第78話  気晴らし

「あー、もぅ全然分かんないっ!」

どうしたのかって?決まってるじゃない、あの鉄の板が作れないのよ。そりゃぁね、職人の人に叩いてもらえばできるわよ。バイク1台作るのに時間もお金もいっぱいかかっちゃう。もっと簡単に同じものがいっぱいできなきゃダメなのよ。私の創造術と錬金術を使えばできるけどさぁ、それじゃダメなのよ。それなのに……


「ねぇミーア、何そんなに難しい顔してるのよ」

「あっエレン、チョット煮詰まっちゃってね」

「そんなときはパーッと気晴らしに行くべきよ。バイクで草原を走ると気持ちよさそうじゃない。ね、行ってみましょうよ」

無理やりですね。確かに気晴らしにはなるでしょうけど。でもこれってエレンが遊びたいだけじゃないのかな。

「そうね。じゃぁ一人で気晴らしにでも行ってきますよ」

「一人じゃ危険です。護衛の私が付き添います。チョット連絡してきますので待っててくださいね」

なんだ、やっぱり外に行きたかったのね。


私は今エレンと二人で王都の壁の外、だだっ広い草原をバイクで走り回っています。小さな丘を登ったり下りたり。もうすっかり乗りこなしています。

「あーやっぱり気持ちいいわね」

「ミーアはそういう顔してた方がいいって」

「私はエレンと違って頭使うことが多いのよ」

「またそういう事言う」

「「ははははは………」」


「ちょっと森の方まで行くわよ」

「危ないからダメですって。護衛の身になってくださいよ」

「大丈夫よ。バイクの速さならウルフからだって逃げきれるって。ほら行くよ」

「待ってくださいよー」

このバイク、馬車が通れるようなところであれば平気で入れます。


「エレン、何かいるわ。魔物が襲ってるみたい。これはオークね。行くわよ」

「分かりました。助けるんですね」

「当たり前でしょ」

バイクのスピードを上げて、オークが襲っている所へ急ぎます。

「いたわ。助けるわよ」

襲われていたのはまだ若い男の子2人、女の子2人の冒険者っぽい人たちです。みんな15~6歳ってところです。

「エレンはあの子たちを安全なところへ。えっと森の中で火はマズいから、ウィンド・カッター!」

無数の風の刃がオークを切り刻みます。

「大丈夫?あのオークは任せて」

「助かります」

風の刃が消えた後には、切り刻まれ立ったまま死んだオークがありました。ドーッン!

「終わったようね」

4人はやはり冒険者で、パーティーを組んでいるそうです。男の子2人は剣士、女の子2人は魔法使いだそうです。剣士の男の子2人はオークの攻撃で大怪我を負ってます。魔法もまだ強力なものが使えないようで、ホントにピンチだったみたいです。

「まず怪我を治しちゃうね。ハイ・ヒール!ハイ・ヒール!ヒール!ヒール!」

「あっ、傷が治った」

「ホントだ、折れてた腕が治ってる」

「「「「ありがとうございます」」」」

「あなたたちはどこへ行くの」

「依頼で王都に行く途中だったんです」

「王都まではもう少しだから頑張ってね」

「はい。あっ、お名前を教えて下さい」

「私はミーア、彼女はエレンよ。それじゃぁね」

「お礼がまだ」

「いいわよ、気にしないで。そのオークあげるから。気を付けてね」


「強い人だったね」

「うん。オークをアッと言う間に倒しちゃったし」

「それに回復も」

「ミーアさんって言ったっけ、王都のギルドに行けば分かるかな」

「お礼しなきゃいけないしね」

「でも私たちがあんな強い人にどんなお礼をすればいいのかな」

「「「………」」」

「とにかくこの依頼を片付けちゃおうぜ」

「そうね」



「ミーアちゃんってもしかして強くなった」

「そんな感覚はないけどなぁ」

「でも風魔法や回復魔法を使ってたじゃないですか」

「あれはね、適性があったっぽいのよ。だから使えるって感じかな」

「元ギルド職員の経験から言わせてもらうと、ミーアちゃんの個人ランクはAランク、いやSランクかもね」

「まさか、依頼だってそんなにこなしていないし、魔物の討伐だってあんまりしてないわよ」

「ニールの時もそうだったんだけど、ソロでクラーケンを4匹も倒せる冒険者がCランクってことある訳ないでしょ。クラーケンはAランクパーティーが幾つか集まってようやく1匹倒せるかどうかっていう魔物よ。それだってこっちが無傷で倒せるなんてことはあり得ない。それをアンタは……」

「あれはほら、私の魔法が上手く決まったってだけで……」

「それを実力って言うんです。王都に戻ったらランクの更新と所属の変更を行いますからね。どうせベルンハルドのままなんでしょ」

確かに。前にギルドカードを更新したのはエレンの講習を受けた後Cランクになった時だったっけ。

「でも名前は変えないよ。公務はミルランディアだけど、冒険者の時はミーアだから」

「そうね。その方がいいかもね」


「ところでさ、私この後ファシールに顔出して来ようと思ってるんだけど、エレンは先帰ってる?」

「そんな冷たいこと言わないで連れて行ってくださいよ」

「えー、だってバイクならすぐじゃん」

「意地悪なんだから」

「冗談よ、冗談。ファシールにはセリーヌもカッチェもいるからね。それじゃぁ行こうか。チョット手出して」

バイクをしまってエレンと手を繋ぎます。ワープではなく飛んでいきます。

「エレン、舌噛まないようにね。それから絶対手を放しちゃダメだからね。フライ!」

もうすっかり慣れたね。今回はファシールに向けて斜めに飛び立ってみました。

「あわわわわ……」

「エレン、ちゃんとしてないと舌噛むわよ」

「だ、だって、飛んでるんですよ。落ちるかもしれないじゃないですか」

「大丈夫よ、私の手さえ離さなければ。試しに離してみる」

「や、や、やめてくださいよ。そんなことしたら死んじゃいますって」

「エレンなら大丈夫だと思うけどなぁ」

「そんなことありませんから。私はあなたと違って極普通な人間です」

「へーエレンってそんなこと言うんだ。いいのかなぁ」

「ご、ごめんなさい。撤回します。撤回しますから許してくださぁーい」

この後宙返りや急降下、急上昇をしながら楽しみました。全然楽しめなかった人もいましたけど、まぁ初めてならしょうがないよね。次があれば一緒に楽しみましょうね。



楽しい楽しい空の旅を終えて、私たちはファシールに到着しました。交流区は活気がありますねぇ。前に来た時とお店は変わっていますけどどの店もみんな気合い入れて商売しています。1カ月勝負だからねぇ。

「あらステキなお姉さんたち、ちょいと寄ってってくださいな。いい娘がいますから」

相変わらず誰にでも声をかける客引きです。違いました、お金を持ってなさそうな人には声をかけていませんでした。

「ねぇミーア、チョット寄ってきましょうよ」

エレンさん、ここ娼館ですよ。分かってます。見るとエレンさんすっかり呆けてます。

「エレンはどうするの、ここにいるの。私はラファーネさんやセリーヌに会いに行くけど」

「うーん、じゃぁ行きますよ」

嫌々ついてこなくたっていいのよ。帰りにはちゃんと迎えに来てあげるんだから。でもついてくるって言うんならいいか。

交流区にある食堂で小腹を満たして町の中に入ります。

「ミーアにエレンさん。どうしたんですか」

懐かしい声です。

「カッチェ、カッチェじゃない。ここにいるって聞いてはいたけど、元気だった」

「うん。ミーアのおかげでここにいさせてもらってる。なんて言ったらいいかわかんないけど、とにかくミーアには感謝してるから」

「ここの仕事はどう」

「お店をやってる人が女性ばかりじゃない、それを狙ってくる変な男の人がいないって訳じゃないけどまぁ平和ですよ。私はこうやって交流区を巡回しているだけですけど」

「でもカッチェがそうやって見回ってくれてるから交流区の人たちだって安心して商売ができるんだよ」

「そうだといいんですけど。そう言えばなんでエレンさんがいるんですか」

「エレンはね、私専属の警護をお願いしてるの。言わなかったっけ」

「うん、ミーアとはあんまり離せなかったから」

「私は時々ここに来てるから、たまにはセリーヌも呼んでみんなでお茶でもしましょうよ」


「ラファーネさん、お久しぶりです。ミルランディアです」

「公爵様、どうも」

「最近はどう」

「順調です。少しずつですがここを出て行く人もいます。町の人は一様に明るさを取り戻してきています」

「それはいい傾向だね」

「ここから人が全部いなくなるのはずっと先だと思いますけど、頑張りますね」

「王都に帰りたくなったら行ってね。大臣に話しておくから」

「それは止めてください」

「えっ、なんで」

「ここの仕事がいいんです。ここの仕事に比べたら王都での仕事なんて。私決めたんです。この仕事を最後までやり切るって」

「他の人も」

「みんなそうです」

「分かったわ。もし異動の話が出てもラファーネさんたちの思いを伝えるから。困ったことがあったら言ってね」

「それなんですけど、交流区に自由市場を作って欲しいんです。お店の順番待ちが多くって屋台みたいな小さなところでいいから商売をしたいって声が多いんです」

「分かったわ。次に来た時に作りますから、場所を決めておいてください」


セリーヌともいろいろと情報を交換してファシールでやることは終わりです。

「エレン、帰ろうか」

「ミーア様、交流区の行きましょうよ」

「えー、だってあそこ娼館だよ。そんなとこで何するのよ」

「決まってるじゃないですか。やることは一つです。さっ、行きましょ」

「私は帰る。エレン一人で行けばいいじゃん」

「ミーア様がいなければ帰れないじゃないですか。そんな冷たいこと言わないでくださいよ。一緒に楽しみましょうよ。それともお屋敷でミーア様の事いただかせてくれますか」

「分かった。じゃぁエレン一人で行ってきていいから。ちゃんと後で迎えに来るから」

「それじゃダメです。ミーア様も一緒に行くんです。いつもお疲れのミーア様にはここでリフレッシュしてもらいますから」

げげっ、非常にまずい展開です。ラファーネさんに助けてもらおうか。ダメだあの人にも誘われたんだ。あの日の悪夢がよみがえるー。



余計に疲れました。


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