第75話 天地魔法
バイクの研究はそれなりに進めている。バラシて組み立てて、またバラシて組み立てて。
そんなことを繰り返したり、部品を一つ一つ丁寧に調べたり。そんなことを続けていました。
だってそうするしかないじゃん。確かに創造術を使えば同じものができるかもしれないけど、それじゃ私しか作れなくなっちゃうからね。誰でも作れるようにしとかないと、私はバイク作りで一生を終えることになっちゃう。そんなの絶対いやだし。
他に気になったところと言えば車輪です。車輪自体は王国にもあります。馬車や荷車で使ってますからね。王国で使われてる車輪は木でできていて、外側を鉄の輪で補強したものです。ところがこのバイクの車輪は鉄でできていて、外側に弾力のある何か見たことがない物が巻いてあるのです。
『これって何だろう。固いんだけどプヨプヨしてる』
なんだかわかりませんが、まぁ研究材料です。よく見ると
『やることが多いなぁ。しょうがない、一つずつやるか』
王都の工房街にはいくつもの鍛冶工房が並んでいます。中には騎士団と取引のある工房もあります。私はその中の一つを訪ねました。
「御免ください」
返事がありません。でも奥に人はいるようです。
「御免くださーい」
奥から男の人が出てきました。
「おぅどうした、嬢ちゃん」
そうですよね、ここでは私のことを王女だなんて知らない人の方が多いんですものね。
「チョット聞きたいことがあるんですけど、いいですか」
「おっ、どんなことだ」
「えぇと、鉄を薄く延ばした板って作れますか」
「ん?鉄の板だって。出来ないことはないぞ。ほら、鎧で使ってるやつだろ」
「んーちょっと違うんですよね。鎧のって打ち出してるんでしょ。私が欲しいのは鉄の板を丸めた棒なんだけど」
「丸めた棒?何に使うんだそんなもん」
「ちょっと新しいものを作ろうとしてるんだけど、鉄の棒だと重すぎるんですよ。鉄の板を丸めた棒だと軽くって丁度いいんです」
「そう言われっとうちじゃ出来ねぇな」
「鎧ってどうやって作るんですか」
「今ちょうど作ってるから、見てけや」
工房では沢山の職人さんが鉄を叩いています。剣を作る人、斧を作る人、槍を作る人。その中に鎧を作ってる人がいました。よく見てるとただ叩いているわけではないようです。一度炉に入れて赤くなったのを出してきて叩いています。こうしないと鉄は形を変えられないそうです。
「剣や槍の刃は固いのと柔らかいのを併せて作るんだが、嬢ちゃんが欲しいのはただの板なんだろ。なら普通に火入れて叩いていけば板にはなるぞ」
いろいろ勉強になりました。バイクを作るのに手作業で板を作っていては手間がかかりすぎるのでダメですが、板を作る方法は分かりました。
「おじさん、ありがと。いい勉強になったよ」
「おぅ、また遊びに来ていいからな」
おじさん、私が王女だって知ったらびっくりするんだろうな。
**********
私には今やるべきことが幾つかあります。まずはバイクの研究。誰でもバイクを作れるようにすることが目標です。私だけが使える技で作っちゃったら、私が居なくなったら作れなくなっちゃうからね。そうです、最終的に私はバイクを作る工房を作りたいのです。
2つ目はもちろんクルマ。これも研究して最終的には工房で作れるようにしたいな。でもこれはずっと先だな。まずはバイクだね。鉄の板なんかもクルマで使いそうだしね。
あとは街づくり。このあいだ帝都訪問の報告をした時に所領を認めてもらったけど、まだどこだか決まってないんだよね。早いとこ宰相様と相談しないと。
帝国との交渉条件の協力っていうのもあったっけ。あんまり気乗りしないんだけど、しょうがないお手伝いしますか。要請があればだけどね。でもなんか無茶な要求出しそうで怖いよ。せっかくいい関係になり始めたのにね。まぁそこら辺はガツンと行きますか。
あとはエルフィと空を飛ぶこと。これはエルフィに教えてもらわないとダメだね。私が使う浮遊は飛んでるわけじゃないからね。
もうないかな。そう言えば前にルイスおじさんが相談したいことがあるって言ってたけど、どうなったのかな。今度聞いとこっと。
「ねぇエルフィ」
「なぁに」
「私も空飛びたいんだけど、出来るかなぁ」
「ミーアならできるよ。教えてあげようか」
「お願い。私さ、エルフィと一緒に飛ぶのが夢だって言ったじゃん。早く飛びたいんだよね」
空を飛ぶ理屈は知っています。前にブラちゃんに教えてもらったからね。魔法で浮き上がって魔力を噴出して進むんだっけ。
「エルフィ、それであってるよね」
「そうだよ」
「何からやったらいいかなぁ」
「そうだね、やっぱり浮くとこかな」
「エルフィはどうやって浮いてるの。魔法で浮き上がるって言ってたけど」
「うん。竜の魔法でね、こうやると浮くんだよ」
「えっ!竜の魔法。それはさすがに私じゃ使えないよ。だって私人間だし」
「そっかぁ。でも私それしか知らないんだ」
うーん、振出しに逆戻りです。一歩も進んでませんでしたけど。
「空を飛べた人がいたって言ってたけど知ってる」
「知らなーい。私が生まれる前のことじゃないかなぁ」
100年以上前の話、あり得ますね。竜の里長に聞きに行こうかな。でも何もしないのに聞きに行くってチョット癪だから、少しぐらい挑戦しますか。
ジャンプします。ストン、すぐに着地します。もう一度ジャンプです。やっぱりすぐに着地します。力を入れて思いっきりジャンプします。ストン、思いっきりジャンプしてもやっぱりすぐに着地してしまいます。
魔力を噴出しながらジャンプしたらどうなるでしょう。やってみよう……、あれっ?魔力ってどうやって出すんだ?
手のひらを下にして魔力が噴き出すイメージをします。何も変わらないけどまぁいいか。そのまま思いっきりジャンプします。ストン、綺麗に着地しました、10点です。なんのこっちゃ。
「ミーア、何やってるの」
「見ればわかるでしょ。浮こうと思ってジャンプしてるの」
「そうじゃなくって、最後のやつ」
「あぁ魔力を噴出しながらジャンプすれば浮くかなぁって思って。でも何も変わんなかったから魔力を吹き出すなんてできなかったんだけどね」
「できてたよ。急に魔力がブワッてきたからビックリしちゃった」
「えっ?あれで魔力って噴き出てたの」
「ミーアの魔力減ってない」
「うーん、分かんない。全然変わんないから」
「ねぇミーアの魔力ってどれぐらいあるの」
「えぇとね、この間調べたら10万以上だって。回復量も」
「えぇ!10万!回復量も?」
「人より多いっていうのは知ってるけど、まぁそんなもんかなって感じ」
「ねぇミーア、長老の所に行ってみてもらおうよ。何かわかるかもしれないからさ」
「そうね。私も里長様に聞きたいことあったから丁度いいかもね」
私とエルフィは竜の里に行きました。里長様に会うために。
「長老、長老!」
「何だ騒がしいな。ん?エルフィではないか。もう戻ってきたのか」
「そうじゃないよ。ミーアのことちょっと見てほしいんだ」
「ミーアがどうしたんだ」
「いいから、ミーアの魔力を見てあげて」
「ふむ、んん?んんんん!!」
何という事でしょう里長様の目が飛び出てくる勢いではありませんか。
「どうかしました?」
「分からん。ミーア殿の魔力の底が見えんのだ」
どういうこと?私の魔力ってなんか変なの?私が変なのは自覚してるけどさぁ、魔力も変なの?
「里長様、どういう事でしょうか」
「どういう事、どういう事」
「言葉通りミーア殿の魔力には底がないのだ」
「それって魔力量が多すぎてわからないって事ですか」
「そういう事ではない。我等竜もそうだが魔力を持つ者はその絶対量が決まっている。その中でしか魔力を使うことはできないのだ。ところがミーア殿にはその絶対量がない。いくらでも使うことができるのだ。そしてどれだけ使っても尽きることはない。この魔力、神に匹敵すると言えよう」
聞きたくない情報です。
「魔力については分かりました。なんか腑に落ちないですけど、そういうもんだと理解することにします。そこでお願いがあります。私の魔力の事誰にも言わないでください」
「承知した。エルフィ、お前もいいな」
「はい、長老様」
「里長様、前にブラちゃんから聞いたんだけど、自由に空を飛べた人間がいたんだって。私もエルフィと一緒に飛びたいんだけどどうすレアいいかわかんなくって。エルフィに聞いたら竜魔法だっていうし。何か知ってることありませんか」
「500年ぐらい前にここに来た人間がそういえば空を飛んでたな。はて、どうやって飛んでいたのやら」
里長様知らないみたいです。長く生きていれば何でも知ってるって訳じゃないからね。
「
「どこにいるんですか」
「分からん。分からんが話をすることはできる。少し待っておれ」
「エルフィも話すること出来るの」
「私はまだできないよ。大人にならないとダメなんだって」
竜の大人って一体いくつぐらいなんでしょうか。700歳ぐらいのブラちゃんもまだ子ども扱いでしたからねぇ。30年たっても700歳ぐらいなんだろうけど。
「ミーア殿、飛ぶことについては分かりませんでしたが、気になることをおっしゃっていました。古の魔法で今では使える者がいないという【天地魔法】と言うのがあるそうだ。それであればあるいは」
【天地魔法】。なんかやばいキーワードです。ほら、だって私の適正属性に不明が幾つかあったじゃないですか。もしかしたらそのうちの一つがこれになるかもって、絶対ヤバいよね。
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