第66話 挨拶と贈り物
「ヘンネルベリ王国からミルランディア・ヘンネルベリ国王代理が到着したと伝えてください」
『ヘンネルベリから?聞いてるか?』
『あれじゃないか、1週間ぐらい前に西の砦から知らせが来てただろ』
『1週間前か。えっと……おっ、あったあった。これか』
『それそれ。どれどれ…姫にお付きの人1人、護衛10人の12人。えっ!たった12人で西の砦からここまで来たって言うのかよ』
『おぅ、とりあえずここに通すから、すぐに宮殿に知らせろ。大至急だぞ』
『行ってくるよ』
「お待たせしました。ヘンネルベリ王国の使者の方、全員で12名と伺っておりますが」
「間違いありません」
「それではこちらでお待ちいただけますか。ただいま宮殿に使いを出しておりますので、すぐに迎えが来ると思います」
「では待たせていただきます」
親衛隊とフェアリー隊は外で、私とシャルルは中で宮殿からの迎えを待つことにしました。
『おい見たかあの馬車。なんか凄くないか』
『馬車もそうだけどあの馬だよ。ありゃ化けもんだぜ。そんなのを4頭立てにしてるんだろ』
『護衛の馬だってあの馬に比べたらあれだけどよ、あれだって普通じゃないって。2週間もかかるのか』
『わざとゆっくり来たんだよ。こっちに用意させるためにな』
『西側って結構危険じゃねぇのか、森には魔物だっているし何とかって言うでっかい盗賊団の縄張りだったはずだが』
『ああ。だがそこを無傷で抜けてきている。相当な手練れってところかな』
『いいよなぁ、そんな護衛連れて旅ができるなんて』
『俺たちには縁のない話だ。さぁ、仕事に戻ろうぜ』
そんなこんなで暫く待っていると、宮殿の方から迎えの方が付いたようです。
「ようこそおいでくださいました。私は王宮警備の責任者をしておりますサバフと言います」
「ご丁寧にありがとうございます。ヘンネルベリ国王代理、ミルランディア・ヘンネルベリです」
「早速宮殿の方へ参りますか」
「いえ、皇帝陛下へのご挨拶は明日にしたいと思います。そうお伝えいただけますか」
「承知いたしました。明日は11時でよろしいでしょうか」
「構わないわ」
「では明日の11時にお待ちしております。警備のものに指示しておきますので、お声をかけて頂ければご案内いたします。宿のほうは如何いたしましょう」
「これから探そうと思っていますけど」
「それでしたらこちらで手配したものがありますので、そちらをご利用いただければと」
うーん、怪しいな。またトラップでも仕掛けられているのかな。でもいいか。
「ありがとう、使わせてもらうわ」
明日の約束を取り付けて、案内された宿に向かいます。ってこれ?ここだよねぇ。でもホント?
どうしたのかって言うと、言われた宿っていうのがとんでもないっていうか規格外って言うか、とにかく物凄いんですよ。もちろんいい方にですよ。突き抜けちゃってます。王都にはない高い建物です。12~3階あるんじゃないかな。王都じゃせいぜい5~6階だからね。その上一般の人を寄せ付けないオーラを放ってるんです。大事なお客様を迎えるための宿なんだね。王族モードになっててよかったよ。冒険者モードだったら近づけなかったよ。
「ヘンネルベリから来ましたミルランディアです。王宮の方からこちらを手配してあると伺っているのですが」
「お待ちしておりました、ミルランディア様。当ホテルへようこそ」
へー、ホテルって言うんだ。宿の名前じゃないよね、だって宿の名前だったら当ホテルなんて言わないもんね。帝都じゃ宿のことをホテルって言うんだ。もしかしてこれぐらい立派な宿のことをホテルって言うのかな。
「こちらこそよろしくね」
「それでは部屋の方へご案内させていただく前に馬車の方を裏手に廻していただけないでしょうか」
「ブラウン、カナデ、シャルル、お願い」
シャルルは知ってるね。ブラウンとカナデって言うのは親衛隊とフェアリー隊で御者を任せている人形の事。私の人形なんだから黙って動かすこともできるんだけど、外から見たら人間って事になってるじゃん、だから自然な感じを出すためにそれっぽい名前を付けたの。ちなみにリーダーはジョルジュとケイトね。
「馬のお世話のほうもいたしましょうか」
「うちのものがやりますので大丈夫です」
戻ってきた3人と一緒に部屋の案内を受けました。
「姫様たちは最上階のお部屋をご利用ください。この国を訪れる外国からのお客様で、お付きの方が11名と言うのは大変少ないです。最上階のお部屋にはお付きの方用のお部屋も用意してありますので、皆さまそちらでお休みいただければと思います」
やっぱ11人って少ないのか。国内の近場に出かけるって言っても護衛がぞろぞろとついてくるのが普通だからね。外国のそれも火種を抱えてる国に出向くとなれば100人からの護衛がいてもおかしくないんだね。
一番上って聞いたとき『うぇっ!』って思いましたよ。だって10階分以上階段上るんでしょ。大変だなって思ったら、なんと自動昇降機って言うのがあるんだって。箱みたいのに入って行きたい階を伝えるとそこに連れて行ってくれるんだって。これがおじいさまの言ってた機械ってやつね。こんなのがあれば高い建物だって作れるね。よし、王都に作ってみよっと。
いいお部屋だねぇ。最上階って言われてたけど、最上階のどこだろうって思ってたの。そしたら最上階って1つしか客室がなくって。昇降機や階段のあるホールから少し行くとアプローチがあって、そこに護衛用なのかな、使用人が使うような部屋が2つ。2つったって1つの部屋に5~6人は泊まれる感じのね。それから部屋の扉があって中にも使用人が使うような感じの部屋が2つ。こっちは2~3人用ね。そして応接室じゃないかって感じの部屋に奥にベッドルーム。ベッドも大きいし寝心地よさそう。もちろんお風呂もついてます。1泊いくらかなぁ、20枚ぐらいで泊まれるのかなぁ。
こんな素敵な部屋を眺めながらフッと頭を過ったのは、『小鳥の止まり木』。どうしてかな、なんか懐かしさ思い出しちゃった。宿としては全然違うのにね。
念には念を入れてこの部屋も調べましたよ。そりゃね、まぁお約束だから。何日か前に泊まった宿に罠仕掛けられてたしね。でもさすがに最上級ホテルの最高のお部屋、そんなものはありませんでしたよ。
親衛隊とフェアリー隊はアプローチの所にあった部屋に入ってもらいます。別に寝たり食べたりする必要のない人形なんだけど、怪しまれないためには必要なこと。シャルルは中ね。
お金は十分にあります。なんだかんだいって盗賊から巻き上げた金は2000枚じゃきかないでしょうから。
部屋の警護を親衛隊に任せて私はシャルルとフェアリー隊を連れて街を見に行くことにしました。食事まで時間ありそうだし。
7人でホテルを出ると、遠巻きに何人かが付いてきます。敵意は無いようなので、恐らく帝国が私に付けた護衛なのでしょう。街中で何か起きたら大騒ぎだもんね。
しかしまぁ、初めて見るものに驚きの連続です。帝都が初めてなんだから見るものが初めてって当たり前じゃないかって?そうじゃないですよ。おじいさまの言っていた機械ってやつです。ホテルにあった自動昇降機って言うのにもビックリしましたが、こっちもビックリです。帝都には馬のない馬車が走ってるんです。もちろん普通の馬車も走ってるんですけど、馬が引いてない、馬車の部分だけが走ってるんです。どんな仕組みで走ってるのかはわかりませんが、興味ありありです。魔力の反応がありますから何らかの形で魔力を使っているのでしょう。あと人の力で動かしている車輪が2つある乗り物。よく転ばないなって思うんだけど、うまくバランスとってスイスイと進んでいきます。これは魔力を感じません。一つ買ってみましょうか。
「シャルル、あの乗り物買うわよ」
ってもう1週間以上前からマルチさんがこの街を調べつくしているんで、お店の場所や値段は大体わかってるけど。
いいやつで銀貨20枚ぐらい。普通のだと半分ぐらいね。あの乗り物バイクって言うみたい。いいのと普通のを1台ずつ買いました。乗るにはちょっとコツがいるって言ってたけど、まぁ帰ってから試そうっと。
あの馬のない馬車も欲しいんで、後で何とかするようにしましょう。まだしばらくここにいるからね。
うーん、こうやってみると王国もまだまだですね。帰ったらやることがいっぱいです。良かった、暇になると【化け物化計画】が進むからねぇ。でもこれ以上ネタがないか。
**********
「ヘンネルベリ王国国王代理、ミルランディア・ヘンネルベリです。皇帝陛下にご挨拶に来ました」
門番?警備?に案内されて宮殿に入ります。謁見の間にでも通されたらブチ切れるとこだったんだけど、さすがにそれはなかったね。応接室に通されました。
「ようこそ、姫様」
フレンドリーな皇帝ですね。
「はじめまして。ヘンネルベリ王国国王代理、ミルランディア・ヘンネルベリ公爵です」
「そうだったな、まだ名乗ってもいなかったな。私はアズラート帝国皇帝、デュアルフ・アズウェルだ。遠いところからはるばる、よくおいでいただいた。まぁ腰を下ろしてください」
「ご丁寧にありがとうございます、陛下」
「それで何用でお越しになられたのでしょう」
「最近ヘンネルベリ王国で国王の交代がありました。そのお知らせと新国王からの親書をお持ちしましたのでそれをお届けに」
「国王が代わられた。前の国王様に何かあったのでしょうか」
「国内事情で代わったということです。前の国王に何かあったわけではございません。こちらが国王の親書になります」
マジックバックから親書を取り出して皇帝陛下の手渡します。封蝋を確認して親書に目を通します。
「なるほど。これに見せても構わないか」
「構いませんが、どのようなお方なのですか」
「紹介してなかったな。これは私の右腕、ドルア軍務卿だ」
「ドルアです。よろしく」
「こちらこそ」
親書を渡されたドルアも目を通しています。
「姫様、いや公爵殿もこれについてはご承知で」
「はい。国からはこの内容について帝国と意見の交換をするようにと言われてます」
「我々も今すぐにという訳にはいかないので、日を改めてと言うことになりますけどよろしいかな」
「構いません。暫くはこちらに留まる予定ですから」
「では改めて日取りを連絡しましょう」
「私はこちらで用意していただいたホテルに滞在しています。ジョルジュというものに取り次ぐように言っておきますが、私が不在の場合はジョルジュにお伝えください」
「ドルア、いいな」
「訪問にあたって国より贈答品を持ってきました。お納めいただけますか」
「わざわざそのような気遣いを」
再びマジックバッグからティーセットとグラスのセットを取り出してテーブルに並べました。
「これは」
「こちらはティーセット。で、こっちがお酒のグラスになります」
「これは素晴らしい。我が帝国にもガラスはあるが、これほどまでに透きとおったものはなかなか見ることはない」
「お褒め頂きありがとうございます」
「それからこのグラスは?金と銀か」
「いえ、金色の方はオリハルコンで作った物に薄く金を纏わせたものです。もう一つはミスリルで作った物に薄く白金を纏わせたものです」
「オリハルコンとミスリルだと。あの加工が難しいと言われるオリハルコンで作ったのか」
「新国王が即位した記念に作って配りました。お持ちしたものは新しく作った物ですけど。ミスリルのグラスは私の叙爵の記念で作りました」
「素晴らしい品を頂いた。感謝する」
「お気に召していただければ幸いです」
「ところで公爵殿、この国は如何でした」
「そうですね。この帝都には驚かされてばっかりです。王国にはない物がたくさんあって素晴らしいですね」
「そうでしょう。私もこの帝都は世界一だと思ってます。道中は何事もなく来られました?」
「はい、と言いたいところですが、手荒い歓迎を受けました。私は帝国に争いに来たわけじゃありませんから、護衛の数も最小限にしたんです。そうしましたところ幾度となく盗賊や賊の襲撃を受けてしまいました。幸いなことに私たちには怪我はありませんでしたからよかったですけどね」
「それは申し訳ない。盗賊についてはこちらも手を焼いているんだ。なぁドルア」
「はい、奴ら逃げ足だけは早いですので、なかなか」
「王国もあまり変わりませんね。盗賊団には手を焼いています。まぁただ襲撃してきた盗賊なんかは幸いなことに捕らえることができましたので、王国に戻ったら裁きを受けてもらうことにします」
「盗賊たちを捕らえた?誠か」
「ええ、捕らえて私特製の牢獄に入れてあります」
「見たところ公爵殿は空間魔法をお使いになるようですね」
「たまたまですけどね。適性があったものですから便利に使っています」
「賊を捕らえたといってましたけど、どのようなやつでした」
「なんて言ってたかなぁ。ブラッド何とか…」
「『ブラッド・ファング』ですか」
「そうそうそんな名前の盗賊団もいました。確かボスっぽい男はこんな奴でしたね」
テーブルの上にボスそっくりな人形の頭を出しました。
「うっ、これは」
「それは人形の頭です。ボスって呼ばれていた人の模して作りました。人の首じゃないですから」
「そうか。チョットびっくりしたな」
「肝を冷やしましたよ」
「この盗賊団だけで150人ぐらい捕まえてありますよ」
「これ『ブラッド・ファング』のボスに間違いないか」
「恐らく。手配されているものと同じようですから」
「私がこの国に入ってから立て続けに3つ盗賊の襲撃に会いました。この『ブラッド・ファング』の襲撃を受けたのはしばらく後ですね」
「怪我はなされなかった」
「幸いなことに。あと準男爵と騎士爵を名乗る集団の襲撃も。なんでも『王国にとられた土地を取り返すための人質になってもらう』とか言ってました」
「その者も」
「ええ、捕らえてあります。鉱山送りでしょうね」
「………」
「あと、こんな男が率いる賊が襲って来たんですけど、ご存知ですか?」
ジルフ隊長の頭を出しました。
「ジ、…いや、知らんな」
証言ありがとうございます。『ジ』の一言で十分です。
「そうですよね。この男が賊のことを『帝国軍特務隊』で、自分のことを『ジルフ隊長』と名乗ってたものですからもしかしてと思いまして。口から出まかせのウソだったんですね。このような丁寧な対応をしてくださる帝国の方がまさかねぇ。
ただこの人たちの集団は私のことを殺害しに来てたんで、全員死罪でしょうね。400人。ご覧になります?」
「まさかこれも捕らえているのか」
「ええ、全部で700人ぐらいいたと思うんで、広いところを用意していただければお見せしますよ」
人払いされた練兵場にいるのは皇帝陛下とドルア軍務卿、そして私の3人です。
「暴れたり逃げ出したりすると大変なので、檻に入れたまま出しますね」
7つの檻を練兵場に出します。皇帝陛下と軍務卿は何か考え込んでるようです。
「これで全部ですけど、陛下も知らないとおっしゃってますから私への襲撃犯として王国で裁くことにします。それじゃ仕舞いますから」
再び亜空間へGOです。
「公爵殿、少しお話、よろしいですか」
再び3人が戻った応接室は、少し重たい空気に覆われているようです。ようなって私には関係ないですからね。
「襲撃犯のことなのだが、お恥ずかしい話我が帝国で起きた不祥事。帝国が責任を持って裁きたいと思うのだが」
「はじめの頃に襲って来た盗賊団と貴族の集団は私から金品を奪う事、私を攫うことが目的でした。なので彼らについてこちらで裁いていただく事については同意いたします。しかしながら『ブラッド・ファング』、『義勇団』、『特務隊を名乗った賊』については襲撃の目的が私の殺害でした。そのような者を引き渡すわけにはいきません」
「そこを何とかお願いしたいのですが」
「まだ時間もありますのでそれについては後にしませんか。今日はご挨拶に伺っただけですので」
「そ、そうだな。会談の日程については明日中に知らせを送る」
「よろしくお願いします。いいお話ができることを期待しています」
「会談の後晩餐会を開こうと思っているのですが、出ていただけますでしょうか」
「承知しました。ではまた、後日改めて」
緒戦のジャブの打ち合いはどうやら私が制することができた様です。この勢いに乗って会談も上手くいくといいな。
マルチさんはいっぱい置いてきました。だってこの数日で物凄い動きがあるんでしょ。ノーガードの打ち合いなんてしませんって。情報戦を制した者が勝つんです。私の情報戦の生命線であるマルチさんには活躍してもらわないと。足りなくなりそうだったら追加で送るからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます