第83話 視察(前編)
『スライムって案外面白いかも』
ゴムの研究をしながらフッと思ったことです。今まで王国ではスライムと言えば下水や汚染された土壌の浄化、ごみ処理ぐらいにしか思われていない魔物です。弱いし上位種でなければ特に攻撃手段も持たない、そんなスライムに新たな一面があったとは。
『ゴム以外の素材としてもにも使えそうね』
塩を混ぜたらゴムになりましたが、塩以外のものはまだ試していません。何かと混ぜたらまた変わるのか、興味がわいてきました。
『もっとスライムについて研究する必要がありそうね。常識にとらわれない人を集めないと』
王国では魔物の研究などほとんど行われていません。『スライムは少し使える魔物』程度です。領都が出来たらそういう研究所も作ろうかな。そう言えば領都の名前も考えないとね。
バイクの部品作成も着々と進んでいます。土魔法の変形、優秀です。それにしても車輪まわりは難しいです。小さな部品もたくさんあるし、一つ一つの精度が半端じゃない。特にあの反対方向に廻すと空転する仕組みっていうの、あれはすごかったです。よくあんなことが思いつきますね。これはもしかして、よく物語である異世界から呼ばれた人が広めた技術ってやつですか。あれは物語の世界ですからこの世界とは違います。そんな人がいたなんて話も聞いたことがありませんし。でも話によるとこの世界にもドワーフやエルフ、魔人や獣人、妖精なんかもいるみたいです。この大陸にはいないようですけど。海の外、遠くの大陸や島で生活してるという話を聞いたことがあります。
話が逸れてしまいましたが、バイクはもうできるんじゃないかな。今度また帝都に行ったら最新のモデルのバイクを何台か買い付けることにします。もっと凄いことが出来てるかもしれないからね。
**********
「ジャスティン、ちょっと公爵領に行ってくるから」
一応ことわってから出かけないとね、後で何言われるか分かんないから。
久しぶりにエルフィと一緒にお出かけです。ここんとこあんまりかまってあげてなかったからね。
「一緒に飛んでいこうよ」
「はいっ!嬉しいです」
真っすぐ高く飛びあがってから森の方に移動します。また『未確認飛行物体を見た』なんて噂が立つと、おじさんに怒られちゃうからね。
「エルフィに乗っていい?」
「いいですよ」
大きくなったエルフィの背中に乗ります。うーん、安定しませんね。やはり鞍がないとダメなのでしょうか。
「やっぱいいや。なんか乗った感じがイマイチなんだよね」
「それなら今度、鞍を作ってみてください。そうすればきっと乗り心地も良くなると思いますよ」
「そうさせてもらうね。でも鞍なんか付けて大丈夫」
「全然平気ですよ。むしろ鞍を付けてしっかりと乗ってくれてた方が、私もあまり気にしなくていいですから」
「じゃぁ今度作るね。王都の鍛冶屋で作れるかなぁ」
「ミーアには創造術と錬金術があるじゃない。すぐに出来るんじゃないの」
そうでした。最近他人にやってもらう事ばかり考えていたので、すっかり忘れていました。
人気のない山の頂上に降り立った私たちは、さっそく鞍を作りました。羽の付け根と首周りで固定するやつです。ドラゴンは羽で飛ぶわけじゃないから、羽まわりに鞍があっても大丈夫なんだよね。ミスリルで作って、チョット装飾も入れてみました。ミスリルにしたのはエルフィと相談してだからね。座るところにはクッションも付けたし、安全第一だからベルトも付けました。
「エルフィ、行こうか」
エルフィは気持ちよさそうに飛んでいます。といっても私の全力より早いんですけどね。行き先は公爵領。今日は空からの視察です。
『うーん、山と川の間が公爵領って事なんだけど、こうやって空から見ると森ばっかりだね。開けているのは砦から帝都に向かう間だけだね』
公爵領って結構広いんです。帝国と争っていた時の防衛線だった山脈、そしてメラル川。南北に長く東西に狭い領地です。その中央部分が開かれていてそこにいくつかの集落があるようです。
『領都は川沿いにしましょうか。国境の検問と一緒にね。あの橋は架け替えですね。この先交流が盛んになったらあの橋では持ちそうにありませんから。架け替えるのには帝国の了解も得ないとダメですかねぇ。おじさんに言われた宮殿を含めて貴族街は領都の南側にしましょう。帝国軍の駐屯地は開けているところの北のはずれでいいかな。その傍に帝国民の仮住居を建てて、少し農地を作りましょうか。じゃぁさっそく始めるとしますか』
ざっくりとした開発計画を立てます。まずは駐屯地ですね。幸いなことに予定地に集落はありません。エルフィに地上に降りてもらって、駐屯地の外壁を作ります。ファシールのような立派な壁じゃなく普通の土壁です。高さ5メートル厚さ2メートルぐらいの。川沿いの南端に門を作って駐屯地の用地を決めました。1000人規模の軍の演習ぐらいなら十分に出来そうな広さですし、森の方は壁を作っていないので森での訓練もできます。
『必要なのは宿舎と倉庫と馬小屋ね』
ここに作る宿舎は、寝室が1つのタイプと2つのタイプの2種類。どの部屋にも台所と食事室、居間、お風呂とトイレ、収納の付いたタイプです。あんまりいろんなタイプを用意するのは面倒だからね、この2タイプにする訳。これを1階20部屋の5階建て、1棟当たり100部屋の大きな建物にします。なんてったって1000部屋ですから、1つ1つちまちまと作ってたんじゃ埒があきません。ファシールの時は1棟10部屋で作りましたが、ここでそれをやると100棟も作らなきゃなりません。100棟は嫌なのでもっと大きくするんです。内装は………帝国にお任せしましょう。
倉庫は大きめのを5つぐらい作っておけば大丈夫でしょう。馬小屋もそうですね、100頭ぐらいが入るものを作っておけばいいと思います。
えっ?今建てるのかって?そんな訳あるはずないですよ。ちゃんと設計図を描いて材料を揃えてからです。1週間ぐらいで集まるでしょうけどね。
駐屯地のすぐ隣に帝国民の仮住居を建てます。台所と食事室、居間、寝室にも使える部屋が3つ、お風呂とトイレ、収納の付いたタイプです。これを1階10部屋の4階建て。更に1階部分にお店ができるような部屋を10戸分用意した5階建ての仮住居です。これを4つ用意すれば私の領地に住む帝国民の家族およそ150世帯は、全て収容可能なはずです。
ここもファシールと同じで住居と畑は分けて作ります。畑の広さもファシールと同じ50メートルと20メートルの区画にします。水は幸いなことにメラル川に流れる小さな川があるので問題はありません。森の傍だからですかね。点在している集落の周りには川はなかったように思います。魔獣の脅威と水の確保を天秤にかけて水を取ったのでしょうね。
どれぐらいの数の畑の区画を用意するかは実際に現地を見てから決めることにします。無駄に多く作ってもしょうがないですから。
大体の目途は立ちました。演習地は恐らく問題ないでしょう。仮住居は店の数や畑の数など実際に見てみないと分からに部分が多いので、これから現地を見に行こうと思います。それができたら帝都のドルアさんの所へ行って簡単に説明しないとね。あとやらなければならないのは盗賊退治ですね。私が初めてここに来たとき、最初に襲ってきた盗賊は確かここのはずでしたから。私の領地に盗賊は要りません。徹底的に排除させてもらいます。捕まえて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます