんですものね」
「なんか棘のある言い方よね」
「いやですねぇ。褒めてるんですよ。呆れ果てた中で」
「中、見に行く?」
手持ちの明かりの魔道具、湯沸かしの魔道具、魔道コンロを置いてみました。うん、バッチリ。
「ねぇエレンさん、私たちお屋敷に住んで少し感覚がおかしくなっちゃってるかもしれないですけど、この部屋ってかなり上等なお部屋だよね」
「そうね。宿屋にしてもかなりグレードは上の方よ。よっぽどの金持ちじゃなければ平民の家で風呂なんかないから。このトイレって水で流すんでしょ、こんなの貴族の家じゃないと見ないわよ」
「はぁ。ミーア様も少しは自重してくださいよ。これって兵舎なんでしょ。こんなとこに住んだ兵隊さんたちが出て行くと思いますか」
「そりゃ出て行くでしょ。だって帝国と決めたルールなんだから。出てかなかったらどうなるかぐらいは帝国も分かってるんじゃない」
出来栄えとしては満足です。でもやっぱり1日1棟かな。あと9棟だから9日か。資材ももっと用意しないといけなさそうだからもう少しかかるね。あと仮設住宅のほうも建てないといけないからやっぱり忙しいや。
そんなこんなで1カ月、駐屯地と仮設住宅は完成しました。最後の仕上げは橋です。駐屯地の入り口の門の前に架けるって言ってたやつ。それをかけて出来上がりました。おじいさまとルイスおじさん、ジャスティンをはじめとする屋敷の主要メンバーにはお披露目済みです。
「さてと、ドルアさんを呼びに行きますか」
「もうできたのか」
「だから言ったじゃないですか。
「それにしてもこれだけのものが一月でできるものなのか」
「私ですからねぇ。そう理解してください」
「中を見てもいいか」
「そりゃどうぞ」
倉庫は十分な広さがあります。食糧や武器などを補完するにも十分だと言ってました。馬房も100頭分ですね。これ以上増えるのなら勝手に増築してください。
「明かりや湯沸かしはどうするんだ」
「それは魔道具を用意してください。魔道具は明かりと湯沸かし、魔道コンロぐらいですかねぇ。これは好みのものを用意してくださいね。あと家具や鍋や釜などの生活雑貨も必要になります。それらもそちらで用意をお願いします」
「それを我々に用意しろと言うのか」
「こちで用意して引き上げるときに持ってかれたら大損ですからねぇ。住居は用意したんでこの先はそちら持ちでしょう。帝国はどのような駐屯の計画を持っていたのですか」
「それは……」
「この地に住んでいる民はおよそ150世帯、400人程度です。そこに1000人の帝国軍が駐留するとなれば明らかに過剰ですよね。そもそも100人かそこいらしか住んでいない集落に200人以上の兵隊が来たら、それだけで集落の生活は崩壊しますよ。向こう5年間、兵隊に野宿でもさせるつもりだったのですか」
「……」
「開けた土地はわずかにここだけ、端から端まで歩いたって1日程度の広さですよ。2個中隊の駐屯で十分なはずだったんです。1000人規模と聞いた時にピンときましたよ。実効支配を続ける気満々だということにね。だからまず民を1か所に集めることにしたのです。領都開発に支障がありますからね。更に仮設住宅を魔物の襲撃から守るために高い塀を設けました。これで魔物の脅威はだいぶ減ります。しかも駐屯地の傍なら帝国軍も護りやすいですからね。実効支配を続けるという目論見を外すためにもね。それで1000人規模の駐屯軍を展開するにあたってどのような計画を立てていたのですか」
「ふっ、参ったな。こんな若い姫様に全部持ってかれるんだからな。我々の策など見透かされてたという事か。分かった、この施設使わせてもらう」
「このあいだも言いましたけど、砦の兵士も引き上げてくださいね。それから隣の仮設には来月辺りからこしてくると思いますので、よろしくお願いしますね」
翌日、4つの集落の代表たちを転居先の仮設住宅の見学会に呼びました。部屋の様子や店舗、倉庫、馬房の説明をした後、畑に連れて行きました。
「畑は1区画幅20メートル奥行き50メートルとなっています。これを1家族1区画で割り当てる予定です。このあいだのお話で1つの集落で30~40世帯と言う事なので、集落ごとにあの建物に入ってもらいます。1つの集落があの建物に収まるということです。何かありますか」
「いつからは入れるんだ」
「もうすぐに入っても構いませんよ」
「向こうの畑の作物はどうすればいい」
「希望があれば私がこちらへ植え替えのお手伝いをします」
「水はどうなっている」
「生活に使う水は部屋の蛇口から出ます。畑の水は川から引いてきていますので仲良く使ってください。あと馬房の所に井戸も用意してありますからそこでも使えます」
「こんな立派な家を用意してもらったって、俺たちは払う金なんて持ってねぇぞ」
「ここに住むのに家賃は必要ありません。ただしここはあくまで仮設の住宅です。ここに住めるのも最長で5年です。帝国の駐留軍が最長5年しかいませんから、それまでの間に帝国に戻るか移民するかを決めてください」
「引っ越しはどうしたらいい」
「先ほどの魔法でお手伝いします。来週一度、皆さんの所へ行きますのでその時にお話ししましょう」
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