第64話 また出た
2日間のぶらり旅も終えて残り5日、急ぐ必要のない帝都への旅でも再開するとしましょうか。
それにしてもドラゴンとはびっくりしましたね。この世界にいるという噂は聞いたことがあったけど、実物を見るとやっぱりケタが違いましたよ。ヘンネルベリにはいませんからねぇ。
車列も元に戻して、前を親衛隊、後ろをフェアリー隊、私はシャルルと真ん中でゆったりしてます。
「シャルル―、ちょっと寝てるね。なんかあったらお願い」
馬車での移動も1週間を超え、さすがの私も疲れちゃいますって。ぶらり旅は退屈じゃなかったけど帝都への旅は退屈の塊なんだから。襲撃イベントだってアッと言う間に終わっちゃうし。
でもほんと帝国って何もないのね。街道って言っても整備された道じゃない。これは王国も似たようなものだけど、道の凸凹は直してるし、水たまりができないように排水の溝を作るぐらいはしてるよ。でもここの街道はそんなこと全くしてないみたい。道は凸凹だし、時々大きな水たまりもあるし。なんか『いろんな人が通った跡です』って感じの道。でもね、休憩所みたいなところは結構あるんだ。これも旅人が作ったんだろうけどね。野宿する人が多いんだろうね。
あと村がないね。ないっていうか村と村の間が遠いの。町と町の間だって1日か2日離れてるし、その間に村が一つもないって事もあるんだから。王国じゃ考えられないね。王国だと村と村の間なんて歩いて2~3時間だよ。
そんな街道の風景と言えば森と荒地、それの繰り返し。荒れ地から森に入るところで待ち伏せされることが多いね。ほら、また出迎えてくれるよ。
「ヘンネルベリの姫さんだな。大人しく投降するんだな。抵抗するんなら殺すぞ」
出ました、殺害予告です。もうこれは戦端を切ったといってもいいでしょう。
「あなた達は盗賊団なのですか」
「そうよ、俺たちは帝国の西側を支配している『ブラッド・ファング』という、泣く子も黙る大盗賊団だ。お前らが潰した奴らは俺たちの傘下の連中なんだよ」
そういう事ですか。小さな盗賊団も大きな盗賊団の傘下に入ることで幅を利かせていたんですね。上納金を払ってたから奴ら貧乏だったんですね。と言うことはコイツら大金持ちですか。頬弛んでないからねっ!
「そうですか。ならあなた方も一緒に潰れてくださいな」
「何だとコノヤロー、やっちまえ」
だから私は男じゃないからヤローじゃないんだって。ホント分かんない人たちだよね。
今日の連中は数が多いですねぇ、30人ぐらいいますか。そりゃ個分の敵討ちですからね、そんなもんでしょ。今日は私
「おいっ!仲間をどうした!」
「だから言ったじゃないですか、潰されたお仲間の所に連れて行って差し上げたのですよ。あなたもすぐに案内しますね。でもその前にチョット私のお願いを聞いてほしいんですけど」
盗賊って言うのはこういう時に覚悟のなさが出るね。人を殺すことは何の躊躇もないけど、自分が殺されるのは怖い。盗賊団って言う畏怖される集団に入っていれば自分が殺されることなんかまずないと思っている。自分を殺すことができるのはボスだけなんだと。
親衛隊に武装解除されられ身ぐるみを剥がされ縛り上げられたリーダーと思わしき奴にアジトへの案内をさせます。いろいろとチョット脅して無理やりいう事を聞かせたけど、諦めちゃったのかなぁすっかり従順になって案内してくれてますよ。何したのかって。まぁ鞭と飴ですね。痛めつけて治して、また痛めつけて治してを繰り返しただけです。痛めつけてばっかじゃかわいそうだと思ったんで治してあげたんだけど。
何と着いた先は小さな村。村丸ごとアジトだなんてさすが大盗賊団です。
「お、俺のことをどうするんだ。ボスに突き出すのか」
「そうしてほしいならそれでもいいですけど。仲間の所に連れてってあげるのとどっちがいい」
「ボスに突き出すのは止めてくれ。仲間の所に連れてってくれ」
「仲間が死んでたらあなたも死ぬんだけどそれでもいいの」
「ボスに殺されるぐらいならお前に殺された方が何倍もましだ。早く連れてってくれ」
私は殺しませんよ。そんなに凶暴に見えます、こんな
「お嬢ちゃん、何の用かな。ここはお嬢ちゃんの来るとこじゃないぜ」
「こちらの村長さんですかねぇ、『ブラッド・ファング』のボスさんに慰謝料の請求に参りました」
「テメェここが『ブラッド・ファング』と知ってきたのか」
「知らないところじゃ慰謝料の請求なんてできませんからねぇ。私、時間がないので早くして頂けませんか」
「こいつら殺っちまうぞ。ここを知られたからには生きて返すわけにはいかねぇ。全員でかかれ。絶対逃がすな」
逃げませんよ。殺されませんけど。バッタバッタと切り伏せてじゃなくって、ポイポイっと片っ端っからプリズンに送ります。しかし出て来るわ出て来るわ。どれだけいるのって言うぐらい後から後から。
表に出てきた連中は粗方片付けたかな。探索しても村の中にはもうほとんどいないようですね、1箇所を除いて。人の気配が固まっているところにボスがいるんでしょうか。ラスボスはラスボスらしく最後に相手してあげた方が物語的にすっきりしますから、先にいくつか残ってる人の気配を探りに行くとします。人の気配は5か所、順番に回ります。結論から言うとね、みんな捕まってた人。足枷を嵌められて首輪でつながれた人。奴隷みたいにしてたんでしょうね。1か所に集めて綺麗にしてあげて食べ物出してあげて。見張りにフェアリー隊を置いてきたから大丈夫でしょ。
いよいよラスボスの所に行きますか。ラスボスじゃないや、ただの中ボスか。
「あなたが『ブラッド・ファング』のボス?」
「いかにも。貴様は誰だ」
「私はヘンネルベリから来ました」
「ほぉ、貴様が噂の姫か。うちの連中が世話になったようだな」
「喧嘩好きだったんで懲らしめただけですよ。ここにい
「ずいぶん余裕だな」
「余裕なんてありませんよ。外にいたお仲間を懲らしめるので精いっぱいだったんですから」
「よく言うわ。でここに来たって事は俺に用があるんだろ」
「そうなんですよ。ほら、私ってばあなたのお仲間たちに襲われたわけじゃないですか。そこでですね、その代償として慰謝料を頂こうと思って」
「ハハハ、面白いやつだな。盗賊に襲われたから慰謝料寄越せか。そんなの初めて聞いたぞ」
「至って真面目ですけど。私はこれからここにあるすべてのお宝を慰謝料として頂いて、更にあなたたちを拘束させていただきます。よろしいですね」
ここにいる盗賊の人たちには操り人形の受け口を埋め込んで体の動きを奪います。
「お宝の場所は案内していただかなくって結構です。私が探してきますんで」
このあいだの時のようにボスの目の前に文字通りの宝の山を築きます。やっぱり元締め、傘下からの上納金をがっぽりため込んでるね。
「後は…あっちにもあるみたいね」
「待てよ。慰謝料ならそれで十分じゃねぇか」
「何バカなことを言ってるんですか。私は言いましたよねぇ、『ここにあるすべてのお宝を慰謝料として頂く』と」
「貴様の方がよっぽど盗賊じゃねえか」
「ご存じないのですか、盗賊のお宝を奪ったら自分のものにしていいということを。私はそのルールに従ってるだけですよ。どのみちあなたたちはこのまま潰れます。お宝は私が有効活用させていただきますわ」
ミーアちゃん人格変わっちゃったかな。でも盗賊相手には薔薇の頃から変わんないか。
「これで全部かな。奥にあった隠し部屋のも見つけたし、土の中に埋めらえてた壺の中のも見つけたから。それじゃぁ頂きますね」
目の前でこれ見よがしにマジックバッグを開いてお宝を放り込みます。
「さて、お宝は頂いたんで次はあなた達ね。拘束させてもらいますよ」
1人ずつ順番にプリズンに送ります。
「どこへやった」
「だから拘束するといったでしょ。私特製の牢屋に送ってるだけです。それではあなたが最後ですね。牢獄でのしばしの生活をお楽しみください」
**********
一気に大金持ちです。でもこのお金を帝国に返すつもりは毛頭ありません。だって返したら軍資金になるじゃない。
捕まっていた人は他に3人。前の時と同じように服と食べ物とお金をあげて解放してあげました。うん、いいことをするって気分がいいネ。
そんな上機嫌の私を一気に不機嫌にした事件が起こりました。事件ったって襲撃なんだけど。今日2度目、通算6度目です。まったく。
今度は盗賊ではなさそうです。品が違いますね、盗賊とは明らかに。
「我ら帝国義勇団。ヘンネルベリ王国の姫とお見受けする。我等命により、その命頂戴する」
うわー、変なのが出てきたよ。見た感じ明らかに貴族なんだけどさぁ貴族だって名乗らないんだよね。見た感じは生きのいい若者ってところ。そういうことか、貴族の三男とか四男みたいな爵位を継承できない連中を集めたんだ。私の暗殺に成功すれば叙爵するとでも言えばホイホイとついてきそうだもんね。
「私はあんた達なんて知らないけど、何で殺されなきゃいけないの」
「とある高貴なお方から命を受けたのだ」
「あなた達って貴族なんでしょ。こんなことして家の名が傷つくとは思わないの」
「我らは既に家を出た者。そのような心配などはない」
高貴なお方って言うのが誰だか知りたいわね。
「誰に言われたのかぐらい教えてよ」
「黙れっ!死にゆく者が知る必要のないことだ。行くぞっ!」
義勇団、およそ20名。剣や槍の使い方はそれなりに鍛えられているみたい。魔法を使う者もいるようです。だけど親衛隊は王国第1騎士団の中隊とやり合える実力。この程度相手にならないのは初めからわかっている。でも私は容赦しません。私のことを殺すとまで言ってきた連中です。親衛隊だけでなくフェアリー隊も投入します。圧倒的な力量の差を見せつけ戦意ごとへし折ります。
「大勢は決したようですけど、まだ抵抗を続ける気ですか」
「黙れっ!我ら最後の一人になろうとも、刺し違えてでも貴様の命を頂く」
これはダメですねぇ。誰が命令したのか聞こうと思ったけど無理そうです。それだけじゃなくって、もし捕らえられたら、自殺しかねませんよ。自殺なんかされたらこちが迷惑ですから、マヒさせて手足を拘束して猿轡を噛ませてプリズン送りです。手は後ろね。
それにしても気になりますねぇ。一つは私を完全に殺害しようとしていること。初めの頃は攫って人質になんて感じだったけど、この義勇団って言うのは私を殺害することが目的だった。いくら国境付近で小競り合いを続けてる国の人だからって殺すことはないよね。しかも私は国王代理だって言ってあるから、それを知った上と言うことになりますよね。国王代理を務める隣国の使者を殺害したら、全面戦争に発展するかもしれません。
もう一つは義勇団に命令を出した人。いくら家督を継げる見込みのない者とは言っても貴族の端くれをですよ、それをあれだけの数を集められる人。派閥の領袖なのでしょうか。そしておそらく餌は叙爵。貴族連中は金じゃぁなかなか動きませんからね。貧乏貴族もいるでしょうけど、そんな連中ならあそこまでの戦闘訓練は受けさせてもらえないでしょうから。叙爵と言っても騎士爵ぐらいと思うけど、それでも皇帝が与えるもの。それだけのことができる人っていう事は皇帝の側近だね。帝国に入って10日、早馬を飛ばせば6日ぐらいで帝都に知らせが届くでしょう。すぐに私の殺害を決断して貴族連中を集めて義勇団を作る。これだけでも2日はかかるんじゃないでしょうか。すぐに出立させてここで邂逅。決断力も影響力もある人のようです。
帝都まであと4日、もう一波乱ありそうですね。義勇団が失敗したことは明日には知れると思うから、次の手と言うか時間的に最後の手を打ってくるはず。追い込まれているみたいだからかなりの数を投入してくるんじゃないかな。
フラグ?ほぼ確実(97%ぐらいかな)に起こるイベントにフラグなんて立てる必要なんてないんじゃない。
国王とルイスおじさんの人選は間違ってなかったね。私だから無傷だけど、他の人だったら大変だったかもしれない。護衛なんてボロボロだろうね。私一人って言うのも正解。他に人がいたらこうはならなかったと思うね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます