第81話 公爵領

「ルーファイス王太子様、ヴォラント宰相様。お話があります」

「何だ改まって」

「あのぅ、外務大臣の件なんですけど、あれ何とかなりませんか」

「何とかって?」

「できれば他の人と替わってもらいたいんですけど」

「うーん、難しいな。他にできそうな者がいないのでな。それにあの役は何もすることのない閑職だぞ」

「することないって、いっぱいやったじゃないですか」

「そもそも王国や周りの国は、他の国と付き合いをする習慣があまりないのでな。王や代表が代わった時の挨拶か、戦争が起きそうになった時に回避するための交渉ぐらいなのだよ。懸案だった帝国との関係も正常になった今、王国が他の国との間で戦争になることはまずない。国のトップが代わる事なんて言うのもそう頻繁にあるものではない。なのでやることのない役なのだ。だからミルランディア殿、心配しなくてもよいぞ」

「それにな、外交は王族の方がいいんだ。王族の文官は皆国王代理という肩書を持っているからな」

そうじゃないんですけど、しょうがなさそうですね。暫くは我慢しましょう。でもこの人たち絶対に、護衛の不要で空間魔法使いの私ならどこかへ出かけるにもすぐ行けるしとか思ってるに違いありません。これだたら大人は嫌なんです。


「ところでミルランディア様の公爵領のことなのですが、如何いたしましょうか」

私は所領を貰うことになってはいますが、具体的にどことはまだ決まっていません。場所が決まれば開発に取り掛かれるので早くしたいとこでした。

「どこら辺になるのでしょうか」

「公爵領となるとそれなりのものになるのですけど、生憎条件のいいところは全てどこかしらの領となっているもので…。所領替えも検討しているのですが」

「それは止めましょう。領民あっての所領です。誰の所領にもなっていないところはないのですか」

「あるにはあるのですが、東の大森林と北西の山岳地、あとは西の砂漠ぐらいでしょうか。あっもう一つ、東の帝国の入植地跡があります」

「東の大森林ってあの魔の森のことか。あそこはダメだ、危険すぎる」

魔の森に山、砂漠に入植地ですか。確かにいいところはないですね。

「では宰相様、入植地跡にしたいと思います。よろしいでしょうか」

「ミルランディア殿がいいのであれば構いませんが…」

「それでは陛下に報告をお願いします。所領は陛下から頂くんですよね」

「そうなります。まぁあそこであればだれからも文句は出ないでしょうから問題はないと思います」

「税金なんですけど、帝国軍が撤退するまでは免除という訳にはいきませんか」

「最大5年でしたよね。それなら問題ないと思いますよ。領地開拓の場合、3~5年は税の免除があったはずですから」

「ありがとうございます。それでは陛下から正式に所領を頂いたのちに開発に取り掛かりたいと思います」



その後陛下から無事所領を貰いました。これでグラハム辺境伯とはお隣さん同士です。辺境伯領より私の方が辺境なんですけど。


「ミーア、ちょっといいか」

ルイスおじさんに呼ばれました。一体何なのでしょうか。

「お前の所領、あんな辺境でよかったのか」

「いいと思ったから選んだんですけど。私は行き来に時間かかりませんから」

「ミーアはいいかもしれないけど、あそこに住んでいる民の感情は複雑だぞ」

「分かってます。その上で開発を進めたいと思っていますから」

「わかった。それならばいい」

「それだけですか?」

「いや、これからが本命だ。開発はどう進めるつもりだ。ファシールのようにするのか」

「そうですね、そのつもりです。ただあの時とは比べ物にならないぐらいの大きな街の開発ですから、大変は大変ですけど」

「ならミーアの開発する街に宮殿を立てておいてほしいのだ」

「宮殿ですか?都を移すのですか?」

「移しはしないが、いざというときのための備えだ。王都の程大きくなくてよいが頼めるだろうか」

「まぁこれから開発するんで大丈夫ですけど……」

「よろしく頼んだぞ。ミーアのこれからの予定はどうなっている」

「一度帝国に行ってこようと思います。所領のことを知らせておかないといけませんし、駐留軍についての調整もして来ようと思ってます。あと入植した民の処遇についても調整しないといけませんので」

「面倒なことを任せっきりにしてすまんな」

「もう一度私の所領について確認しておきたいんですけど、国境の川と仮の国境になっていたこの山の間でいいんですよね」

「そうだが」

「南側に森林が広がってるじゃないですか。この森林はどこまでが私の所領になるのですか」

「森林が欲しいのか。だがあの森林も魔物が多く生息するところだぞ」

「森林も欲しいんですけど、その先の海に面したところが欲しいんですよ」

「そういう事なら自由にしていいが、危ない事はするなよ」

「じゃぁ開発プランが出来たら一度相談に行きますね。あと領で働く文官を登用したいのですけど、どうすればいいのでしょうか」

「宰相やナジャフ卿あたりに相談すれば何人か推薦してくれるぞ。それが噂になって次々と集まってくると思うがな。所領を持たない下級貴族が市井と一緒に冒険をしているということもあるぐらいだからな」

「じゃぁ後で相談しに行きます。おじさんからのお願いって宮殿だけでいいですね」

「あぁ。普段はミーアが住んでいて構わないからな」

「私は宮殿には住みませんよ。普段は基本的に王都にいるつもりですから」


**********


私は今帝都にいます、ドルアさん宛の手紙を持って。今回はいきなり取り次げなんて野暮なことはしません。ちゃんと手紙を渡して冒険者ギルドに連絡をくれるように言って帰ります。手紙がちゃんとドルアさんのもとに届くかどうかはチェックしてるけど。

今回の訪問の目的はドルアさんへの挨拶だけじゃありません。バイクの追加購入と農業で使う機械の購入です。購入はその日のうちに済ませちゃいましたよ。

それから鉄の加工の見学です。バイクのお店でどこで作ってるのか聞いたら、簡単に教えてくれました。町はずれの大きな工房でバイクを作ってるそうです。そうと分かれば行かない訳がありません。表立っては動きません。こんな時こそマルチさんです。

そんなことしたら泥棒と同じじゃないかって?んなことはいいんです。だってこの世界には特許なんてないんですから。


工房を覗くと、色んな太さの鉄の管がありました。そう言えば私のバイクもそんな感じだったよね。長い管はどうやら魔法で切っているようです。魔法出来ることができるんだ。火じゃなさそうだけどなんだろう。

別の所ではこちらもまた魔法で鉄の管を曲げています。

『っていう事は、鉄の板も魔法で作れるのかな。後でサフィアに聞いてみようっと』


車輪についている固いんだけど少し柔らかい、あのよくわからないものについても聞いてみました。あれゴムっていうんだそうです。でその材料が何とスライムだっていうんです。なんでもスライムから核を取り除いて熱を加えるとドロドロに溶けるそうです。核がないんで動き出したりはしませんけど。そこにきれいにした海の水を入れるとだんだん固くなってくるそうです。王都で手に入る塩の石じゃダメなのかな。で、好みの固さになったら完成です。あとは魔法でチョイチョイと変形させればOK。あれ元はスライムだったんですねぇ。知りませんでした。帰ったら早速スライムを狩らなきゃ、じゃないや素材としてのスライムを集める依頼を出さなきゃだね。



街中をブラブラしながら屋台のいい匂いにつられて買い食いをしたり、魔道具のお店を覗いたりしました。ある魔道具のお店で1冊の本を見つけました。魔導書だとおもわれます。というのも真っ白いページだけでできていて、魔力が感じられるのです。白いページだからといって羽ペンで書こうとしても書けないそうです。店の人もどう使っていいかわからないものと言っています。なんとなく気になったので買うことにしました。少しお高かったですけど。


宿に戻る前に一応ギルドに寄ったところ、ドルアさんからの返事が届いていました。明日の午後宮殿にいてほしいとのことでした。



「お久しぶりです、ドルアさん。って程でもないですね、ここんとこチョクチョク来てますから」

「そうですね。で、今日は?」

「ちょっとご挨拶に。あの帝国から返してもらった土地なんですけど、私の所領になりました。つきましては近く領都の開発に取り掛かろうと思っています。それに伴って駐留運の施設を作ろうと思いましてその相談と、あの入植地にどれだけの帝国の人が住んでいるのか、それを教えて頂こうと思いまして」

「あそこをミルランディア殿が治めるという訳ですか。まぁあなたなら帝国にさほど悪いイメージを持たれていないので、あの地に残る民を迫害することもないでしょうけど」

「悪いイメージはないことはないですよ。問答無用で何度襲われたことか」

「でも王国の他の貴族と比べればはるかに少ないと思いますよ」

そう言いながらドルアさんは地図を広げました。

「帝国民が住んでいるところは、この辺りになります。北側と南側の森は開拓していません。森に入ると魔物が結構いますから」

「こう見ると案外人が住めるところは少ないのですね。領都は川沿いのこの辺りを考えています軍の駐屯地はこの辺りでいいですか。一応1000人規模で作ろうと思っていますけど」

「構いません。演習場の併設もお願いします」

「あと、領内に住んでいる人たちには移動していただかなければなりません。住み慣れたところを去る訳なのですから、少しばかりではありますがお金をお支払いするつもりです。移民を希望する人ってどれぐらいいますか、あとどれぐらいの家族が住んでいるのか、それも教えて下さい」

「あの地に住んでいるのは500人程なのです。全部で150家族ぐらいですかねぇ、小さな集落もありますから正確には分かりませんが。前に聞いた時にはそのうち400人ぐらいはそのまま住み続けたいといっていました。ただ、そこに住めないとなるとどうでしょう」

「一応住居は用意する予定です。ただかなり大きな開発になるので、今までと同じ生活は難しいと思います。それを踏まえてもう一度聞いて下さい。駐屯地の近くに住居を建てますので、それからで構いません」

「分かりました。ところでミルランディア殿はどれぐらいで領都を開発する予定ですか」

「そうですね、1年から2年と考えています。今までにない街づくりをしようと考えています」

「そうですか。楽しみですね」


帝国民を1箇所に集めてその傍に軍を配置しておけば、民を守るために多数の兵を送り込むという名目も薄くなりますね。帝国も王国に支払う金が結構あるので、上手くいけば駐留軍も少なくなるんじゃないかな。私の領地で好き勝手はさせませんよ。



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