第80話 和平協定(後編)

陛下への報告は問題なかったって。覗き見ですか?しませんよ。最近はマルチさん少しお休みです。何かあれば指輪の念話で呼び出しがかかるからね。


「帝国との協議についてミルランディアに一任する。外務大臣として、国王代理として王国のために結果を残すように」

「はい。ただいまより帝国に向かい、本協議について事前調整を行ってきます」


帝国に行くにあたって、ドレスじゃないズボンの正装を用意してもらいました。今日はフェアリー隊だけでいいね。もちろん馬車での移動なんてしません。宮殿前にゲートを開きました。

「何だお前たちは。今のは一体何なのだ」

「私はミルランディア・ヘンネルベリ国王代理である。和平協定の協議について事前調整を行うために参った。ドルア殿への取次ぎをお願いする。繰り返し言う、私はヘンネルベリ国王代理である」

「怪しい奴め、取り押さえるぞ」

「これがヘンネルベリ王国の証である。これで尚態度を改めぬとなれば、帝国と言えども看過できぬことになるぞ」

バカですねぇ。ここまで警告してあげたというのに、聞く耳を持たないから国に迷惑をかけることになるのです。言われたとおりに取り次いでおけばいいものを。

「何事だっ!」

「はっ!怪しいものが突然現れまして、ドルア殿に取り次げなどというものですから、捕らえようとしたところ抵抗にあってるという次第です」

「で、其方は」

「ミルランディア・ヘンネルベリ国王代理です」

「ミルランディア……、はっ!ヘンネルベリの」

「そうです」

「バカ者。お前たちは下がれ。この失態の始末は覚悟しておくがよい」

「怪しい者だったので捕らえようと……」

「いい訳は後で聞く。いいから下がれと言っているのだ」

フェアリー隊はとっくに矛を収めています。納得のいかない衛兵さんたちはぶつぶつ言いながら詰め所に下がっていきました。

「お見苦しいところを申し訳ございません。部下の教育がなっていないのは私の不徳の致すところです。今日はどのようなご用件で」

「先日帝国と王国の間で結ばれた合意で和平協定を締結するということになりました。協定の締結に伴って協議を要するのですが、その事前調整のために参りました。ドルア殿への取次ぎをお願いしたいのですが」

「承知いたしました。ではこちらへどうぞ」



「またうちの若いもんが迷惑をかけた様で申し訳ない」

「いえ大丈夫ですよ。こちらも突然の訪問でしたから」

「突然現れたなどと言ってたが」

「あぁ時間がもったいなかったので今回は馬車を使ってきたわけではないのです。私の魔法でゲートを開いてそこから来たのですけど、それが突然現れた様に見えたのでしょう」

「そういえばミルランディア殿は空間魔法の使い手であったな」

「そうですね。えぇと、こちらが両国の停戦について王国が帝国に対して求める賠償などになります。これを踏まえて両国の和平に繋がる停戦協議を行っていきたいと考えております。つきましては初めの協議について段取りを決めておきたいと思います。場所については私たちがこちらへ伺うと言った形でよろしいのですが、如何いたしましょうか」

「何度も往復するのは大変ではないのか」

「魔法を使いますから大丈夫です」

「では2週間後、時間は10時より昼を挟んで3時まで。一応2日間を予定しよう」

「分かりました。王国は私の他3名できます。護衛は10名、あと使用人が10名程度になると思います」

「ミルランディア殿もいらっしゃられるのですね」

「私がこの交渉団の団長ですから」

「これは厳しい交渉になりそうだ」

「「ははは……」」

「宿についてはこのあいだのホテルを押さえておく」

「ご丁寧にありがとうございます。それでは2週間後、実りのある交渉になることを期待しております」

「そうですね」

「あっ、私が帰るところ見ます?」

「あのゲート云々と言うやつか。出来れば見せていただきたい」

「構いませんよ。次の交渉の時もゲートを使って来ますから」

城の庭にゲートを開いて私は帰りました。


「これが空間魔法か。恐ろしい力だな」


**********


協議は結局3回行われました。3度の協議で無事合意を得ることができ、次回国王陛下と皇帝陛下による協定の締結式を迎えることになりました。

結局賠償金は聖金貨700枚。技術提供はさすがにクルマの技術は無理でしたが車輪やその他の素材、工作機械の他に農作業用の機械の技術についても提供を受けることになりました。軍の駐留についても駐留期限は最長5年、年間の駐留費が金貨1000枚、一人当たりの駐留費についても金貨2枚となりました。予定通りです。


「流石ですね、ミルランディア殿。ここまで予定通りに進めるとは思いませんでしたよ」

「偶然ですよ、たまたまです。でも最終的にはこちらが想定したラインまで押し切られたじゃないですか。まぁ王国の為にはなったと思いますけど」

「いやぁ十分だと思いますよ。もし外務大臣がドルアンカ卿のままだったらこうはならなかったと思います」

「あの人には申し訳ないことをしたと思っています。多分恨んでるでしょうねぇ。狙われたりして」

「まさか王族に弓引くとは思えませんが、用心に越したことはないでしょうな」

「私外務大臣返上してもいいんですけど」

「適任者がいないのだよ。ドルアンカ卿は前の国王の時から続けての起用だったのだが、王国では他の国と交渉するということなどまずないからなぁ。今回の帝国との協議はある意味異例中の異例なんだよ。陛下も適任がいれば充てるつもりだったのだがなかなかいなくってな。そこでこのあいだの件だろ。さすがに陛下も話にならないと思ったのであろう。しかも目の前に交渉に長けた者がいるとなればな。それにドルアンカ卿も分かっていたんじゃないかな。時代が代わって自分は取り残されているということを」

「一度ドルアンカ卿を訪ねてみることにします。この件が全て終わってからですけど」


**********


3度目の協議から2か月後、いよいよ王国と帝国の間で歴史的な協定が結ばれることになりました。いやぁ長かったです。なぜそんなに間が空いたのかって?それはね協定の締結に当たって、王国の西側にあるドレンシア連合国家の代表が立ち会うことになったからです。事前に話はしてあったんですけど、いざ日程が決まったとなれば来てもらわなきゃいけないのでそりゃ大変です。でもそれだけ重要な協定なのです。


無事締結も終わり国王陛下と皇帝陛下、連合国代表ががっちりと握手をしています。私的にはまぁ一仕事終わったかなと、そんな感じです。

和平協定も結ばれ、本当の意味での終戦に向けてのスタートが切られました。あと5年で帝国との間は綺麗になります。


**********


「ドルアンカ侯爵様、ミルランディアです」

「姫様ではありませんか。ささっ上がってください」

私は前の外務大臣ドルアンカ卿を訪ねています。

「帝国との間の和平協定が無事結ばれたようですね」

「おかげさまで、先日締結式が行われました。ドルアンカ殿につきましては不快な思いをさせてしまったこと、お詫びいたします」

「頭をお上げください、姫様。確かに陛下から更迭されたときには姫様のことを悪くも思いましたが、姫様も王国のためにいろいろと考えて下さってると分かってましたので今では何も」

「若輩者が出過ぎた真似をしたばっかりに迷惑をかけてしまったと深く反省をしております」

「私の考え方が古いというのも分かっていました。私が不器用なばかりに皆に迷惑をかけたのかと。もう私の時代ではなかったのですよ。姫様、これからの王国をよろしく頼みましたぞ」

「えぇ、出来る限り頑張ります」

「ところで姫様、あのバイクというもの、一つ譲ってはいただけないだろうか」

「まだ何台かありますので構いませんけど、侯爵様がお乗りになられるのですか」

「いやぁ私ではない。孫にな、丁度いいと思ってな」

「分かりました。ではこちらをどうぞ」


ホッとしました。ドルアンカさん起こって追い返されるかもとチョットだけ思っていましたから。でもこれで狙われることもなさそうですから一安心です。



さて宰相様とお話しして、私の所領について決めないといけないですね。決まれば開発とかやることがいっぱいです。技術の提供を受けた素材の研究もしないといけないですからね。【ミーア化け物化計画】が停滞することはいいことです。


外務大臣辞めさせてもらえないかなぁ………



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