第73話 報告
「みんな集まってるな。それでは会議を始めるとする」
ここは王宮の会議室。昨日帝国から帰ってきた私の報告と今後の対応について話し合うために、全員の大臣が集まっている。
「ミルランディア特別補佐、この度のアズラート帝国訪問の任、ご苦労であった」
「はい。国王代理として帝国皇帝との会談を行ってまいりました。本日はその報告を行いたいと思います。王国と帝国との間で非常に重要なことがありますので皆さんにも集まっていただきました」
「皇帝との会談はどうであった」
「友好的に行えたと私は感じております。陛下、こちらは皇帝から陛下へとの贈り物にございます」
ティーセットとグラスのセットのお返しね。手のひらに乗る時計を王様に渡しました。
「これは」
「時計です。手のひらに乗る大きさの時計になります」
「時計とは時を知るための道具か。それをこんなに小さく」
「王国では教会の鐘で時を知りますが、帝国では貴族だけでなく平民も時計を使っておりました。これは私が買ってきたものですが、このような時計が広く使われているようでした」
壁掛けの時計ね。ジャスティンにあげたのと同じやつだよ。
「これを平民も使っていると」
「帝国を見習うところがまだまだたくさんあるということです」
「それでは帝国との会談について報告をしてもらおうか」
「はい。陛下が皇帝にあてた親書については皆さんご承知のことと思います。いいですよね」
「皆承知している」
「陛下の国王即位については、隣国として敬意を表するとのことでした。実質的な協議としては次からですね。まず停戦の申し入れ。これについては帝国は初め拒否の姿勢でした」
「拒否だと」
「はい。帝国としてはグラハム辺境伯の領地は帝国領と言う認識で、それを取り戻すための正当な侵攻であり停戦はあり得ないとの主張でした」
「で、結局どうなったのだ」
「そうですね。先に私と皇帝陛下との間で交わした合意について説明します」
「帝国皇帝と合意を交わしてきたのか」
「ええ、皇帝陛下は非常に聡明な方でしたので、打ち解けた関係になることができました。合意についてですが、結論から言いますと帝国が和平協定の締結を提案してきました」
「和平だと、しかも帝国から。最初の話と全然違うではないか」
「合意の内容については次の通りです。
ひとつ、和平を提案したのは帝国からである。
ひとつ、両国間の戦闘行為は即時全面停止する。この合意ができた時点で実施すると。
ひとつ、王国と帝国の国境はメラル川とする。
ひとつ、メラル川西部で暮らしている帝国民の保護のために期限付きで帝国軍の駐留を認める。駐留にあたって帝国は駐留費を支払う。駐留期限をもって帝国軍は撤退し、終戦とする。
ひとつ、帝国は王国への侵攻に対しての賠償を行う。
以上が合意の内容になります」
「国境の確認だけでなく終戦までの道程を作ってきたのか」
「実際にはまだまだ詰めるところはたくさんあるますけど。駐留の期限とか駐留費とか賠償とか。細かいところは外務局と財務局、軍務局を中心にやっていただければと思います。ただあまり変な要求をして相手の心象を害することは止めてくださいね。一応会談の中では駐留期限については3年と言ってありますが、実際にはメラル川の西側にどれぐらいの住民がいるのか、それの把握からになるので5年ぐらいかかるかと思ってます」
「一体どういう交渉をしたらこういう風になるんだ」
「ちょっと言質を取って追い込んだってぐらいですよ」
「それぐらいでこんなに方針は変わらないぞ」
「んー、あとは帝都までの道中が関係してるのでしょうね」
「何かあったのか」
「帝国の西の砦から帝都までは早馬なら1週間、普通に馬車で10日ぐらいかかると聞いてました。隣国からの使者と言うことですので帝国の方でも受け入れのための準備やら何やらが必要になりと思いまして2週間、14日後に帝都に入ると言ったんです」
「そうだな。準備の時間を作るのも礼儀の一つだからな」
「私は戦争をしに行くわけではないということで同行の護衛を最小限にしていきました。具体的には5人編成の護衛隊を2隊、10名です。私の馬車を含めて3台、それも王国の使者と言うことで立派な馬車です。盗賊に襲ってくださいと言わんばかりの旅です。実際帝都に着くまでに盗賊に襲われたのが4回、貴族の集団に襲われたのが2回、そして帝国正規軍の一つ特務隊。これらの襲撃を受け、退け、捕虜にしながらの旅でした」
「特務隊だと」
「特務隊とは何なのだ」
「帝国軍の正規部隊の一つです。諜報、奇襲、誘拐、暗殺など特別な任務を行う部隊ですね。私が東部方面軍にいた時には痛い目にあわされた部隊ですよ。少数精鋭の部隊で、歩兵や騎兵、兵站の部隊と比べてもかなり少なく、全部で400人ぐらいだったかと」
「その特務隊全部隊からの襲撃を受けました。幸いなことに損害を出すことなく特務隊を捕虜にすることができました。その情報が皇帝陛下と言うか帝国側に届いていたのでしょう。見捨てるわけにもいかず、かと言って正規軍と認める訳にもいかない。その葛藤の中帝国が出してきた一つの結論が和平だったのだと思います。実際交渉が決裂してたら盗賊は開放して、貴族たちは殺して晒そうかとも思ってましたから。特務隊については全員連れて帰った上で襲撃を行った賊として王都で死罪にするつもりでした」
「特別補佐は結構過激なんだな」
「そんなことありませんって。実際には会談も無事終わりましたし、両国にとっていい合意ができたと思ってます。盗賊や貴族たちも引き渡してきました。特務隊もです。ただ一部を除いてですけど」
「そんなことがあったのか。ミルランディアでなければ無理な仕事だったんだな」
「一部と言うのは隊長クラスと執拗なまでに私を狙った兵士たちで、全部で100名ぐらいです。帝国としては全ての特務隊を失うのを嫌ったのでしょう、帝国は王国以外にも多方面で小競り合いを続けていますから。戦力の低下と周辺国の評価、捕虜の引き渡しを計算した上でのものであったと思います」
「何にせよ王国としてはこれ以上ないというほどの条件で帝国と合意を交わせたことは非常に大きい。ミルランディアでなければ務まらなかったであろう。ミルランディアの功績は非常に大きいものである。後ほど然るべき褒美を与えよう」
「私は与えられた仕事をしただけですから」
「仕事の成果を正しく評価するのも私の仕事だ。出来ぬこともあるが希望があれば言ってみなさい」
「それでは陛下、恐れながら申し上げます。私に都市開発の許可を頂きたいのですが」
「それは所領が欲しいという事か」
「そうなります。私は前にファシールの開発を行いました。その経験を生かして新しい町づくりをしたいのです」
「ダグレン、どうだ」
「いいとは思いますが、あまりいい条件の所がないのです」
「別に構いません。一からの町づくりをしたいと考えていますから」
「他の者はどうだ」
「いいのではないでしょうか。ミルランディア様の街であれば税収も見込めるでしょうし」
そっちかい。まぁお金は欲しいもんね。
「それではダグレン、ミルランディアと決めてくれ。特務隊の捕虜は牢に移しておくように。実務者による交渉は外務大臣を中心に進めるように。特別補佐も協力してくれ」
「「「「「はい、承知しました」」」」」
「それではこの件について終わりにしようと思うが、何かあるか」
思わぬところで都市開発の許可を頂くことができました。ラッキー。どんなところかなぁ。どんな街にしようかなぁ。夢が膨らむね。胸?それはもうチョット。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます