第65話 帝都到着

「義勇団の後は何事もなく帝都に到着しました」なんてことはありません。帝都まであと4日。昨日義勇団を屠ったから作戦が失敗したと分かるのは恐らく今日。次の手は打ってあるだろうから部隊の展開は済んでると考えておいた方がいいネ。義勇団が成功したんだったら撤退すればいいだけだから。その舞台に命令が下るのも恐らく今日。って事は最終決戦は明日だね。どれぐらいの部隊が待ってるのかな。正規部隊だったりして。


なので今日の私は決戦のための準備です。よく食べてよく寝て、っていつも通りじゃないかって。平常心が大事なんです。だから普段通り。だらけてるように見えるって?だってだらけてるんですから。ちゃんと見えてますね。もうちょっと緊張感を持ってくださいって?今から緊張してたら気が持たないでしょ。緊張するのはドラゴンの里で話をするときまで取っておくから。


**********(某所)


「何っ?義勇団が失敗しただと」

「はい、約束の時間に戻ってきませんでした。作戦が成功しても失敗しても継続中であったとしても連絡員が来るはずでしたから」

「それも来ないということは、全滅か」

「恐らくは」

「仕方ない、特務隊を出す」

「どれぐらい出すんです」

「時間がない。確実に仕留めるために過剰と言われるかもしれぬが全部隊を出す」

「特務隊全部ですか」

「あぁ、後がないからな。それに奴らならやってくれると信じてるからな」

「そりゃそうでしょう。諜報に奇襲、誘拐、暗殺。裏の仕事なら何でもやる部隊を突っ込むんですから。しかも全部」

「展開は終わっているからな。あとは奴が飛び込んでくるのを待つだけだ」

「明日ですね」

「ああ、明日が過ぎれば皇帝陛下を悩ます者はいなくなる」


**********


いよいよやってきました、決戦の日。って勝手に私が今日最後の襲撃があると思ってるだけなんだけどね。無きゃ無いに越したことないからね。

でも今日は慎重に進みます。今までやらなかった上空からの監視もしています。

少し先は森の入り口、危険な香りが漂っています。探索に反応はあるのですが、上空から見ても何もないようです。

「嫌ね」


探索の反応が敵意に変わった時には既に囲まれていました。

「掛かったな、小娘」

瞬間、絶対防御壁を張ります。これで私が傷つくことはまずありません。親衛隊とフェアリー隊を警護に出します。

「あなた達は私がヘンネルベリ王国の国王代理であると承知で襲撃を企てているのですか」

「ミルランディア・ヘンネルベリ国王代理、あなたに帝都に入られては困るのでな。悪いがここで消えてもらう」

私の前にいるのはおよそ20人、中隊ね。何故軍と分かったかって?だってさ、動きは明らかに訓練されたものだし装備も一見バラバラだけど統一感がある。騎士じゃなさそうだけど帝国軍の軍団の一つに間違いはないと思う。あの軍団長と思わしき人の余裕さは何、って探索が凄いことになってる。私を取り囲む数、およそ400。400ですよ。1個小隊を5人、1個中隊は4個小隊、1個大隊が4個中隊とすると、1個大隊でおよそ80人。400人って事は5個大隊、軍団レベルですって。対する私たちは親衛隊が5人、フェアリー隊が5人、シャルルと私、全部で12人。前に下っ端貴族とやった時が40人ぐらい。戦争は数だと言ってた奴に10倍程度なきゃ足りないって言ったのは確かだけど、ホントに400も用意することないでしょ。これ、親衛隊とフェアリー隊じゃもたないな。

「あなた達、帝国軍の正規部隊ね」

「いかにも。帝国軍特務隊、私は隊長ジルフだ。姫、覚悟はよろしいかな」

覚悟って何よ。私まだ20年しか生きてないの、まだいっぱい楽しみたいんだから。ステキな人と巡り合わなきゃいけないし、かわいい孫たちと老後を暮らすんだい。孫って子供ができないとダメなんだよ、って知ってるよ。ちゃんと分かってる?未婚の母なんてミーアは許されないないんだよ。分かってるって。だからステキな人と巡り合うんじゃん。そんな人がいるのかって?ほっといて下さいよ。それにこの後ドラゴンにも会いに行かなきゃいけないんだから。人間と龍の約束だよ。反故にしたらどうなるかわかる?

「いい訳ないじゃん。なんでいきなりこんなことが始まるのよ。国王代理を帝国軍が襲うって、これ戦争よ。分かってんの。私は戦争に来たわけじゃないの、皇帝とお話し合いに来ただけ。この護衛の数を見れば私たちが争いに来たわけじゃないことぐらい分かるでしょ」

「承知してるさ。その上で尚、貴様は邪魔なのだ。言い残すことはないな」

勝手に決めないでよ。まぁ全部のしを付けて返そうと思ってるんで、もうちょっと待ってね。大勢決めたらちゃんと返すからさ。徹底的に痛めつけたいんだけど数が数だからねぇ、どうしましょう。義勇団の時は親衛隊とフェアリー隊で圧倒して心を折ったけど、今回はその手は使えないから。仕方ない得意技パラライズ・ミストで沈黙させるか。

「親衛隊、守備を固めて。フェアリー隊、敵の接近を牽制して」

「行けっ!たった10人の護衛など蹴散らせっ!」

あーついに始めちゃうのね。相手の実力を見極めもしないなんてこの人バカなのかしら。こんな人の部隊に配属されたあなた達って不幸ね。まぁ私には関係ないからさっさと黙らせますか。

「パラライズ・ミスト!」

私を中心に部隊が展開している範囲に霧を発生させます。今回の麻痺毒は少し強めの配合にしてみました。

「ん?この霧は何だ。マズい、この霧を吸い込んじゃダメだっ!息を止めろっ!」

霧に毒が仕込まれていることに気づいた奴もいるようですが手遅れですね。息をするなって言ったって続くわけないし、吸った瞬間に毒で麻痺です。既に半数以上が動けなくなっています。でもこれは知らなかったでしょう、私の毒って吸い込まなくても効くんですよ。少し時間はかかるけど体の表面からも吸収されるからね。

でもさすがは帝国軍の特殊部隊、特務隊だっけ、耐性持ちもいるのね。さすがに無効なんてチート持ちはいないようだけど。

「親衛隊は引き続き守備を固めて。フェアリー隊は今動いている兵士の動きを止めて」

耐性持ちと言っても私オリジナルの強力な麻痺毒です。その中で動けるだけでも拍手もんですよ。

「大体終わったかな。それじゃぁ武装解除しますか。ってまだ残ってたか。ウォーター・カッター!」

木の上に潜んで私を狙っていた部隊が残っていました。危ない危ない。地面ばっかり見てちゃダメね。木の上にも敵はいるって覚えとこ。

「武装解除始めるからフェアリー隊も戻って」

400人もいるから一人ひとり解除してたら時間かかってしょうがないでしょ。親衛隊とフェアリー隊の10人が一人40人ずつ担当したとしても、1人1分で終わらせても40分、そんなんじゃ終わる訳ないんで全員を解除するには2~3時間かかちゃうから。魔法で一気に剥ぐことにしたの。

「ガラガラガラ、ガシャーン!ガシャーン!」400人分の武器と防具、その他もってたものまですべて集めます。奥さんかな、恋人かな、肖像の入ったロケットもです。それから指輪。私こんなに貰っても指10っ本しかありませんからね、ってしませんよ。

さて指揮官はっと。いたいた。状況を認識させてあげなければね。フェアリー隊に連れてきてもらいます。

「えっとジルフ隊長って言いましたっけ、あなた達の企みは失敗に終わりましたよ」

「バカな、400人の大部隊だぞ。それをたった10人で」

「あなたが喧嘩を売った相手って言うのはこういう人なんですよ。好き好んで戦いを始める戦闘狂じゃありませんけど、降りかかる火の粉は全力で払うことぐらいはするね。おわかりですか、あなた達の部隊400人は全滅です。私は人を殺すのは好きじゃありませんから命まではとってませんけど。幸いと言うか当然なんですけど、私も護衛部隊も誰一人傷一つついてませんから」

「俺たちをどうするんだ」

「そうですねぇ、私を襲った落とし前は付けていただきます。あなた達を裁くのは王国でしょうね。国王代理を手にかけようとしたのですから死罪は免れないと思いますよ。私が直接手を下さなければあなたたちがどうなろうか知ったこっちゃありませんから。王国としても助かるでしょうね。帝国の特務隊が壊滅するのだから」

「好きにしろ。俺たちは負けたんだ」

「それとも皇帝への手土産にしましょうか。『私を襲った賊を捕らえましたよ。首領はこんな奴でした』って」

「………」

とりあえず兵隊を纏めてプリズンに送ります。

「何をやった」

「私特製の牢獄に送っただけです」

って何度このやり取りをしなきゃいけないの、まったく。同じ説明何度もさせやがって。ってマズい、だんだんエレンに近づいてる気がしてきた。

「ちょっと待っててくださいね。今面白いものを見せてあげますから」

何を作ったかって言うと、ジルフ隊長の首。見た目気持ち悪いけどいいや。

「なんだそれは」

「あなたそっくりでしょ。これはただの人形に首だから。ね、面白いでしょ」

「そんなものどうするつもりだ」

「皇帝への手土産の目録ね。こんな奴って」


ジルフ隊長もプリスンに送りました。一体今何人入ってるの。700人ぐらい入ってるんじゃないの。まったく。ドラゴンの餌にしちゃうよ。



その後はさすがに何も起こりませんでした。もうお腹いっぱいだからね。帝都が近いのが分かります。人の往来が活発になってきてますから。


予定通り帝国に入ってから14日、私は帝都についに到着しました。長かったー。空間転送だったらすぐに来れたんだけどね。

さて、明日は皇帝陛下に挨拶にでも行きますか。手紙を渡して会談するのはその後だね。2~3日後かな。明日はお土産の反応でも見て楽しみましょ。


**********(宮殿内某所)


「特務隊が居なくなっただと。一体どういう事だ」

「軍務卿、申し訳ありません。ヘンネルベリからの使者が来るとの知らせを受けた者が先走ったようです」

「それと特務隊とどういう関係があるんだ」

「その中にジルフ隊長もいたとか」

「ジルフが動かしたのか」

「その可能性も」

「全く、余計なことをしやがって」

「ただ、まだ使者が帝都に到着したとの知らせはありません。もしかしたら」

「それはないな。もし使者を消したとしたら、何かしらの話は入ってくるはず。それさえないというのだから」

「我々は如何いたします」

「予定通りだ。我々の役目は使者を出迎えること。そして安全に帰っていただく事だ。何があってもこの帝都内で事を起こさせるな」

「分かりました。警備を強化させます」

「それからこの件、皇帝の耳に入れるなよ。長い1週間になりそうだな」


その後しばらくしてミーアが到着したとの知らせを受けたそうです。



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