第70話 竜の里

帝都から帰路についた私がまっすぐ帰る訳がありません。行くときは向こうに準備の時間を与えるためにゆっくりでしたけど、帰りはそのようなことをする必要がありません。一応親衛隊とフェアリー隊も出してはありますが、付いてこれるものはいませんでした。



それでは帰りの寄り道と行きますか。それは行きで約束した例のブラック・ドラゴンです。街道から外れ森の中で止まります。周囲に誰もいないことを確認して親衛隊とフェアリー隊、私の馬車も仕舞います。森の中だと馬車はあまり得意じゃないからね。ブラック・ドラゴンと出会った場所、あの魔物の死体がゴロゴロしてたところへワープです。


あれっ?ドラゴンがいません。近くにいる気配もありません。どっか行ったか。まぁいいや、魔物の死体漁りでもしてよっと。

よく見る魔物の死体もあります。クマやイノシシ、オオカミとかオークやオーガのモノもあります。漁ると言ってもここら辺の魔物だと魔石ぐらいですけどね。でも見たことのない魔物の死体も結構あります。頭の2つある大きな犬や大きな灰色オオカミ、オーガより大きな4本腕のクマの死体もあります。翼の生えた獅子のようなものもあります。これらの死体から取れた魔石はどれも大きなものでした。

死体漁りをしているところへ奴、ブラック・ドラゴンは戻ってきました。

『どこへ行ってたの、待ったじゃない』

『お前も来るのが遅いじゃないか』

『何百年も生きるドラゴンがたった2週間かそこいらが遅いですって。何言ってるんです』

『とにかくお前を待っていたのだ。お前は俺と一緒に竜の里に行ってくれると言った。さぁ早く竜の里へ行くぞ』

何だ帰りたかったんですね。でも追い出された身だから帰るに帰れない。素直じゃないから謝れないし。きっかけを待ち侘びていたなんて可愛いとこあるじゃん。

『私は竜の里の場所なんて知らないんだから、乗せてってよね』

『分かっている。だが飛ばすからな、振り落とされないようにしっかり捕まってろ』

『この間里までは3日かかるって言ってたけど、どれぐらいで行くつもりなの』

『明日には着く』

『3日の所を1日で行くの?あんたバカじゃないの?そんなの私が耐えられるわけないじゃん』

『なら俺が守ってやる。それならいいだろ』

『大事に扱いなさいよ』

『ふんっ、強いんだか弱いんだかわかんない奴め』


私を手に乗せたドラゴンはふわっと浮き上がると猛スピードで飛び始めました。

『ねぇ、アンタどうやって飛んでるの』

『魔法で飛んでるのさ。浮くのは地面に引っ張られないようにしているのさ。進むのは魔力を放出して進んでる』

『それじゃぁ魔力なくなっちゃわない?』

『この世界にいくらでもある魔素を魔力に変えながらだから問題はない』

『私でもできるかなぁ』

『出来るんじゃねぇか。空を自由に飛んでる人間を俺は見たことあるしな』

空を自由に飛び回る。ロマンですねぇ。次の【超人ミーア】のパワーアップが決まりました。

『ところで魔素ってなぁに』

『この世界に満ちている魔力の元のことさ。魔法を使うと魔力が放たれその魔力はやがて魔素になる。生き物は魔素を取り込んで魔力に変える。そうやって巡っているのさ』

『魔素の操作ができるようになればいろんなことに使える。魔素を溶かした魔力ポーションは人間が作るものとは比べ物にならないほど効果が大きい。魔素の取り込みは常に少しずつ行われているが、それを自在に行えれば魔力切れを起こすことなどなくなる。俺たちのブレスも基本的には魔力の放出に過ぎない』

私も空を飛べるじゃないかって?あぁあの浮遊の魔法ね。あれは飛ぶって言うより浮かぶっていうもんだからね。ちょっと違うんだよ。



『おっ!見えてきた。あれが竜の里だ』

飛び続けること丸一昼夜、竜の里が見えてきたそうです。おぉ、ドラゴンがいっぱい飛んでます。

『あれが竜の里ね。いい、私が話をするからあなたは大人しくしてるのよ。私が謝りなさいって言ったら素直に謝る事。言葉だけじゃダメよ、ちゃんと心から謝んなきゃ。いいわね』

『あぁ分かってるよ』

『それじゃぁ里に近づいて』


里に近づく私たちに気づいたドラゴンが寄ってきます。

「私はこのドラゴンの友達です。このドラゴンが里を追われたことは知っています。でもそれも昔の事。私は竜の長と話がしたいのです。どうかその機会を与えてはいただけないでしょうか」

「コイツが本当にあの暴れん坊なのか」

「少し待っていろ、長に聞いてくる」

いい子だねぇ、ちゃんとおとなしくしてるよ。気づいたら私の周りを何匹ものドラゴンが飛び回っているのね。黒いのもいるけど赤いのやら緑色のもの、白いのもいる青や黄色のも飛んでるよ。あっ、あれは金色のドラゴンだね。カッコいい。


「長が会ってくれるそうだ。失礼のないようにな、人間」

よかったぁ、門前払い喰らったらどうしようかと思ったよ。話の通じそうな人、じゃなかったドラゴンでちょっとホッとした。

「はじめまして。私は見た通りの人間です。突然の訪問にもかかわらずお会いしていただきありがとうございます」

「人間か。この里に人間が来るのも久しぶりだな」

「人が来るんですか?」

「前に来たことがあるぞ。確か500年ぐらい前だったかな」

500年前って人間の世界じゃ大昔ですよ。

「で、お話なんですが、実はこの子のことで……」

「息災であったか」

「はい」

「何をしておった」

「人間の町から離れた森の中にいました。時折やってくる強大な力を持つ魔物が人間の町の方に行かぬよう見ておりました」

「そんなお前がなぜここへ来た」

「長老様に許しを請うためです。あの時の私は自分勝手で我が儘な振る舞いを繰り返していました。あのような振る舞いをしていれば里を追われても仕方ないと今ではわかります。里を追われた私は自らを顧みて、そして正そうとしてきました。この娘とは最近出会ったのですが、不思議な術を使うとても強いものです。その強きものは私を狩ることなく私を友人と呼んでくれるのです。力による強さが本当の強さではないと知らされ、この者が口添えをしてくれるというので里に戻ることにしてみたのです。もちろん長老の許しがなければこのまままたどこかへ行きますが、できればもう一度里に居ることを許していただければとお願っております」

「彼もさぁ、しっかりと反省しているみたいなんだよ。彼が行ってたのは本当だよ。人間の世界では災害級の魔物が仕留められていたし。同じ仲間じゃない、許してやってあげてよ」

「お前たちの言いたいことは分かった。だがこいつが本当に改心したのかどうかを確かめなくてはならない。とりあえず100年様子を見ることにする。その上で許すかどうかを決めることにする」

100年って結構長い間だよ。一応許しを得られた感じだけど、ブラちゃん頑張んなね。ブラちゃんってブラック・ドラゴンのことね。

「お前は母親の所へ挨拶にでも行ってこい。私はこの娘と話がある」

あれま、長老様の話って何でしょうか。


「お話って何でしょうか」

「娘よ、何の用があって里へ来た」

「1つはブラちゃんが帰る手伝いをするためね。長老様が優しい人でよかったです。とりあえず100年ブラちゃんがちゃんとやってれば許してあげるかもしれないんでしょ」

「ブラちゃんとはアイツのことか。まぁそうだな。アイツが戻った時の様子で昔とは違うことは分かっていた。ただ無条件で許すわけにもいかぬのでな。あのようにしなければならなかったのだ」

「やはりそういう事だったのですね。上に立つって大変ですね」

「全くだ。で1つと言うからには他にもあるのだろう」

「私は前から竜の友達が欲しいと思ってました。出来ればかわいい女の子の。そんな出会いがないかなぁって思って。それだけです」

「友達だと?竜の秘宝が欲しいのではないのか」

「秘宝なんていりませんよ。可愛いドラゴンの女の子と草原でおしゃべりしたり一緒に飛んだり。そんなことができるお友達が出来たらなって思っただけです」

「ブラちゃんじゃダメなのか」

「だってブラちゃん男じゃないですか。それにツンデレだし。男のツンデレなんて需要ないですよ」

「里にも若い女はいるのだが、皆若い男が狙っていてな。女は女だけで集まるようになってしまったのだ」

「尻ばっか追い掛け回してるからじゃないんですか」

「そうかも知れぬが」

「カッコいいとこ見せれば女の子の気も引けると思いますけどねぇ。ただ気を引こうとしちゃダメですけどね」

「男どもに言っておこう」

「長老様、紹介してくださいよ、女の子の竜を」

「今ならあの山の向こうにいると思うから、行ってみるといい」

「ちょっと行ってみますね。長老様、ありがとっ!」

「変わった娘だ」


あの山の向こうって言ってたね。見えるところならジャンプで行けるから、行ってみますか。

山の向こうには綺麗なお花畑が広がってたの。そこには何匹ものドラゴンがいたわ。

「ちょっといいかしら」

「あれ?人間じゃない。どうしてここへ?」

「長老様が教えてくれました。ドラゴンの女の子とお友達になりたいって言ったら」

「変わった娘ね。普通はドラゴンってみんな怯えるのにね」

「そんなことないですって。特に白いアナタ、素敵すぎて抱き付きたくなっちゃいます」

「わ、私ですかぁ。私はそんな。赤のお姉様や青のお姉様は私よりずっと頭がいいし、それにとっても強いんです。それに比べたら私なんか」

「そんなことないよ。だってとってもかわいいじゃん。私大好き。ね、お友達になりましょうよ」

「面白そうじゃない。アンタ友達になってあげなさいよ。ここにいたってつまらないんじゃないの」

「でも里に居ると男の子が」

「だからアンタはこの人間の友達と旅に出るの。ほら、アンタ小さくなれるじゃん。だから大丈夫よ。それのこの娘の強さかなりのものよ。あなたの事きっと守ってくれるわよ」

「また帰ってきてもいいの」

「当たり前でしょ。アンタは私たちの可愛い妹なんだから。人間の寿命なんて短いの。だからこの娘と旅をして、お別れしたら帰ってくればいいのよ」

「人間の娘もそれでいいでしょ。この子は大きさを自由に変えられることができるの。あなたの邪魔にはならないわ。いろいろと経験させてあげて頂戴」

「ねぇ、ホントにいいの?私と一緒に来てくれるの」

「いいのかなぁ。里のみんなはなんて言うだろう」

「人間との旅なんてほんのちょっとの間のことだから大丈夫よ。あなたも時々はここに来てよね」

「うん、それはもちろん」

「私、長老様に聞いてくるね」

「ちょっと待って、私も一緒に行く。きちんと挨拶しなきゃいけないから」


その後長老様を訪ねた二人は無事に許しを貰うことができました。

「私はミーア。あなたは?」

「私はエルフィ」

「エルフィ、ヨロシクね」



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