第76話 私、飛びますっ!

「里長様、その【天地魔法】って一体どういうものなんですか」

「天と地を司る魔法だな」

そのまんまじゃないですか。その説明だったら私だってできます。

「あのぅ、それでは……」

「我も分からんのだ。許せ」


まぁ魔法書を探したってないでしょうから、伝説やお伽噺でも探しますか。早速里の竜に聞き込みです。


ありましたよ、伝説に。大地を振るわせて敵を倒したとか、勇者が剣を振るうと山が吠えたとか、空から降ってきた星が敵を倒したとか。半端ない力ですね。でもきっとこういう事が出来るのが天地魔法なんだと思います。でもこの魔法で空を飛べるのでしょうか。


あっ!こらっ!止めなさいって。あーあ、ついに私の適性属性に天地が加わってしまいました。でも適性があったって使えるとは限らないからね。きっと適正だけだよね。えっ?そんなわけないだろうって。稀代の化け物が何を言ってるんだって。言わせてくださいよ。だってさ、地震を起こしたり、火山を噴火させたり、星を落としたりってどう考えたって災害じゃないですか。こんなの災害級の魔物の方がよっぽど可愛いって。適性があって魔法が使えたとしても災害を引き起こす魔法じゃないと信じてるけど。もし万が一使えたとしたら……、使えると使うは違うからいいの。


魔力はあり余ってるから魔力不足って心配はないんだけど、さてどうしましょうかねぇ。私がやりたいのは空を飛ぶこと。空中に浮くってどうすればいいのかな。私が軽くなれば浮く?確かに浮くかもしれないけどそれって凄く軽くならないとダメだよね。そんなこと出来る訳ないし。鳥が飛ぶのってどうやってるんだろう。あれは魔法で飛んでるわけじゃないよね。落ちないように上に上に飛んでるって事?分からないことだらけです。

浮いてるものって何だろう。花の種?フワフワしてるよね。あれ浮いてるわけじゃないか。風に運ばれてるだけだね。石鹸のアワ。あれは浮いてるね。でも仕組みは分かんないや。

じゃぁなんで私は浮かないのかな。飛び跳ねてもすぐに着地しちゃう。重いから?それだけかなぁ。軽い羽根だって落っこちるよね。いつも足の下は地面。木に登った時は枝だけどまぁ地面みたいなもんだね。ん、いつも地面じゃないや。昔お母さんたちと湖に遊びに行ったとき、初めは底に足がついてたけどそのうち離れたっけ。あれ浮いてたね。いつの地面だったら水の中に潜るはずだもんね。うん、これがどうやらヒントっぽいな。

水の中の私は地面から離される何かがあったんだ。私を地面から離すだけの何かが。私の周りを水のような何かで満たしたら浮くって事?でもそれじゃぁ自由に動けないよね。浮くことも大事だけど自由に飛び回るのが目的だからな。

ぶら下がるっていうのも浮いてることになるのかな。あれも足の下には何もないよね。何かに掴まってる訳だから浮いてるって訳じゃないか。

ぶら下がると言えば宙吊りも浮いてるって言えば浮いてるね。足の下は地面じゃないし。紐で上に引っ張られてる。そうか、上に引っ張られれば浮くのか。手を持って引き上げるんじゃなくって、体全体を持ち上げるイメージ。うん、間違いない。それでいいはず。


イメージは固まりました。あとは実践です。ここまで来ればもう私のものです。このイメージと理論を私が使える魔法の中から探すだけです。見つかれば使えるはず。【化け物化計画】の言い出しっぺ作者ができなくするわけがないですから、きっと必ずできます。

イメージを高めて、上に持ち上げる感じ。ん?何か閃きました。『ふらい』って何だ?

もしかして呪文かも。もう一度やり直しです。上に持ち上げるイメージで魔力を纏わせます。「フライ!」

足が地面から離れていきます。私の身体が浮き上がりました。成功です。


「ミーアが浮いてる」

エルフィが嬉しそうに飛んできます。

「私浮けたよ。ほら、浮かんでる」

浮いてる感覚にもだいぶ慣れてきました。高く上がったり下がったり、まだ上下にしか動いていませんけどだいぶスムースになりました。高いところから突然落ちるなんてことはなさそうです。一安心です。これなら崖の上に追い詰められても飛び降りたフリして逃げられそうです。

ブラちゃんやエルフィは魔力を噴出して動くって言ってたけど、このまんま動けるかもしれない。横に行くイメージをしたら…、動きました。浮いてしまえば行きたい方向をイメージするだけで動けそうです。

「エルフィ、一緒に飛ぼうよ」

「ミーア、もう飛べるの」

「多分平気。じゃぁ飛んでみるからついてきて」

私はギュンと上へあがるとグルグルと回ってみました。

「待ってよー。速いってば」

私とエルフィは追いかけっこをして遊んでいます。そんな様子を見て、里のドラゴンたちも一斉に上がってきました。

「竜の皆さん初めまして。私は人間のミーアです。エルフィのお友達です。ヨロシクね」

「おい、俺の友達ダチじゃねぇのかよ」

ブラちゃんが拗ねてます。

「もちろん友達だよ。ね、ブラちゃん」

「その名前で呼ぶなよ、恥ずかしいな。俺にはちゃんとファルゴって名前があるんだからさ」

「いいじゃん。だってブラちゃんはブラちゃんだし」

この後ファルゴはブラちゃんって呼ばれるようになったみたいです。めでたしめでたし。


「里長様、ありがとうね。里長様の一言で私飛べるようになったの。感謝してるわ」

「天地魔法は災害級の者も多い。気を付けて使うんだぞ」

「分かってます。っていうかこれ以上研究しないつもりだし」

「いや、天地魔法を極めてほしいのだ。この世界の為にもな。天地魔法は使い手が途絶えて久しかった。それをミーアが復活させたのだ。ミーア以外に後世に残せるものはいない。だからミーア、この魔法を後世に残すのだ」

なんか大変なことを言われた気がします。そう言えば時間魔法と空間魔法も言われてたっけ。後で何とかしないとね。げっ!やること増えたじゃん。せっかく空を飛ぶって言うのが減ったのに。


「それじゃぁ帰ります。また遊びに来ますから」

「おぅ、待ってるからな」



王都の屋敷に戻っても嬉しくて仕方ありません。だって大空を自由に飛べるんですよ。ドラゴンや鳥やワイバーンみたいに。

「ねぇサフィア、私飛べるようになったよ」

「ミーア様、何を言ってるかよくわからないのですが」

「いいから見てよ」

庭に出るとそのままスイスイ飛び回ります。宙返りをしたり木の間をぬって飛んでみたり。

「ね、凄いでしょ」

「凄いのは分かりました。でも淑女レディとしては如何なものかと」

「どういうこと?」

「スカートの中が見えてますよ」

飛ぶのに夢中でそこまで頭が回りませんでした。

「え、ええと、ズボンにすればいいのかな」

「少なくともスカートのまま飛び回るのはお止めになられた方がいいかと」

「反省してます」

ジャスティンじゃなくてよかったです。


この後、スカートの中を覗かれてもいいように、膝下までのピッタリしたものを穿いてからスカートをはくようになりました。サフィアも渋々ながらこれならいいって言ってくれたもんね。


「サフィア、ちょっと手貸して」

「何するんですか?」

「いいからちょっと手を繋いでよ。じゃ行くよ。フライ!」

おぉ、二人で飛ぶことができました。でもこれ私が手を放すと落っこっちゃうね。

「わっ、わっ、わっ、わっ」

「大丈夫?手を放すと落っこちるから気を付けてね」

「ミ、ミーア様、絶対離さないでくださいね」


その日王都では、謎の飛行物体の目撃例が数多く報告された。それ私だから。


「ミーア、あまり突拍子もないことはしないでくれな」

ルイスおじさんに強く釘を刺されてしまいました。でもこれぐらいでへこたれるミーアではありません。

空を飛ぶのが悪いんじゃない。私が自由に空を飛んでるのを見て大騒ぎする人が悪いんだ。そうか、見つからずに飛べばいいんだね。

ふふふ、次の野望はそこだな。待ってなさいね。



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