第77話 再び帝都へ

「ヴォラント宰相、ちょっとお話が」


帝国で私を襲った特務隊の人たちの処分について、今どうなってるのかを聞きました。

「進んでない?どういう事よ」

「皆一様に何も言わないのです」

「いいわ、私がやるから。担当の人呼んできて」


「ふっ、何だ嬢ちゃんか」

「アンタねぇ、分かって言ってるでしょ。下手したらそれだけで不敬罪にあたるわよ」

「どうせ死罪の俺たちに、今更不敬罪の一つや二つ増えたところでどうって事ねぇさ」

「だから何にも喋らないの」

「俺たちは帝国軍人だ。しかも特務隊だぜ。情報を売ってまで命乞いをするようなことはしない。俺たちは捕らえられた時点で死んだのだからな」


既に特務隊の連中は3つのグループに分けられています。1つはジルフ部隊長をはじめ、特務隊の幹部たち5人。次が小隊長や中隊長たち。これが多くて80人ぐらい。最後が私を執拗に殺しに来た兵隊。これが12人。

「まずはこのグループね。あなたたちは執拗に私のことを狙ったわよね。周りを見れば既に作戦が失敗に終わってると知りながらね。一矢を報いたいという気持ちも分からなくないけど、状況を見ればあなたたちのやったことはただの蛮勇ね。少しでも国のためを思うならあそこは大人しく捕まった方が良かったんじゃなかったかしら。蛮勇と勇気は全然違う、ただの自己満足です。そんな人達に狙われた私が許すと思いますか。私が許したとしても国王代理である王女を狙ったという事実は変わりません。そのような者たちを国が許すとお思いですか。あなたたちは自らこの結果を招き入れたのです」

これは最後のグループね。

「次にあなたたち。あなたたちは隊長と言う立場で私を殺害するように命令してたわね。命令を下した以上当然責任もある。あなたたちにはその小隊や中隊の責任を取っていただきます。その覚悟を持って隊長職を務めていたのでしょうからね」

これはもちろん小中隊長たち。

「そして最後にジルフ隊長をはじめ、特務隊の上級幹部の皆さん。あなた方は私の殺害を企み、あろうことか帝国正規軍を率いてそれを実行に移しました。義勇団を結成したのもジルフ隊長、あなたですね。調べはついていますよ。継承権のないような貴族の子供たちを誑かし、叙爵や軍幹部への登用を餌にして私を襲わせた。それが失敗と分かるといよいよ自分の部隊まで投入する。あなたのやったことは帝国を窮地に陥れる策でしかないのですよ。事実あなた方の行動によって帝国と皇帝陛下は枷を嵌められた状態で交渉せざるを得なくなり、結果として帝国は大幅に譲歩した上で王国と合意せざるを得なくなった。あなたたちのやった行いはそういう事なのです。それに何の疑問も持たずただ推進することだけに注力した上級幹部の方々も同罪です」


「あなたたちのことを私は許すことはありません、あなた達が生きている限り。もし私が許したとしても王国は許さないでしょう。皇帝陛下は最後まで特務隊のことを帝国軍とは認めませんでした。ですのであなたたちのお仲間は、私を襲撃した賊として帝国に引き渡しました。賊の扱いはご存知ですよね。殺されても誰も文句は言えない。あなたたちの立場が理解できたでしょうか」

「俺たちは賊として処分されるのか。俺は軍務と言われて出てきたんだぞ」

「正式に帝国があなたたちを軍と認めてない以上、賊ですね。認めてしまえば帝国は軍を出して王国の使者を殺害しに行ったということになるので、周辺国との立場上認める訳にはいきませんからね。そこで私からあなたたちへの最後の提案です。あなたたちは死罪は免れません。これは決定事項です。そこでですが私はあなた方に手紙を書くことを許しましょう。あまり多くはできませんから一人2枚まで。そしてあなた方の持ってる品と髪の毛をお預かりします。私はあなた方の処罰が完全に終わった後それらを持って帝国に参ります。あなたたちの復権をお願いしに。如何ですか」



全員が手紙と持ち物、そして髪の毛を私に預けました。処刑の前、彼らには豪華な食事とお酒がふるまわれたそうです。



「国王様、ヴォラント宰相様。私は再び帝国を訪ねてきます。彼らからの預かり物を渡して、彼らの復権をお願いしようと思ってます」

「ミルランディア、そこまでする必要があるのか」

「王国が帝国に対して恩を売るためです。私が見たところ王国の技術力は帝国よりかなり遅れています。この後の帝国との和平締結に向けていい状態にしておきたいのです。そのためとお考え下さい」

「分かった。気を付けて行ってくるのだぞ」

「はい。今回は公式訪問ではないのですぐに帰ってきます」

「盗賊も出ると思うのでな、護衛はしっかりと付けるのだぞ」

「今回は馬車で行きませんから、大丈夫ですよ」

「ん?どうやって行くのだ。またあのワープと言うやつか」

「今回は飛んでいこうと思ってます」

「ミルランディアのやることは分からん。とにかく気を付けるのだぞ」



今回の帝都訪問は非公式のものです。ですから私の身分は【冒険者ミーア】で行こうと思ってます。と言っても宮殿を訪れるときはミルランディア公爵なんですけどね。冒険者ミーアって言ったって別に狩りしたりするわけじゃないですけど。大空をビューンって飛んでくだけですから。途中でワイバーンと出会ったら狩るかも知れませんが。なのでホントはやっちゃいけないんですけど国境の検問も無視です。



「それじゃぁ行ってきますね」

王宮の中庭で国王陛下とヴォラント宰相が見送ってくれます。私は一気に空高くに上がり、進路を帝都に向けて加速しました。また未確認飛行物体を見たって大事になったらヤだからね。

「陛下、ミルランディア殿は一体……」

「私にもわからない。あの自由すぎる姪は、この国では狭いのかもしれないな」

「そうですね。ただミルランディア殿がいればヘンネルベリは安泰でしょうけど」

「私はあの娘を手放す気はないよ。縛ることはできなくても、ここがあの娘にとって居心地のいいところでありつづければどこにもいかないさ」

「自由に空を飛ぶ。人間の叶わぬ夢のはずなのに。羨ましいです」

「あの娘はあの娘だ。私たちもやるべきことをしっかりやらんとな。帝国との協定、なるべく早く結ぶぞ」

「承知しました」



『ここから帝都までって大体600キロぐらいか。結構あるな。何回か休みながらでも今日中には着きそうだね』

途中2回休んで帝都に着いたのは夕方の少し前です。これから宮殿に言っても迷惑だから明日にします。

『今日の泊まるとこ探さなきゃ』

こんな時は冒険者ギルドに限ります。冒険者登録カードはどの国でも共通な身分証明書です。ここ帝都の冒険者ギルドは立派です。

「すみませーん」

扉を開けて入って行くとさほど混みあってはいませんがそれなりに冒険者らしき姿も。奥の酒場ではもうすっかり出来上がった人たちもいます。こんなところに若い女の子が一人で入って行く。一応冒険者の装備ですよ。ミスリルの服にアダマンタイトの防具、オリハルコンの杖を持ってマジックバッグのリュックを背負います。ナイフを腰に付けてクロスボウを肩にかけます。うん、立派な冒険者スタイルです。これ全部買ったらいくらになるんでしょうね。でも見るからにお嬢様冒険者ですね。こんな娘が荒くれ者の中に入ればあれが絶対おきますね。ほらフラグさん、出番ですよ。今立たないでいつ立つというのですか。

「チョット聞きたいことがあるんだけど。ここら辺でおすすめの宿ってどこかな」

冒険者登録カードをカウンターに置いて、受付のお姉さんに聞きました。

「えぇとちょっとお待ちくださいね。ミーアさんですか。えっ?所属はヘンネルベリですか」

「登録はそうですね。今はこっちでのんびりやってますけど。で、宿屋の紹介お願いしますよ。お金はあるんでちゃんとしたところがいいです。女の子一人なもんでね」

「はい、それじゃぁ………」

「なぁ嬢ちゃん、宿探してんだって。それなら俺たちのとこへ来いよ。歓迎するぜ。な、朝まで楽しもうぜ」

キターーーー!!!!ギルドで絡まれるイベントです。フラグさん、ちゃんと仕事してくれましたね。エライエライ。

ガラの悪そうな、っていうかガラの悪いチンピラ冒険者が絡んできました。

「今探してもらってますから」

「いいから来いよ」

私の腕をつかんで引っ張っていこうとします。

「ちょっとガラン、いい加減にしなさいね。この娘アンタじゃ相手にならないわよ。万年Dランクさん」

「うるせぇな、黙ってろよ。今俺と話してるんだよ」

「すみません。五月蠅いんで黙らせちゃってもいいですか?あまり騒ぎにはしたくないんですけど」

「少しだったらいいわよ。こいつら仕事の邪魔ばっかするんだから。少し痛い目に合わせちゃっていいから」

「何ゴチャゴチャしてんだよ。早く向こうで楽しもうぜ」

「Cランクのお嬢様が万年Dランクのガランにお仕置きするんですって」

「ふざけやがって。こっちに来て俺たちを楽しませろって言ってんだよ」

仕方ありません。大分頭が熱くなっているようなので冷やしてあげることにしました。

「ウォーター・フォール」

キンキンに冷えた水を頭からかけてあげます。

「テメェ、何しやがんだ」

「いえね、だいぶお熱くなっているようでしたので少し冷ましてさしあげようかと」

受付のお姉さん、そんなに面白いですか?

「テメェ、絶ってぇ許さねぇ」

今度は殴りかかってきましたか。痛いのは嫌ですからねぇ。

「アイス・ウォール」

ガシャン!!無残、私を殴ろうとした拳は分厚い氷の板に阻まれてしまいました。

「ウィンド・カッター」

風の刃が襲い掛かります。でも決して傷つけることなく、装備しているものを細かく切り刻んでいきます。

「何しやがんだ。魔法使うなんて卑怯じゃねぇか」

いや、毒使ったら死んじゃうよ。まだ魔法の方がいいじゃん。怪我しないように手加減してあげてるんだし。

「キャーー!!」

風の刃が治まった後にあったのは、全ての装備を解除された哀れなDランク冒険者の姿でした。お姉さんったら指の間からしっかり見てますね。

Dランクの冒険者ガランも自分の姿に気づいたようです。慌てて隠す所隠しながらお仲間のところへ去っていきました。あちらのお仲間も大笑いです。

「テメェ、覚えてろよ!今度会ったらタダじゃ済まねぇからな」

テンプレの捨て台詞ですね。そんな捨て台詞もギルド内の笑いの渦にかき消されていきました。

「ミーアさんって凄い魔法使いなんですね」

「それほどでもないですよ。身を守る程度の魔法ですから」

「でも久しぶりにスカッとしました。いつもあのガランっていうの、女性冒険者に絡むんですよ。イヤだって言っても無理やりね。ギルドでも手を焼いてたんです」

「そんなことはいいので、宿をお願いします」

「そうでしたね。こちらの宿がお勧めです。商会主さんたちも泊まるような宿ですので、変なところではありません」

「ありがとう。行ってみるわ」


**********


「ヘンネルベリ王国のミルランディア公爵です。ドルアさんに取り次ぎをお願いします」

「ドルア軍務卿のことか。約束はあるのか」

「いいえ」

「ならダメだ。約束を取り付けてから出直してこい」

「急ぎの用なんでお願いしますよ」

「ダメだダメだ。ほら、帰れっ」

帰れと言われて素直に帰る私ではないことぐらいご存知ですよね。もう少し粘れば騒ぎに気づいてくれるかもしれませんね」

「帝国にとって大事な話なんですけど。ヘンネルベリから来たって言ってるでしょ」

「どっから来ようがダメなものはダメだ」

「お願いしますよ。取り次いでくださいよ」

「だからダメだと言ってるだろ。出直してこいっ」

人が集まってきました。

「何の騒ぎだ」

この声は。えっ?皇帝陛下。

「陛下、お下がりください。この女が約束もなしにドルア軍務卿に会わせろと」

「ミルランディア殿か。よくおいでになった。さぁこちらへ」

「?」

「失礼しますね」

ドルアさんでよかったのに陛下が出てきちゃいましたよ。


「ミルランディア殿、どのようなご用件で」

「王国に連れて行った賊たちの処分が終わりました。そのご報告と、お預かりしていたものをお渡しに来ました。あとお願いに」

「そうですか」

「まずこれがお預かりしていたものになります」

100個の箱をテーブルの上に広げました。

「これは」

「説明の前に陛下にお話というかお願いがあります。あの時の賊って帝国正規軍の特務隊ですよね。ただあの時の交渉で陛下は正規軍とは言わなかった」

「認めると後の処理がな」

「それも承知しています。ただ私を襲った『賊』として王国で処分されたとなると、かれらの帝国での扱いはどうなります」

「賊に落ちて殺された。だろうな」

「そこでです、彼らに復権をお願いしたいのです。彼らの処刑は終わってますが、彼らは軍人として殉職したとそうしてはもらえないでしょうか」

「それだと両国の間が…」

「済んだことは仕方ありません。ただ彼らの家族はどうでしょう。軍務と言われて出兵して、賊として捕まって処刑された。ジルフ隊長以下上級幹部の人たちはこれが正規の出兵ではないことを知っていたでしょうけど、その他の兵隊は違います。彼らの為にも、残された家族のためにも、賊として処分されたのではなく、軍人として最期を遂げたとそうしてあげてほしいのです」

「ミルランディア殿はそれでいいのか」

「これは私が提案したことです。もちろん国王も承知しています。そして何より王国で最期を遂げた100人の兵士たちの思いでもあります」

「ミルランディア殿とヘンネルベリ王国がそれでいいというのであれば帝国としては異論はない。むしろありがたい提案である。その話、アズラート帝国を代表してお受けする。感謝する」

「それでこの箱なのですが、皆さんの遺品と髪の毛になります。家族の方や親せきの方にお渡しください。そしてこちらが手紙になりますので、合わせてお渡しの方お願いいたします」

「こんなに丁寧に」

「私は戦争が嫌いなんです。国の大義などと言うあるんだかどうだかわからないものに振り回され、無理やり戦わされて傷ついていく。不幸になる者は数多くいれど幸せになる者などいない。前線で戦ってる兵隊に罪はありません。罪があるとすれば安全な後方でふんぞり返ってる偉い人です。だから兵隊として死んでいった者については手厚くしてあげたいのです」

「ミルランディア殿は強いな」

「いえ、私はか弱い女の子ですよ」

「「ははは………」」




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