第63話 ぶらり、魔物狩りの旅

今日は折り返しの7日目、ここんとこ少し落ち着ています。一昨日と昨日は襲撃はありませんでした。歓迎も終わりなのかな。そう毎日毎日襲撃があってもヤなんですけどね。

ただ帝都までの行程もすでに3分の2を超えています。このままではあと3日で着いてしまいます。予定通り10日と言えばそうなんですが、そこはねぇ、2週間って言ったんだからちゃんと守らなくっちゃねぇ。

そこで今日と明日の2日間は寄り道イベントを開催することにしました。何をするのって言うと早い話がどっか行ってみるんです。土地勘もないので正にぶらり旅ですね。足の向くまま気の向くまま、さぁレッツゴーです。


地図はマルチマップさんが用意してくれてますから問題ありません。マルチマップさんの優秀ぶりがここでも発揮です。ヘンネルベリ王国の外でもちゃんと地図ができてきます。マルチさんを一つ帝都に先行させていますから、もう帝都までの道もバッチリ。今は帝都のシティーマップを作っています。


私の愛用の武器【木の棒】はお役御免になりました。さすがにね、まだ私が『金色の月光』にいたころから使っていたただの棒だからね。魔力を高めるとかそんなの全くない、そこらへんで拾った木の棒だったんです。いい加減新しくしないとね、って事で新調しました。芯にミスリルを通したオリハルコンのスタッフ。杖のことね。芯にミスリルを使っているから魔法を使うときスムースになったよ。シンプルなデザインで重さも丁度いい。振り回しても折れないと思うよ、オリハルコン製だからね。

ついでにクロスボウも。このクロスボウ、強力だし精密射撃との相性もバッチリなんだけど、一つ難点があって、それは矢を番えるのに時間がかかる事。この難点実は致命的で、以前から二射が精一杯でした。そこで私専用のクロスボウの制作です。魔力を使って弦をセットするようにしました。この作業が大変だったからね。これなら撃った後に魔力を込めれば次の準備ができます。矢を番えて狙って撃つ。撃つ時も魔力でアシストするようにしてみました。魔力の無駄遣いだって、いいのいいの、いっぱいあるんだから。

装備も新調。ミスリルを細ーい糸にしてそれで布を織ったの。ミスリル布ね。細い糸で織ったからできた布もとっても薄いの。でも透けないからね。期待したって無駄よ。誰も期待していないって、失礼しちゃうわね。

ミスリル製なので軽いけどとっても丈夫。それでシャツとズボン、フード付きのロングカーデを作りました。これ街中で着ても大丈夫そう。魔法で色を変えられるんで結構面白い。

胸当て、肘当て、膝当て、脛当て、小手をアダマンタイトで作りました。胸当てなんて必要あるのかって?胸の下には体の大事なところが沢山あるんです。だから私の体にフィットしたものが必要なんです。私の胸部装甲ですか?まだまだ増強予定ですからっ!


どこに向かっているかと言えば、森。なんか珍しい魔物でもいないかなぁと思って。王国の王都の周りにいる魔物って言ったら、スライムやゴブリンやオーク、時々オーガがいるぐらい。あとは獣系の魔物ね。ここなら王国では見ない魔物もいるかもしれないからね。

暫く進んでいくと探索に反応がありました。反応はあったんだけど、何だろう、分かりません。だって名前の所が【■■■】ってなってんだもん。

恐る恐る近づいていきます。魔物の反応は目の前のはずです。しかし魔物らしきものは何もいません。でも確かにここら辺に魔物がいるのです。私の目より探索の方が信頼できるぐらいに優秀なやつがいると言ってます。その時魔物の反応が強力な殺意に変わりました。瞬間飛び退きます。私のいたところを襲った枝は空を切りました。間一髪セーフです。

魔物は木の形をしたもので、トレントというものでした。少しずつ移動することができるようです。近づいてきた動物や魔者を襲い捕食します、って私さっき襲われたけどね。魔力の大きな魔物で、王国でもまれに見つかるそうですが、その枝は高級な魔法使いの杖になるそうです。大きな魔力で強力な土魔法や風魔法を使い、枝を振り回して攻撃してきます。

こんな情報どうしたのかって。さっきトレントに触れた時にグワッと頭の中に入ってきたのよ。知識の更新って言うのかな、チョットびっくりした。

でもこれでこの魔物のことは大体わかった。で弱点は…、火と雷か。使えねぇな。当たり前って言えば当たり前なんだけどね。こいつ木だし。木は火や雷に弱いからね。でも森の中でそんなの使えません。火事になったら大変です。他には切り倒してしまうという方法もあるそうですが、コイツ切り倒すことなんてできるのか。ぶった切るだけなら亜空烈断があるね。あれならスパッと行けそうです。時間止めたら死ぬのかな。モノは試しです。まず時間を止めてみて、それでだめならぶった切りましょう。

亜空間展開っ!時間停止っ!

あれっ?どうなんだろう。死んだのかなぁ。クラーケンは時間を止めた瞬間に死んだから、もし死んでるんなら時間停止を解除しても動かないはず。試しに解除してみると…あっ、やっぱり死んでないや。動物は死ぬけど植物はダメなのか。でもそんな気がしてたんだよね。だってほら薬草摘んだ時にマジックバッグに入れるじゃん。でもあれ植えるとちゃんとまた育つんだよ。種なんかもそうだよ。亜空間にしまっておいた種を蒔くとちゃんと芽が出るからね。元が植物だと時間停止しても死なない、いい勉強になりました。それでは気を取り直して、亜空烈断っ!

「ドーーーン!!」

トレントは根元から切り倒されました。トレントの最期です。さすがにもうピクリともしませんね。安心して亜空間収納に放り込みます。いいお土産ができました。


暫く進んでいくと集落の反応がありました。一人で着た冒険者に扮するために、親衛隊とフェアリー隊は馬車ごと、シャルルと私の馬車も纏めて亜空間収納にしまいます。私の作ったお人形さんは生き物じゃないから、亜空間収納に入れられるのね。改めて一人用の小さな荷馬車と馬一頭を作って乗り込みます。それっぽく荷物を積み込んで集落へ向かいます。

「すいませーん、ちょっといいですか」

「珍しいな客とは。オメェさんどっから来たんだ」

「森の向こうです。森に採集に入ったんですけど、ここが見えたんでちょっと休ませてもらおうかなって」

「何もねぇぞ。この村には宿屋も飯屋もありゃしねぇ。誰も来ねぇ辺鄙な村だからな」

「端っこでちょっと休ませてもらえばいいんです。良かったらこれ、村の皆さんで分けてくださいよ」

血抜きをして下処理を行ったオークの肉一頭分を馬車の荷台から出しました。

「なんだこりゃ」

「オークの肉です。休ませていただいたお礼に皆さんでどうぞ」

「ホントにいいんか。おーい、冒険者さんが肉くれたぞ」

集落に立っている小屋(?)からゾロゾロと人が出てきます。ゾロゾロって言っても6~7人なんだけど。

「こちらの冒険者さんがオークの肉を分けてくだすった」

「ありがてぇ。ここしばらく肉なんて食ってねぇからな」

「で、何の用なんだ」

「休ませてほしいって言ったじゃないですか。それだけですよ」

「まいっか。そこらへんで休んでてくれや」


「この森って魔力濃いですよね。何か知ってます」

「よく知らねぇが俺が小さなころ、爺さんが森の奥にドえらい化け物が住んでるって言ってた。そいつのせいなんじゃねぇか」

「化け物ですか。近づかない方がいいみたいですね」

「ああそうした方がええ。何かあってからじゃ遅せぇかんな」

これは行ってみるしかありません。


「休ませてくれてありがとう、私行くね」

「おぅ、こっちも肉ありがとうな。また来てくれな」

「へへへ、もう来れないよ」

「それもそうか、気ぃ付けるんだぞ」


集落で得た情報は森の奥に凄い化け物がいるって事。ぶらり旅の目的地としてはぴったりです。村で情報を集めてそこへ行ってみる。そんな旅を続けたいもんです。

荷馬車と馬を一回潰して、今度は小型の戦闘用の馬車を作ります。上から探せばすぐなんだろうけど、それじゃ旅の醍醐味を味わえませんから。森の奥に入っていくのですから大きな馬車ではだめなので小さいものに。馬はフェアリー隊のものを呼び出します。

マップが示す奥の方に進んでいきます。途中出てきた魔物はクロスボウでピュンッ。空間転送で回収するので手間も掛かりません。時間が止まっているので、血抜きも後回しにしてOK。便利な収納ですね。エレンさんにマジックバッグのヒントを教えてもらってよかったです。

『あれかな』

マップを見なくても何かがいるのが分かります。馬車をしまい、歩いて近づきます。

そこにいたのは黒くて大きな竜、ブラック・ドラゴンです。森の主というよりはここいらの暴れん坊って感じですね。魔物の死体がゴロゴロしています。ドラゴンと言えば頭のいい魔物の代表格です。お伽噺でも人間と話す場面が描かれるほどです。早速話してみましょうか。ドールマスターの受け口を強制的に埋め込みます。

『初めまして偉大な竜、ブラック・ドラゴンさん。私は人間、小さきものです』

ドラゴンの機嫌を損ねないように丁寧に話しかけます。

『どこだ、どこにいる。姿を見せろ』

『あなたの足元にいますよ』

『おぉ、小さき者よ。ここはお前の来るところではないぞ』

『あなたはこの森の主なのですか』

『私はこの森の絶対的支配者だ。誰も私に逆らうことはできない』

『ずいぶんと魔物の死体が散らばっているようなのですが』

『これらは私に逆らったものの末路だ。お前もこうなりたくなかったら私に従ってここから立ち去れい』

『私が貴方を支配しますと言ったらどうしますか』

『ハハハ、そんなことはできまい。仮にできたとしてもブレスで薙ぎ払ってくれるわ』

『なら試してごらんなさい、竜さん。私に支配されているということを理解できると思いますわ』

亜空間シールドで守られてる私の所にブレスが届くことはありませんが、試しに抵抗する相手の操作をしてみます。ブレスを吐くことを止めました。

『ウォ、何故だ。何故ブレスが出ない』

『私が止めたからですよ。あなたの身体は私の支配下にありますから』

『なにっ!ならこうしてやる』

ドラゴンは太い尻尾で薙ぎ払おうとしましたが動かすことができません。頭に血が上ったドラゴンは踏みつぶそうとしますが、足を振り上げたタイミングで止めたため無様に転がりました。

『無様ですね。これでお判りでしょう。あなたの身体を支配しているのはこの私です。あなたがどんなに動かそうと思っても私の支配を覆すことはできません。私はあなたの息を止めることだってできるのですよ』

『小さき人間、何がしたい』

『少しお話をしませんか。どうせあなたも暇を持て余しているのでしょ』

『ふんっ、暇つぶしに付き合ってやろう』


どうやらコイツ竜のはぐれもんらしいです。昔(ったって何百年も前の話だけど)竜の里で暴れて追放にあったとか。それ以来ここら辺でグレてるみたいです。ガキかよ。機嫌が悪いと暴れ、魔物が近づけば甚振り殺す。そんなことをしてたら何も近寄ってこなくなり、更に暴れた。自業自得じゃん、アホなのかな。つまらないプライドだけで生きている、そんなブラック・ドラゴンさんでした。

『あんたさぁ、ここにいると森の邪魔なんだよ。大人しく里に帰りなよ』

『そんなこと出来る訳ないだろ。あいつらが私を追い出したんだぜ。戻ってくれって頼まれたら戻ってやってもいいけど』

『あんたがバカやって追い出されたんだろ。アンタが頭下げなきゃダメなんだよ』

『イヤだね』

『じゃぁ森のために死ぬ?私が楽に逝かせてやるよ』

『ふざけてるんじゃねぇぞ、人間』

『何もふざけちゃいないよ。ドラゴンの肉って言うのは美味いって聞いたことがある。私も丁度食べてみたかったところだったんだ。しかも丁度いいところに生きのいいドラゴンがいるとなれば、分かるでしょ』

『殺したいのなら殺せばいい。私は強きもの。弱き者の上に常に君臨し続けてきた。お前は小さいが私より強い。強いお前が私を滅するのは摂理。好きにしろ』

『何、粋がってたって怖いんじゃない。あんたが素直に謝るっていうんなら私が里まで付いて行ってあげるよ。私はね竜の友達が欲しいと思ってたんだ。アンタみたいのじゃなくもっと素直でいい子のね』

『ふんっ、竜なんてどいつもこいつも似たようなもんさ』

『それは会ってみないと分からないでしょ』

『分かった、でいつ行くんだ。これから行くか』

なんだ、やっぱり帰りたかったんじゃん。素直じゃないね。

『里って言うのはここからどれぐらい離れてるの?』

『私が飛んで行って3日ぐらいかな』

『3日かぁ。私の用事が済んでからだね。用事が済んだらまた来るから、それまでおとなしくしてるんだよ』

『お、おぉ、早く来いよ』

何だ結構可愛いじゃん。ツンデレさんなんだね。

『ところであなたって男?それとも女?』

『私は男だ』

男のツンデレ、そんなキャラ付けに用はありません。サッサと送って別のドラゴンとお友達になります。

『じゃぁまたね』


ドラゴンの友達ゲットかも知れません。まぁアイツがここからいなくなればここら辺も平和になるでしょ。魔物の死体の回収?それは後。どうせまた来るんだから。


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