第71話 ただいま

「ミーアと言ったな」

「はい。正しくはミルランディアなんですけど、長いんでミーアって呼んでます」

「エルフィのことだが、あの子はこの里の中でも幼い方だ。まだ生まれて100年もたっていない。山の向こうにいた竜の娘たちは600~800歳ぐらいの若い竜なのだ。その中でエルフィは余りに幼すぎた」

「エルフィと同じぐらいの竜はいないんですか」

「いるのだが、みな男竜なのだ」

「そうなんですか。ところで長老っておいくつなんですか」

「4000は越えてたと思ったが。もしかしたら5000を超えてるかもしれないな」

「そんなに長生きなんですね」

「この里では長老などと言われているが、本当の意味での長老は10000を超えてからだ。私などまだまだ。それに古龍と呼ばれるものは20000を超えると言われている」

「じゃぁ長老なんて呼んだら失礼ですね。長って呼ぶことにします。じゃぁ大人の竜って1000歳ぐらいからってこと」

「そうだな。1000を超えると成竜と言われるようになる。エルフィがどれだけ幼いか分かってくれたか」

「分かりました。私が責任をもって守ります」

「頼むぞ。特にエルフィのような白竜は狙われることが多い。一番の敵は人間だ」

「それなのに私でいいんですか」

「竜の宝に目もくれずただ友達が欲しいという純粋さ、あのファルゴを改心させた力。そなたは特別な人間のようだからな」

「ファルゴ?あぁ、ブラちゃんのことね。任せて、エルフィを傷つけさせはしないから」

「そしてもう一つの強敵は竜だ」

「竜って、仲間じゃないの」

「白竜は特別な力を持っていると言われる。ただその分力は弱い。竜たちは白竜の特別な力を狙う」

「狙うって取って食べちゃうの」

「食われて命を落とした竜も多いと聞く。迷信と言われておってもな。そういう竜たちからも守ってやって欲しい」

「精一杯守るけどさぁ、私人間だよ。寿命だってたかが知れてるし」

「1つ教えてやろう。白竜の血は人間の老化を遅くする効果があるという。さすがに不老不死とはいかぬがな」

いつまでも若くいられるのかぁ。それもいいけど問題もあるわよね。変わらないのは私だけ。周りはどんどん年老いて逝ってしまう。孫が先におばあちゃんになって逝っちゃうのよ。きっとそれは耐えられないなぁ。ねぇ、チョット、アンタ作者どこ見てるの。ちゃんと大きくなるって言ってるでしょ。そのまんま変わらないで今のままでもいいかなって、アンタ作者ってバカ変態じゃない。

「それのことをエルフィは知ってるの」

「知ってるとも。飲むか飲まぬかはミーアが決めればいいことだ」

「分かりました。里長様、またいろいろ相談に乗ってね」

「いいとも。いつでも訪ねて来るがいい。私もミーアに頼むことがあるかも知れぬからな」

白竜の血、これは非常にヤバい情報です。絶対秘密です。


「もう行くのか」

「はい。私、エルフィにいろんなものを見せてあげたいんです」

「ファルゴ、いやブラちゃんの所に行ってやってはくれぬか」


「ブラちゃん、私もう行くね」

「ブラちゃんとは何だ、私にはファルゴと言う………」

「いいじゃん。ブラちゃんはブラちゃんなんだから。私たちそろそろ行くから」

「お、おぅ。たまにはここにも来いよ」

「また来るよ。友達ファルゴの顔見にね」

「待ってるぞ」

「竜の時間で待っててよね。人間の時間で待ってても来れないからね。ところでブラちゃんっていくつなの」

「俺は700ぐらいだ」

「じゃぁ里の女の子と同じぐらいなんだね。次来る時には彼女がいるのかな」

「そんなにすぐに出来る訳ないだろう。彼女ができたとしてもお前が死んだずっと後のことだ」

「そうかぁ、じゃぁブラちゃんの子供は見れないんだ」

「そんな顔するな。俺には会いに来てくれるんだろ。俺はそれでいいから」

「じゃぁね」

「ちょっと待て。お前にこれをやろう」

って爪で体を掻き始めたの。ぽろぽろと落ちてくるのは鱗、ブラック・ドラゴンの鱗です。

「いいのこれ、竜の鱗だよね」

「この程度で落ちる鱗など放っておいても落ちるものだ。それにいくらでも生え変わるものだしな。その程度いくらでも構わんぞ。お前と会った森を覚えているか。あの先に洞窟があってな俺はそこで暮らしていた。そこにも鱗や爪なんかも落ちてると思うから持っていくといい」

「ありがとう。また来るね」

「待ってるからな。必ず来るんだぞ」


**********


「ねぇミーア、どこに行くの」

「私の家に帰るんだけど、ちょっとその前によるところがあるんだ」

ワープで戻った先はブラちゃんと出会った森。まだ回収しきってない魔石もあるし、ブラちゃんが暮らしていた洞窟って言うのにも行ってみなきゃだしね。

「チョット用事済ませちゃうからそこらへんで遊んで……、はダメだ。エルフィって小さくなれるって言ってたよね。どれぐらい小さくなれるの」

「うーんと、これぐらい。ホントはもっと小さくなれるんだけどね」

猫ぐらいの大きさって言うの、抱きかかえると丁度いい感じの。もうちょっと小さいかな、肩や頭にちょこんと乗ってても平気な感じ。

「じゃぁその大きさで私の肩に乗っててよ。そこならどんな魔物からも守れるからね」

肩にエルフィを乗せて魔石回収です。探索で探して空間転送で持ってくるだけだけどね。こんな横着してたら確実に運動不足だわ。この世界で運動不足の冒険者って私だけなんだろうな、きっと。貴族にはいっぱいいるよ、運動不足なヤツ。周りのものに全部やらせてふんぞり返って飯食って酒飲んでる奴。そう言うやつはまず間違いなくデブだから。私も太らないように気を付けなきゃ。

「大体終わったから、次はブラちゃんの洞窟に行ってみるね」

「ブラちゃんって誰です?」

「ほら、里を発つ前に私と話していたブラック・ドラゴンがいたでしょ。アイツの事。アイツね、里を追い出されてここら辺で暮らしてたんだって」

「ミーアはあの男竜とも友達なの?」

「友達、そうだねぇ、友達かな。手下みたいなもんだけど」

「ミーアは怖くなかった?男竜はみんな凶暴だから」

「大丈夫だったよ。最初にアイツの事私の術でコテンパにしちゃったから」

「男竜を従えるって、ミーアって凄く強いんだね」

「強さって力だけじゃないからね。あっ、あの洞穴がそうかな。行くよっ!」

近くって言ってもブラック・ドラゴンの近くだからね。歩いてチョットなんて訳ないし、周辺を上空からくまなく探したよ。アイツチョットなんて言ってたけど、人が歩いたら半日、森だからもうちょっとかかるか、そんなとこにあったよ。全然ちょっとじゃないって。


「ここね、ブラちゃんが暮らしてた洞穴って。エルフィ、何か感じる」

「うーん、竜の匂いはするわ。あと…」

「エルフィ、私の所へ。急いで」

洞穴の奥から魔物の気配がしてきました。ただの魔物の感じじゃありません。ヤバいやつです。アイツ、こんなの抑えてたんだ。

エルフィを方に乗せて、亜空間シールド完全防御壁を展開します。そのままゆっくりと奥に進んでいきます。

「ミーア、大丈夫なの?」

「これに守られていれば安心よ。ちょっと怖いかもしれないけど、心配いらないから」

ブラちゃんの寝床はすぐに分かりました。だってそこだけ綺麗なんだもん。辺りを見ると沢山落ちています、竜の鱗。大サービスだよね。冒険者だったら涙だけじゃなく鼻水まで流して喜んじゃうよ。汚いって?まぁそれぐらいって事。アンタは鼻水流して喜ばないのかって?私はほら…、冒険者だね。感動が少ないのはブラちゃんから直接貰ったからかな。とりあえず回収です。大量の鱗、纏めて売ったら大暴落確実だな、こりゃ。他には爪や牙も落ちていました。何かの魔物の魔石も転がってます。アイツどんな生活してたんだ。

「へぇ、やっぱり竜って宝石が好きなんだね」

奥には無造作に積まれた宝石などがあります。

「エルフィもやっぱりああいうの好きなの」

「うーん、まだあんまり興味ないや。もう少ししたら興味が出て来るかも」

そんなもんなんだ。とりあえず回収、回収っと。

「エルフィ、先進むけどいい」

魔物の気配のする方へ進みます。エルフィちょっと震えてる。『シューッ、シューッ』って聞こえるけど、あれって魔物が出してる音なのかな。

「この先にいるよ。私が絶対守るから」

奥にいたのは蛇の魔物。蛇ってだけでも気持ち悪いのにそれがすごくでっかいんだよ。それだけでもヤだよ。でもね、それだけじゃないんだよ。頭がさぁいっぱいあるの。数えてみたら8つ、いや9つだね。蛇なんてどこが胴でどこからが首だかわかんないけど、コイツならわかる。分かれたところから先が首で一緒になってるところが胴。そんなの別のどうでもいいんだけど、とんでもないヤツだって事は分かった。

「ヒュドラ。お姉ちゃんたちが言ってた。蛇の化け物で頭が沢山あるの。猛毒を持っていて竜でも死ぬかもしれないって」

「ヒュドラって、あの化け物のことね。あんなのが出てきたら絶対マズいよね。サクッと倒しちゃう?」

「倒せるの?あの猛毒ヒュドラを?」

「うん。じゃ倒しちゃうんで、見ててね。亜空間展開っ!時間停止っ!」

ヒュドラを亜空間に閉じ込めて時間を停止します。ピクッとした後ヒュドラの身体は力なく地面に崩れ落ちました。

「倒したよ」

「えっ?何やったの?」

「ええとね、ヒュドラの周りに亜空間を展開してその亜空間の時間の流れを止めると時間の止まった亜空間の中では生き物は居られないから死んじゃうんだけど、んー、説明するのが難しいや。とにかくねあのヒュドラはもう死んでるから」

「よくわかんないけどお姉ちゃんって凄く強いってわかった」

お姉ちゃんって私のこと?エルフィっていくつだっけ。100にはなってないって言ってたから80~90ってとこ。80歳のドラゴンが20歳の人間の私をお姉ちゃんだって。なんか変だけどやっぱ嬉しいね。

「このヒュドラは持って帰るね。猛毒を持ってるんでしょ。誰かがその毒を使ったら大変だし、これだけの魔物なら魔石も凄いだろうからね」

いつものように亜空間にしまったんだけど、これにもエルフィは驚いてた。エルフィ、こんなのはまだ序の口だよ。

ブラちゃんが住んでたところ、んーめんどくさい『巣』でいいや、ブラちゃんの巣の周りをもう一度調べてここは終わりです。


「もう帰るの」

「もうちょっと寄るところがあるからね。またワープで行くからすぐだよ」

馬車を引っ張り出して準備します。親衛隊とフェアリー隊もね。いきなり人間と馬車が出てきたから驚いていたけど、人形だって言ったらやっぱり驚いてた。仕方ないね、慣れてもらおう。

ワープで出たのは砦の手前。ほら、一応砦を通って帰っていきましたよって事にしないと面倒なことになるかもしれないでしょ。

「ご苦労様。覚えていらっしゃるかしら、ヘンネルベリ王国のミルランディアです。これから国に戻りますのでよろしくね」

「あぁ、あの時の姫様ですか。ご無事だったのですね。お通り下さい」

砦を越えて少し行くとまた砦、今度は王国の砦です。

「ミルランディア・ヘンネルベリです。帝国訪問から戻りました」

「おかえりなさい、姫様。ご無事でしたか」

「ええ、大丈夫よ。それよりここの責任者を呼んでくれない」

砦の責任者に帝国と停戦が成立したことを説明しました。戦闘行為を禁止する命令を下します。まぁうちは専守防衛に徹してますから、帝国が攻撃してこなきゃ何も起こらないんだけどね。まぁ間違いがあっちゃいけないから一応念は押しておきました。


グラハム辺境伯と東部方面軍にも同じ説明とを命令をします。停戦についてはおおむね良好ですね。

アンジェ伯母さんにはやっぱり捕まっちゃいました。泊まらされて土産話も山ほどさせられましたよ。早く帰りたいのにぃ……。



「ただいまっ!」



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