第82話 素材の研究
「ジャスティン、ちょっといい」
「何でしょうか、ミーア様」
「冒険者ギルドに依頼を出したいんだけど、どうやるの?」
「それは私よりエレンの方が」
そうでした。エレンは元ギルド職員だったのです。最近のダメダメっぷりですっかり忘れていましたけど。
「そ、そうね。悪いけどエレン呼んでくれる。あと、ギルドに行ってくるから」
「ミーア様、なんでそんなものを依頼するんですか」
「それは何。私がやればいいじゃないって事。それとも、何でそんなものがいるのかって事」
「両方です」
「私がやらない理由は、こんな簡単な収集なら駆け出しの冒険者でもできるじゃない。そういう人たちの実績にして欲しいから。そしてスライムが必要なのは材料として試したいことがあるから。確かに下水の処理場に行けば沢山いるのは分かっているんだけど、あれを使うのはチョットねぇ」
「そういう事ならわかりました、手続きをしてきます。具体的にはどれぐらい必要ですか」
「そうねぇ、とりあえず50匹分あればいいかな。スライム5匹で銀貨1枚、追加の買取はなし。これを10個出してほしいの。対象ランクはEかDね。あんまり強い人がやったら意味ないからね。そしてこの依頼は1組が2つ以上受けられないようにしてほしいんだ、いろんな人にやってもらいたいから」
「ミーア様は駆け出しの冒険者想いなんですね」
「どんなに立派な冒険者でも初めはみんな駆け出しだったからね。いろんな経験をさせてあげられたらなって」
依頼料と登録料など全部で銀貨20枚を持ってエレンは冒険者ギルドに走っていきました。明日には張り出されるでしょうから。すぐにスライムは集まりそうですね。
**********
次は鉄の加工を試してみます。こんな時に超便利なのは7属性のスペル・マスターことサフィアちゃんです。早速お呼びいたしましょう。
「ねぇサフィア、チョットお願いがあるんだけど」
「何でしょうか、ミーア様」
「いやね、ここに鉄の塊があるんだけど、これを板にできないかなって」
「魔法を使ってもいいんですか」
「魔法でできるの」
「はい、土魔法の一つで、簡単に」
「簡単にできるんだ。じゃぁやってみて」
鉄の塊に手をかざして目を閉じて集中しています。「
何という事でしょう。あの鉄の塊が縦1メートル横2メートルの鉄の板10枚に変わったではありませんか。
「できましたけど」
「ねぇ、どうやったの。トランスフォームって何」
「ミーア様、落ち着いて下さい。これは土魔法の一つで変形というのがあるんです。形を変える魔法です。土系の魔法の基本的なものです。土からレンガを作ったり、開墾している時に出てくる石や岩を砕いたりするのに使います」
「壁を作るやつなんかもそう?」
「
「うんうん、それで」
「変形は形を変える呪文ですから材料がないとできません。また材料の性質を変えることはできませんので鉄は鉄のままです。鉄を鋼にすることはできません。鉄を鋼にするのは錬金術ですから。あと変形できるのは土や砂や鉱物だけじゃありません。木も変形させることができます。丸太を材木にするみたいな。生きてるものは出来ませんけど」
「そうか、素材があればできるって事ね」
「そうです。あとは素材によって必要な魔力が変わります。ミスリルが鉄と同じ魔力で変形させることはできません。あと大きさですね。大きいものを変形させるにはたくさんの魔力を使います。あと単純な変形ほど魔力は使いません。複雑な変形や精密な変形にははそれなりに魔力を使います」
「ねぇじゃぁこの鉄の板を管にすることはできる」
「こうですか?」
サフィアは簡単に鉄のパイプを作ってしまいました。
「そうそう。じゃぁ鉄の塊からこの管を作るのと、塊をいったん板にした後管にするのではどっちが大変なの」
「いったん板にした方が楽ですね。魔力的にも少なくて済みます」
「私にもできるかなぁ」
「土属性の適性があればできると思いますけど、ミーア様って土属性ありますか」
「サフィアには教えるけど、私も基本4属性プラス氷、雷、回復の7属性に適性があるみたいなの」
「そうなんですか、別に驚きませんけど。やっぱりって感じです、だってミーア様ですから」
ねぇ、チョットひどくないですか、サフィアさん。
「で、どうやってやるの」
「出来上がりの形をイメージします。ここでイメージがぼやけると出来上がりが悪くなりますので出来るだけはっきりとしたものにします。そして変形の呪文を唱えれば……」
出来ました。鉄の板が鉄の管になりました。
「出来たっ!これって面白いね。複雑な形もイメージさえちゃんとすればできるの」
「出来ますよ。素材と形と精度によって使う魔力は変わりますけど。設計図や見本があればイメージがしやすいので比較的簡単になります」
であれば次は車輪を作ってみます。鉄の塊を取り出して、車輪の大きさの厚みのある丸い板に変形させます。
「次は真ん中に軸受けの部分を作って、軽くするために強度を保ったまま全体的にそぎ落とせばいいのね」
リムと軸受けが一体となった車輪が完成しました。細かい部品はこのあとね。
「やったーっ!これでバイクを作ることの目途が立ったわ。サフィア、ありがとう」
私は飛び上がって喜びましたよ。サフィアの手を握ったり、抱き付いたり。
「ミーア様、そんなに私のことを…。今夜お部屋に行きますね」
ち、違うよ、サフィア。そう言う意味じゃないからね。今夜来なくていいから。
**********
サフィアの襲撃は何とか回避することができました。よかったです。
ギルドに依頼を出した翌日の夕方、50匹のスライムが集まったと連絡がありました。私はエレンと一緒にギルドへ行き、スライムを受け取ります。
「そういえばミーア様、ギルドカードの変更まだですよね。ミーア様の実力なら本来であればSランクですけど少なくともAランクにはしておいた方がいいのではないでしょうか」
「冒険者ランクの事?それなら今のCランクのままでいいよ。だってBランク以上になったら指名依頼とかあるんじゃない。私が指名依頼を受けて護衛や討伐って、エレンはどう思う」
「えっと………ダメです」
「でしょ。だから冒険者ランクは変えません。それに所属も今王都にしなくてもいいかなって。別にベルンハルドのままでも特に不便なことはないし、私の領都が出来たらギルド支部も誘致する訳で、そしたらその時に拠点の変更をすればいいかなって」
「なるほどですね。それじゃぁギルドカードはそのままにしておきましょう」
私が一緒についていったのは依頼主であるということとスライムを運ぶためです。両手に乗るぐらいの大きさのスライムとは言っても、それが50匹分ともなればかなりの量です。そんなのを運ぶために馬車を用意するのもなんですからね。それにほら、町の美味しいお店とか行きたいじゃない。たまにはエレンでも誘ってさ。
エレンと一緒にいると周りの視線がすごいです。私にじゃなくってエレンにですけど。流石は元ギルドの受付嬢です。今でも私の護衛としてしっかりと鍛えているため、スタイルは全く崩れていません。それでいて女性らしい色気もあるなんてズルいよね。
「ねぇエレン、私もさぁもうチョットここら辺とかここら辺にボリュームというか丸みというかふくよかさというかそういうものがあったらなって思うんだけど、どうしたらいいの?」
「優しくマッサージしてもらうといいって聞きますね。殿方にしてもらうのがいいって言われてますけど、ミーア様にはいらっしゃいますか」
「そんなのいる訳ないじゃん」
「自分でやってもあまり意味がないとも言われています。ミーア様のお願いでもありますから後でたっぷり時間をかけてマッサージをして差し上げますわ」
「結構です。エレンに頼んだらナニされるかわかんないよ」
「そんなぁ。私1人じゃなければいいんですか。それならサフィアとマリアンナさんもお誘いして………」
丁重にお断りしました。
**********
「これは面白いですね」
持ち帰ったスライムで実験中です。とりあえずいろいろ試しています。それで分かったことが幾つかありました。
1つは海の塩でも岩の塩でもどちらでもゴムにはなるという事。ただ、実験の回数が少ないから何とも言えないんだけども、海の塩の方が質はいいみたい。
次に溶けたスライムの中に直接塩を入れても固まるという事。でもこの場合、出来上がりにむらができるので塩水にしてまんべんなく混ぜた方がいいものになりました。
他には入れる塩の量によって固さが変わるという事。塩を多く入れれば固いゴムが、少なければ柔らかいゴムができました。これも塩の量と固さの関係は要研究ですね。
もう1つスゴク大事なこと、ゴムを作るのに魔法のスキルも何もいらないって事。つまり誰でもできます。スライムと塩さえあれば。そしてできたゴムは例の変形の魔法で形を自由に変えられっるって事。もちろん熱を加えれば柔らかくなるので、魔法が使えない人でも加工は出来そうです。
素材の研究は面白いです。こんな面白いことを何もしてこなかった王国って一体……
過ぎたことは仕方ありません。これからのことが大事です。少なくとも私のの所ではいろいろな研究も行っていきます。そのための人材確保……、まぁ頑張りましょう。
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